66.伝わる

 夏は暑い。

 

 第10回で、気体を考えると、絶対温度は気体分子の運動エネルギーの平均に比例して導入されることを見た。

 

    < mv2 / 2 > = (3/2) kB T

 

ここで、mは分子の質量、vはその速度、<・・・> は平均を取るという操作、kB = 1.38×10-23 J/K はボルツマン定数、Tが絶対温度だ。

 

 熱の伝わり方を考えておこう。

 

 熱の正体は運動エネルギーなだから、温度の高い物体と温度の低い物体が接触していたら、大きな速さ v を持つ温度の高い方の分子が、小さな速さ v しか持たない温度の低い方の分子に衝突して、エネルギーを渡す。すなわち、温度の高い方の分子は速さが少し遅くなり、温度の低い方の分子は速さが少し速くなる。これを繰り返していくうちに、温度の高い方の分子の速さは平均的に遅くなり、温度は下がる。温度の低い方の分子の速さは平均的に速くなり、温度が上がる。こうして熱は伝わっていく。熱の伝わり方のこの方法は、熱伝導と呼ばれている。分子が衝突してエネルギーを与える、あるいは貰うだけで、物質の移動は伴っていない。金属棒の端っこを熱すると、だんだん熱が伝わり、金属棒の別の端っこまで熱が伝わるやつだ。

 

 金属ではなく、液体や気体のような、流動するもので考えてみよう。分子はあちらこちら動き回れる。液体を下から熱してみよう。温度の低い部分では、小さな速さの分子があまり動き回らず固まっているだろうが、温度の高いところでは、大きな速さを持った分子が動きまわっている。結果的に分子一つが占める空間の体積は大きくなり、単位体積当たりの重さ、密度は小さくなるだろう。下から熱したので、下の方の液体の温度は高くなって、分子は動き回り、密度は小さくなる。液体の上の方はまだ冷たいので、密度はまぁまぁ大きい。そうすると、下向きに重力が働いているので、密度の小さな軽くなった部分は上に動き、逆に上方の密度の大きい温度の低い部分は相対的に“重い”ので、下に下がる。要するに、液体を下から熱すると、下の分子は上方へ行き、上の分子は下方へ下がる。こうして、温度の高い方から低い方へ熱が伝わる。これが対流だ。たった今見たように、重力があるから対流は起きるので、無重力下では対流が起きないことがわかる。また、下の方の分子は上へ行き、上の方の分子は下に行くので、熱伝導と異なり、物質の移動を伴う。

 

 今年、2017 年は愛媛県国民体育大会があり、お披露目を兼ねてか、新しい 50 メートルプールで四国中学総合体育大会の水泳競技が行われた。県で 2 位以内という条件をクリアして、子供も四国中学に参加できた。2 位以内で 4 県で 8 コース。国体用の新しいプール、“特設”プールと名乗っているので、どんなに“特設”なのかと思いきや、“仮設”プールであった。なんでも、既存の屋内 50 メートルプールでは水深が足りず、国体基準に満たないので、既存のプールのすぐ北側に仮設プールをこしらえたとのことだった。電光掲示も小さな移動式で、屋外の明るさでは見にくいのなんの。途中のラップタイムなんて全く見えない。まさか、「もちっと、ゆるゆる遣って、おくれんかな、もし」というわけで、電光掲示の設置が遅れているわけでもあるまい。折角立派な屋内プールを持っているのだから、そちらのプールを改修して深さを確保し、大きな電光掲示板も設置して、観客席も増設し、VIP 席を設けて、という風な具合にしなかったのか謎である。せっかっく国体をやるのであるから、良いものを作って、国体終了後は県民に還元すればよいものを。仮設なので屋外プール、観客席にも屋根どころか、ひさしの 1 か所もない。おまけに“仮設”なので観客席自体もお粗末で、足場の上にプラスチックの長椅子が設置されている。参加する際には、我が high intelligence な県では、熱中症対策のためにもテントを用意して観客席に張りましょう、ということになっていたのだが、強度が足りないのでテントの設置も禁止された。日影が作れない。太陽光がじりじり暑い。

 

 太陽からも熱が伝わってくる。これは、熱輻射と呼ばれる方法で伝わってくる。太陽の熱によって基本的に電磁波が放射され、この電磁波によってエネルギーが伝わってきている。地球にやってきた電磁波のエネルギーが、熱エネルギーに変わっている。

 

 こうして、熱伝導、対流、熱輻射の 3 つの方法で熱は伝わる。

 

 真夏の太陽光の下、仮設プールの仮設観客席で声援を送っていたところ、台風 5 号接近の影響で空は一転にわかに掻き曇り、スコールの様な雨が叩きつけた。屋根もひさしも隠れるところの全く無い仮設プールの観客は、みんなずぶ濡れになっていた。雷が鳴ったら中止だったろう。「大きな札へ黒々と湯の中で泳ぐべからずとかいて貼りつけ」ておくわけにもいかんぞな、もし。

 

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65.電磁誘導の法則

 「理学部」から「理工学部」に看板を掛け変えたために、新装オープンせざるを得なくなった「物理学概論」という授業。従来、1年間、2学期で行っていた内容を半年で行いなさいと言う厳命が下され、なんとか講義ノートを作った。でも、内容をかなり削減。

 

 短時間で学生さんに印象付けるには、演示実験が良いと思い、幾つか用意する。

 

 ボールに回転をかけると、カーブやシュートする、すなわち曲がる、という現象に似たことを、回転しながら落下する円筒で実際に見せたりするが、カレンダーを丸めて円筒を作ってひもを巻くだけの「実験道具」。強制振動で共鳴を見せるには、長さの違う糸を棒に繋ぎ、その先に穴の開いた50円玉をぶら下げて、実際に揺すってみると、特定の長さの糸に付けた50円玉しか振動を始めないという、強制振動共鳴現象演示マシン。棒代と3つの50円玉込みで、総額250円余り。理論屋なので、簡単なものしか用意できない。

 

 電磁気学で見せて印象に残る演示実験は無いかと考え、フファラデーの電磁誘導の法則を見せることにする。ついでにレンツの法則も。そこで、図書館発行の広報誌に、新入生向けに構造主義の入門書を紹介した実験系の同僚のK先生(第64回に登場)に、演示実験用の用具を作ってもらった。図はポンチ絵。

 

 f:id:uchu_kenbutsu:20170628155232j:plain

 

 長さ1mほどの、アルミニウム製の、磁石にはくっつかないが電気を流す素材でできた筒と、その内径にほぼピッタリの大きさを持つ強力ネオジウム磁石を用意し、上から磁石を筒の中に落とす。磁石が落下すると、その前方、後方で磁石が作る磁場が変化する。精確に言うと「磁束が変化する」。磁束の変化は起電力を産むというのが「ファラデーの電磁誘導の法則」。起電力が生じるということは、要するに、そこに導線を置いておくと電流が流れるということだ。今の場合だと、筒は電気を流すので、筒の表面に電流が流れるということ。電流が流れる向きは、磁場の変化を打ち消す向き。これだけ取り上げて「レンツの法則」と呼ぶ。N極を下にして磁石を落下させると、磁石の進行方向の先ではN極からでる磁力線が増えるので、これを減らす向きに電流が流れる。結果的に増える磁力線に対抗して、落ちる磁石の先に仮想的にN極を上に向けた磁石があるようなものだ。そうすると、N極同士反発し、磁石の落下は妨げられる。こうして、磁石は『ゆっくり落ちる』。この現象を見せて、「ファラデーの電磁誘導の法則」を「視覚化しよう」というわけだ。

 

 Kさんはすべてを理解して、演示実験用の素材を揃えてくれた。おまけに、対照実験用に電流を流さない塩化ビニール製の筒も用意してくれた。これなら磁石はすとんと落ちる。空気抵抗は無視すると、初速 0 での落下距離 s [m] は

    s = (1/2)×g t2

 

だ。g = 9.8 [m/s2 ] は重力加速度。t [s] は時間。1 m 落下する時間は

 

    t = √(2s/g) = √(2×1 / 9.8) = 0.451  [s]    (*)

 

およそ0.5秒だ。しかし、アルミニウムのパイプで実際に磁石を落下させると、きわめてゆっくり落ちるのが見られる。

 

 パイプだと電流が流れる場所は連続的で厄介なので、状況を簡単化して考えよう。それが図のポンチ絵だ。おまけになるべく計算せずに物理量の次元から考えてみる。

 

 まず、電流の流れるところは、幅 h [m] で離散化されているとする。筒の半径は r [m]。図の通り。電磁誘導の法則で落下を邪魔されて、最終的に一定の速さで落下するものとしよう。終端速度というやつだ。この終端測度 v0 [m/s]を求めてみよう。

 

 一定の速度で落下するということは、重力の位置エネルギーの減少分がどこかに行かないといけない。運動エネルギーには、いかない。速度が一定だから運動エネルギー(1/2)× mv2 も一定だ。m  は質量、v は速さ。失われたように見えるエネルギーは、電流がパイプに流れることで発生するジュール熱になるわけだ。

 

 ここまで状況を理解して、準備をしておくと、あとは登場人物である諸々の物理量の物理次元を考えていけばよろしい。

 

 まず、磁石の性質。これは磁石の磁気モーメント

 

    μ  [ Am2 ]

 

だ。単位は、電流の単位であるアンペア [A] に長さの次元、メートルを 2 回掛けたもの。それと、磁石の重さ、質量は

 

    m [ kg ]

 

だ。磁石の落下で発生する起電力 V は、ふつうは「ボルト [V] 」という単位を使うが、これは基本的な単位、m(メートル)、kg(キログラム)、s(秒)、A(アンペア)から組み立てられている。

 

    V  [V]  =  V  [kg m2 / s3 A ]

 

だ。空気中で落下させるので、空気中の透磁率と呼ばれる量も必要となる。これは、誘導された電流が作る磁束を求める際に必要となる量だ。ここでは「真空の透磁率」μ0 で代用しよう。空気中の透磁率も、真空中の透磁率も、値としてはさほど変わらない。

 

    μ0 = 4 π×10-7  [kg m / s2 A2 ]

 

 

 これだけ準備して、まずはエネルギーの収支を考える。一つの導線の輪っかで発生するジュール熱を W としよう。高さ L [m] 落下すると重力エネルギーは mgL 減少するが、その分がジュール熱になっているはずだ。速度一定なので、運動エネルギーは増えないから。h  [m] ごとに導線が1本あるわけだから、高さ(長さ)L の中には導線は

 

    L / h  [本]

 

あるので、エネルギー収支から

 

    mgL = ( L / h ) × W    (0)

 

となる。つまり W = mgh だ。

 

 一方、終端速度v 0 で磁石が動いて磁束密度を変化させ、起電力 V を発生させている。単位時間当たりに発生するジュール熱 Q  [J] は、導線の電気抵抗を R  [Ω(オーム)]として

 

    Q = V2 / R    (1)

 

で与えられる。高さ L だけ磁石が落下した時間を T [s]とすると、単位時間に Q 発生するのだから、落下した時間を掛けたものが発生したジュール熱の総量 W だ。

 

    QT = W    (2)

 

ここで、Q は R に反比例しているので、未知の関数を f として、QT = W =(1 / R )× f の形をしているだろうと推測される。ここで、 f は登場人物、磁石の磁気モーメント μ、筒の半径 r 、(真空の)透磁率 μ0、及び終端速度 v0 の関数として与えられるはずだ。

 

    QT = W= ( 1 / R ) × f ( v0, μ, r, μ0 )     (3)

 

ここから、次元を表すときには [ ・・・ ] という書き方を採用しよう。こうしておくと、(1 ) 式だったら、RQ の次元と V2 の次元が等しいという意味で

 

    [ RQ ] = [ V2 ]

 

と書いて良かろう。こうして、(3)から

 

     [ RW ] = [ RQT ] = [ RQ×T] = [ V ]2 ×[ T ] = kg2 m4 / A2 s5    (4)

 

という次元になることがわかる。V [ kg m2 / s3 A ]と 時間の単位 [s] だから。RW の次元は (3) 式から f ( v0, μ, r, μ0 ) の次元に等しくならないといけないので、関数 f の v0、μ、 r、 μ依存性がわかるはずだ。その依存性を

 

    [ v0] a [μ]b [ r ]c 0 ]d

 

とおいて、次元を比較しよう。今、夫々の次元を勘定していくと

 

    [ v0] a [μ]b [ r ]c 0 ]d  = [kg]d [m](a+2b+c+d) [A](b-2d) [s](-a-2d)

 

と、右辺のようになる。これが (4) 式の [ RW ] の次元

 

    [kg]2 [m]4 [A]-2  [s]-5

 

と一致するには、

 

    d = 2、 a + 2b + c + d = 4、  b-2d = -2、 -a-2d = -5

 

でなければならない。こうして、

 

    a = 1 ,   b = 2 ,    c = -3 ,    d = 2

 

と決まる。すなわち、「比例する」ということを ∝ という記号で表すと

 

    RW = f ∝ v0 μ2 r-3 μ02

 

が得られる。ここで、W= mgh という (0) 式から得られる関係を用いると

    Rmgh = f ∝ v0 μ2 r-3 μ02

 

すなわち

 

    v0 ∝ ( mghR r3 ) / ( μ2μ02 )           (5)

 

が得られる。正確に解けば

 

    v0 = ( 2048 π) / 5 × ( mghR r3 ) / ( μ2μ02 )    (6)

 

が得られるようなので、因子1000 (≒ ( 2048 π) / 5 ) ほど異なるが、物理量の依存性としては正しい。つまり、磁石が強ければ μ が大きいということなので、磁石の速度は小さく、ゆっくり落ちる。円筒に巻いた導線の抵抗 R が小さいと大きく電流が流れ、「レンツの法則」で落ちる磁石と反対向きの磁場を作るので、やはり磁石はゆっくり落ちる。もちろん磁石の重さが重い、すなわち質量 m が大きいと、速度 v0 は大きくなり、磁石は速く落ちる。導線を巻く間隔 h が小さい、すなわちびっしり巻くと、これまた磁石はゆっくり落ちることがわかる。

 

 連続的に巻いてしまってh = 0 とすると v0 = 0 となって磁石の落下速度はなくなってしまうが、これはやりすぎだ。磁石が動かなければ磁束の変化はなく、誘導起電力が生じないので磁石の磁場に逆らった磁場は発生しない。よって、磁石は落ちる。落ちると起電力が発生し、終端速度 h = 0 だと 0 なので、止まってしまうと誘導起電力が生じないから磁石の磁場に逆らった磁場は発生しないので、磁石は落ちるから・・・(続く)と言うことになる。

 

 今、アルミの筒は連続的に導線を巻いたのと同じではあるが、計算できていないので、先ほどの例で、

 

    h = 5 mm

 

位に考えて離散化しておこう。アルミの筒の半径 r が

 

    r = 1 cm

 

位と思うと、``筒に巻いた導線"の長さは円の円周、l = 2πr だ。``導線"を 1 mm 径くらいに考えて、導線の断面積を S = π × (1 mm)2 としておこう。アルミニウムの抵抗率 ρ は調べてみると ρ = 2.824 ×10-8  [ Ωm ] だそうだ。抵抗 R は

 

     R = ρ l / S ≒ 5.6×10-6  [Ω]

 

と計算できる。Ω(オーム)という電気抵抗の単位は、組み立てると、kg m2 / s3 A2。次にネオジウム磁石。調べてみると、この磁石は強力で、B≒ 10キロガウス位の磁場を発生させるようだ。1 ガウスは 10-4 テスラという単位に換算され、1テスラは1 N / Am、N (ニュートン)は、kg m / s2。10 キロガウスということは1 [T (テスラ) ]。単位体積当たりの磁気モーメント(磁化)に直すと、Br / μ0 。磁石の体積は、底面積 10 cm2、高さ 1 cmとして、10 cm3 = 10-5 m3くらいだから、手持ちのネオジウム磁石の磁気モーメントは μ ≒ 8 [ A m2 ]程度だ。

 

    μ ≒ Br / μ0×(磁石の体積) ≒ 1 / {4π×10-7 )×10-5 ≒ 8 [Am2]

 

手許にあるネオジウム磁石の重さは、手で持ってみると、そう、50 グラムくらいだ。

 

    m = 50 g

 

としておこう。重力加速度は g = 9.8 [m / s2 ]、真空の透磁率は μ0 = 4π×10-7 kg A2 / m。(5)式で導いた終端速度 vは (6) のように因子約 1000 が欠けていたので、それまで考慮し、長さはメートル、重さはキログラム、時間は秒、電流はアンペアというふうに単位を揃えて計算すると

 

   v0 ≒1000 × ( mghR r3 ) / ( μ2μ02 )

    =1000×(0.05・9.8・5×10-3 ・ 5.6×10-6・(1×10-2)3 ) / ((4π×10-7)2・8

    ≒ 0.135  [m/s]

 

となった。およそ秒速 14 cm。1m 進むのにおよそ 7 秒かかる。

 

 電磁誘導がなければ(*)式のように、およそ 0.5 秒 だった。この、大雑把な評価でも10 倍余りの時間がかかって、ネオジウム磁石はアルミニウム製の筒をゆっくり落ちていくことがわかる。

 

 演示実験無事終了。

 

64.ぼくの伯父さん

 中学時代の友人、T君が俳優の道に進んでいた頃(44回)、彼の影響もあって、戯曲に興味を持つようになった。といっても、テレビのシナリオである。向田邦子倉本聰山田太一といった人たちのシナリオが書籍として売られていたので、電車に乗って大きな本屋に行って買って読んでいた。「倉本聰全集」なんか、ちみちみお金を貯めて揃えていった。そうこうするうちに、シナリオと言えばシェイクスピアでしょうということで、もちろん日本語訳だが文庫本で読み始めた。大学に入ってからの語学の授業の選択は、戯曲中心にした。英語では、シェイクスピアハムレットピーター・シェーファーのブラックコメディ(暗闇の喜劇)。何だったか忘れたが、能に影響されていたイェイツの戯曲もあった。

 演劇の作劇法、ドラマツルギーにも一瞬だけ興味を持ち、異化効果なんて面白いなぁと思ったりした。なぜかドラマツルギーと映画監督のエイゼンシュテインが自分の中では繋がっているのだが、モンタージュとかの映画の手法で、なにか読んだのかもしれない。

 

 大学では映画好きの友人が複数いた。「天井桟敷の人々」は必ず見ないといけないよと言われ、京一会館という名画座で掛かっていたときに連れていかれたこともある。後にパリで暮らすことになろうとは思いも寄らなかった大学生時代、パリを舞台にした映画が長かったことだけ覚えている。別の友人には、「アンタッチャブル」で乳母車が階段をカタンかたんと落ちていくシーンが印象に残っているという話をちらりとしたら、あのシーンは「戦艦ポチョムキン」のシーンが元ネタだと教えられ、良く知っているなぁ、詳しいなぁ、と感じ入った。その時に「戦艦ポチョムキン」の監督がエイゼンシュテインであることを知る。

 

 高校時代にはT君の影響もあって戯曲に興味を持っていたが、高等学校の現代国語なんかには興味を惹かれなかった。世界史の先生は、やたらとフランス革命を詳しく教えてくれた。昔の高等学校では、選り好みできずにすべての授業科目を一通り取らないといけなかった。高校2年で、すでに物理と数学という理系科目に目覚めていたが、「倫理・社会」、通称「倫社」なる授業科目は面白かった。哲学関係では、いつも通り、ギリシャ哲学、ミレトスのタレスから始まるのだが、万物のもとは何とかである、といった議論が物理に通じていて興味がわいた。1980年代前半だったこともあり、倫社の中の哲学分野はフランス実存主義で終わった。サルトルまでである。その当時は既にレヴィ・ストロースなんかの構造主義が盛んだったとは思うが、いかんせん高校生、そんなことは知らない。

 

 今の大学の同僚である実験系の先生が、新入生向けの読書案内で、構造主義の入門書を紹介していた。贈与とか交換だとか、親族の基本構造なんかの言葉を通してなんとなく構造主義の話も聞きかじってはいたが、信頼できる先生が紹介している本だということで買って読もうと思ったら近くの本屋には無かったので、図書館で借りた。学生向け紹介パンフレットに載っているのに、なぜ大学図書館で借り出されずに残っているのか、ちょっと気になったが。読んでみると面白かったので、注文して買って、手元に置いて再び読み始めた。

 レヴィ・ストロースの「親族の基本構造」では、親・子に加えて母方のおじが基本的な役割を担うことになっている。理由はここでは説明しないが、ふと、以前見たフランス映画を思い出した。1958年の「ぼくの伯父さん (Mon Oncle)」というフランス映画だ。パリから帰ってきて、フランス語が聞きたくなって見た映画だが、おじさん好きの子供とおじさんが織りなすコメディである。おじさんは母方の叔父さんであった。レヴィ・ストロースの「親族の基本構造」は1947年刊行だそうなので、「Mon Oncle」は構造主義の影響があったのだろうか。

 

 今度会ったら、映画好きの友人に確かめてみよう。

63.物理と笑い

 朝永さん(朝永振一郎、1965年ノーベル物理学賞)の随筆「鳥獣戯画」に、複製で良いので実物大、巻物になったのがほしいと思っていたところ、長年の望みかなったという話がある。そのなかで、「鳥獣戯画」の場面の描写がある。長くなるが引用しよう。

『絵巻は猿や兎が競泳をしている谷川の情景から始まる。・・・(中略)・・・途中で一ぴきの猿がおぼれたようで、川の中の大きな岩に助け上げられ、仲間の猿がそれを介抱しているが、岩の上には兎も一ぴき立っていて、ちょっと心配そうな顔つきだ。どうやらこの兎は猿の溺れるのを見、あわてて陸からかけつけたらしく、手に柄杓などを持っている。水に溺れ、たっぷり水を飲んだ猿にまた水を飲まそうとでも思ったのか、とにかく気が転倒し、見当ちがいの柄杓などを咄嗟に持ち出したのであろう。人間でもこういうときやりそうなことである。』f:id:uchu_kenbutsu:20170505173335j:plain

 12から13世紀頃の作品で、京都の高山寺に伝わる国宝「鳥獣戯画」に溺れた猿のシーンがあり、朝永さんはその様子を描写している。

 

 出自が大阪なので、ついつい、漫才を思い出してしまう。関西の漫才師「中川家」のネタで、犬の散歩中に水難事故を見たという話がある。文字で書くと、「中川家」の面白さが伝わらないが、一部抜粋しよう。河川敷を犬を連れて散歩していたら、川でおぼれて流されている子供を見つけ、河川敷を流されている子供と一緒に声を掛けながら、走る。川の流れがうまいことなって、子供が川岸に流れ着き、助ける。

「川の流れがうまいこといってね、僕が子供をぱっと抱きかかえてね」

「びしょびしょやな」

「そんなこと言うかあほ。あたりまえやないか。つかっとんのに」

「心臓マッサージ、心臓マッサージ」

「俺がするねん。お前出てくんな!」

「心臓マッサージ」

「心臓マッサージ俺がやるねん。だーってやったら、水をピューっと出して、はぁはぁ」

「はぁはぁ」

「お前おらんやろ。はぁはぁなんか言いたそうにしてんねん。俺が言うてん。『落ち着きや、大丈夫やからな』」

「とりあえずコップ1杯の水飲みや」

「たらふく飲んどんねん。溺れてんねんから」

「すっとするから」

「すっとせえへんわ」

まだまだ続くが、ここは鳥獣戯画の兎と同じだ。柄杓がコップになっているが。

 

 学生さんが研究室の机を配置し、向かい合わせに机を並べるが、お互い顔が見えないように机と机の間に衝立を置いたことがあった。そこに画鋲やら何やらでメモを張っておけるので便利とのことだった。出自が大阪なので、冗談に、

「長い鋲を使ったら、相手の顔の真ん前に、鋲の先が出たりして。釘打ち込んだら隣の家の阿弥陀さんの首の横やったりするやろ」

と言ってみるも通じない。落語の「宿替え」の積りだったんだがなぁ。

 高校生の頃、桂枝雀の落語が面白くてラジオでよく聞いていた。彼が演じる噺の中に「宿替え」というのがあった。夫婦がある長屋に引っ越すのだが、旦那さんの方がちょっとおっちょこちょい。風呂敷に荷物を入れすぎて持ち上がらず、「一番上の竹とんぼ置いといてくれ」とか、ひと騒動ある。長屋に引っ越した後、奥さんから、箒をかける釘を打っておいてと頼まれて釘を打つが、なんだかんだと一人でしゃべりながらくぎを打っているうちに、結局打ち込んでしまう。お隣の壁から釘の先が出ていたら危ないから、お隣に行って謝ってくるように奥さんに言われるも、「横手の壁に釘を打ち込んでしまいまして、ひょっと先が出ていませんか」というと、「お隣に行きなさい。うちはあんたとこの向かいです」とかのやり取りの後、お隣に行く。どこに打ち込んだかお隣さんに聞かれるも、「いや、簡単です。日めくりの暦の掛けてあるところ」とか言う。それではわからないので、家に帰って壁を叩いてみろと言われて壁を叩くと、お隣の仏壇が揺れる。お隣さんが仏壇を開けると、祀っている阿弥陀さんの喉の真横に、にゅっと釘の先が出ていたという噺。それをみたおっちょこちょいの旦那は、

「おたく、あんなところに箒を掛けるんですか」

「うちは掛けませんよ。あれはあなたの釘ですよ」

「あら、私の釘ですか。困ったなぁ。」

「なに困ってなさんねん」

「明日から毎日ここまで箒を掛けに来なければ」

というのが、さげ。

 

 枝雀さんはしばしば「笑い」とは「緊張の緩和」だと言っていた。緊張していたときに、ふっと緩む。そこに笑いが生まれるという感じなのだろうか。

 

 寺田寅彦の随筆に「笑」というものがある。自分の経験や癖から説き起こして笑いとは、というところにまで話が進むが、笑いを分析する中で、純粋な「笑い」として子供の笑いを取り上げ、『・・・ともかくも精神並びに肉体の一時的あるいは持続的の緊張が急に弛緩する際に起るものと云っていい。そうして仔細に考えてみると緊張に次ぐ弛緩の後にその余波のような次第に消え行く弛張の交錯が伴うように思われる。しかし弛緩がきわめて徐々に来る場合はどうもそうでないようである。』とある。弛緩とあるが緩和とほぼ同じだろう。物理学者と噺家、同じようなことを言っている。

 

 物理学と笑い。縁があるのだろうか。

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62.学期初めの暖房

 新学期が始まった。受け持っているある講義の受講生が 200人を超えた。学部改組で新学部と旧学部の学生が混在し、その上カリキュラムを大幅に変えたので、新学部の学生さんの多くには必修指定された。だからこういう結果になる。外は 4 月のさわやかな絶好の良い気候。この気候が1年中続けば良いと思えるのに、教室内はむっとしており、早速窓を開け放った。

 

 人は活動するのにエネルギーを必要としている。じっとしていてもエネルギーは消費されている。そのエネルギーは、最終的に熱として放出されるだろう。座っている 200人の若者は、それだけで熱の発生源になっている。

 

 消費されるエネルギーを体の表面積で割ったものを、代謝率と呼び、これは殆どの人でほぼ一定なんだそうだ。例えば、座っている状態では、1時間 (1 h)当たり、体表面1m2 あたり、50 kcal だそうだ。50 kcal / m2 h。これに体の表面積を掛けた量が、座っているときの 1 時間当たりのエネルギー消費量。体の表面積はどうやって測るのか知らないが、経験的に

   

   体の表面積 = 0.202 × M0.425 × H0.725

 

と得られるそうだ。ここで、M はキログラムで測った体重、H はメートルで測った身長。たとえば、身長 170 cm で体重 60 kg だと、

 

   体の表面積 = 0.202 × 600.425 × 1.70.725  = 1.690 m2

 

と出るので、1 日座っていると

 

   50 kcal /m2 h × 1.690 m2 × 24 h = 2029 kcal

 

だいたい、2000 kcal (キロカロリー)消費するというわけだ。睡眠中の代謝量は35 kcal / m2 h だそうなので、8 時間寝て 16 時間座っているだけで

   50 kcal /m2 h × 1.690 m2 × 16 h + 35 kcal /m2 h × 1.690 m2 × 8 h

         =1825 kcal

 

だいたい、1800 kcal 必要になる。

 

 さて、授業。男の子が多いので、全員170 cm、体重 60 kg として、これが 200人 座っていたとしよう。1 時間当たり 50 kcal /m2 h のエネルギーを消費しているということなので、簡単化して同じだけのエネルギーを熱として放出しているとしてみる。1 秒当たりに換算すると一人当たりの代謝率は

 

    50 kcal /m2 h × ( 1時間 ) / 3600 秒 = 13.8888 cal /m2 s

 

だ。s は秒 (second)。代謝量は表面積を掛けないといけないので、

 

    13.888888 cal /m2 s  × 1.690  m2  = 23.47 cal /s

    23.47 cal/s × 4.18 J/cal = 98.11 J/s

 

ここで、1 cal = 4.18 J と熱量の単位kカロリー(cal)をエネルギーの単位ジュール(J)に直した。第42回で見たことだ。さて、1 秒当たり 1 ジュールのエネルギーというのは新たな単位の呼び名があって、ワット(W)と呼ばれる。ということで、座っている学生さん一人当たり、98.11 J/s、およそ100 W のエネルギーを放出している。100 W の白熱電球が並んで熱を出している様なものだ。200 人居たので、

 

    100 W × 200 = 20 kW

 

要するに、20 kW(キロワット) の暖房器を入れているようなものだ。8 畳用のエアコンで暖房時2.8 kWくらいの出力なので、大体 60 畳、100 m2 用の業務用エアコンを、暖房設定にしてかけている様なものだ。

 

 道理で教室が生暖かい。

 

 

61.運動量は p

 第48回で、光の速さ、光速がc と書き慣わされていることを述べた。どうやら、単に定数、constantの頭のcのようだった。

 

 前から気になっていたのが、運動量をpと書き慣わすこと。運動量は速さと重さを掛けたもので、正確には

 

    (運動量)=(質量)×(速度)

 

運動量は、英語でmomentum なので、どこにもpの文字が無い。どうして運動量が数式に出てきたときにはpの文字を慣習的に使うのか、わからなかった。「質量」はmass で m。速度はvelocity で v。massのmとmomentum の m は被るので運動量にm以外の文字をあてるのはわかるのだが、何故pなのか。

 

 力学が成立する17世紀頃には、力と関係する量として何を採用するかで、mvとmv2 派がいたようだ。ここで、mは質量でvは速度。運動量の変化が力と結びついていることがニュートンによって1687年の「プリンキピア」で明らかになるので、mv が力に結びついていることがわかるのだが、実はmv2 派は、エネルギー概念を先取りしていたともいえる。運動エネルギーはmv2 / 2 と書けることが現在知られている。

 

 もともとmv は、「物体に込められた慣性」という考えのもとで取り扱われていた量であった。衝突の問題に取り組んでいたルネ・デカルトは、現代で言うところの運動量の保存則の考えを持って、2物体の衝突を考えていた。各物体の運動量 mv の和は衝突の前後で変わらないとした。これが、ニュートンの運動の第3法則、いわゆる作用反作用の法則に結実する。現代の目から見れば、空間の並進不変性、すなわち空間には特別な場所が無いという空間の一様性が運動量保存則を直ちに導くが(ネーターの定理)、一方、空間の一様性は作用反作用の法則を保証しているので、背後に空間の性質があった。

 

 今は、何故運動量を文字pで表すかを問題にしているのだった。現在、運動量として知られているmv、当時は「物体に込められた慣性」と思われていたが、これは運動の「勢い」、ラテン語でimpetus と呼ばれていた。imは接頭辞、前置詞で、英語で言うところのon、語幹はpetusで、「追い求める」という意味のpetere である。「上に(on)」「追い求める(petere)」で、「とびかかる」。「運動量」はもともと「impetus」 からきているが、iは接頭辞imの一部なので、語幹の頭文字のpをとって、「(運動の)勢い」つまり「運動量」を表す文字にしたというのが、どうやら歴史の流れのようだ。

 

 一大事、解決。

 

 ところで、物体の位置を表すベクトルは概ねr と書かれる。これは、原点から動径方向に延びるベクトルなので、動径、もしくは球面の半径のradius から、頭文字のrを採ったものと推測される。「動径方向」はradial direction、やっぱり頭文字はr。しかし、解析力学では座標や運動量は一般化され、「一般化座標」「一般化運動量」と呼びならわされる。一般化運動量はやはりpで表されるが、一般化座標はqと書かれる。「位置」はposition だからpのはずだが、一般化運動量のpとかぶるので、アルファベットを一つ進めてq と表すようになったようだ。

 

 

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60.球の表面積と体積

 中学生の息子が、宿題か何かで球の表面積や球の体積の問題を解いていた。どうやって球の表面積と体積の式を習ったのか聞いてみたが、ちょうど風邪で学校を休んでいたときだったので、知らないと、のたまう。

 

 知らんままでいいんかい。

 

 積分を知っていれば簡単に求められるが、それは高校に行ってからのこと。中学1年生、初等的にどうやって導出するのだろうか。考えてみる。

 

   f:id:uchu_kenbutsu:20170325115102j:plain

 

 図(a)のように、半径rの半球を考えて、中心面、半球では図の底面から、高さh のところの斜線を付けた円を考える。この円の半径は、三平方の定理(第34回)から、

 

    √(r2 - h2 )

 

になっている。中学1年生では三平方の定理も習ってないだろうが、ここは初等的ということで、最低限使わせてもらおう。義務教育のうちには習うはずだし。三平方の定理から、斜線を付けた円の半径はわかったので、ここでの円の面積ΔS は、パイ掛け半径の二乗、

 

   ΔS = π(√(r2 - h2 ))2 = π(r2 - h2 )

 

となる。半球の体積を求めるには、この面積ΔS の円に微小な高さΔh を持った薄い円板を考えて、積み上げていけば良い。これは第36回で角錐やら円錐やらの体積を考えた際に使った考え方だ。

 

 一方、対応して図(b)を考える。これは半径rの円を底面に持ち、高さがrの円柱から、半径rの円を底面(上面)に持ち、高さrの円錐を切り取った立体だ。この立体の、底面からやはり高さhの所に切り取られずに残っている円環の面積を考えてみよう。図(b)で斜線をつけた部分の面積だ。切り取った部分の円の半径を求めないといけないが、半径rで高さもrなので、真横から見れば直角二等辺三角形だ。そのうち、下から高さhの所で切られているように見える。そこで、高さがhなのだから、切られた円の半径もhとわかる。図(c)をみればわかってもらえると期待する。こうして、(b)で斜線を付けた面積ΔS' は、大きな円の面積から切り取られた円の面積を引き算すればよいので、

 

    ΔS' = πr2 - πh2  = π(r2 - h2 )

となって、半球の底面から同じ高さhのところの円の面積ΔSと同じことがわかる。

 

    ΔS = ΔS'

 

ということは、図(b)の立体は、面積ΔS' (=ΔS) を持つ円盤に高さΔhを持った薄い板を考えて、積み上げていけば作れることになる。でも、(b)で考える薄い板(面積ΔS'、高さΔh)の体積は、どれも(a)で考えた円盤の体積(面積ΔS(=ΔS')、高さh)と同じだ。いつも同じ体積の板を積みあげて両方とも立体を作るのだから、(a)の立体(半球)の体積も、(b)の立体(円柱引く円錐)の体積も同じだ。でも、(b)の立体の体積は円柱の体積と円錐の体積が求まれば計算できる。円錐の体積は、三分の一の謎解きの第36回で見た。こうして

 

    立体(b)の体積 = 円柱の体積 - 円錐の体積

           = πr2 ×r - (1 / 3)×πr2 ×r

           = (2 / 3)×πr2 ×r

           = 立体(a)の体積

 

ということになる。立体(a)は半球だったから、球の体積は半球の体積を2倍して

 

    半径rの球の体積 =  (4/ 3)×πr3

 

と得られる。「3分の4パイアールの3乗」だ。

 

 次は球の表面積。そのために、球の体積を別の方法で考えよう。今度は下の図だ。

              f:id:uchu_kenbutsu:20170325115108j:plain

 

球を、小さな底面積を持つ四角錐に分ける。もちろん三角錐でも円錐でも構わない。四角錐の頂点は球の中心にあるようにする。そうすると、球の体積は、この小さな小さな四角錐の体積を集めたものになるはずだ。小さな四角錐の体積は

 

    小さな四角錐の底面積×高さr ÷ 3

 

だ。これを集めると、高さはいつもrの四角錐なので、集めるべきは底面積だが、全部集めると底面積は球の表面積に一致する。こうして、球の表面積をAとすると

 

    球の体積 = A×高さr ÷ 3

 

になる。これと、先ほど求めた球の体積、3分の4パイアールの3乗と一致させると

 

    A×高さr ÷ 3 =  (4/ 3)×πr3

  整理して

    (1 / 3 )×A×r = (4/ 3)×πr3

 

両辺共通のものを割っておくと、

 

    A = 4πr2

 

が得られる。球の表面積の公式だ。4パイアールの2乗。

 

 一応、球の体積、表面積の公式が、積分を直接使わずに(考え方は使ったが)導出できた。

 

 中学校ではどうやって習うのだろう。教科書を見ておこう。

 

 

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 ところで、半径rの硬い球めがけて、小さな粒を投げ当てることを考えてみよう。この粒が固い球に当たるためには、硬い球を見込む面積

 

    πr2

 

の範囲内に小さな粒が投げ込まれていないといけない。図(d)の状況だ。ここで、小さい粒子が固い球に当たる範囲の面積を、物理学では散乱断面積という。(d)の状況では、散乱断面積σ(ギリシャ文字のシグマで表す)は

 

    σ = πr2

 

となる。なんか当たり前だ。

 ところが、粒子には波の性質が伴うことが知られている。粒子の波動性が顕著に表れるのは、ミクロな世界だ。そこで、ミクロな“粒子”が、半径rの硬い球で散乱される場合を考えてみる。量子力学なるものを使ってきちんと計算するのだが、当てる粒子の速度が遅い場合には、散乱断面積は

 

    σ = 4πr2

 

になる。ただし、粒子の速度があくまでも“遅い”場合。粒子の速度をv、質量をmとすると、粒子に伴う波の波長λとは

 

    λ = h / ( mv )

 

という関係がある。ここでhはプランク定数と呼ばれる量で、6.6×10-34  J・s(ジュール・秒)という小さな値(第8回)。でも、ミクロの世界ではこの小さな量を0として無視できない。速度が遅い(小さい)ということは、波長は長い(大きい)という関係だ。そこで、遅い粒子では波長が長く、硬い球の後ろにも回り込むことができる。図(e)のような状況を想定すればよい。硬い球を舐めるように覆って、粒子は散乱される。だから、“散乱断面積”は、球を見込む面積ではなく、球の表面積になる。

 4πr2 だ。