83.対数表

 授業のレポートで、数値を求めさせる問題を出した。すると、「ルートの計算ができない」と書かれていて、有効数字とか関係のない答案があった。たとえば、特殊相対性理論ローレンツ因子 √(1- v2 / c2 )なんてのがあって、c は光の速さ、v は物体の速さだが、物体が光の速さの 99.5%で進んでいるときには、この ローレンツ因子は

√(1-(0.995c / c )2 )= 0.05×√3.99 となって、√3.99 なんかが必要になるのだが、だいたい 2 では答えが出ないので、もう少し精度が必要になる。昔と違って今は関数電卓で一発で答えが出る。関数電卓を持っていないとしてもパソコンは必携で持っているし、スマホはつついているんだろうから、無料アプリで関数電卓もあるし。

 

 そもそも理工学部生なんだから。

 

 電卓の無い時代はどうしていたか?

 

 第 28 回で「対数」の話をした。少し復習。

 たとえば、数字 y を知っていたとき、10 を何回掛けたら y になるか、つまり

 

    y = 10×10×・・・×10 

         ↑ u 個の10

      = 10 u

 

のときのu は

 

    u = log y

 

と書く。log というのは「底が10の常用対数」と呼ばれ、log y というのは、28 回ではlog10  y と書いていたものである。数学は一般化するので、 もはや u を自然数に限らないでおこう。

 

 今、

    10 u×10 v = 10 u+v

 

になっていることはすぐに気づかれるだろう。10 を u 回掛けたものと、10 を v 回掛けたものをさらに掛け合わせると、結局 10 が u+v 回掛けられているということだから。

 そうすると、

 

    y = 10 u ,    z=10 v

 

としておくと、対数を使って

 

    u = log y  ,    v = log z  ・・・(1)

 

だ。一方、

 

    x = y × z = 10 u+v  ・・・(2)

 

とすると、対数を使って

 

   u + v = log x   ・・・(3)

 

だから、(1)、(2)と(3)から結局

 

    log x = u + v = log y + log z

 

つまり、

 

    x = y × z なので  log (y × z) = log y + log z   ・・・(0)

 

となる。対数を考えれば、掛け算は足し算になる。

 

 ということで、a を b 回掛けた数を c とすると、

 

    log c = log ab = log (a × a ×・・・× a)

                ↑ b 個

      = log a + log a +・・・+ log a

           ↑ b 個

      = b×log a

      = b log a

 

となる。最後の行では掛け算記号を省略した。

 

 やっぱり数学は一般化するので、b は整数に限らない。たとえば

 

    log √3 = log 3 1/2  = ( 1/2 ) × log 3

 

のようになる。

 

 私が学生の頃には、数値を扱う物理実験などでは、その実験の手引書には三角関数表とともに常用対数表が載せられていた。こんな感じ。

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(改訂新版 物理学実験(吉川泰三編) 学術図書出版 (1985年3月 第4刷)より)

 

 なぜか?

 

 ルートを開いて小数表示することを考える。もちろん、小数点以下が延々と続くことの方が多いので、適当な精度で留めておく。以下では 4 桁の対数表を使うので小数点以下 4 桁までで求めよう。さきほどの √3.99 を、小数点以下 4 桁の精度で考えてみる。ということで、計算の途中では小数点以下 5 桁まで考えて、最後に 5 桁目を四捨五入しよう。

 求めるべきは

 

    y = √3.99 = 3.99 1/2

  

 まず、対数をとる。そうすると

 

    log y = log 3.99 1/2 = (1/2) × log 3.99   ・・・(4)

 

そこで、対数表で 3.99 を探す。見にくいので拡大したものを。

   f:id:uchu_kenbutsu:20180908133459j:plain

 左端の列は、たとえば 39 だと、3.9 と読み替える。一番上、または一番下の行の数字は小数点以下 2 桁目と読む。3.99 の対数 log 3.99 が欲しければ左の列の 39 の所を右に辿り、右から 2 番目の 9 の列の数字を見る。6010 とある。これは小数点以下の数字と読み替え、0.6010 となる。こうして、

 

    log 3.99 = 0.6010

 

であることがわかる。現代の利器である関数電卓で確かめると

 

   log 3.99 = 0.6009728957・・・

 

と出た。小数点以下 5 桁目を四捨五入したものが 0.6010 だ。こうして(4)は

 

    log y = log 3.99 1/2 = (1/2) × log 3.99 = (1/2) × 0.6010 = 0.3005

 

と得られる。今度は対数表で 0.3005 になるところを探す。じっと探すと、1.99 の対数が 0.2989、2.00 の対数が 0.3010 であることが読み取れる。欲しい 0.3005 がないので、本当はそうではないのだが、1.99 の対数と 2.00 の対数は比例関係にあると近似してしまい、0.3005 になる対数を探す。本当は直線ではないのに直線だとしてしまうところで、小数点以下 4 桁目に狂いが入る。だから有効数字としては 4 桁と思って、4 桁目には誤差があると考えておこう。4 桁の精度で考えてみようと言った所以である。対数の関係が下の図のようになっていると考える。

 

                     f:id:uchu_kenbutsu:20180910091651j:plain

 

対数が 0.3005 になる 1.99 と 2.00 の間の数 1.99 + x を求めよう。図の直線の傾きは

 

    ( 0.3010 - 0.2989 ) / ( 2.00 - 1.99 ) = 0.21

 

なので、

 

    0.3005 = 0.2989 + 0.21 x ,  よって   x = 0.00761・・・

 

と得られるので、対数が 0.3005 になる数 y 、つまり log y = 0.3005 になる数 y は

 

    y = 1.99 + x = 1.99 + 0.00761・・・= 1.99761・・・   (5)

 

と得られる。こうして、欲しかった y、すなわち、y = 3.99 1/2 が(5)で求まった。

 

    log y = log √3.99 = 0.3005

  すなわち

    y ( = √3.99 ) = 1.99761・・・ ≒ 1.9976   ・・・(6)

 

だ。

 関数電卓で再びチェック。√3.99 = 1.99749・・・と出る。小数点以下 4 桁目に若干狂いが生じるが、まぁ最初の狙い通りで、これで良いだろう。1.99762 = 3.9904 になるので、まぁまぁだ。

 

 3.99 のルートというのは、あまり良い例ではなかった。というのは

 

    3.99 1/2 = ( 4-0.01 )1/2 = 2×( 1-0.01 / 4 )1/2 = 2×( 1-(1/2)×( 0.01 / 4 ) +・・・)

 

と精度よくテーラー展開で求められてしまうからだ。最右辺を計算すると 1.9975 となる。

 

 ほかにも、r の平方根、√r ( = r 1/2 ) をもとめるには、

 

    a' = ( a + r / a ) / 2

 

として、r の平方根に近い数字をまず探し、それを a として左辺の a' を求め、次に a' を改めて a と思って右辺に代入し、この操作を繰り返していっても良い。数列で書けば

 

    an+1 = ( an + r / an ) / 2

 

でn → ∞ として、an = an+1 = a とすると上の式は

 

    a =  ( a + r / a ) / 2

 

となって、これを a について解くと a2 = r が得られるので、a = r1/2 になる。r = 3.99 だと、その平方根に近いのはおそらく 2 だろうと見当がつくので、a=2 として a' を求めてみる。すると

 

    a' = ( 2 + 3.99 /2 ) / 2 = 1.9975

 

となる。1.9975を 改めて a と思って、また a' を求めると

 

    a' = (1.9975 + 3.99 / 1.9975 ) /2 = 1.997498436・・・

 

次にまた a' を求めると

 

    a' = ( 1.997498436 + 3.99 / 1.997498436 ) / 2 = 1.997498436・・・

 

で、この桁まで  √3.99 の精確な値に一致している。

 

 挙げた例が、他の計算法でも容易に求まる例になっていたのであまり良くなかったが、とにかく、対数表があれば、こんな風に根号を小数表示できる。

 

 3 乗根でも同じで

 

    log 3.99 1/3 = (1/3) × log 3.99

 

になるので、同じような手順で求まる。答えを知っている数でやってみよう。27 の 3 乗根は 3 だ。33 = 3×3×3=27 だから。でも、答えを知らないとして対数表を使って求めてみよう。

 

    y = 27 1/3  

 

よって  

 

    log y = log 27 1/3 = ( 1/3 ) × log ( 2.7×10 ) = ( 1/3) × (log 2.7 + log 10 )

 

になる。ここで、積の対数は、対数の和になるという規則(0)を使った。log 10 = 1である。だって、10 = 101 だから、10 の肩の数は 1 だ。対数表で log 2.7 を探す。左の列の 27、横の行の 0 のところ、4314、つまり

 

    log 2.7 = 0.4314

 

だ。こうして、

 

    log y = log 27 1/3 = ( 1/3) × (log 2.7 + log 10 ) = ( 1/3 ) × 1.4314 = 0.4771

 

だ。またまた対数表で 0.4771 になるところを探す。0. は書いてないので、4771 を探すことになる。

 

 あった。左の列で 30、横の行で 0 のところの数値がまさに 4771。つまり、3.00 ということだ。

 こうして、

 

    log 271/3 = 3.00

 

と、正しく得られた。

 

 私が物理学実験を取っていた大学 1 年生時代の実験の手引書には対数表が載っていたが、その 10 年後、大学で教える側になって物理学実験を受け持った時に使った実験の手引書には、もはや三角関数表も対数表も載っていなかった。安価に関数電卓が手に入る時代になっていた。

 

 今や、スマホの無料アプリだ。

82.天の川銀河の星の数

 地球は太陽の周りを回っている。地球はほぼ円軌道で太陽の周りを回るので、地球と太陽までの距離 RE、およそ 1 億 5 千万キロメートルを半径とした円周を、1 年、365 日かけて 1 周する。ということは、1秒あたりの速さ vとして、(速さ)×(時間)=(動いた距離)から 

 

  vE  × 60 秒 × 60 分 × 24 時間 × 365.25 日=2π RE

 

となって、地球の速さ vが計算できる。vとしておよそ、30 km / s 、秒速 30 km という値が得られる。結構速い。

 

 では、太陽は静止しているのか? 天文学の観測では、私達の天の川銀河の半径はおよそ 5 万光年あり、太陽は中心から 2 万 5 千光年あたりに位置し、天の川銀河もろとも回転している。1 光年はだいたい 9.47×1012 km。太陽の速さ vは秒速 220 km 、vS = 220 km / s だそうだ。ということは、太陽は X 年で天の川銀河を 1 周するとして、天の川銀河の中心から太陽までの距離を RS = 2 万 5 千光年 = 2.37×1017 kmとして

 

  vS × 60 秒 × 60 分 × 24 時間 × 365.25 日 × X 年=2π RS

 

から、vS と RS の数値を入れて計算すると

 

  X = 2.14×108  ≒ 2 億 1 千万年

 

となる。およそ 2 億 1 千万年ごとに 1 周している。地球は生まれてから 46 億年経っているので、地球は太陽とともに私達の天の川銀河をだいたい 20 回くらい回っているという勘定になる。細かい数値がいい加減なので、あくまで大体。

 

 第 5 回のところで、惑星が太陽の周りを回っていられるのは万有引力のおかげであり、ニュートンの運動法則から、太陽の方向に向く向心加速度が生じることを見た。万有引力定数を G として、太陽の質量を MS 、地球の質量を ME 、地球と太陽までの距離 RE地球の速さ vとして、

 

  G MS ME / RE2 = ME vE2 / RE  ・・・(1)

 

が成り立つ。

 

 太陽は、太陽より内側にある天の川銀河の星々からの万有引力を受けて、天の川銀河を回っている。太陽に影響を及ぼす、天の川銀河の中心から距離 2 万 5 千光年内にある星々の全質量を M とし、天の川銀河の中心から太陽までの距離を RS太陽の速さを vS として、

 

   G M MS / RS2 = MS vS2 / RS   ・・・(2)

 

が成り立っているはずだ。(1)と(2)の比をとって、ちょっと整理すると

 

   M / MS = ( vS2 / vE2 ) × (RS / RE )

 

が得られる。右辺に今まで出てきた数値を入れると

 

   M / MS = 8.5 × 1010 ≒ 1011

 

となる。ということは、太陽の質量の 1011 倍の質量が、太陽より内側の天の川銀河にはあるということだ。全部太陽と同じ重さの星としたら、太陽と同じ恒星が 1011 個あるということだ。1000 億個!!

 

 太陽は天の川銀河の半径 5 万光年の半分、2 万 5 千光年のところにあるというのだから、1000 億個の恒星は天の川銀河を円盤として、面積 1/4 のところにあるということだ。ということは、太陽より外側にある恒星は、内側の 3 倍、3000 億個あるというわけだ。あわせて 4000 億個。

 いや、天の川銀河は中心部に星が集まっていて、外側は、腕のような構造があって、一様に星が分布しているわけではない。ちょっと間引きして考えて、天の川銀河には3000 億個くらいの恒星があるだろうと見積もれる。

 

 大きな数なので、甲子園球場何杯分とか言ってくれないと、ピンとこない。

 

 甲子園球場はドームが無いので、容積がわかりにくい。夏になると、今年のビールの消費量は甲子園球場〇杯分とか聞くが、あれは摺り切り入れてのことなんだろうか。

 東京ドームは屋根があるので、容積が記されている。124 万立方メートル、1.24 × 106 m3 だそうだ。甲子園球場の面積は東京ドームの面積の 80 % だそうなので、そのまま体積になおすと、0.83/2  = 0.715、およそ 72 % と見ておこう。甲子園球場に野球のボールを詰めてみよう。屋根が無いので、てんこ盛りに積み上げる。野球のボールは半径3.66 cm くらいの球なので、その体積は 4πr3 / 3 だから、およそ 205 cm3 =2.05 × 10-4 m3 といったところだ。球を積み上げていくと必ず隙間ができる。もっとも上手く入れて行っても、全体積の 74 % くらいしか使えない。ケプラーの細密充填問題で、充填率は π/ √18 ≒0.74 になる。

 こうして準備が整った。野球のボールを甲子園球場に入れて積み上げると、何個入るか?

(東京ドームの体積 × 72 %) × (細密充填率) / (野球のボールの体積)で、甲子園球場(東京ドームの体積 × 72%) の容積に入る野球のボールの個数がわかる。ただし、外から見たら甲子園球場には屋根が無いので、ボールはてんこ盛りになっているが。

 

   1.24 × 106 × 0.715 × 0.740  / (2.05 × 10-4 ) = 3.2 × 10

 

およそ、30 億個だ。

 

 ということは、天の川銀河にある恒星の個数、3000 億個は、野球のボールに換算して甲子園球場 100 杯分だ。

 

 多いなぁ。

 

 8 月 17 日は、2018 年の七夕、旧暦 7 月 7 日。織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)は天の川を挟んでいる。

 

 

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         Wikipedia より、天の川銀河想像図

81.頭から腐った魚、腐った魚の頭

 2018 年 7月、台風7号が通り過ぎたというのに、雨は降り続く。特に、7 月 5 日からひどくなり、気象庁が特別に緊急会見を開き注意喚起するも、20 時頃には西日本を中心に 20 万人に避難勧告が出される。翌 6 日夕刻には九州3県に、続いて中国地方 3 県に大雨特別警報が出され、夜には近畿 1 府1県にも大雨特別警報が出され、264 万人に避難勧告が出される。

 

 我が High Intelligence 県では 6 日午前 3 時 30 分に県知事から自衛隊災害派遣要請。7 日午前 7 時前には高速道路が崩落する。既に通行止めの措置が執られていたとはいえ、鉄道も高速道も止まり、孤立県となる。

 

 我が県知事から自衛隊災害派遣要請が行われる 8 時間ほど前、すでに 20 万人に避難勧告が出されている 5 日夜、そのころ、自衛隊を所掌する防衛大臣はどこで何をしている?

 「建設大臣」を任命したり、「諜報省」を設けたり、“王国ごっこ”を行いながら多くの殺人、無差別殺戮を犯したカルト集団の中枢にいた 7 人の死刑執行を翌朝に控えた 5日夜。7 人もの同時執行は、第 2 次大戦後の占領期の戦争犯罪裁判を除いては、1911年、前年に起きたいわゆる大逆事件の 11 名の同時執行以来の数であるのだが、死刑執行のサインをした法務大臣と、災害派遣要請が来ることが予想される防衛大臣は、時の首相とともに、他の代議士たち大勢と “居酒屋ごっこ” に興じている。

 

 君が大将(たいしょう)、あなたが女将(おかみ)。

 

 7日午前 10 時過ぎから 15 分程度の閣僚会議が行われるも、時の首相はその後も私邸にこもり、出てこず。

 

 7 日中に岐阜県、翌8日未明には四国2県にも大雨特別警報が出される。とうとう 863万人に避難指示・勧告が出され、すでに死者はこの時点で 50 名を超える。

 

 ようやく政府は 8 日 9 時に非常災害対策本部を設置する。

 

 我が High Intelligence 県では岐阜県などに次いで3 番目、5 日 14 時にすでに災害対策本部を設置している。我が県から政府が遅れること、2 日と19 時間。

 

 雨が上がると一転猛暑になる。その中で雨に浸かった町では復旧作業が始まる。被災した住民が復旧作業に当たる。

 

 なぜ、政府は全国に呼び掛け、対価を払って復旧のプロ、重機を持っているところ、清掃業の方達、等々に旅費も支給して、来てもらえるように手筈を整えないのか。

 

 多くの人々がボランティアとして現地に赴き、復旧の手伝いをされている。マスコミは美談の様に取り上げる。

 

 なぜ、国は善意で集まる人たち、被災した人たち、全国の技のある人たちに呼び掛け、対価を払って復旧のお願いをしないのか。なぜ無償のボランティアと、生活が破壊された被災住民任せにするのか。

 

 マスコミは、学校の片づけを生徒が行っている姿を美談として報道する。

 

 生徒は無償労働力としての復旧要員なのか。

 一刻も早く通常の教育が受けられるように、税金を使って、片付けのできる業者の方達に来てもらって、プロフェッショナルの技で迅速に復旧を為そうとしない政府を、なぜ報道は批判しないのか。民主主義体制の下での報道の役割とは何か。

 

 被災した方たちは学校の体育館に避難する。

 

 なぜ、政府は全力で近隣のホテル・旅館を借り上げ、すべての人が快適な生活ができるように手配しないのか。生徒・児童が体育館を使えない状況のままの学校教育はどうなっているのか。

 

 2017 年 7 月 8 日に世界銀行が運営する「女性起業家資金イニシアチティブ」、アメリカ合衆国大統領の娘、イバンカ・トランプが設立に関わり、時の首相が「イバンカ氏が主導した基金を強く支持する」として、この基金に拠出したこの国の国税が 57 億円。

 2021 年度までに陸上自衛隊アメリカ合衆国から 17 機購入し、配備する予定のティルト・ローター機は平成 30 年度 4 機納入予定で、本体価格は 1 機 98 億円超。補用品等を含めた契約価格は、豪雨のあった今年度だけで、4 機で 716 億円。1機当たり 179億円。いわゆるオスプレイだ。

 

 豪雨災害でこの国の政府が拠出する額はたったの 20 億円。

 

 何かおかしくないか。

 

 2018 年 7 月 24 日現在、豪雨による死者 219 名、行方不明者 10 名、負傷者 364 名。

 

 5 日からの豪雨災害で、7 日に 15 分間会議を行っただけで、8 日午前 9 時に非常災害対策本部を設置するまで私邸にこもった、時の首相が日記をつけているのかどうか知らない。

 

 日記をつけていたら、おそらく、“居酒屋ごっこ” に興じていたこと以外には、

 

   「なにもなし」

 

とでも記載するのであろう。

 

 1789 年 7 月 14 日、バスチーユ監獄襲撃で始まったフランス革命、当日「なにもなし」と日記に記したのは、時の為政者ルイ 16 世であった。

 

80.シュテファン・ボルツマンの法則に従って、暑い

 第62回の備忘では、人が座っているだけで熱を発生しており、「代謝率」なるものを引っ張て来て、おおよそ一人当たり100 W、1秒間に100 Jのエネルギーを熱として放出していることを見た。

 

 今回は、代謝率という生理学的な知識を使わず、物理学だけで再度検討して見る。

 

 なんせ、学部改組でカリキュラムの再編成をして始まった講義が、2年目の今回も170名を超える受講生となってしまったので、100 W × 170ということで、17 kW の発熱があるので、暑い。熱い。

 

 梅雨が明けて日焼けした男の子たちは半そで半ズボンでやってくるので、彼らを黒体と近似してしまおう。黒体放射のエネルギー密度は、すでに第 12 回で計算した。プランク分布だ。

 

    U = (8πν2) / c3 × hν / (e(hν/ k T) -1) ・・・・(1)

 

ここで、h = 6.6×10-34 Js はプランク定数、ν [1/s] は放射される光の振動数、c =3.0×108 m/s は光の速さ、T [K] は絶対温度、k = 1.38×10-23 J / K は「ボルツマン定数」と呼ばれる数。第 9 回でも見た式だ。

 

 学生さんは体表面から熱放射しているので、放射のエネルギー密度(1)式を、表面の単位面積、かつ単位時間当たりに放射するエネルギーに書き換えておかないといけない。

 

             f:id:uchu_kenbutsu:20180720153822j:plain

 

 図のように、面積 dS から放射されるエネルギーを考えよう。放射が図の z 軸から角

θ 傾いた方向へ向かうとしよう。dt [s] の時間に放射される電磁波は速さ c の光速で進むので、c × dt だけ進んでいる。時刻 dt までに放射されたエネルギーは、図の傾いた円柱の中にある。円柱の高さは図のように、( c×dt ) × cos θ になっていることがわかるので、傾いた円柱の体積は

 

   円柱の体積= dS × ( c × dt × cosθ )

 

となる。体積は(底面積)×(高さ)だ。放射されたエネルギーはこの体積中にある。黒体から放射される単位体積当たりのエネルギーが(1)のエネルギー密度 U だったので、円柱内のエネルギーは

 

   円柱の体積×エネルギー密度=( dS× c×dt ×cosθ ) × U ・・・(2)

 

だ。

 

         f:id:uchu_kenbutsu:20180720154108j:plain

 

 放射は全方向に出ているので、考えている方向、図ではz軸から角 θ、x 軸から角 φに向かう方向への放射は、半径を r とすると、球表面の四角形 ABCD の面積分だ。ABの長さは図から r × dθ、ADの長さはやはり図から r × sinθ × dφ と読み取れるので、ABCD へやってくる放射は、全球に対して

 

   ( ( r× dθ ) × ( r × sinθ × dφ ) ) / ( 4πr)・・・(3)

 

だけあることになる。分母の 4 π r2 はもちろん球の表面積。この全表面積の一部のABCDの面積分を考えているので、この比率がかかる。

 

 こうして、z軸から角 θ、x 軸から角 φ に向かう方向への放射は(2)と(3)から

 

   U × c × dS × dt × cosθ × ( sinθ × dθ × dφ / (4π) )

 

となった。

 

 面積 dS から全方向に放射されるエネルギーは、すべての空間へ放射されるので、図で角度 θ は 0 から π、角度 φ は 0 から 2π まで動くことを考えて、すべて足し合わせて、つまり積分して

 

  U × c × dS × dt / ( 4π) × ∫ cosθ sinθ dθ ∫ dφ  ・・・(4)

 

となるが、0 から 2π まで積分する ∫ dφ は 2π を与え、0 から π まで積分する

∫ cosθ sinθ dθ は 1/2 を与える。こうして、(4)は

 

  ( c / 4 ) × U × dS × dt

 

となる。面積 dS と時間 dt が出てきたので、単位面積、単位時間当たりの放射に直すと、dS と dt で割っておいて、

 

  I = ( c / 4 ) × U ・・・(5)

 

という式が得られる。ここで、I は単位面積、単位時間あたりに黒体から放射されるエネルギーであり、放射発散度という名前がついている。ごちゃごちゃ計算したが、エネルギー密度 U を c 倍して 4 で割った単純な式になった。

 

 そうしたら、単位時間あたり、単位面積から放射される全エネルギー P を計算して見よう。すべての振動数 ν の電磁波が出ているのだから、(5)式をすべての振動数 ν について、0 から無限大まで足して(積分して)

 

  P=∫ I dν = ( c / 4 ) ∫ U dν =  (2πh / c ) ∫ ν3 / ( e(hν/ k T) -1 ) dν

 

を計算すればよいことになる。hν / kT = x と置換しておくと、上の式は

 

  P = ( 2πk4 T4 / (c2 h3 )) × ∫ x3 / ( ex -1 ) dx

 

となっていしまい、0 から無限大までの最後の積分 ∫ x3 / ( ex -1 ) dx は、π4 / 15 を与えることが知られているので、結局

 

   P =  2 π5 k4 T4 / ( 15 c2 h3 )

             = σT4                   ・・・(6)

   ここで、σ = 2 π5 k4  / ( 15 c2 h3 ) = 5.67×10-8 W / m2

 

となる。放射は絶対温度 T の 4 乗に比例する。これは「シュテファン・ボルツマンの法則」と呼ばれている。最後のσの数値は、ボルツマン定数 k、光速 c、プランク定数 h  のそれぞれの物理定数の値を代入して求めた。

 

 さぁ、いよいよ学生さんからの放射を考えてみよう。62 回では人の表面積を計算して見て、170 cm、60 kg の人だとだいたい表面積が 1.69 m2 として、代謝率を考えて計算して見た。(6)のように、単位面積当たり黒体は放射 P をすることがわかったので、P に体表面積 1.69 m2 を掛ければよい。若い学生さんの体温は高そうなので、37 oC としてみよう。絶対温度で 310 K だ。そうすると

 

    σT体温4 × (表面積) = 5.67 × 10-8  × 3104  × 1.69

 

だけ放射している。

 ただし、黒体は周りからの熱も、もれなく吸収するので、学生さんが体表面から吸収する熱放射分を考慮しなくてはいけない。室温が 27 oC としてみよう。絶対温度で 300 K だ。そうすると

    

    σT室温4 × (表面積) = 5.67 × 10-8 × 3004 × 1.69

 

分だけ吸収する。こうして、両者の差し引きが実質的に学生さん一人から単位時間に放射されるエネルギーだ。こうして、

 

    σT体温4 × (表面積) -σT室温4 × (表面積)

   =σ ×(表面積)× (T体温4 - T室温4 )

    = 5.67 × 10-8 × 1.69 × ( 3104 - 3004 )

    = 108.779 W

 

およそ 109 W でだいたい一人当たり 100 W。1秒間に 100 J のエネルギーを熱として放出している。

 

 生理学の代謝率を用いた計算とほぼ同じ結果が得られた。

 

 どっちにしても、暑い。熱い。

79.魚は頭から腐る

 大学でもインターンシップなるものが導入され、年月が経ってきた。結局のところ職場体験のことではあるが、もともとは産学連携のためにアメリカ合衆国で行われてきた制度だ。

 

 何でもかんでもアメリカに倣え、最近の風潮。

 

 日本では、バブル景気でイケイケどんどんであまり良く考えずに就職した学生が、就職先企業とマッチしていなくて早期離職が増加したバブル崩壊後の1997年に、「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」なるものが当時の文部・通商産業・労働の三省合同で出され、「高等教育における創造的人材育成の一環」という名目でインターンシップが推進されだした。「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義され、以後、高等教育機関である大学や大学院でもインターンシップが正規の単位として認められるようになってきている。2013年の政府の「日本再興戦略」ではインターンシップに参加する学生数の目標設定をするようにとの提言もなされている。ニート対策の色も濃い様な印象だ。

 学生は2週間から、長いと1か月にわたり企業や公共団体等でインターンシップを行ってくる。しかし、よく話を聞くと、体よい「無償労働力の提供」ではないか、と思われることもあるので、要注意だ。また、それってバイトで良くない?的なものも見受けられる。レストランでの皿洗いとか、ガソリンスタンドでの給油とか。最近はかなりの率で学生はアルバイトをしないと生活できないので、インターンシップで就業体験しなくても、賃金を受けて体験している。2週間にわたって自分のバイトができなくなるわけで、どうかしているようにも思える。

 

 こうした「キャリア教育」が、初等中等教育にも入り込んできて、「中学校職場体験」などというものまで公立の学校では9割方行われているようだ。文部科学省によると、「生徒が事業所などの職場で働くことを通じて、職業や仕事の実際について体験したり、働く人々と接したりする学習活動」と規定されており、職場体験が求められる背景として、「望ましい労働観、職業観を育む体験活動等の不足」が挙げられている。また、職場体験を通して、「直接働く人と接することにより、また実際的な知識や技能・技術に触れることを通して、学ぶことの意義や働くことの意義を理解し(云々)」とあり、さらに「主体的に進路を選択決定する態度や意思、意欲などを培うことのできる教育活動」なのだそうだ。ゴタクは立派。

 

 最近は「座学」が軽視される傾向を感じている。これまで行われてきた教室や運動場での「授業」のことだ。これに対して、「グループ学習」や「体験学習」が強調されてきており、これらを座学に対して「実学」と称しているようだ。どこもかしこも「実学」重視。

 

 もともと「実学」なんて、福沢諭吉が「学問のすすめ」で言った言葉だ。『もっぱら勤むべきは人間普通日用に近き実学なり。たとえば、いろは四十七文字を習い、手紙の文言、帳合いの仕方、算盤(そろばん)の稽古、天秤の取り扱い等を心得、なおまた進んで学ぶべき箇条ははなはだ多し』。実学として基本的な読み書き計算を挙げているが、続いて『窮理学とは天地万物の性質を見て、その働きを知る学問なり』とあって、窮理学を「実学」の一つとして挙げている。何が体験学習だ。教室で講義・実験・演習で学ぶ『窮理学』は、福沢諭吉に言わせれば『人間普通日用に近き実学』であるのだ。明治時代に『窮理学』という呼称が与えられていた学問分野は、現在『物理学』と呼ばれている。

 

 「窮理」といえば物理のことであるが、ついでに、良質で、物理屋から評価の高い雑誌「窮理」を紹介しておこう。創刊は2015年で、年3回ほどの不定期刊。窮理舎が発行しているが、発行者・編集者であるI氏は、ちょっと誇らしいのでここは強調しておくが私の研究室の出身者であり、まぁ大抵、卒業・修了生は勝手に育っていってくれているのではあるのでこう言ったら語弊だらけだが、物理学での私の最大の功績が、研究室からの良き人材の輩出なのだ。I氏は飛び抜けている方のお一人だ。彼は大学院修了後、科学誌を出版している出版社に就職し、その後独立して窮理舎を設立された。もちろん、インターンシップなんぞ行っておられない。

 

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 話をもとに戻そう。体験学習、「職場体験」の話だ。「望ましい勤労観、職業観を身に付けることができる」とあるが、基本的には働く側、労働者側に立場を置いた「体験」だ。そうであるならば、労働基本権、いわゆる労働三権、「団結権」「団体交渉権」「争議権団体行動権)」くらいは教えてから「体験」をさせているのだろうか。それと、「パワーハラスメント」対策も、労働者としては必須だ。経営側からハラスメントを受ける可能性は無きにしも非ずなので、「こういうことはハラスメント(嫌がらせ)に当たる」と、事前対策を講じる必要性は無いのだろうか。ブラック企業という言葉も作られた時代だ。

 

 こんなことがあった。

 

 国の方針で大学予算が削りに削られ、大学執行部が苦肉の策で、「8月は授業が無いのだから、8月分の給与は教員に支払わない」という案を出してきたことがあった。大学教員は授業だけしている訳ではなく、当然研究もしているし、入試業務などなど、多岐にわたる業務も行っている。8月なんて大学院入試の準備・実施もしているわけだ。また授業が無い期間は集中して研究を行っている。執行部も何を言い出すのかと思い、常勤なのに1か月分給与を払わないということが可能なのかどうか、すぐに法律を当たってみた。自然科学を研究している身であるので、人が作った法律なんてもともとあんまり興味はなかったが。そういえば中学校の時に、威張り腐った男性英語教師が「お前は弁護士になれ」とか、ほざいたことがあり、その理由が「金が儲かるから」だったので唖然としたが、そのわけの分からぬくだらなさに一層軽蔑感を募らせたのではあったが、公立の学校というのはそういう間抜けたことを平気で言って威張っているくだらん奴の存在も含めて社会の縮図みたいなところがあるのでそれはそれで結構良いので評価していて、全校教職員が一丸となって学校の教育方針に向かってまっしぐら、というのはちょっと怖いわけで、適度にけったいなのも入れてあるのが良いようで、「あぁは、成らんでおこう」と思えるし、というか、人の作った法律には中学の頃から興味がなかったことを言おうとしているのが、あまりにぐだぐだになった。

 

 大きな権力を持って政権を担っている政治家や高級官僚が嘘つきのクズばかりだと困るが。

 

 で、労働基本法を紐解いてみたところ、労働基準法第24条に

  1.賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

    (以下略)

  2.賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。

    (以下略)

とある。「賃金支払いの五原則」と呼ばれているそうで(厚生労働省ホームページ)、すなわち(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されている。

 ということで、かつて大学執行部が提案した、「8月は給与無しよね」は、賃金支払いの大原則、(4)毎月一回以上支払わなければならない、に明らかに抵触するので、法律違反というわけだ。次の会議で、といっても私が参加する会議は大学執行部の関与しない下の下の会議ではあるが、賃金支払いの五原則に抵触するので執行部に撤回を求めるようにしてくださいと発言しようと手ぐすね引いて待ち構えていたら、あっさり案は引っ込められていて、折角調べたのに出番がなくなってしまった。そりゃそうだろう、大学には有能な事務の方が多く居るので、当然法律の知識も豊富だ。どうやら当時の学長か理事の誰かが事務方と相談せずに案を出したというのが本当の所だったのだろう。かつて我々労働者は法律に守られていた。働かせ方改悪されるまでは。

 

 法律を作る連中が嘘つきのクズばかりだと困るが。

 

 こんなこともあった。

 

 就職活動をしていたある学生さんが、或る企業の最終面接までこぎつけて、もうすぐ内定、というときに、その面接で、面接官から「何か聞いておくことはないですか」と水を向けられたときに、「御社には労働組合はありますか」と尋ねて、採用を見送られたことがあった。労働組合に敏感ということは、ブラックかもしれない。別の企業に就職できたので、ぎりぎりセーフだったのだと思う。

 

 こんなことがあった。最近。

 

 子供も中学生になり、「職場体験」を経験する。選んだのは某所。公共性は高いが民間。直接指導して頂いた方や、業務内容の概ねには満足していたようなので、そこのところは措いておく。

 しかし、職場体験の受け入れ先で体験する中学生数人が受け入れ先の説明会に赴いたところ、なかなか家に帰ってこないということがあった。中学校に戻らずに家に帰ってよいことになっていたのだが、中学校の最終下校時間どころか、夕方6時から始まる、自転車で5分ほどで行ける水泳にも間に合わない時間になった。途中で不審者に襲われていてもいけない。かなり遅れて帰ってきて、自分で家の鍵を閉めて水泳に向かったようであり、水泳に行ったことを確認したと学校の先生からも電話がかかってきたので暴漢に襲われたわけではなかったが、普段と行動が違うと心配になる。でもまぁ、1日のことだし、職場体験そのものではない「説明会」ということなので大目に見た。

 

 しかし。

 

 職場体験が始まっても、やはり下校時間を過ぎても帰ってこない。これは困ったと思い、学校を通すようなことでもないので夫婦で受け入れ先に直接事情を話して時間内に帰らせてもらえるように要請に行った。その日も毎日の水泳の練習もあり、県から強化選手指定もされているので練習をおろそかにすることは県民に対しても良くないだろう。

 

 ところが。

 

 責任者に話すのが良かろうと思い、経営者に、「5分ほどなので少しお願いが」と言ったとたん、「今、決算で忙しい」とのたまう。5月に決算?と思ったが。でもまぁ、話しを聞いてくれるようなので、中学の通常の下校時間には終わらせて家に帰すようにして欲しいと要請したところ、「時間に帰らないといけないのだったら、本人がその時に言えばいいではないか」という。体験しに来ている側であり、また、まだ義務教育中の中学生なのだから言い出しにくいではないかと申し上げるも、そんなことが言えないでどうする、と言う。これだと、まさに、“相手がはっきり断らなかったのでOKだと思った”と言って言い逃れるハラスメントの構図じゃないか。パワーハラスメント、権力を笠に着た嫌がらせの典型だ。あげく、終りの時間が決まっているなら中学校がこちらに言うべきだと、子供や学校の責任にする。「はい、わかりました。何時までなら大丈夫ですか」とは決して言わない。説明会の時は帰りがもっと遅かったので困ったが、明日、明後日はせめて下校時間には帰すように要望するも、「説明会のときも、時間は大丈夫か生徒に聞いた。こちらの親切で長時間説明した」のだそうだ。社会人なら時間内に説明を終えるように努めるだろう。信頼関係も構築していない初日に子供が経営者に向かって言えるわけがないだろ、と厳しめに言うと、「あなた、怒っていますね」ときた。

 

 当たり前だ。

 

 ここまでの対応をする経営者も今どき珍しい。他者からの意見や要望を聞くという態度の見られないトップが支配する「職場」と思えた。そういえば、最初に言った言葉が、ご用件は何でしょうかではなく、今決算で忙しい、だったことを思い出す。

 

 そこの「職場」と私たち夫婦とは今後は金銭的な関係が無いことが明白なので、我々の顔がお金には見えなかったのだろう。見えてたら、もう少し対応が違ったように思える。あぁ、金にしか興味が無いのか。中学生の職場体験が教育の一環であることすら理解できていない。これで、「地域貢献に励んでいます」とか宣伝するんだろうなぁ。

 

 結局、血圧が上がっただけに終わり、子供に、労働者には「争議権」があるんだから、団結してストライキを打って良いという話をして、明日から「職場」に行くのを拒否しろ、と言ったが、理不尽な物言いのする経営者ではあるが、下で働く人たちと一緒に行う業務は楽しいようなので、その後2日間、併せて3日間の職場体験を終えた。

 

 「生徒が事業所などの職場で働くことを通じて、職業や仕事の実際について体験し」て、「働くことの意義を理解」するのではなかったのか。「生徒が事業所などの職場で働くことを通じて、職業や仕事の実際は、経営者の方針に従って意見も言わずに与えられた仕事を定時で終わらず帰宅してよろしいと言われるまで残業して(無償で)行うことを理解」することだったのだろうか。「残業」をするのは時間内に業務がこなせない「無能な労働者」のすることなので、「残業代」と称する「補助金」を支払う必要は無いと公言する者もいる。なんか、つじつまが合うような。

 

 「職場体験」は資本主義のもとでの企業の経営のように、経済の論理で社会を動かすことを当たり前と捉えさせる教育ではあるまいかと勘ぐってしまう。トップが決める「トップダウン」がもてはやされ、その結果、速やかに事が進む「スピード感」が評価される。トップが決定した事柄は「市場」が決めることなのだから、「従業員」である「民」は四の五の言わずに黙々と従えば宜しい。そういう社会を望んでいるのだろう。構成員が意見を持って、構成員から選ばれたリーダーが責任を持って行動し、常に構成員からの批判を受けながらも民主的な方法で合意形成をして物事を決めて行き、実行していくという社会は、「決められない社会体制」だと、現代日本の構成員は考えるようになったのだろうか。

 

 そうして、『独裁体制はスピード感があっていいよね』となっていく。

 英雄気取りで『独裁者』になりたがる奴らは、大抵、嘘つきのクズである。

 

 危険な腐臭が漂っている。

 

 

78.球の表面積、再び

 第60回で、球の体積が何故 4πr3 / 3 になるかという話をした。そこから球の表面積 4πr2 を求めたが、球の体積を経由せずに直接、球の表面積を求めるにはどうすればよいかという質問を受けた。

 

 そこで、球をとても小さな高さ Δx ずつに輪切りにしていくことを考えてみる。下の左図は、球を横から見て、右上の4分の1の断面を書いたところ。球の中心はO、半径は r としておく。ある高さのところ、図では A の位置であるが、ここで、ズバッと球を切るとする。このとき、A から球の表面 B までの長さが x だったとする。三角形OAB を取り出して書いたのが、下図の右下だ。長さ r と x を書いておいた。さて、表面の点 Bで、この球に接する面を考え、大円方向の接線を引いたものが、左図にあるように半径方向に垂直に点 B を通って引かれた直線だ。A 点から高さ Δx だけ離れた点 C から、やはり球をズバッと切って表面に達した点を D としている。D からまっすぐ下に垂線を降ろして AB と交わるところが E だ。図を見てもらった方が早い。

 

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 ここでできた三角形 BED は直角三角形で、三角形 OAB と同じ形だ。正確には BD は球の表面にあるので円弧だから直線ではないが、Δx がとても小さいので、直線だと思って(近似して)三角形だと考えても差し支えない。三角形 BED と三角形 OAB が同じ形だということは次のようにして分かる。角 AOB は直角三角形の直角でない角の一つだから、角 AOB =(90度-角ABO )だ。一方、BD は点 B での接線と見なせるから、角 OBD は直角、ということで、角 EBD = ( 90度-角ABO )だ。さっきの角 AOB と右辺が同じじゃん。ということで、角 AOB = 角 EBD となる。両方とも直角三角形なんだから、残りの角の大きさも両者で同じということになる。こうして、全部の角度が同じ直角三角形同士なので、三角形 BED と三角形 OAB は同じ形だということが言えた。いわゆる相似だ。

 今、球を幅 Δx ずつブッタ切ったンだから、長さ DE は Δx。ここで、長さ BD を Δr と書くと、2つの三角形が相似だということを使って

 

    x / r = Δx / Δr      

 

が成り立つので、

 

   Δr = r×Δx / x      ・・・(1)

 

が得られる。

 

 さて、この状況を斜め上から見たのが下図だ。AB を半径とする円環を切り出してきたとすると、右図のようになっているはずだ。Δx は本当はもっともっとずっとずっと小さいので、図では B と D で大きく位置がずれているように見えるが、本当は B のほぼ真上に D がある。そこで、斜線を付けた円環の面積を考えると、円環を長方形と捉えることができるので、この“長方形”(=円環)の面積は、底辺の長さ 2πx に高さ Δr をかけたものになるはずだ。

 

    円環の面積 = 2πx × Δr

 

 

              f:id:uchu_kenbutsu:20180615162959j:plain

 

 ところで、さっき(1)式を見つけたので、上の式で(1)を使って Δr  を消すと

 

    円環の面積 = 2πx × Δr 

          = 2πx × ( r × Δx / x )

         = 2πr × Δx      ・・・(2)

 

が得られる。点 A を考えて、球の表面までの距離を x としたが、見事に x は消えた。だから、どこの位置でズバッと切っても、そこで考える円環の面積はいつも(2)式で共通だ。もとの球を等しい高さ Δx でブッタ切ったことにより円環が得られたので、切った円環の面積をすべて足すと球の表面積が得られるはずだ。すべての円環の面積を集めてくるので、(2)式の共通因子 2πr で括って、高さ Δx を全部足すことになる。すべての場所での Δx を足して寄せ集めてくるわけだから、結局、足し算された結果の Δx は、最初の図の左図を見ればわかるように球の直径 2r になる。こうして、球の表面積として

 

    半径 r の球の表面積 = ぶった切った円環の面積を全部集める

              = 2πr × (Δx の高さを順にすべて足す)

              = 2πr × (球の直径)

              = 2πr × 2r

              = 4πr2

 

と、目出度く答えが得られる。

 

 やっていることは、端的に言えば、積分だ。積分は、掛け算してから足し算。

 

77.見~っけた

 大阪の下町育ちなので、子供の頃の遊びは、「だるまさんがころんだ」というような上品な10文字を数えて遊ぶのではなく、遊びの内容は全く同じではあるが、「坊さん(ぼんさん)が屁(へ)をこいた」であった。続けて10文字10音節、「匂うたら(におうたら)臭かった(くさかった)」。

 

 今はどうか知らない。

 

 昭和40年代の戦後の高度経済成長期、光化学スモッグで小学校の朝礼台に赤旗が立つと校庭で遊べない毎日が続く、学生運動が終焉しつつあった頃のことだ。浅間山荘に打ち込まれる鉄球の映像を覚えている。

 小学生時代は遊びまくっていた。路地で「缶けり」も良くやった。当時は必ずどこかに空き缶が転がっていたので、それを拾って来て遊ぶ。鬼が一人で、それ以外の誰かが缶を蹴っ飛ばして、鬼が拾って来て所定の位置に空き缶を設置するまでの間に鬼以外は隠れる。鬼は隠れた子を探し出しては、空き缶に戻り、

 

 「誰それ君、見~っけた、ペコポン

 

と言って、空き缶の上部を踏む。そうすると捕まえられたことになる。誰かが、鬼の居ぬまに空き缶を蹴っ飛ばすと、つかまっていた捕虜は解放されて、また隠れる。

 

 独特のイントネーションで言う、あの「ペコポン」は何かのおまじないなのだろうか、ただの、空き缶を踏んだ時の擬音だったのだろうか。それを言い終わらないうちに誰かが空き缶を蹴とばすと、捕虜は解放された。

 

 大学に入ると、友人達は各地域から集まってきていたので、子供の頃の遊びがそれぞれの地方で異なり、また同じ遊びも呼び方が全然違ったりして、遊びの話で盛り上がったりしていた。一地方にしか暮らしていないやつらが多かったので、みんなで感心していた。「ペコポン」はやはり大阪特有のようであった。

 

 大学時代。今は昔のことだ。

 

 そう、まだ日本には大学で物理学の研究をする時間があった頃、四半世紀以上前のこと。私が大学院生の時代。多分、博士課程1年のとき。

 (1+1) 次元ソリトンの半古典論を考えていた。(1+1) の 1 は空間が1次元ということで、残りの1は時間の1次元。‘‘ソリトン”とか‘‘半古典論”とかは、ここでの話にはどうでも良い。まぁ、おまじない、「ペコポン」みたいに思っておいて頂いて結構です。

 

   マハリクマハリタヤンバラヤンヤンヤン

 

 ソリトンの周りのボソン励起の波動関数の完全系を作り、熱核展開という方法でエネルギーへの寄与を見てみた。“展開”をしている際に、つじつまが合うためには、ある級数の和が、まぁまぁ簡単になるべきであることがわかった。ということで、本来、数学の領域である「無限級数の公式」を、物理学を使って一つ‘‘発見”した気になった。こんな式だ。

 

   Σn=1(2n-2)!! x2n+1 / (2n+1)!! = x - (1-x2)1/2  arcsin x

 

ここで、N!! というのは、2度ビックリしたのではなく、N×(N-2)×・・・×2または1と、2つおきに掛けていく記号。Σn=1 はnについて1から順に、n=1,2,3、4・・・と無限(∞)に足しなさいという記号。arcsin x は、三角関数の正弦関数、   sin x の逆関数

 

 ここまで何を言ってるんだか。

 

   テクマクマヤコンテクマクマヤコン

 

 まぁ、無限級数の「数学公式」を、「物理学」を使って発見できたと思って喜んでいた大学院生がいたと想像してください。

 

 早速、公式集を紐解いてみた。「数学公式」と言えば、古来から「岩波 数学公式集」全3巻だ。手持ちは1990年発行第5刷。公式集の第 II 巻、「級数 フーリエ解析」で調べた。きっと正しい式を導けたんだろうと思って確認する。探して探して、  148ページにそれらしい式を見つけた。こんなのだ(2 分の 1 乗は、ルート(√)で書かれている)。

 

   (1-x2)1/2  arcsin x = x - Σn=1(2n-2)!! x2n+1 / ((2n+1)!! n)

 

ん?! 右辺と左辺が多少ひっくり返っているのは良いとして、右辺の級数の和の中の分母に n が入っていて、私の式と違うぞ? 血の気が引くというのはこういうことだ。物理学をやっていて、必要な数学の式を導いて、得られた物理的な結果がうまくいったつもりになっていたが、計算の途中で、どっかで間違えたか・・・。はたまた、根本的に考え方に問題があったのか・・・。計算間違いなら修正できるのだが・・・。むにゃむにゃ・・・。

 

 いったん、へこんでから、しばらくして、またもう一度、公式集をひっくり返す。今度は同じ公式集の59ページに、似た級数の式を見つけた。

 

    Σn=1(2n-2)!! x2n+1 / (2n+1)!! = x - (1-x2)1/2  arcsin x

 

 おや? 私が導いた式そのものではないか! ということは、148ページの式と  59ページの式のどちらかにミスタイプがある、ということだ。とにもかくにも、タイプミスを見つけてしまった。もちろん私は59ページに軍配を上げた。

 

 いやぁ、こんなかっちりした、しかも定評のある数学公式集にすらタイプミスもあるもんだなぁ、と、変に感心したことを覚えている。もう、新しい版では直っているんだろうなぁ。いつか確認してみようと思いながら、未だ確認せずの状態が続いている。

 

 無限級数と言えば、大学生で誰しも驚く(に違いない)

 

  1+2+3+4+・・・ = -1/ 12

 

というのがある。左辺は発散していくのに、しかも正の数しか足さないのに、マイナス12分の1になる。インドの天才、ラジャラマンが、この式を使って何か数式を得て、イギリスのある数学者に手紙を送ったら、「君は発散級数というものをわかっていない」とたちどころに却下されたそうだ。現在は、リーマンのゼータ関数を解析接続するということで、上の式の正しさは保証されているが、ここでは、おまじないにならないように、厳密ではないけれども初等的に見ておこう。

 

1.まずは、

  S = 1 - x + x2 - x3 + x4 - ・・・

という式を考える。この両辺に x を掛けると

  x S =  x - x2 + x3 - x4 + ・・・

となるので、辺々足し算すると

  ( 1 + x )S = 1

なので、上の級数 S は

  S = 1 / (1 + x )

と求まる。

 

2.次に、

  T = 1 - 2x + 3x2 - 4x3 + 5x4 - ・・・

という式を考える。この両辺に x を掛けると

  x T =   x - 2x2 + 3x3 - 4x4 - ・・・

となるので、辺々足し算すると

  ( 1 + x )T = 1 - x + x2 - x3 + x4 - ・・・

        = S

となるので、上の級数 T は、S の結果を使って

  T = S / (1 + x ) = 1 / ( 1 + x )2

と求まる.

 

3.こうして、

  T = 1 / ( 1 + x )2  = 1 - 2x + 3x2 - 4x3 + 5x4 - ・・・

となることがわかったので、両辺に、x = 1 を代入して見る(数学科の諸君、ここは少し目をつぶっておくれ)。そうすると

  1 / ( 1 + 1 ) 2 = 1 / 4

                       = 1 - 2 + 3 - 4 + 5 - ・・・    (*)

となる。プラスとマイナスが交代で現れる右辺の級数の値は4分の1だ。

 

4.今度は、欲しい式

  R =  1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + ・・・

を考える。両辺4倍すると

 4R =   4    + 8    + 12 + ・・・

となるので、辺々引き算する。そうすると

  R - 4R = 1 - 2 + 3 - 4 + 5 - 6 + ・・・

となるではないか。左辺は-3R で、右辺はさっき3.でやった、T に x=1を代入した(*)式なので、4分の1だ。こうして、

  -3R = 1 / 4

よって、

   R =  1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + ・・・

    = - 1 / 12

が得られる。(おしまい)

 

 こういう級数は、物理学の弦理論にも現れる。ボソン弦と呼ばれるものが矛盾なく定式化されるためには時空間の次元が26次元である、ということを主張する際に用いられているようだ。