88.平方数の和

 第30回で四元数に触れた。少し復習しておこう。

 

 まずは、普通の数。a と b という二つの数があったとしよう。数字 a の“大きさ”を絶対値と言って、|a| と書くと、

 

    |a| |b| = | ab|

 

になるのは、ほぼ当たり前だ。

 

 次に複素数。2 乗したら-1に なる“虚数単位” i = √(-1) を使って、

 

    u = a + i b、 v = c + i d

 

のような u、v といった数。二つの複素数の積は i2 = -1 に注意して、

 

    uv = (a + i b )×( c + i d ) = ac-bd + i ( ad + bc )   ・・・(1)

 

となる。また、“複素平面”というものを使ってグラフ化しておこう。u の実数部 a を横軸に、虚数部 b を縦軸にして座標風に描くと

        

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といった感じ。x 軸は複素数の“実部”、y 軸は複素数の“虚部”になっている。複素数 uの“大きさ”は図の r になっていて、

 

    r = √(a2 + b2 )

 

になる。面倒なので、大きさの 2 乗を考えると、a2 + b2 だ。2 つの複素数 u と v の大きさの積は ( a2 + b2 ) × ( c2 + d2 ) だが、簡単な式変形で、

 

    ( a2 + b2 ) × ( c2 + d2 ) = ( ac-bd )2 + (ad + bc )2

 

になる。右辺をよく見ると(1)式の右辺の実数部の 2 乗と虚数部の 2 乗の和になっているので、これは複素数 uv の大きさの 2 乗だ。こうして複素数 u の大きさを |u| の様に書くと

 

    |u|2  |v|2 = |uv|2

 

になっていることがわかる。

 

 さて、四元数。2 乗したらマイナス 1 になる 3 つの数、i、j、k を用意する。

 

    i2 = j2 = k2 = -1 ・・・(2)

 

i、j、k には次のような掛け算の関係がある。

 

    i j = -j i = k 、    j k = -k j = i 、   k i = -i k =  j   ・・・(3)

 

2つの四元数

 

   u = a + i b +j c + k d 、   v = x +i y + j z + k w

 

と書くと、2 つの四元数の積は、(2)(3)に注意して

 

    uv= ( ax-by-cz-dw ) + i ( bx + ay-dz + cw )

      + j ( cx +dy +az-bw ) + k (dx-cy +bz + aw) ・・・(4)

 

となる。四元数の“大きさ”の 2 乗は、予想通り

 

    |u|2 = a2 + b2 + c2 + d2

 

である。ここで、複素数の時と同様に、

 

    ( a2 + b2 + c2 + d2 ) × ( x2 + y2 + z2 + w2 )

   =  ( ax-by-cz-dw )2 + ( bx + ay-dz + cw )2 + ( cx +dy +az-bw )2

    + (dx-cy +bz + aw)2                   ・・・(5)

 

という恒等式が示せる。右辺をよく見ると、(4)の右辺の各項の 2 乗の和なので、四元数の積 uv の大きさの 2 乗になっていることがわかる。こうして、上の式(5)は、

 

    |u|2 |v|2 = |uv|2

 

と書ける。

 

 ところで。

 

(5)式が教えてくれることは、ある2つの数がそれぞれ 4 つの数字の 2 乗の和で書けたとする( a2 + b2 + c2 + d2 と x2 + y2 + z2 + w2 )と、その積もまた、4 つの数字の 2 乗の和で書ける( ( ax-by-cz-dw )2 + ( bx + ay-dz + cw )2 + ( cx +dy +az-bw )2 + (dx-cy +bz + aw)2 )ということだ。ということで、すべての素数が、0 を含む 4 つの自然数の 2 乗の和で書ければ、

 

    『すべての自然数は高々 4 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

ということになる。すべての自然数素因数分解できるので、素数が 4 つの数の 2 乗和で書ければ、その積も 4 つの  2乗和で書けるので、結局、すべての数は高々 4 つの自然数の 2 乗の和で書けるということだ。

 

 実際、

 

    『すべての素数は高々 4 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

ことが証明できる(証明は略)。

 

 たとえば、

 

    2 = 12 + 12 ( + 02 + 02 )

    11 = 32 + 12 + 12 (+ 02 )

    23 = 32 + 32 + 22 + 12

 

などなど。こうして、すべての自然数は 4 つの自然数の 2 乗の和で書けることになる。

 

 では、すべての自然数は、3 つの自然数の 2 乗の和で書けるだろうか?

 それは、無理ということだ。

 ある自然数が 3 つの自然数の 2 乗の和で書けるための条件は、

 

   『ある自然数が 2 つの整数 a、b を用いて4a ( 8b + 7 ) という形に書けないとき

    に限り、高々 3 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

だそうだ(証明は略)。例えば

 

    244 = 62 + 82 +122

 

しかし、240 は 240 = 42 ( 8×1 + 7 ) という形に書けてしまうので、上の定理からいくら頑張っても 3 つの自然数の 2 乗の和で書けない。

 

 では、2 つの自然数の 2 乗の和で書ける数は、どんな条件があるのだろうか?

 

   『自然数素因数分解したときに、4 の倍数+3 の素数が現れた時にはその素

    数がすべて偶数乗されているときに限り、2 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

たとえば、221=13×17 となるが、素因数はともに “4の倍数+ 1” あって、“4の倍数 + 3” は現れていないので、2 つの自然数の和で書けるはずだ。実際、221 = 52 + 142 。では、245 は? 245 = 5×72素因数分解できる。素数 7 は “4の倍数 + 3”、7 = 4×1 +3 と書けるが、2 乗(72 ) のかたちで現れているので、構わない。2 乗はすなわち偶数乗だ。だから 245 は 2 つの自然数の 2 乗の和で書ける。実際、245 = 72 + 142 。では、275 では? 275 = 52 ×11。11 は “4の倍数 + 3”、11 = 4×2 + 3。これが 1 乗、奇数乗で入っているので、上の条件から、2 つの自然数の 2 乗の和では書けないはずだ。

 

 ちなみに。

 

 次のような 3 つの素数の 2 乗の和を考えよう。

 

    72 + 112 + 432

    72 + 172 + 412

    132 + 132 + 412

    112 + 232 + 372

    172 + 192 + 372

    232 + 232 + 312

 

 全部 2019 になる。2019 は 3 つの素数の 2 乗の和で、6 通りの書き方がある。

 

 今年は西暦で 2019 年。

 

 2019 の各数字を足すと、2 + 0 + 1 + 9 = 12 になり、これは 3 の倍数なので、2019は3 で割り切れることがわかる(第16回)。こうして 2019=3×673 と素因数分解できる。673は 大きい数だが素数だ。2019 の素因数分解で現れる 3 は “4の倍数+3”、3 = 4×0 + 3であり、これが一つ、奇数乗として入っているので、2019 は 2 つの自然数の 2 乗の和では書けないことがわかる。

 2019 は4a ( 8b + 7 ) の形には書けない。奇数だから 4が有ってはいけないので、a=0でなければならない。2019 の素因数分解を見ると 3 も 673 も ( 8b + 7 ) の形には書けない。673-7 が 8 の倍数でないので。というわけで、2019 は 3 つの自然数の 2 乗の和で書けるというわけだ。

 

 2019 は素数だけの 2 乗和で 6 通りに書ける不思議な数だ。

87.潮の満ち引き

 第86回では、月が地球から離れているという観測事実から理解できることを見た。

 

 では、なぜ月は地球から離れて行っているのであろうか。

 第86回と同様な状況設定しておこう。

 

 月と地球は万有引力を及ぼしあいながら、共通の重心の周りを回転運動している。月に比べて地球は重いので、ここでは地球は静止していて、その周りを月がまわっていると近似する。月の質量を m、月の中心と地球の中心間の距離を r、地球の質量を M地球、地球の半径を R、万有引力定数を G とする。下の図の通り。

  

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                   図1

 

 月の存在によって地球の各点に万有引力が働いている。地球の大きさを考えると、地球上で月に近い方の有る点を A、地球の中心を B、月の反対側の有る点を C とすると、A、B、C の各点におかれた質量 m の物体に働く月の引力をそれぞれ、FA、FB、FCとすると

 

    FA = G m m / (r-R)2

    FB = G m m / r2

    FC = G m m / (r+R)2

 

となる。一番大きいのは右辺の分母が一番小さい Fだ。力の大きさは FA > FB > FC の順になる。こうして、まず FA - FB >0 より、A 点の方が B 点より月に引っ張られているので、A 点は B 点に比べて月の側に寄る。一方、FC - FB <0 なので、C 点で月から受ける引力は B 点のそれよりも小さく、B 点に比べて月へ引っ張られていない。B 点が月に引き寄せられても C 点は一緒に引き寄せられずに取り残されるというわけだ。

 地球が硬い岩石だけでできているなら、引力の相違は大きく目には見えないかもしれないが、地球は水で覆われているので、月からの引力の相違を受けて、A 点では月に引き寄せられ、C 点では取り残される。こうして、図の様な状況が起きることになる。つまり、海水面は月の側と、その反対側の2カ所で膨らむ。これが満潮だ。月の側と反対側で起きるので、満潮は 1 日  2回起きることになる。もちろん干潮も同じ。潮の干満は1 日に 2 回起きる。

 

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                    図2

 

 ときどき、月の反対側の海水面が膨らむのは、地球と月が共通重心の周りを周ることによって起きる遠心力だと説明したものが見受けられるが、間違っている。地球を固定して考えても月の反対側でも海水面は膨らむので、“遠心力”では有り得ない。

 さて、ここからさらに進めよう。地球は自転している。図は地軸の上方、北極の側から見たものとする。図で地球は反時計回りに回っている。月も地球の自転と同じ方向へ公転している。地球の自転に際して、地球表面と海水の摩擦によって海水は地球の自転に引きずられて、海水のふくらみ部分は若干自転の方向へ引っ張られる。下図のようになるわけだ。

 

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                  図3

 

 逆に、今度は上の図の地球の A 点、B 点(地球の中心)、C 点の物質が月に及ぼす万有引力、fA 、fB 、fC を考えてみる。A 点と月の距離は他の点からの月までの距離より近いので、引力は大きくなる。月が受ける引力を表す矢印 fA は大きい。

 fA 、fB 、fC を取り出して見たのがさらに下の図。fA 、fC の力を、地球に向く成分と月が動いていく公転軌道方向の成分に分けたものが点線だ。地球に向かう力は地球と月の万有引力であるが、公転軌道に沿った成分を見ると fA の公転軌道方向成分 fA の方が fC の公転軌道方向成分 fC より大きいことがわかる。すなわち、差し引きすると、月を公転軌道方向に押す力の成分が残るというわけだ。

    

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                  図4

 

 こうして、月は、自分が進む方向に“押される”。そうすると、(力)=(質量)×(加速度)のニュートン方程式から、月の進行方向に月は加速され、月が地球を回る速さは速くなる。月が加速されるので、月の公転半径 r は大きくなる。自動車でもカーブを大きな速さで回ると外側に膨らむのと同じだ。こうして、地球と月の距離 r が大きくなるというわけだ。

 それが、1 年でおよそ 3.8 cm だというのが観測事実。

 

 こうして、第 86 回に従って、地球の自転は遅くなり地球の1日は長くなる。おまけに、月の公転周期も長くなっていく。

 

 月がもう地球から離れて行かなくなるのは、どういう状況になった時だろうか。地球の自転周期が月の公転周期より速いので、図 3 のような状況が起きるのだった。月が進むより先に地球の自転で A 点が月と地球を結ぶ線分より前に出てしまうのだ。もし、月が地球から離れて行って月の公転周期が遅くなり、地球の自転も遅くなると、いずれ地球の自転周期と月の公転周期が一致してしまうだろう。このときには地球が自転して A 点が月と地球を結ぶ線分の前に行こうとしても、月も同じように進んでいるので、いつも A 点は月の正面にあるはずだ。こうして、最終的に、地球の片側の面と月の片側の面はいつも向き合ってしまい、いつも月が見える側と、いつも月が見えない側に地球は 2分される。

 

 実は、地球よりも軽い月はすでにこの状況が起きている。月も自転しているので、月と地球を入れ替えてみると、月の自転周期と“地球が月を周る公転周期”が一致して、月の片側の半分、うさぎさんのいる側だけを地球に向けているのだ。

 

 潮の満ち引きから色んなことがわかった。

 

 

86.地球と月

 第85回では単位の定義の改訂について触れた。その中で、時間の単位、秒の定義を書いておいた。

 歴史的には、秒の定義はセシウム 133 原子を用いた定義になるまでは、1900 年の平均太陽日の 24 分の 1 の 60 分の 1 の 60 分の 1 を 1 秒として定められていた。太陽日というのは太陽が最高点に達してから次に再び最高点に達するまでの時間、まぁ 1 日のことだ。それを 24 時間に分けてさらに 60 分にわけてさらにさらに 60 秒に分けたものということだ。

 

 でも、地球の自転は遅くなっている。1900 年の平均太陽日と限定してはいるものの、遅くなる地球の自転に基づいた定義では、おさまりが悪い。そこで、セシウム133原子を用いた定義に直されたというわけだ。

 

 地球の自転が遅くなっていることは、地球と月の距離の測定でわかる。アポロ宇宙船で月に行った人類は、月にレーザー光線を反射する“鏡”をおいてきた。そこに向けて地球からレーザー光を発射し、地球に帰ってくるまでの往復の時間とレーザー光の光の速さから、地球と月の距離が測定できるというわけだ。

 測定によると、1年で平均 3.8 cm 月は地球から遠ざかっていることがわかる。

 

 ではなぜ、月が地球から遠ざかっていくと、地球の自転は遅くなるのか?

 

 ちょっと見ておこう。

      

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 地球と月を考える。地球の方が月よりだいぶん重いので、地球は静止していて、その周りを月が円運動していると近似しよう。月が円軌道しているときの月の角運動量を   Lとしよう。角運動量の説明はここでは省略。まぁ、少しだけ説明して見よう。月が円運動しているとして、地球と月を結ぶ線分を考える。左の図のように地球と月を結ぶ線分が、適当に決めた x 軸となす角度を θ とすると、月の運動とともにこの角度が変化していく。短い時間 Δt の間に角度が Δθ 変化した時、(変化した角度)÷(かかった時間)を角速度と呼ぶ。角速度を ω と書くと

 

    ω=Δθ / Δt      ・・・(1)

 

となる。ただし Δt は限りなく小さくとる。

 次に、物体の回転のしにくさ、慣性モーメントを考えよう。原点から距離 r 離れたところにある質量 m の物体の、原点周りの回転のし難さは m r2 となることが知られている。遠くに重いものがあると周りにくいというわけだ。物体の運動量 p が、物体の動き難さである質量 m と、動く位置変化である速度 v の積、すなわち p=mv であるのと似ていて、角運動量 L は物体の回転のし難さである慣性モーメント I(質量 m に対応)と、回転角の変化である角速度 ω(速度 v に対応)の積になる。つまり、L=Iω というわけだ。ということで、地球を回る月の角運動量

 

    L= m月 r2 ω      ・・・(2)

 

と書ける。m月 は月の質量。r は地球と月の距離。月の速さ v は、右図のように月が動いた距離 rΔθ を、要した時間 Δt で割ればよいので

 

    v = r Δθ / Δt = r ω

 

と書ける。ここで、(1)の角速度 ω を用いた。こうして、(2)は

 

    L= mr v      ・・・(3)

 

となる。

 月は地球の引力を受けている。第3回で見たように、質量 M地球 の地球が月に及ぼす引力は GM地球m / r2 となる。ここで、G は万有引力定数だ。第5回で見たように、この引力によって月に生じる加速度は、v2 / r なので、(質量)×(加速度)=(力)より

 

    mv2 / r = G M地球 m/ r2

 

なので、月の速さ v は

 

    v = √(GM地球 / r )

 

となるので、月の角運動量(3)は

 

    L = m√(GM地球) ×√r

 

と書ける。ここで、地球と月の距離 r が Δr 変化したら、右辺の √r を微分したと思って、月の角運動量の変化 ΔL月 

 

    ΔL= m√(GM地球) ×Δr / (2√r )   ・・・(4)

 

と得られる。こうして、地球と月の距離の変化 Δr が月の角運動量の変化 ΔLを引き起こすことがわかる。

 

 月の角運動量の変化は、地球の角運動量の変化と相殺される。角運動量の保存法則から月と地球の角運動量をあわせたものは、時間変化しない。そこで、地球の角運動量の変化を考えよう。地球は自転しているので、自転に伴う角運動量が変化していなければならない。こうして、地球の自転の時間が変化していることがわかる。

 地球は広がりを持った物体であり、中心を通る軸の周りの回転のしにくさ、すなわち慣性モーメントは、地球の半径を R、地球の質量を M地球 として、地球が一様な密度を持っていて、なおかつ“剛体”、つまり変形しない物体であるとすると

 

    (2 / 5 )M地球 R2

 

と計算される(ここではやらない)。実際には中心部が密度が高いので、上の式の慣性モーメントより小さくなり、地球の慣性モーメント I地球 としては

 

    I地球 =K M地球 R2

 

と書くと、K はおおよそ 0.3444 らしい。2/5 = 0.4 より小さいので、重いものが遠くには少なく、中心部近くにあるので、その分、周りやすいというわけだ。地球の自転の角速度を Ω とすると、地球の自転の角運動量 L地球 は、

 

    L地球 = I地球 Ω = KM地球 R2 Ω

 

となる。地球の自転角速度が ΔΩ 変化すると、地球の角運動量は変化し、その変化量 ΔL地球

 

    ΔL地球 = KM地球 R2 ΔΩ   ・・・(5)

 

となる。地球の自転の角速度は良く知っている。1日1回転だ。1日を τ で表し、1回転は2πラジアンなので

 

    Ω=2π / τ

 

なので、角速度の変化 ΔΩ は1日の長さ τ の変化 Δτ と関係がつくことがわかる。微分だと思って

 

    ΔΩ=-2πΔτ/ τ2

 

なので、1日当たり地球の角運動量の変化 ΔL地球 は、(5)より

 

    ΔL地球1日 =-2π KM地球 R2 Δτ / τ2   ・・・(6)

 

なので、角運動量の保存法則から1日当たりの地球、月、それぞれの角運動量の変化から

 

    ΔL1日 + ΔL地球1日 = 0

 

でなければならない。こうして、(4)、(6)から

 

     m√(GM地球) ×Δr1日 / (2√r )  -2π KM地球 R2 Δτ1日 / τ2 =0

 

つまり

 

    Δτ1日 =m τ2 / (4π K R2)×√(G / r M地球)×Δr1日

 

となる。1年たつと

 

    Δτ1年 =m τ2 / (4π K R2)×√(G / r M地球)×Δr1年

 

になる。数値を入れてみよう。

 

    K = 0.3444

    R = 6.37×106  m (地球の半径)

    M地球 =5.98×1024  kg (地球の質量)

    m = 7.35×1022  kg  (月の質量)

    r = 3.84×108  m  (地球と月の距離)

    G = 6.67×10-11   m3 / kg s2  万有引力定数)

    τ = 1 日 = 8.64×104  s   (一日の長さ)

    Δr1年 = 3.8×10-2  m (1年あたり、月が地球から離れる距離、3.8 cm)

 

以上から、電卓叩くと

 

    Δτ1 = 2.027×10-5  s ≒ 2.0×10-5 秒 = 20 マイクロ秒

 

地球の自転は、1 年当たり 2.0×10-5  秒 遅くなっているというわけだ。

 

 月と地球の距離が離れると、月の公転周期に影響を与える。詳しい計算をするとよいのだが、ここでは、ケプラーの第三法則、公転周期 T の二乗は軌道の大きさ r の三乗に比例する、という事実を用いて検討しよう。比例定数を a とすると

 

    T2 = a r3     ・・・(7)

 

となっている。r の変化 Δr が、月の公転周期の変化 ΔT を引き起こす。微分したと思うと

 

    2T ΔT = a ×3 r2 Δr

 

になるので、(7)を使って左辺は左辺、右辺は右辺で両辺割り算すると

 

    2 ΔT / T = 3 Δr / r

 

となる。数値をまた入れてみよう。地球と月の距離 r は既に書いた。月の公転周期 T は27.3 日  =  2.36×106 秒、1 年で地球と月は 3.8 cm 離れていくので、単純に考えると 10 万年では Δr10万年 = 3.8 km 離れるというわけだ。本当は、r も変わるので、逐一計算しないといけないのでこの限りではないが、まぁ、ここは単純化して一定の割合で離れていくとしておこう。こうして、10 万年あたり、月の公転周期の伸び ΔT は

 

    ΔT 10万年 = ( 3 / 2 )×(T / r )×Δr10万年 = 35.03 ≒ 35 秒

 

となる。つまり、10 万年で 35 秒程度公転周期がのびることがわかる。

 

 もし、一定の割合で地球の自転が遅くなり、月が地球から離れているとすると、昔は地球の自転は速く、すなわち一日は短く、月は地球に近い、すなわち夜の満月は今より大きく見えたはずだ。1 年当たり 2.0×10-5 秒 地球の自転が遅くなるということは、100 年で 0.002 秒自転が遅くなるということだ。逆に、10 億年前は

 

    1000000000 ×( 2×105) = 2×104 =5.6時間

 

だけ、地球の自転は速かったはずだから、10 億年前は地球の一日は 18.4 時間だったということになる。地球と月の距離は 3 万 8000 km 今より近かったというわけだ。今は 38 万 4000 km 離れているので、10 億年前は 34 万 6000 km、今の 90 % の距離だったというわけだ。ということで、10 % 余り、月は大きく見えていたはずだ。月の公転周期は10 万年で 35 秒伸びるということは、10 億年前では 350000 秒今より短かかったはずだ。350000 秒 = 97.22 時間 ≒ 4.1 日だから、公転周期は 23.2 日、地球の動きも入れて、だいたい 2 5日おきに満月になっていたというわけだ。

85.単位系の改訂

 第49回で長さの単位の決め方の変遷に触れた。その際、質量の単位の基準がキログラム原器から変更されることに触れた。

 2018 年 11 月 16 日に国際度量衡総会で新しい単位の基準が承認され、2019 年 5 月20 日から施行の運びとなった。

 

 時間と長さの単位の基準については、表現は変わるようだが、基本的には変わっていない。

 

 時間は、“セシウム 133 原子の基底状態の2つの超微細構造の準位間の遷移に対応する放射の周期の 9192631770(91億9263万1770)倍に等しい” という定義であった。要するに超微細構造準位間を遷移する際に放出または吸収される電磁波の振動の回数が9192631770 回起きるのに持続する時間を1秒とする、ということだ。少し条件が厳しくなって、さらに言い換えて、ちょっと勝手にアレンジして書いておくと、

 

『温度が零ケルビンセシウム 133 原子の基底状態の2つの超微細構造の準位間の遷移に対応する放射の周波数が、秒 (s) を単位として 9192631770(91億9263万1770)       s-1(Hz、ヘルツ)と定めることによって秒を定義する』 

 

といった感じになる。正確に引用しているわけではないから注意してね。零ケルビンって、絶対零度には到達しないから、黒体輻射分は考慮してね、ということなんだろうなぁ。ここで、温度の定義を決めないといけないが、それはあとで。

 

 時間が決まったので、「光速度不変の原理」により真空中では一定である光の速さを用いて“光が真空中を 299792458分の1(2億9979万2458分の1)秒かけて移動する距離” を 1 メートルと定義するのであった。これを言い換えて、

 

『真空中の光の速さが299792458 m/s となる長さの単位をメートル (m) とする。』

 

といった感じに表現されるようだ。

 

 さて、ここから。

 

 質量はキログラム原器の質量を1キログラムと定義しているのであった。これを物理定数を用いて定義しなおすことになる。第 8 回でも現れた物理定数、プランク定数 h を定義値として採用し、質量を定義し直す。秒 (s) とメートル (m) は既に定義されたので、

 

プランク定数 h の値を 6.62607015×10-34  kg m2 / s と定めることによって質量の単位、キログラム (kg) を定義する。』

 

 第 49 回では電磁気学に出てくる単位には触れなかったが、従来は電流の単位を先に決めていた。今回の改訂では、電荷の単位の定義を先に済ませることで、電流が決まることになった。したがって、基本は電荷。今度は物理定数である電気素量が定義値として採用される。

 

『電気素量 e の値を 1.602176634×10-19  C (クーロン)として電荷の単位クーロン (C) を定義する。1 秒間に 1 クーロンの電荷を運ぶ電流が1 アンペア(A)となる』

 

というわけだ。

 

 さっき、温度が出てきた。温度の定義も変更される。現在は、“水の三重点の熱力学温度の 273.16 分の 1 を 1 ケルビン(K)と定める”となっている。水の三重点とは氷と液体の水と水蒸気が共存する圧力、温度のこと。これは圧力-温度でグラフを書いたときに、1点になる。この定義を、物理定数であるボルツマン定数を定義値として採用することで変更する。ボルツマン定数は第 10 回なんかで現れている。エネルギーと温度をつなぐ定数だ。

 

ボルツマン定数の値を 1.380649×10-23 kg m2 / (s2 K) と定めることによって温度の単位、ケルビン (K) を定義する』

 

ということになった。

 

 授業で単位の話をすると、決まって、「なぜ、そんな中途半端な数字を持ってくるのか(例えば時間の定義で、9192631770 回の継続時間では無くて 9000000000 回で良いではないか。光が真空中を 300000000 分の 1 秒進む距離を 1 メートルとしたらよいではないか)。」といった質問が来る。でもね、そんなに切りのいい数字を使ったら、これまで慣れ親しんだ時間や長さと、狂ってくるよ。1秒が、今使っている時間で言うと0.979 秒になったり、おまけに 1 メートルが、今使っている 97.8 センチメートルになったり・・・。

 

 というわけで、質量も、定義値としてのプランク定数をあのように取ると、今使っている 1 kg が極めて高い精度で再現されているというわけだ。

 

 知り合いのツイッターを見ていたらリツイートしているものがあった。ある新聞のコラムで、梶井基次郎の小説「檸檬」から、檸檬を手にした主人公が「疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さである」といったことなどを考えるくだりを引用して、今回のキログラム改訂を取り上げ、「物理学の「プランク定数」で記述されるそうだが、直感からは懸け離れている▼時代の要請はよく理解できる。が、物理学の言葉で書かれる新定義に、何ともしれないよそよそしさを感じる。少なくともレモンのあの重さを表現するのには向いていないだろう。2018・11・16」(東京新聞)と結んでいるそうだ。

 「物理学」と聞いただけで「よそよそしい」という反応になったのだろう。

 

 でもね、1 kg を精度よく再定義したのであって、もともとは水 1 リットルの重量を1 kg と定義したことに始まったことには変わりはない。1795 年、10 cm 立方の体積を 1 リットルとし、“大気圧下で氷の融けつつある温度(摂氏零度)での水 1 リットルの質量”を 1 キログラムと定義した。その後、“水が最大密度をとるときの温度での水 1 リットルの質量”と再定義されたが、1799 年にこの質量と同じ質量を持つ“キログラム原器”が造られ、原器の質量が 1 キログラムと定義し直された。1889 年の第一回国際度量衡委員会で、同じ質量に作りなおされたキログラム原器の質量を 1 キログラムと定め、現在に来ている。その定義をさらに精度を高め、原器の重量変化などの問題から自由になる今回の改訂に、“よそよそしさ”は感じられないのだが。日常感覚ではやっぱり水 1 リットルの“重さ”だよ。

 

 それよりも、“レモン”と書かれると、寺町通りの果物屋で買い物をし、丸善で積み上げた画本の頂きにすえ付けた梶井基次郎の“檸檬”のあの香りや重さは感じられないのだが。

 

 でも、まぁ、聖(ひじり)橋から放って各駅停車に噛み砕かすことはできず、聖橋から放ると快速電車の赤い色とすれ違うんだけど。檸檬は。

 

84.太陽が眩しいから

 さだまさし(敬称略)というシンガーソングライターがいる。俳優の菅田将暉さんがさださんの学生時代を演じたドラマを以前に見たことがある。だいぶん雰囲気良い方に寄せてるから演じられたご本人は気分いいだろうなぁ。

 それで、久しぶりにさださんの昔の曲を聴いていると、『転校生(ちょっとピンボケ)』という曲に行き当たった。

 

 なつかしい。

 

 1983年のアルバムに入っているとのことだから、高校3年生の時に聞いた曲だ。

「バスを待つ君の長い髪にBlow in the wind」で始まる。もちろん、「Blow in the wind」は、ボブ・ディランの『風に吹かれて』、Blowin'  in The Windから取っているのだろう。高校3年生の頃にもそのくらいは解っていた。ハロウィーンの日に現れた「君」が恋人に選んだのが「僕」で、うろたえてウィスキーをがぶ飲みして撮った「君」の写真がちょっとピンボケであり、おそらく出会って半年余り後のイースター(復活祭)の後に、「来たときみたいに風のように」帰っていく際に「君」を見送った景色が、ちょっとピンボケ、というストーリーの詩であった。

 

 ついこの間、戦場カメラマンであったロバート・キャパに関する本を立ち読みしていた。『崩れ落ちる兵士』、Falling Soldier、はさすがに知っていた。そのロバート・キャパが、自身の恋愛物語を交えて第2次世界大戦を回想した書のタイトルが、『ちょっとピンぼけ』、Slightly out of focusということを偶然知った。

 

 さださん、やるなぁ。

 

 多くの歌の中にいろいろな引用が隠されているのは楽しい。また、曲名もそのまま何かからとってきたりしていることがある。『檸檬』は梶井基次郎だし、『つゆのあとさき』は永井荷風だし。『魔法使いの弟子』はポール・デュカスのクラシックの曲だし。

 でも、そうやって、さださんの歌から文学なんかに興味が広がったのも事実かもしれない。『あこがれ』という曲では、その歌詩に「あこがれてゆくの ずっとこれからも 心の鐘をひとり打ち鳴らしながら」とあり、たまたま見た若山牧水の短歌、「けふもまた こころの鉦を打ち鳴らし 打ち鳴らしつつ あくがれていく」に行き当たったりした。短歌なんて興味もなかったのに。『飛梅』を聴いて、菅原道真大宰府に流されるとき、自宅屋敷の梅の木に「東風吹かば にほひをこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」という歌を詠み、それを聞いた梅の木は一夜にして大宰府まで飛んでいったという逸話を知った。おまけに、「春な忘れそ」、おう、「・・・な・・・そ」、の係り結びではないか。

 

 勉強になっていたなぁ。

 

 早逝した尾崎豊(敬称略)も中学生時代、さださんの歌をギターで弾き語っていたというから、或る世代の人たちには影響を与えていたのかもしれない。尾崎と私は生年が同じだ。

 

 そんなさださんの曲に、『異邦人』というものがある。漢字で書いておいて、「エトランゼ」と読ませる。フランス語だ。Étranger。詩の中に「過ごしたアパルトマン」「マロニエ通りの奥」「洗濯物の万国旗」というフレーズがあり、中学生の頃は勝手に行ったことも無いフランスをイメージしていた。エトランジェはフランス語であるので間違いではないと思う。しかし、後年、パリ暮らしをしたときには、法律で洗濯物は通りから見えるところに乾すことは禁じられており、通りを挟んでアパルトマン同士で洗濯紐を渡してそこに洗濯物を干して万国旗のように見える、なんていう風景は、フランス・パリでは有り得ないことを知る。

 

 この曲は「太陽がまぶしいから・・・」で終わる。

 

 もちろん、『異邦人』といえば、フランスの作家、アルベール・カミュの小説、『L' Étranger』だ。小説とさださんの詩とでは背景が違うが、曲名はカミュから取ったのだろう。

 

 カミュの『異邦人』では、主人公が殺人を犯し、何故殺人を犯したのかと裁判官に問われたとき、「太陽が眩しかったから」と答える。

 

 カミュ自身は、ナチスドイツに協力する政権であったフランス、ヴィシー政権下で、対独レジスタンス活動をしていた。ヴィシーはこの政権が首都に置いた地名。ペタン元帥が首班。ペタンの部下のシャルル・ド・ゴールはイギリスに逃れ、ロンドンで亡命政権、自由フランスを立て、ヴィシー政権ナチスドイツへの抗戦を呼びかけていた。ヴィシー政権下では、フランス革命以来の「自由 (Liberté)・平等 (Égalité)・博愛 (Fraternité)」は降ろされ、「労働 (Travail)・家族 (Famille)・祖国 (Patrie)」に置き換えられる。

 

 なんか、極東の保守政治家が好んで言いそうなスローガンだ(2018年10月現在)。

 

 カミュが実際にレジスタンス活動中にドイツ軍将校を殺したことがあるのかどうかは知らない。しかし、レジスタンスとして自身がドイツ兵に対する殺人を許すことの論理付けとして、カミュ自身はドイツ兵に殺される可能性がある、だから自身もドイツ兵を殺す権利がある、「自ら死のリスクを冒す用意のある者のみが暴力を免責される」という平等性の論理で自身のレジスタンス活動を正当化したようだ(内田、カミュ研究4号(2000年))。自然権としてのジョン・ロックの「革命権 (right of revolution)」もしくは「抵抗権 (right of resistance)」に通じるように思える。ロックの自然権の考え方はおそらく、フランス革命の思想的基礎だったんだろうから。

 しかし、第2次世界大戦後、対独協力のヴィシー政権が倒れた後、対独協力者の粛清が始まる。ある対独協力者の死刑の前に、助命嘆願書にサインしてくれとカミュは頼まれる。自身の命を賭してレジスタンス活動していたときの敵である。しかし、カミュは逡巡した後、助命嘆願書に署名する。すでに相手は獄中にあり、自分を殺す可能性は無い。相手は自分を傷付ける可能性は無いのに、こちらが傷付けることは、レジスタン活動の時の様な平等性の論理が成り立たない。そこで、粛清には反対する。レジスタンス時のように《・・・固有名をもった個人としてカミュと彼の同志たちに敵対していたとき、カミュはそれを罰する権利を自分に許した》が、《しかし、国権が、この一対一の戦いに介入し、「彼らに代わって」、「社会の名において」制裁を下すというのならば、それを許すことはできない》(内田、カミュ研究4号(2000年))と考えた。

 

 ひるがえって、「美しい国」はどうであろうか。全員が罪に向き合って反省していたのでは無いのかもしれないが、伝え聞くところでは多くが反省していた弟子たち12名の死刑を、2日に分けて行った。しかも、政権は、刑の執行後に事実を公表するのではなく、次はどの死刑囚が執行されるのかといった、まさに今からというタイミングで情報を故意にリークし、劇場型執行、いわば見世物にした。文明国と思っている国の、2018年のことである。

 審議の時間だけを盾に、十分に問題点を議論することもなく、「平和安全法制整備案」として集団的自衛権等、議論の残る法律を可決する。戦争の際には情報統制が必要なので、「特定秘密保護法」を制定する。戦争になれば殺されるのは国民一人一人だ。戦争遂行中に当の戦争で殺される国民の中に行政府、あるいは行政機関の長の面々が入っているかどうかは、太平洋戦争の歴史を学んでみるとよい。

 

 ナチスドイツでヒトラーが権力を握っていたときには、何度もヒトラー暗殺未遂があったようだ。1932年の選挙でナチス党が第1党となり、1933年にヒトラー内閣が成立する。他党の議員を逮捕していくことで、憲法改正に必要な3分の2を確保する。同じ年に全権委任法を成立させ独裁への道を進む。1934年に現職の大統領が亡くなると、大統領の権限もヒトラーが握り、いわゆる総統となる。第1次世界大戦の敗戦後に結んだベルサイユ条約で細かく軍備制限されていた軍備を、1935年に再軍備宣言をして無視し、軍備を増強する。1936年にはベルサイユ条約で非武装地帯とされていたラインラント地方へ進軍する。同じ1936年に、国威発揚のため、ベルリンオリンピック開催。ボイコットされずにオリンピックを成功させるために、オリンピック開催へむけて、開催期間前後だけ、ユダヤ人迫害政策を緩め、ヒトラー自身は有色人種差別発言を控える。1939年にポーランド侵攻。第2次世界大戦勃発。その後の狂気は記すまでもない。

 このような動きの中で、1938年には陸軍によるヒトラー暗殺・クーデター未遂が起きる。個人による暗殺未遂も起きる。しかし、ヒトラーは悪運強く、倒されなかった。政権末期の軍によるクーデター計画も失敗している。その時、1944年7月20日の軍によるヒトラー暗殺・クーデター未遂に関与したとして、レジスタンス活動を行っていた一人、エルヴィン・プランク (Erwin Planck) が逮捕され、10月23日の人民法廷で死刑宣告を受け、翌1945年1月23日に処刑されている。ヒトラーが追い詰められて自殺する4月30日から遡る事100日足らず前のことだ。エルヴィン・プランクは、8回、9回、12回なんかで触れたノーベル賞受賞の物理学者、マックス・プランクの次男。(やっと物理に関連する話題になった。かなりピンボケの、『「物理」備忘録』。)

 

 ヒトラー再軍備をし、戦争を仕掛け、結局、第2次世界大戦に敗れる。

 

 戦争がしたければ、「遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ。やぁやぁ我こそは・・・」と名乗りをしてから一騎打ちをして終わらせたら良いのに。

 50 歳過ぎた人間に対して「まだ若いから」で済ませられる脂の乗りきった年齢の大人たちなら一騎打ちの体力くらいはあるだろうに。

83.対数表

 授業のレポートで、数値を求めさせる問題を出した。すると、「ルートの計算ができない」と書かれていて、有効数字とか関係のない答案があった。たとえば、特殊相対性理論ローレンツ因子 √(1- v2 / c2 )なんてのがあって、c は光の速さ、v は物体の速さだが、物体が光の速さの 99.5%で進んでいるときには、この ローレンツ因子は

√(1-(0.995c / c )2 )= 0.05×√3.99 となって、√3.99 なんかが必要になるのだが、だいたい 2 では答えが出ないので、もう少し精度が必要になる。昔と違って今は関数電卓で一発で答えが出る。関数電卓を持っていないとしてもパソコンは必携で持っているし、スマホはつついているんだろうから、無料アプリで関数電卓もあるし。

 

 そもそも理工学部生なんだから。

 

 電卓の無い時代はどうしていたか?

 

 第 28 回で「対数」の話をした。少し復習。

 たとえば、数字 y を知っていたとき、10 を何回掛けたら y になるか、つまり

 

    y = 10×10×・・・×10 

         ↑ u 個の10

      = 10 u

 

のときのu は

 

    u = log y

 

と書く。log というのは「底が10の常用対数」と呼ばれ、log y というのは、28 回ではlog10  y と書いていたものである。数学は一般化するので、 もはや u を自然数に限らないでおこう。

 

 今、

    10 u×10 v = 10 u+v

 

になっていることはすぐに気づかれるだろう。10 を u 回掛けたものと、10 を v 回掛けたものをさらに掛け合わせると、結局 10 が u+v 回掛けられているということだから。

 そうすると、

 

    y = 10 u ,    z=10 v

 

としておくと、対数を使って

 

    u = log y  ,    v = log z  ・・・(1)

 

だ。一方、

 

    x = y × z = 10 u+v  ・・・(2)

 

とすると、対数を使って

 

   u + v = log x   ・・・(3)

 

だから、(1)、(2)と(3)から結局

 

    log x = u + v = log y + log z

 

つまり、

 

    x = y × z なので  log (y × z) = log y + log z   ・・・(0)

 

となる。対数を考えれば、掛け算は足し算になる。

 

 ということで、a を b 回掛けた数を c とすると、

 

    log c = log ab = log (a × a ×・・・× a)

                ↑ b 個

      = log a + log a +・・・+ log a

           ↑ b 個

      = b×log a

      = b log a

 

となる。最後の行では掛け算記号を省略した。

 

 やっぱり数学は一般化するので、b は整数に限らない。たとえば

 

    log √3 = log 3 1/2  = ( 1/2 ) × log 3

 

のようになる。

 

 私が学生の頃には、数値を扱う物理実験などでは、その実験の手引書には三角関数表とともに常用対数表が載せられていた。こんな感じ。

f:id:uchu_kenbutsu:20180908133348j:plain

(改訂新版 物理学実験(吉川泰三編) 学術図書出版 (1985年3月 第4刷)より)

 

 なぜか?

 

 ルートを開いて小数表示することを考える。もちろん、小数点以下が延々と続くことの方が多いので、適当な精度で留めておく。以下では 4 桁の対数表を使うので小数点以下 4 桁までで求めよう。さきほどの √3.99 を、小数点以下 4 桁の精度で考えてみる。ということで、計算の途中では小数点以下 5 桁まで考えて、最後に 5 桁目を四捨五入しよう。

 求めるべきは

 

    y = √3.99 = 3.99 1/2

  

 まず、対数をとる。そうすると

 

    log y = log 3.99 1/2 = (1/2) × log 3.99   ・・・(4)

 

そこで、対数表で 3.99 を探す。見にくいので拡大したものを。

   f:id:uchu_kenbutsu:20180908133459j:plain

 左端の列は、たとえば 39 だと、3.9 と読み替える。一番上、または一番下の行の数字は小数点以下 2 桁目と読む。3.99 の対数 log 3.99 が欲しければ左の列の 39 の所を右に辿り、右から 2 番目の 9 の列の数字を見る。6010 とある。これは小数点以下の数字と読み替え、0.6010 となる。こうして、

 

    log 3.99 = 0.6010

 

であることがわかる。現代の利器である関数電卓で確かめると

 

   log 3.99 = 0.6009728957・・・

 

と出た。小数点以下 5 桁目を四捨五入したものが 0.6010 だ。こうして(4)は

 

    log y = log 3.99 1/2 = (1/2) × log 3.99 = (1/2) × 0.6010 = 0.3005

 

と得られる。今度は対数表で 0.3005 になるところを探す。じっと探すと、1.99 の対数が 0.2989、2.00 の対数が 0.3010 であることが読み取れる。欲しい 0.3005 がないので、本当はそうではないのだが、1.99 の対数と 2.00 の対数は比例関係にあると近似してしまい、0.3005 になる対数を探す。本当は直線ではないのに直線だとしてしまうところで、小数点以下 4 桁目に狂いが入る。だから有効数字としては 4 桁と思って、4 桁目には誤差があると考えておこう。4 桁の精度で考えてみようと言った所以である。対数の関係が下の図のようになっていると考える。

 

                     f:id:uchu_kenbutsu:20180910091651j:plain

 

対数が 0.3005 になる 1.99 と 2.00 の間の数 1.99 + x を求めよう。図の直線の傾きは

 

    ( 0.3010 - 0.2989 ) / ( 2.00 - 1.99 ) = 0.21

 

なので、

 

    0.3005 = 0.2989 + 0.21 x ,  よって   x = 0.00761・・・

 

と得られるので、対数が 0.3005 になる数 y 、つまり log y = 0.3005 になる数 y は

 

    y = 1.99 + x = 1.99 + 0.00761・・・= 1.99761・・・   (5)

 

と得られる。こうして、欲しかった y、すなわち、y = 3.99 1/2 が(5)で求まった。

 

    log y = log √3.99 = 0.3005

  すなわち

    y ( = √3.99 ) = 1.99761・・・ ≒ 1.9976   ・・・(6)

 

だ。

 関数電卓で再びチェック。√3.99 = 1.99749・・・と出る。小数点以下 4 桁目に若干狂いが生じるが、まぁ最初の狙い通りで、これで良いだろう。1.99762 = 3.9904 になるので、まぁまぁだ。

 

 3.99 のルートというのは、あまり良い例ではなかった。というのは

 

    3.99 1/2 = ( 4-0.01 )1/2 = 2×( 1-0.01 / 4 )1/2 = 2×( 1-(1/2)×( 0.01 / 4 ) +・・・)

 

と精度よくテーラー展開で求められてしまうからだ。最右辺を計算すると 1.9975 となる。

 

 ほかにも、r の平方根、√r ( = r 1/2 ) をもとめるには、

 

    a' = ( a + r / a ) / 2

 

として、r の平方根に近い数字をまず探し、それを a として左辺の a' を求め、次に a' を改めて a と思って右辺に代入し、この操作を繰り返していっても良い。数列で書けば

 

    an+1 = ( an + r / an ) / 2

 

でn → ∞ として、an = an+1 = a とすると上の式は

 

    a =  ( a + r / a ) / 2

 

となって、これを a について解くと a2 = r が得られるので、a = r1/2 になる。r = 3.99 だと、その平方根に近いのはおそらく 2 だろうと見当がつくので、a=2 として a' を求めてみる。すると

 

    a' = ( 2 + 3.99 /2 ) / 2 = 1.9975

 

となる。1.9975を 改めて a と思って、また a' を求めると

 

    a' = (1.9975 + 3.99 / 1.9975 ) /2 = 1.997498436・・・

 

次にまた a' を求めると

 

    a' = ( 1.997498436 + 3.99 / 1.997498436 ) / 2 = 1.997498436・・・

 

で、この桁まで  √3.99 の精確な値に一致している。

 

 挙げた例が、他の計算法でも容易に求まる例になっていたのであまり良くなかったが、とにかく、対数表があれば、こんな風に根号を小数表示できる。

 

 3 乗根でも同じで

 

    log 3.99 1/3 = (1/3) × log 3.99

 

になるので、同じような手順で求まる。答えを知っている数でやってみよう。27 の 3 乗根は 3 だ。33 = 3×3×3=27 だから。でも、答えを知らないとして対数表を使って求めてみよう。

 

    y = 27 1/3  

 

よって  

 

    log y = log 27 1/3 = ( 1/3 ) × log ( 2.7×10 ) = ( 1/3) × (log 2.7 + log 10 )

 

になる。ここで、積の対数は、対数の和になるという規則(0)を使った。log 10 = 1である。だって、10 = 101 だから、10 の肩の数は 1 だ。対数表で log 2.7 を探す。左の列の 27、横の行の 0 のところ、4314、つまり

 

    log 2.7 = 0.4314

 

だ。こうして、

 

    log y = log 27 1/3 = ( 1/3) × (log 2.7 + log 10 ) = ( 1/3 ) × 1.4314 = 0.4771

 

だ。またまた対数表で 0.4771 になるところを探す。0. は書いてないので、4771 を探すことになる。

 

 あった。左の列で 30、横の行で 0 のところの数値がまさに 4771。つまり、3.00 ということだ。

 こうして、

 

    log 271/3 = 3.00

 

と、正しく得られた。

 

 私が物理学実験を取っていた大学 1 年生時代の実験の手引書には対数表が載っていたが、その 10 年後、大学で教える側になって物理学実験を受け持った時に使った実験の手引書には、もはや三角関数表も対数表も載っていなかった。安価に関数電卓が手に入る時代になっていた。

 

 今や、スマホの無料アプリだ。

82.天の川銀河の星の数

 地球は太陽の周りを回っている。地球はほぼ円軌道で太陽の周りを回るので、地球と太陽までの距離 RE、およそ 1 億 5 千万キロメートルを半径とした円周を、1 年、365 日かけて 1 周する。ということは、1秒あたりの速さ vとして、(速さ)×(時間)=(動いた距離)から 

 

  vE  × 60 秒 × 60 分 × 24 時間 × 365.25 日=2π RE

 

となって、地球の速さ vが計算できる。vとしておよそ、30 km / s 、秒速 30 km という値が得られる。結構速い。

 

 では、太陽は静止しているのか? 天文学の観測では、私達の天の川銀河の半径はおよそ 5 万光年あり、太陽は中心から 2 万 5 千光年あたりに位置し、天の川銀河もろとも回転している。1 光年はだいたい 9.47×1012 km。太陽の速さ vは秒速 220 km 、vS = 220 km / s だそうだ。ということは、太陽は X 年で天の川銀河を 1 周するとして、天の川銀河の中心から太陽までの距離を RS = 2 万 5 千光年 = 2.37×1017 kmとして

 

  vS × 60 秒 × 60 分 × 24 時間 × 365.25 日 × X 年=2π RS

 

から、vS と RS の数値を入れて計算すると

 

  X = 2.14×108  ≒ 2 億 1 千万年

 

となる。およそ 2 億 1 千万年ごとに 1 周している。地球は生まれてから 46 億年経っているので、地球は太陽とともに私達の天の川銀河をだいたい 20 回くらい回っているという勘定になる。細かい数値がいい加減なので、あくまで大体。

 

 第 5 回のところで、惑星が太陽の周りを回っていられるのは万有引力のおかげであり、ニュートンの運動法則から、太陽の方向に向く向心加速度が生じることを見た。万有引力定数を G として、太陽の質量を MS 、地球の質量を ME 、地球と太陽までの距離 RE地球の速さ vとして、

 

  G MS ME / RE2 = ME vE2 / RE  ・・・(1)

 

が成り立つ。

 

 太陽は、太陽より内側にある天の川銀河の星々からの万有引力を受けて、天の川銀河を回っている。太陽に影響を及ぼす、天の川銀河の中心から距離 2 万 5 千光年内にある星々の全質量を M とし、天の川銀河の中心から太陽までの距離を RS太陽の速さを vS として、

 

   G M MS / RS2 = MS vS2 / RS   ・・・(2)

 

が成り立っているはずだ。(1)と(2)の比をとって、ちょっと整理すると

 

   M / MS = ( vS2 / vE2 ) × (RS / RE )

 

が得られる。右辺に今まで出てきた数値を入れると

 

   M / MS = 8.5 × 1010 ≒ 1011

 

となる。ということは、太陽の質量の 1011 倍の質量が、太陽より内側の天の川銀河にはあるということだ。全部太陽と同じ重さの星としたら、太陽と同じ恒星が 1011 個あるということだ。1000 億個!!

 

 太陽は天の川銀河の半径 5 万光年の半分、2 万 5 千光年のところにあるというのだから、1000 億個の恒星は天の川銀河を円盤として、面積 1/4 のところにあるということだ。ということは、太陽より外側にある恒星は、内側の 3 倍、3000 億個あるというわけだ。あわせて 4000 億個。

 いや、天の川銀河は中心部に星が集まっていて、外側は、腕のような構造があって、一様に星が分布しているわけではない。ちょっと間引きして考えて、天の川銀河には3000 億個くらいの恒星があるだろうと見積もれる。

 

 大きな数なので、甲子園球場何杯分とか言ってくれないと、ピンとこない。

 

 甲子園球場はドームが無いので、容積がわかりにくい。夏になると、今年のビールの消費量は甲子園球場〇杯分とか聞くが、あれは摺り切り入れてのことなんだろうか。

 東京ドームは屋根があるので、容積が記されている。124 万立方メートル、1.24 × 106 m3 だそうだ。甲子園球場の面積は東京ドームの面積の 80 % だそうなので、そのまま体積になおすと、0.83/2  = 0.715、およそ 72 % と見ておこう。甲子園球場に野球のボールを詰めてみよう。屋根が無いので、てんこ盛りに積み上げる。野球のボールは半径3.66 cm くらいの球なので、その体積は 4πr3 / 3 だから、およそ 205 cm3 =2.05 × 10-4 m3 といったところだ。球を積み上げていくと必ず隙間ができる。もっとも上手く入れて行っても、全体積の 74 % くらいしか使えない。ケプラーの細密充填問題で、充填率は π/ √18 ≒0.74 になる。

 こうして準備が整った。野球のボールを甲子園球場に入れて積み上げると、何個入るか?

(東京ドームの体積 × 72 %) × (細密充填率) / (野球のボールの体積)で、甲子園球場(東京ドームの体積 × 72%) の容積に入る野球のボールの個数がわかる。ただし、外から見たら甲子園球場には屋根が無いので、ボールはてんこ盛りになっているが。

 

   1.24 × 106 × 0.715 × 0.740  / (2.05 × 10-4 ) = 3.2 × 10

 

およそ、30 億個だ。

 

 ということは、天の川銀河にある恒星の個数、3000 億個は、野球のボールに換算して甲子園球場 100 杯分だ。

 

 多いなぁ。

 

 8 月 17 日は、2018 年の七夕、旧暦 7 月 7 日。織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)は天の川を挟んでいる。

 

 

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         Wikipedia より、天の川銀河想像図