5.太陽の重さ

 しばらく、県立短期大学で「自然科学」という講義を非常勤講師という肩書きで持たせて頂いていた。さすが、high intelligent な県である。夜間の短期大学を県立で持っていた。授業は毎日18時から始まる。1限目は18時から19時30分まで、2限目は19時40分から21時10分まで。サークルもあって、2限目の後にテニスコートでテニスをしていたり、体育館から歓声が聞こえたりしていた。

 

 さすが、high intelligence。

 

 昼間はお仕事をしていて、夜に学びに来ている。なんか、昼間の大学生とちょっと違う。もう、仕事をリタイアしている人生の大先輩から、現に今お仕事を持っていて向学心から勉強に来ている同世代前後の方たち、あるいは、もうちょっと若い人たち。世代を超えて大学に来ている。とにかく吸収しようとしておられるので、いつも厳しい。

 

 2限目に担当した。毎週、講義後に質問を募ったら、現役、お店を持っておられるラーメン屋さん店主から、「最近、アルミの鍋に代えたら、突然お湯が沸騰して、危険な目にあったりしゆうが、なんで?」とか、お姉さまから「新聞で毎日、月齢見ちゅうけんど、15夜より16夜のほうが真ん丸のときがあるが。どいてなが」とか質問される。楽しいったらありゃしない。これぞ学問。翌週答えることにして、その1週間で調べる。

 そんな暮らしを数年続けた。あいにく、講義は大学の都合で終了してしまった。

 

「自然科学」の授業の中で、「地球の重さ」が概算できることを示したので、次は太陽の重さを概算する課題をだしてみる。

 

 太陽は重いだろうから、太陽系の真ん中で動かず、その周りを地球が等速円運動していると考える。実際は楕円軌道だけど、円は楕円の特別な場合にすぎないので、円としても考え方に間違いは無かろう。円運動だと、地球は一定の速さで動いているとしてよい。それで「等速円運動」。

 

 地球と太陽の距離 r [m] は1億5000万キロメートルとわかっているとする。r=1.50×1011 m(メートル)。地球が太陽の周りを1周するのにかかる時間、公転周期 T [s] は1年。T=3.16×107 s(秒)。地球の速さはいつも等しく、v [m/s] とする。でも、速さの向きは変わっていくので、向きまで含めた速さ、つまり「速度」は変化している。向きが変わってるから。だから、「加速度」は、在る。

 

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 図の左のように地球が太陽の周りをまわっているとする。はじめの時刻t=0 で速度v[m/s] は上向きでv= v(t=0)。この速度は大きさはいつも同じでも、向きを変える。時刻t=T/4 で、地球は4分の1周動き、速度は左向き。時刻t=T/2 で地球は半周動き、速度は下向き。時刻t=T で1周まわって元に戻る。速さを半径にして、「速度」の矢印を描いたのが図の右側。地球が太陽の周りを1周している間に、速度は向きを1周変える。速度の変化が加速度だったので、左の図から

 

  加速度 = 速度の変化 = 2πv / T    (1式)

 

となる。だって、速度はぐるっと1周、半径 v の円周分変わっているから、2×3.14×v。速度の変化に要した時間は、ぐるっと1周、公転周期 T。加速度は、(速度の変化分)÷(それにかかった時間)。

 

 地球の速さ v も計算できる。(速さ)×(時間)=(動いた距離)だから、速さ v でTの時間動くと、太陽のまわり1周するのだから、

 

  v×T = 2πr     つまり   T = 2πr / v   または  v = 2πr / T

 

これを(1式)に代入したら、加速度は

 

  加速度= v2 / r       (2式)

     = (2π)2 r / T2

 

と得られる。ここで、ニュートン運動方程式、(質量)×(加速度)=(力)と、万有引力の法則、(万有引力)=G×(太陽の質量)×(地球の質量)÷(太陽と地球の距離の2乗)を使おう。太陽の質量をM [kg]、地球の質量を M [kg]とすると

 

  (質量)×(加速度)=M×(2π)2 r / T2 = G MM / r2=(万有引力

 

つまり、太陽の質量は

 

  M = ((2π)2 / G)×(r3 / T2 )

 

と書けてしまう。さぁ、数値の代入。G = 6.67×10-11 m3/kg s2 、r=1.50×1011 m、T=3.16×107 s。全部入れて電卓叩くと

 

  M = 2.0 ×1030 kg (=200穣(じょう)キログラム)

 

となる。1穣は1000𥝱(じょ)の10倍、1𥝱は1000垓(がい)の10倍、1垓は1000京(けい)の10倍、1京は1000兆の10倍、(以下続く)。

 

 地球の質量は6.0×1024 kg と見積もれていたので、ざっと30万倍。

 

 ちなみに(2式)を見ておこう。これは「等速円運動」の加速度。加速度の向きはいつも中心を向いている。速度の矢印が変化していく方向は、物体(ここでは地球)からみていつも物体が動く円の中心を向いているのが、右の図と左の図を見比べると見えてくる(はず)。

 自動車がカーブに差しかかったと想像してみよう。カーブを円の一部と思って、その半径が r [m]。自動車は速さ v [m/s] でカーブを曲がる。自動車と同乗者の重さ併せて m [kg] とすると、車に働く(力)は、(質量)×(加速度)で

 

  (力)=m v2 / r

 

この力で車がカーブの外に吹っ飛んでいかないようになっている。では、この力はどこから来るのか? それは、タイヤと道路の摩擦力。働く摩擦力には限界があるので、カーブがきつく(r が小さく)、速度が速い(v が大きい)ときには、摩擦力の限界を超えて、耐えられなくなってコースアウトするという寸法。速さは2乗で効いてくるので2倍の速さでは4倍の摩擦力が必要なので、耐えきれなくなりやすいということだ。

 まぁ、これは自動車学校に行けば講習で習う話。