35.小学生の算数から考える

 小学6年生の算数の問題集を子供がしていたとき、面白い問題がちらっと見えた。ちょっと改竄して、大人向けに、こんな感じ。

 

 「三角形があって、各頂点から半径( aとしよう)が等しい扇型を描く。3つの扇型を合わせた面積はいくらか(図1(a))」

 

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 三角形の内角の和は180 度。半径の等しい円弧を 3 つまとめると、図1(b) のように、円の半分になるはずだ。だって、それぞれの角を足すと180 度になるのだから。だから面積は

 

   (半径)×(半径)×3.14 ÷2 = π a/ 2

 

となる。小学生の問題だから、半径が具体的に 1 ㎝ とか書かれていて、かつ円周率は3.14。しかし、三角形の角度は書いてないので、三角形の内角の和が 180 度であることに気づかないと解けない。なかなか、うまい問題を作るなぁと思った。

 三角形と言えば、円を書いて、円の直径(ACとしよう)を 1 辺とし、円周上にA、C以外の点Bをとって三角形ABCを作ると、これは直角三角形になる(図2(a))。角ABCが直角。

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 証明は簡単で、円の中心Oと、点Bを結ぶ補助線を引けばよい(図2(b))。長さOAとOBは、ともに円の半径だから等しい。ということで、三角形OABは二等辺三角形だ。だから、底角OABとOBAは等しい。

 

    角OAB =角OBA ・・・(1)

 

同様にして、長さOCとOBはともに円の半径だから等しい。よって三角形OBCも二等辺三角形。だから、底角OBCとOCBは等しい。

 

    角OCB = 角OBC ・・・(2)

 

(1)と(2)の辺々足すと

 

   角OAB + 角OCB = 角OBA + 角OBC

 

右辺は角ABCのことだ。だから

 

   角OAB + 角OCB = 角ABC ・・・(3)

 

また辺々足すと、右辺と左辺を入れ替えておくと

 

   2×角ABC = 2×(角OAB + 角OCB)

          = (角OAB + 角OCB) + 角ABC

 

となる。右辺の 1 行目から 2 行目へは、1つの(角OAB + 角OCB)を、(3)を使って角ABCとした。でも、右辺 2 行目は三角形ABCの内角の和を表しているから180 度、2直角だ。だから

 

    2×角ABC = 2直角

 

こうして、角ABCは直角、つまり三角形ABCは直角三角形であることがわかった。

 

 これは、「タレスの定理」というらしい。タレスと言えば、紀元前600年前後のギリシャの哲学者にして、記録に残る最初の哲学者。だいたい哲学の授業はタレスから始まる。

 

 始まると言えば、医学はおそらくヒポクラテスから始まるのだろう。ヒポクラテスは紀元前400年前後頃のギリシャの医学者で、迷信やら呪術やらから医術を独立させた。中でも有名なのは「ヒポクラテスの誓い」であろう。医術者の倫理を述べている。Wikipediaから引用させてもらう。

『 医の神アポロンアスクレーピオスヒギエイアパナケイア、及び全ての神々よ。私自身の能力と判断に従って、この誓約を守ることを誓う。

  • この医術を教えてくれた師を実の親のように敬い、自らの財産を分け与えて、必要ある時には助ける。
  • 師の子孫を自身の兄弟のように見て、彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える。
  • 著作講義その他あらゆる方法で、医術の知識を師や自らの息子、また、医の規則に則って誓約で結ばれている弟子達に分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
  • 自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
  • 依頼されても人を殺すを与えない。
  • 同様に婦人を流産させる道具を与えない。
  • 生涯を純粋神聖を貫き、医術を行う。
  • どんな家を訪れる時もそこの自由人奴隷の相違を問わず、不正を犯すことなく、医術を行う。
  • 医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守する。

この誓いを守り続ける限り、私は人生と医術とを享受し、全ての人から尊敬されるであろう! しかし、万が一、この誓いを破る時、私はその反対の運命を賜るだろう。』

 

 医術と言えば、息子がけがをしたとき、骨折だといけないので近所のスポーツ診療みたいな外科に行ったら、結構うんちくを垂れられたことがある。治療法など、あぁだこぅだとあったが、印象に残ったのは地域の診療所なので、地域の人たちのために在りたい、地域の人たちのために貢献したい、と熱っぽく語っていたことだ。結局骨折もしてなくて、固定もせずにシップみたいなもので治した。今度はサッカーをしていて地面を蹴ってまた、その診療所に行った。前より軽い症状であったが、また来るようにと言われ、前より軽いのになんでそんなに来ないといけないのかの説明がなく、うんちくもたれられず、結局、行かせなかった。だってすぐに治ったんだもの。今度は水泳をしていて、一つのレーンで対向の子とすれ違った時に接触して、足を痛めた。練習が終わってコーチから事情を聴いて、痛がっていたので病院に行くことにした。しかし、練習が終わったのは 7 時半ころで、もうどこの病院も閉まっている。かなり痛がっていたので今度こそ骨折かと思い、その時間に診てくれそうな近くの病院を思い浮かべた。くだんの診療所を思い出した。地域の人のために貢献したいと熱っぽく語っていた医師の言葉を思い出し、すがる気持ちで電話をした。きっとあの医師なら、診療所が閉まってからそんなに時間もたってないので、地域の子供のために診てくれる。

 

 はずだった。

 

 「何時だと思っているんですか。もう診察は終わった時間です!!」とすごい剣幕で言われて電話を切られた。

 

 なにが地域の人のために貢献したい、だ。

 

 医は算術とはよく言ったもので、耳触りの良い格好良い綺麗ごとはしゃぁしゃぁと言うけれど、時間内での金儲けを考えているとしか思えない。

 

 でもまぁ、医者がすべて悪い人というわけではなく、次に電話した病院は、「院長が学会関係の集まりで出かけているので、帰ってきたら診てもらえるように連絡しておくから、とにかく来るように」と言われ、至急赴いた。しばらくすると院長が確かに病院に帰ってきて、息子以外に当然患者は居ないので、すぐに診てもらえた。骨折かもしれないということで、すでにレントゲン技師は帰宅した後だったが、院長自らレントゲンをとって、幸い骨折ではないという診断を貰い、でも痛がっているので固定しておきましょうと言って、これも技師さんが帰っているので自ら固定してくれたことを、付しておこう。

 

 話があらぬ方向へそれた。幾何学の問題だった。前回、三平方の定理を見た。今回、直角三角形が出てきた。そこで、こんな問題が考えられる。先ほど作ったように、円の直径を一辺にもち、円周上に別の頂点を持つ直角三角形ABCを考え、直角を挟む2辺をそれぞれ直径とする半円を三角形の外側に描く(図3)。このとき、色を付した月形が 2 つできるが、その面積の和は、直角三角形ABCの面積に等しい。

 

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 三平方の定理を習った中学生にピッタリの問題。辺ABの長さを a、BCの長さをb、ACの長さを c としておこう。色を付した2つの月形の面積は、辺ABを直径とする半円(半円ABとしよう)の面積と、BCを直径とする半円(半円BCとしよう)の面積と、直角三角形ABCの面積を足したものから、直径をACとする余分な半円(半円ABCとしよう)の面積を引いたものであることが、図を睨んでいるとわかる。

 

    (2つの月形の面積を足したもの)

    =(半円ABの面積)+(半円BCの面積)+(三角形ABCの面積)

      -(半円ABCの面積)

 

円の面積は(半径)×(半径)×(円周率π)、直角三角形の面積は(底辺)×(高さ)÷2だから、長さを睨んで

 

    (2つの月形の面積を足したもの)

    =[(a/2)×(a/2)×π/2]+[(b/2)×(b/2)×π/2]+[a×b / 2]

     -[(c/2)×(c/2)×π/2]

    =( a2 + b2 - c2 )×π / 8 + [a×b / 2]   ・・・(4)

 

となる。共通の因子 π/8 でくくった。ところが、タレスの定理で三角形ABCは直角三角形だから、三平方の定理から、

 

    a2 + b2 = c2

 

がなりたつ。(4)の右辺の第1項、( a2 + b2 - c2 ) × π / 8は、三平方の定理のおかげで零になる。こうして、

 

    (2つの月形の面積を足したもの)= [a×b / 2]

                    = (三角形ABCの面積)

 

が言えた。中学生にうってつけの問題だ。

 

 長い話だったが、最後の定理は「ヒポクラテスの定理」と呼ばれる。ヒポクラテスの誓いのヒポクラテス、ではない。