37. 力と次元

 三角形の面積や、角錐の体積に空間次元が顔を出していることをみた(36回)。それは算数の話だったので、もう少し物理の話題を。

 

 基本的な力を考えてみよう。真っ先に思い浮かぶのは、おそらく重力。「万(よろず)」重さの「有」るものには「引」き合う「力」が働くので、万有引力。質量 m [kg] と M [kg] の2つの物体が、距離 r [m] 離れておかれているときにお互いに働く万有引力の大きさは、それぞれの物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例する。比例定数を G [Nm2 / kg2 ] と書いて、万有引力の大きさ F [N] は

 

    F = G M m / r2    ・・・(1)

 

となる。距離 r2 に反比例している。

 

 なぜ正確に距離の2乗に反比例しているのだろう。こんな風に考えられる。

  

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 簡単のために、まずは空間が1次元、つまり一方向とその反対方向にしか空間が広がっていないとしよう(図1(a))。力の源泉の強さを g としておくと、この力は右に g / 2、左に g / 2 の効力を持って伝わると考えればよい。右も左も特別な方向ではなく同等だから、等しい効力が伝わる。右に伝わる力の効力と、左に伝わる力の効力を足すと、もとの力の源泉 g になっているはずだ。このとき、力の源からの距離によらず、力は一定の効力 g /2 に比例する。つまり、空間が 1 次元しかないとき、力 F は

 

    F = σ’ g / 2   ・・・(2)

 

の形を持つはずだ。ここで、σ’ は何か、係数。

 

 次に、2次元平面(図1(b))。中心の力の源の強さ g は、四方へ伝わり、薄くなる。中心から半径 r のところを考えると、半径 r の円周上にまで伝わった力の効力をすべて寄せ集めて足し上げると、もとの力の源泉 g になっているはずだ。1 次元で考えたことと同じ。半径 r のところで、どれだけ弱くなっているかというと、半径 r の円周の長さは 2 π r [m] だから、

 

    g / ( 2 π r ) 

 

のように、効力は半径 r とともに弱まっているはずだ。なぜなら、すべての円周上での効力を足し合わせると

 

    (薄まった力の効力)×(円周すべて)=(g / (2 π r))×(2 π r )

                      = g

 

となって、確かに力の源泉に戻る。こうして、空間が 2 次元しかなかったら、その 2 次元世界での力の法則は

 

    F = ( k' / (2π)) × (g / r )  

 

のようになる。k' はある比例定数で、g は力の源の強さ、r は力の源からの距離。2次元世界では力は距離に反比例する。作用・反作用の法則まで考えると、力を受ける物体の力の源泉をg' として、k'=k×g' と書いておくと、上に記した2次元世界の力は

 

    F = (k / (2π))× (g g' / r )  ・・・(3)

 

のようになる。

 

 では、空間3次元の私たちの世界(図1(c))。中心の力の源の強さ g は、四方八方へ伝わり、薄くなる。中心から半径 r のところを考えると、半径 r の球面上にまで伝わった力の効力をすべて寄せ集めて足し上げると、もとの力の源泉 g になっているはずだ。2次元で考えたことと同じ。半径 r のところで、どれだけ弱くなっているかというと、半径 r の球面の面積は 4 π r2 [m2] だから、

 

    g / (4 π r2 ) 

 

のように、効力は半径 r とともに弱まっているはずだ。なぜなら、半径 r の球面上での効力をすべて足し合わせると

 

    (薄まった力の効力)×(球面すべて)=(g / 4 π r2 ))×(4 π r2

                      = g

 

となって、確かに力の源泉に戻る。こうして、空間 3 次元の私たちの世界では、力の法則は

 

    F = ( k' / (4π)) × (g / r2 )

 

のようになる。k' はある比例定数で、g は力の源の強さ、r は力の源からの距離。3次元世界では力は距離の 2 乗に反比例する。作用・反作用の法則まで考えると、力を受ける物体の力の源泉を g' として、k'=k×g' と書いておくと、力は

 

    F = (k / (4π))× (g g' / r2 )   ・・・(4)

 

のようになる。

 

 さて、万有引力。力は質量に働くので、「力の源泉 g、g' 」は「質量 M、m」と思えばよい。比例定数 k は k = 4 π Gとして

 

    F = G M m / r2

 

となる。これは(1)の万有引力の法則そのものだ。万有引力の法則が、「距離の 2 乗に反比例」するのは、私たちの空間が 3 次元だからだ。

 

 2 つの電荷をもった物体に働く力は、クーロン力と呼ばれる。たとえば、プラスQ [C] とプラス q [C] の電気量を持った2つの物体が距離 r [m] だけ離れて置かれたとき、それぞれの物体に働く力の大きさ F は

 

    F = 1 / (4πε)× Q q / r2    ・・・(5)

 

となる。これを「クーロンの法則」と呼ぶ。高校でこれを習った時、万有引力の法則に似ていると思った。距離の 2 乗に反比例する力だ。でも、何も説明はなかった。

 いまでも、大学に入学したての学生さんは同じ疑問を持ってきている。ということは、やはり高校時代、なんの説明もされてないのだろう。

 電気力の力の源泉は、電荷 Q や q だ。(4)式で g=Q、g'=q と思えばよい。比例定数 k は k = 1 / ε。そうすると、(4)は(5)になる。やっぱり、私たちの空間が 3 次元だから、力は距離の 2 乗に反比例するわけだ。それくらい、教えてくれたらいいのに。

 

 だんだんわかってきたことは、私たちの空間が 2 次元平面しかないのであれば、力は距離に反比例する、3 次元だったら距離の 2 乗に反比例する。ということは、私たちの空間がもし 4 つの方向に拡がっている 4 次元空間であれば、力は距離の 3 乗に反比例するはずだ。一般的に、空間が n 次元に拡がっていれば、力は距離の ( n - 1 )乗に反比例するということ。

 

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 今度は無限に長い導線を考えて、ここに直線電流 I [A] を流す。図2 だ。そうすると、電流から距離 r [m] 離れたところに磁場 H が、導線を取り囲むように円形にできる。そのときの磁場の強さは

 

    H = I / (2 π r )

 

と高校で習う。空間 3 次元なのに、距離の 2 乗に反比例していない。でも、よく考えてみよう。無限に長い直線電流が流れているので、電流に垂直な面、たとえば面Aも面Bも、全く同等、何も相違はない。ということは、電流の方向に空間をずらしてみても、状況は何も変わっていないということ。実質、空間は電流に垂直な面方向にしか拡がっていないと考えても良い。2 次元世界が実現している。ということは、直線が力の源泉なので、そこから距離 r [m] 離れたところの力の強さは、(3)式の形を持つはずだ。直線状の力の源が、方や I [A]、もう一つが I' [A]であれば、比例定数を μ と書いて

  

    F = μ I I' / (2 π r )

 

と書ける。ただし、単位の長さ(1メートル)あたりの導線に働く力。

 

 クォーク間に働く力は、チューブ状、1 次元方向に絞られている。これは真空の効果なのだが、詳しいことは説明が長くなるので、ここでは省略。とにかく、1 次元的ということは、クォーク間に働く力は(2)式のように距離に依存しない。そこで、改めてσ’×g / 2を定数σと書き直すと

 

    F = σ ( = 定数)

 

である。さて、クォークと反クォークがくっついているとして、この力に抗してクォークを取り出そうとしよう。ぐいっと引っ張ってやれば宜しい。常に力 F に抗して引っ張って、距離 r [m] だけ伸ばしたとする。必要なエネルギーは、

 

    (力)×(移動距離)

 

分だけの「仕事」に等しい。クォークを取り出すには、無限に離してやらないといけないので、必要なエネルギーは

 

    エネルギー = F × ( r → ∞ )  = σ×∞

          = ∞

 

ということで、無限大(∞)のエネルギーが必要になる。こうして、クォークは単独で取り出せないと言われる。