48.光速は、なぜか c
46回、47回と、光の速さの話題が続いた。光速には c という文字を使うことが習わしだが、何故なのだろう。授業では、力は英語で force だから、F と書いて、質量は massだから m と書いて、加速度は acceleration だから a と書いて、ニュートンの第 2 法則は
F = m a
だよね、とか話すが、さて、光速 c。
光速の英語、speed of light のどこにも c が無いぞ? ラテン語で光は lux。ギリシャ語だと φωζ (fos)。ラテン語で速さは volo。英語では velocity なので、速度は v で表すことが多い。困ったぞ。ただ、ラテン語で速さは celeritas というのがあるので、この cかもと思ったが、光はどこへ。光速だと、 celeritas lucis か。
どうやら、19世紀の電磁気学の発展に鍵があるようだ。
静止した2つの荷電粒子(電荷をもった粒子)に働く力は、クーロンの法則として知られている(1785年)。力 F は、2つの粒子の電荷をそれぞれ q、Q とし、2 つの荷電粒子間の距離を r とすると
F = k qQ / r2 ・・・(1)
となる。k は比例定数。
荷電粒子が運動していると、2つの荷電粒子間に働く力は、(1)式に加えて、速度dr/dt、加速度 d2r/dt2 に依存した補正が加わる。ウェーバー (W.Weber, 1804-891)は速度に依存した(1)式の補正項を
-qQ / r2 ×(1 / c2 )×(dr / dt)2
とおいた (k=1とした)。ここに、定数 c が現れた。この c は「定数:constant」の c から採用されたようだ。
ウェーバーはコールラウシュ(R.Kohlrausch, 1809-1858)とともに、2 つの運動する荷電粒子間の力に現れる定数 c の測定実験を行い、
c = 4.39×108 m/s
という値を得ている(1856年)。光速 3.0×108 m/s に近い定数であることに気づいていたらしいが、それ以上は突っ込んでいないようだ。
実は、ウェーバーの補正項に現れる c は光速と関係があった。ウェーバーの c を cw と書いて、本当の光速を c と書くと、両者には
cw = √2× c (cw2 =2 c2 )
の関係があった。光速 c にルート 2 = 1.41421356・・・(一夜(ひとよ)一夜に人見ごろ・・・)を掛けると、4.24×108 m/s となり、近い測定値である。
こうして、√2だけ違ったが、今も光速度にウェーバー・コールラウシュの c が使われているのではないのだろうか。そうであれば、定数、constant の c ということで、光にも速度にも関係ない文字なのだが。
そういえば、研究室に、コールラウシュの Praktische Physik (実験物理学)の和訳本がある。第 3 巻を持っていないのではあるが。もともとの Kohlrausch のPraktische Physik の初版は1870年だ。ウェーバー・コールラウシュと時代が合わないぞと思っていたら、「実験物理学」の著者のコールラウシュは F. Kohlrausch (1840-1910)だった。その父がウェーバーと実験を行ったR. Kohlraussch。