50.スーパーボールの衝突

 スーパーボールなる、子供が喜ぶ小さいボールが売られている。なにがスーパーかというと、良く跳ねること。アスファルトなんかに叩きつけると、勢いよく跳ね返る。昔、子供の時分には値段はそこそこ高かったので一つ二つくらいしか持っていなかったが、今では100円ショップで大きさも色も、とりどりのスーパーボールがいくつも入って100円+消費税で売られている。

 授業で、物体の衝突の問題を扱う際に、面白い実例を見せようと思って、スーパーボールと厚紙で図のようなものを作ったことがある。

 

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 大きい方のスーパーボールに、紙で作った円筒をどうにかして貼っておく。その円筒の中に、できれば円筒にぴったりの別のスーパーボールを入れておく。円筒を持って、自由落下させる。そうすると、全体が床に当たって跳ね返った時に、円筒の中に入れたスーパーボールが勢いよく飛び出してくる。

 実演してから、計算を、と思ったが、実際に落としてみると、かなりの勢いでスーパーボールが飛び出してくることがわかった。しかも、正確にまっすぐに落とさないと、円筒がまっすぐに上を向かず、少し横に向いたら、向いた方向に目がけて中のスーパーボールが結構な速さで飛び出してくるので、飛び出した方向に人が居たら、かなり危ない。安全性が確保できないので、授業で演示するのは断念。

 

 学生さんにしてもらおうとした計算だけ記しておこう。

 

 物体が衝突したら、普通、エネルギーは失われる。熱になったり、音が生じたり。しかし、スーパーボールは良く跳ねるので、エネルギーは失われずに跳ね返ると仮定しよう。言葉で言えば、「完全弾性衝突」だ。2つのスーパーボールの衝突の前後で、運動量と力学的エネルギーは変化しない。これを頼りに考えてみる。

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 図の左端のように2つのスーパーボールは地面に向かって同じ速さで落下してくる。下の大きくて重い方のスーパーボールの質量を m1 [kg]、円筒の中に入っている、上の小さくて軽い方のスーパーボールの質量を m2 [kg] としておこう。下のボールが地面にぶつかって跳ね上がる。エネルギーを失わずに跳ね返って跳ね上がるとしたので、地面に当たる直前の下側のボールの下向きの速さを v [m / s] としておくと、地面に衝突直後は下のボールは上向きに速さ v [m / s] となっている。そこへ、上側の軽いスーパーボールがやってくる。図の真ん中の状況だ。お互い、速さ v [m / s] で正面衝突する。上向きを正の方向とすると、下向きの速さは -v [m/s]とマイナス符号(負号)を付けておけばよい。このとき、2つのスーパーボールの衝突後(右端の図)の運動量は、衝突前(図の真ん中)の運動量と同じである。運動量は、(質量)×(速度)なので、

 

    m1 v - m2 v = m1 v1 + m2 v2    ・・・(1)

 

が満たされる。衝突の前(左辺)と後(右辺)で運動量の総量は変化していないという式だ。また、衝突の前後で物体の位置エネルギーは変化しないので、運動エネルギーだけ考えて、衝突の前後で運動エネルギーが変化しないとすると

 

     m1 v2 / 2 + m2 v2 / 2 = m1 v12 / 2 + m2 v22 / 2  ・・・(2)

 

となる。それぞれの運動エネルギーは、 ( 1 / 2 )×(質量)×(速度の2乗)。(1)式と(2)式を連立方程式として解いて v1 と v2 をもとの速さ v で表すと、

 

    v1 = ( m1 - 3 m2 ) / (m1 + m2 )× v

    v2 = ( 3 m1 - m2 ) / (m1 + m2 )× v  ・・・(3)

 

と得られる。

 

 さて、下側のスーパーボールは上側のスーパーボールより重いとした。そこで、m1 は十分 m2 より大きいとして、得られた(3)式で、m1 に比べて m2 を無視してしまおう。そうすると

 

    v1 ≒ v

    v2 ≒ 3 v  ・・・(3)

 

となることがわかる。速さ v2 は上側のスーパーボールの速さなので、地面に衝突する前の 3 倍の速さを持って跳ね上がることがわかる。

 

 実際にやってみると、本当に勢いよく飛びあがるので、面白いが、危ない。

 

 今はきちんと計算してから、下のボールが上のボールより圧倒的に重いと近似した。ちょっとサボって、下のボールは上のボールより圧倒的に重いので、図の真ん中の状況で、下のボールは上のボールが衝突してきても何ら影響されないとしてみよう。下のボールから見ると、上のボールは相対的に速さ 2v で近づいてくる。衝突後は、速さ 2v で下のボールから遠ざかるだろう。下のボールは衝突後も影響されないとしたので、上向きに速さ v で動いている。このボールに対して上のボールは速さ 2v で上向きに動いているのだから、静止している私達から見ると、上のスーパーボールは上向きに速さ 3v で動いているはずだ。きちんと計算してから近似して得られた(3)の結果と同じだ。

 

 今度は、さらに軽いスーパーボールを載せて 3 段重ねにする。2 段目のスーパーボールの速さ 3 v と 3段目のスーパーボールの速さ -v の速度を持った 2 球の衝突になるが、2 段目のスーパーボールの重さより 3 段目のスーパーボールの重さが圧倒的に軽いとすると、今度は 2 段目のスーパーボールから見て 3 段目のスーパーボールは相対的に速さ 3v - (-v) = 4v で衝突してくる。2 段目のボールは重くて 3 段目のボールが衝突してきても何ら影響されず、相変わらず上向きに 3v の速さで動いているとしよう。3 段目のボールは衝突後、2 段目のボールに対して速さ 4v を維持して上向きに離れていくだろうから、2 段目のボールの上向きの速さ 3v に対して、4v の速さで 3 段目のスーパーボールは上向きに跳んでいく。つまり、静止している私達から見て、3 段目のスーパーボールは近似的に速さ 7v (=4v + 3v )で飛び上がっていくはずということだ。

 

 計算上、スーパーボールをどんどん積み重ねておいてから落とすと、一番上のスーパーボールの速さは相当なものになるはずだ。恐ろしい、危険だ。