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51.原子核のアルファ・クラスター

 水素からはじまって、ヘリウム、リチウムと、原子核に含まれる陽子の個数が増えていくにつれ、特有の元素として元素記号が与えられている。普通の水素原子核は陽子が1つからできていて、元素記号は H。ヘリウム原子核は陽子 2 つと中性子 2 つからできているものが多く、元素記号は He。陽子 2 つ、中性子 1 つからなるヘリウム原子核もあり、これはヘリウム 3(3He)と呼んでいる。普通の奴は、ヘリウム 4(4He)。原子核に含まれる陽子の個数を原子番号と呼び、原子核に含まれる陽子と中性子の個数を足した数を質量数と呼ぶ。質量数を元素記号の左上に記す。元素の種類は原子番号で決まる。

 

 原子核ではヘリウム 4 は極めて安定で、ヘリウム 4 を纏まりとして、原子核を考えることもできる。例えば、安定な炭素 12 の原子核は陽子 6 個と中性子 6 個からなるが、ヘリウム 4 が 3 個からなると考えても良い状態がある。また、安定な酸素 16 の原子核は陽子 8 個と中性子 8 個からできているが、ヘリウム 4 が 4 個からできているとした方が理解できる状態もある。

 

 ヘリウム 4 の原子核は安定なのだが、陽子の個数が一つ増えたリチウム 5(5Li)とか、中性子の数が一つ多いヘリウム 5(5He)は、原子核としては極めて不安定である。そうすると、宇宙ができた直後とか、恒星の内部で、軽い原子核から順々に重い原子核を作ろうとしても、“5”のところで行き詰まる。リチウム 5 とかヘリウム 5 とかができてもすぐに壊れてヘリウ ム 4 と陽子、または中性子に戻ってしまい、ヘリウム 4 より重い原子核ができないことになってしまう。

 

 そこで、ヘリウム4原子核は安定なのだから、これが 2 つぶつかって融合してベリリウム 8(8Be)という原子核になれば良いと考えたくなる。ところが、陽子と中性子をあわせて 8 個持つ原子核もおしなべて不安定である。ベリリウム 8 も、できてもすぐに壊れる。寿命が極めて短い。大学 3 回生のときにグループに分かれて半年かけて行う課題実験で、タンデム・バンデグラフ加速器なるものを使ってベリリウム 8 の寿命と偶奇性を測定する実験というのを行った。結果は、ベリリウム 8 が存在しても寿命は10-22秒程度という結論だった。この世で最も早い光が原子核一つの端から端まで進む時間がおよそ10-23秒程度。相互作用がベリリウム 8 の端から端まで伝わる程度で原子核が壊れてしまうのだから、到底存在するとは言えない。

 

 では、原子核はヘリウム 4 までしかできないのか。私たちは水やらタンパク質でできているが、それらの構成要素としては、原子番号 6 の炭素(C)や、原子番号 8 の酸素(O)が多量に存在している。私たちが存在するのだから、原子核の陽子・中性子の個数の和である“質量数”が5以上の原子核が出来てくれなくては困る。

 

 そこで、フレッド・ホイルという人が、ヘリウム 4 が二つ衝突して極めて短時間だがベリリウム 8 の状態になり、それが壊れて 2 つのヘリウム 4 になる前にもう一つヘリウム 4 が衝突して炭素 12(12C)ができると考え、炭素 12 の原子核にはヘリウム 4 が 3つに対応したえエネルギーのところに共鳴状態があると提唱した。これは「ホイル状態」と名付けられたが、実験的に実際に見つかる。こうして、恒星の中でヘリウム 4 から炭素 12 が作られる道が見つかり、あとはヘリウム 4 を順次くっつけて、酸素16(16O)、ネオン 20(20Ne)、マグネシウム 24(24Mg)、けい素 28(28Si)などなど、重い原子核、つまりは重い元素が合成されていくことが理解された。

 ちなみに、フレッド・ホイルは、ガモフが大爆発で宇宙が出来たと提唱した時、ちょっと蔑ずんで、その大爆発のことを「ビッグ・バン」と呼んだ人だ。

 

 大学院生のとき、炭素 12 は安定なのに、ベリリウム 8 は何で安定でないんだろうと思っていた。あまり正しくはないかもしれないが、炭素 12 もヘリウム 4 が 3 つから出来ていると仮に考えると、簡単な理屈がある。

 

 ヘリウム 4 の原子核、いちいち面倒くさくなってきたので、歴史的な経緯からヘリウム 4 の原子核のことを「アルファ粒子」と呼ぶことにするが、2 つのアルファ粒子に引力が働くと考える。この引力による 2 つのアルファ粒子間の位置エネルギーを-Vとする。マイナス記号を付けたのは引力でエネルギーが得をするから。アルファ粒子の運動エネルギーを T と書くと、アルファ粒子は 2 つあるので、ベリリウム 8 の運動エネルギーは T + T = 2T と、2 倍の T だ。しかし、ベリリウム原子核のことだけを考えるのならば、ベリリウム原子核は静止していると考えた方がよい。これは、ベリリウム原子核の重心運動を分離して、重心運動の運動エネルギーを別に考えるということだ。正確にいうと、2 つのアルファ粒子からなる系を重心運動と相対運動に分けるということ。その上で、重心は静止しているとしたらよい。重心と言ってきたが、正確を期すと、「慣性中心」。ベリリウム 8 原子核の運動エネルギー  2T のうち、T が重心の運動エネルギーになる。こうして、重心運動を除いて、「静止」したベリリウム 8 原子核の全エネルギー(= 運動エネルギー + 位置エネルギー ) は

 

    T + (-V ) =  T - V

 

となる。しかし、ベリリウム 8 の原子核は安定に存在しないので、このエネルギーは正または 0 のはずだ。安定だったら引力で束縛されていて、全体のエネルギーが負になっているはずだから。まぁ、きわめて短時間はベリリウム 8 が存在すると考えて、カツカツ 0 と考えておこう:

 

    T - V ≒ 0   ・・・(1)

 

 では、炭素 12 ではどうだろうか。アルファ粒子が 3 つからなると考えると、3 つのアルファ粒子の運動エネルギーは、T + T + T = 3 T 。ただし、このうち、重心運動の運動エネルギー T を除くと、3 つのアルファ粒子の相対的な運動のエネルギーは、3 T - T = 2 Tとなる。では、アルファ粒子間の位置エネルギーはどうなっているか。3 つのアルファ粒子に、1、2、3と名前を付けると、1-2 間の相互作用の位置エネルギー(-V)と、2-3 間の相互作用の位置エネルギー(-V)と、3-1 間の相互作用の位置エネルギー(-V)と 3 つ出てくるので、(-V)+(-V)+(-V)= -3 V となる。こうして、炭素 12 原子核の全エネルギーは

 

   2 T + (-3 V )= 2 ×( T - V )- V

           ≒ - V

 

となる。ここで、ベリリウム 8 で成り立つ事実(1)式を用いた。こうして、炭素 12原子核の全エネルギーは -V < 0 と負になるので、2 つのアルファ粒子からなるベリリウム 8 原子核は不安定で存在しなくても、3 つのアルファ粒子からなる(と仮定した)炭素 12 原子核は束縛状態として存在することがわかる。

 

 2016 年に、陽子が 113 個ある原子核に名前が付いた。ニホニウム(Nh)と、日本に関係する名称がついた。2004年当時、埼玉和光の理化学研究所にいた森田浩介さん率いるグループが、2004年7月23日に、亜鉛 30 とビスマス 83 の原子核をぶつけて初めて113 番元素を作った。2004年秋、9月27日から30日まで行われた日本物理学会秋季大会の申し込みには間に合わなかったので、急遽追加公演として突っ込んだ。その時、高知大学で行われた物理学会の実行委員をしていたので、学会の何日目か、確か 3 日目だったと思うが、当時、大学で一番収容人数の多い教室であった 210 番教室で行われていたセッションの最後に、追加で森田さんに 113 番元素の発見の講演をして頂いたことを覚えている。113 番元素発見の第一報は高知発であった。その、ニホニウムは 0.002秒でアルファ粒子(α)を 3 個出して壊れる。

 

    278Nh → 266Bh + 3α

 

または、6 個のアルファ粒子を出して壊れる。

 

    278Nh → 254Md + 6α

 

どちらにしても 1000 分の 2 秒の寿命、2×10-3 秒の寿命というのは、ベリリウム 8 に比べてはるかに長い。

 

 日本初の元素の誕生に、ほんの微かに、学会発表の教室のアレンジというだけではあるが関われて、high intelligence の誉れである。