52.集合

 小学生の時、算数の授業に「集合」が取り入れられた。取り入れられて間もない頃だったと思う。「AまたはB」とか「AかつB」とかあって、ベン図なんてものを習った。小学生にも小学校の先生にも、なんで小学生に集合論と思ったことだろう。

 今から考えるに、思いっきり、ニコラ・ブルバキの影響だったんだと思われる。

 

 ニコラ・ブルバキ。フランスの幾人かからなる数学者集団で、数学を基礎から再構成しようとしていたようだ。最も基礎に置いたのが「集合論」だったと思う。大学生になって生協の本屋にブルバキの本がずらりと並んでいた。どうせ読まないだろうが、あまりに壮観なので一寸欲しかったが、物理を専門にするつもりだったので、そこまで手が回らなかった。

 

 「数」をどうやって基礎づけるか。数学者というのは、当たり前のように思えることまで考える人たちだ。大学時代、学科が分かれていなかったので語学の授業で「クラス」のようなものが出来上がっていたのだが、そのおかげで物理だけではなく、化学志望や数学志望の友人などができた。数学志望の友人から、「1」「2」「・・・」と、数の概念を把握するのは実は難しいことなんだと聞かされていた。リンゴが1個、ミカンが1個、人が一人、具体的に違うのに、「1」という共通項があることを理解するのは難しいことだと言っていた。当時は何のことかよくわからなかったが、リンゴが1個、ミカンが1個、人が一人、全部抽象化したときの「1」を、どうやって、リンゴとかの個別、実態に頼らずに「1」を導入するか、ということを、数学の解っていない物理志望のやつに言いたかったのかもしれない。

 

 そこで、どうやら、集合論が必要になるようだ。数学者じゃないし、勉強してないから間違っているかもしれないが。

 

 「りんごが1個ある集合」とか、「人がひとり居る集合」とか考えて、その要素の数が「1」と言ってもダメならしい。要素に個性がある。抽象化されていない。

 

 そこで、「要素が何もない集合」というのを考える。「空集合」だ。記号では∅。具体的に何も入ってないんだから、リンゴでもミカンでも人でもない。具体的でないんだから抽象的だ。「何もない」。そこで、空集合に「0」を対応させる。

 

 次は、1。要素が一つの集合を考えたいが、リンゴとかの具体はダメ。そこで、「空集合を要素に持つ集合」を考える。考えている集合の要素はただ“一つ”。その要素がまた集合で、それが「空集合」。集合の集合を考えるわけだ。集合の要素を中括弧 { }の中に書くと、{}という集合だ。「空集合を要素に持つ(集合の)集合」を考え、これに「1」を対応させる。

 2 はどう定義するか。具体的でない要素を“2つ”持たせる。空集合φと、空集合を要素に持つ集合{}を考え、これらの集合を要素に持つ(集合の)集合を考える。要素を書けば{, {} }ということだ。具体でない抽象的な要素を持つこの集合に「2」を対応させる。

 あとは、同じ。「3」は今まで導入した集合を要素に持つ集合{, {}, { , {} } }を考えて、「3」を定義する。

 

 以下、順々にして、0を含む自然数は定義できる。

 

 数学者というのはややこしいことを考えるものだ。おかげで、小学生から集合を学ぶことになった。