60.球の表面積と体積

 中学生の息子が、宿題か何かで球の表面積や球の体積の問題を解いていた。どうやって球の表面積と体積の式を習ったのか聞いてみたが、ちょうど風邪で学校を休んでいたときだったので、知らないと、のたまう。

 

 知らんままでいいんかい。

 

 積分を知っていれば簡単に求められるが、それは高校に行ってからのこと。中学1年生、初等的にどうやって導出するのだろうか。考えてみる。

 

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 図(a)のように、半径rの半球を考えて、中心面、半球では図の底面から、高さh のところの斜線を付けた円を考える。この円の半径は、三平方の定理(第34回)から、

 

    √(r2 - h2 )

 

になっている。中学1年生では三平方の定理も習ってないだろうが、ここは初等的ということで、最低限使わせてもらおう。義務教育のうちには習うはずだし。三平方の定理から、斜線を付けた円の半径はわかったので、ここでの円の面積ΔS は、パイ掛け半径の二乗、

 

   ΔS = π(√(r2 - h2 ))2 = π(r2 - h2 )

 

となる。半球の体積を求めるには、この面積ΔS の円に微小な高さΔh を持った薄い円板を考えて、積み上げていけば良い。これは第36回で角錐やら円錐やらの体積を考えた際に使った考え方だ。

 

 一方、対応して図(b)を考える。これは半径rの円を底面に持ち、高さがrの円柱から、半径rの円を底面(上面)に持ち、高さrの円錐を切り取った立体だ。この立体の、底面からやはり高さhの所に切り取られずに残っている円環の面積を考えてみよう。図(b)で斜線をつけた部分の面積だ。切り取った部分の円の半径を求めないといけないが、半径rで高さもrなので、真横から見れば直角二等辺三角形だ。そのうち、下から高さhの所で切られているように見える。そこで、高さがhなのだから、切られた円の半径もhとわかる。図(c)をみればわかってもらえると期待する。こうして、(b)で斜線を付けた面積ΔS' は、大きな円の面積から切り取られた円の面積を引き算すればよいので、

 

    ΔS' = πr2 - πh2  = π(r2 - h2 )

となって、半球の底面から同じ高さhのところの円の面積ΔSと同じことがわかる。

 

    ΔS = ΔS'

 

ということは、図(b)の立体は、面積ΔS' (=ΔS) を持つ円盤に高さΔhを持った薄い板を考えて、積み上げていけば作れることになる。でも、(b)で考える薄い板(面積ΔS'、高さΔh)の体積は、どれも(a)で考えた円盤の体積(面積ΔS(=ΔS')、高さh)と同じだ。いつも同じ体積の板を積みあげて両方とも立体を作るのだから、(a)の立体(半球)の体積も、(b)の立体(円柱引く円錐)の体積も同じだ。でも、(b)の立体の体積は円柱の体積と円錐の体積が求まれば計算できる。円錐の体積は、三分の一の謎解きの第36回で見た。こうして

 

    立体(b)の体積 = 円柱の体積 - 円錐の体積

           = πr2 ×r - (1 / 3)×πr2 ×r

           = (2 / 3)×πr2 ×r

           = 立体(a)の体積

 

ということになる。立体(a)は半球だったから、球の体積は半球の体積を2倍して

 

    半径rの球の体積 =  (4/ 3)×πr3

 

と得られる。「3分の4パイアールの3乗」だ。

 

 次は球の表面積。そのために、球の体積を別の方法で考えよう。今度は下の図だ。

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球を、小さな底面積を持つ四角錐に分ける。もちろん三角錐でも円錐でも構わない。四角錐の頂点は球の中心にあるようにする。そうすると、球の体積は、この小さな小さな四角錐の体積を集めたものになるはずだ。小さな四角錐の体積は

 

    小さな四角錐の底面積×高さr ÷ 3

 

だ。これを集めると、高さはいつもrの四角錐なので、集めるべきは底面積だが、全部集めると底面積は球の表面積に一致する。こうして、球の表面積をAとすると

 

    球の体積 = A×高さr ÷ 3

 

になる。これと、先ほど求めた球の体積、3分の4パイアールの3乗と一致させると

 

    A×高さr ÷ 3 =  (4/ 3)×πr3

  整理して

    (1 / 3 )×A×r = (4/ 3)×πr3

 

両辺共通のものを割っておくと、

 

    A = 4πr2

 

が得られる。球の表面積の公式だ。4パイアールの2乗。

 

 一応、球の体積、表面積の公式が、積分を直接使わずに(考え方は使ったが)導出できた。

 

 中学校ではどうやって習うのだろう。教科書を見ておこう。

 

 

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 ところで、半径rの硬い球めがけて、小さな粒を投げ当てることを考えてみよう。この粒が固い球に当たるためには、硬い球を見込む面積

 

    πr2

 

の範囲内に小さな粒が投げ込まれていないといけない。図(d)の状況だ。ここで、小さい粒子が固い球に当たる範囲の面積を、物理学では散乱断面積という。(d)の状況では、散乱断面積σ(ギリシャ文字のシグマで表す)は

 

    σ = πr2

 

となる。なんか当たり前だ。

 ところが、粒子には波の性質が伴うことが知られている。粒子の波動性が顕著に表れるのは、ミクロな世界だ。そこで、ミクロな“粒子”が、半径rの硬い球で散乱される場合を考えてみる。量子力学なるものを使ってきちんと計算するのだが、当てる粒子の速度が遅い場合には、散乱断面積は

 

    σ = 4πr2

 

になる。ただし、粒子の速度があくまでも“遅い”場合。粒子の速度をv、質量をmとすると、粒子に伴う波の波長λとは

 

    λ = h / ( mv )

 

という関係がある。ここでhはプランク定数と呼ばれる量で、6.6×10-34  J・s(ジュール・秒)という小さな値(第8回)。でも、ミクロの世界ではこの小さな量を0として無視できない。速度が遅い(小さい)ということは、波長は長い(大きい)という関係だ。そこで、遅い粒子では波長が長く、硬い球の後ろにも回り込むことができる。図(e)のような状況を想定すればよい。硬い球を舐めるように覆って、粒子は散乱される。だから、“散乱断面積”は、球を見込む面積ではなく、球の表面積になる。

 4πr2 だ。