62.学期初めの暖房

 新学期が始まった。受け持っているある講義の受講生が 200人を超えた。学部改組で新学部と旧学部の学生が混在し、その上カリキュラムを大幅に変えたので、新学部の学生さんの多くには必修指定された。だからこういう結果になる。外は 4 月のさわやかな絶好の良い気候。この気候が1年中続けば良いと思えるのに、教室内はむっとしており、早速窓を開け放った。

 

 人は活動するのにエネルギーを必要としている。じっとしていてもエネルギーは消費されている。そのエネルギーは、最終的に熱として放出されるだろう。座っている 200人の若者は、それだけで熱の発生源になっている。

 

 消費されるエネルギーを体の表面積で割ったものを、代謝率と呼び、これは殆どの人でほぼ一定なんだそうだ。例えば、座っている状態では、1時間 (1 h)当たり、体表面1m2 あたり、50 kcal だそうだ。50 kcal / m2 h。これに体の表面積を掛けた量が、座っているときの 1 時間当たりのエネルギー消費量。体の表面積はどうやって測るのか知らないが、経験的に

   

   体の表面積 = 0.202 × M0.425 × H0.725

 

と得られるそうだ。ここで、M はキログラムで測った体重、H はメートルで測った身長。たとえば、身長 170 cm で体重 60 kg だと、

 

   体の表面積 = 0.202 × 600.425 × 1.70.725  = 1.690 m2

 

と出るので、1 日座っていると

 

   50 kcal /m2 h × 1.690 m2 × 24 h = 2029 kcal

 

だいたい、2000 kcal (キロカロリー)消費するというわけだ。睡眠中の代謝量は35 kcal / m2 h だそうなので、8 時間寝て 16 時間座っているだけで

   50 kcal /m2 h × 1.690 m2 × 16 h + 35 kcal /m2 h × 1.690 m2 × 8 h

         =1825 kcal

 

だいたい、1800 kcal 必要になる。

 

 さて、授業。男の子が多いので、全員170 cm、体重 60 kg として、これが 200人 座っていたとしよう。1 時間当たり 50 kcal /m2 h のエネルギーを消費しているということなので、簡単化して同じだけのエネルギーを熱として放出しているとしてみる。1 秒当たりに換算すると一人当たりの代謝率は

 

    50 kcal /m2 h × ( 1時間 ) / 3600 秒 = 13.8888 cal /m2 s

 

だ。s は秒 (second)。代謝量は表面積を掛けないといけないので、

 

    13.888888 cal /m2 s  × 1.690  m2  = 23.47 cal /s

    23.47 cal/s × 4.18 J/cal = 98.11 J/s

 

ここで、1 cal = 4.18 J と熱量の単位kカロリー(cal)をエネルギーの単位ジュール(J)に直した。第42回で見たことだ。さて、1 秒当たり 1 ジュールのエネルギーというのは新たな単位の呼び名があって、ワット(W)と呼ばれる。ということで、座っている学生さん一人当たり、98.11 J/s、およそ100 W のエネルギーを放出している。100 W の白熱電球が並んで熱を出している様なものだ。200 人居たので、

 

    100 W × 200 = 20 kW

 

要するに、20 kW(キロワット) の暖房器を入れているようなものだ。8 畳用のエアコンで暖房時2.8 kWくらいの出力なので、大体 60 畳、100 m2 用の業務用エアコンを、暖房設定にしてかけている様なものだ。

 

 道理で教室が生暖かい。