66.伝わる

 夏は暑い。

 

 第10回で、気体を考えると、絶対温度は気体分子の運動エネルギーの平均に比例して導入されることを見た。

 

    < mv2 / 2 > = (3/2) kB T

 

ここで、mは分子の質量、vはその速度、<・・・> は平均を取るという操作、kB = 1.38×10-23 J/K はボルツマン定数、Tが絶対温度だ。

 

 熱の伝わり方を考えておこう。

 

 熱の正体は運動エネルギーなだから、温度の高い物体と温度の低い物体が接触していたら、大きな速さ v を持つ温度の高い方の分子が、小さな速さ v しか持たない温度の低い方の分子に衝突して、エネルギーを渡す。すなわち、温度の高い方の分子は速さが少し遅くなり、温度の低い方の分子は速さが少し速くなる。これを繰り返していくうちに、温度の高い方の分子の速さは平均的に遅くなり、温度は下がる。温度の低い方の分子の速さは平均的に速くなり、温度が上がる。こうして熱は伝わっていく。熱の伝わり方のこの方法は、熱伝導と呼ばれている。分子が衝突してエネルギーを与える、あるいは貰うだけで、物質の移動は伴っていない。金属棒の端っこを熱すると、だんだん熱が伝わり、金属棒の別の端っこまで熱が伝わるやつだ。

 

 金属ではなく、液体や気体のような、流動するもので考えてみよう。分子はあちらこちら動き回れる。液体を下から熱してみよう。温度の低い部分では、小さな速さの分子があまり動き回らず固まっているだろうが、温度の高いところでは、大きな速さを持った分子が動きまわっている。結果的に分子一つが占める空間の体積は大きくなり、単位体積当たりの重さ、密度は小さくなるだろう。下から熱したので、下の方の液体の温度は高くなって、分子は動き回り、密度は小さくなる。液体の上の方はまだ冷たいので、密度はまぁまぁ大きい。そうすると、下向きに重力が働いているので、密度の小さな軽くなった部分は上に動き、逆に上方の密度の大きい温度の低い部分は相対的に“重い”ので、下に下がる。要するに、液体を下から熱すると、下の分子は上方へ行き、上の分子は下方へ下がる。こうして、温度の高い方から低い方へ熱が伝わる。これが対流だ。たった今見たように、重力があるから対流は起きるので、無重力下では対流が起きないことがわかる。また、下の方の分子は上へ行き、上の方の分子は下に行くので、熱伝導と異なり、物質の移動を伴う。

 

 今年、2017 年は愛媛県国民体育大会があり、お披露目を兼ねてか、新しい 50 メートルプールで四国中学総合体育大会の水泳競技が行われた。県で 2 位以内という条件をクリアして、子供も四国中学に参加できた。2 位以内で 4 県で 8 コース。国体用の新しいプール、“特設”プールと名乗っているので、どんなに“特設”なのかと思いきや、“仮設”プールであった。なんでも、既存の屋内 50 メートルプールでは水深が足りず、国体基準に満たないので、既存のプールのすぐ北側に仮設プールをこしらえたとのことだった。電光掲示も小さな移動式で、屋外の明るさでは見にくいのなんの。途中のラップタイムなんて全く見えない。まさか、「もちっと、ゆるゆる遣って、おくれんかな、もし」というわけで、電光掲示の設置が遅れているわけでもあるまい。折角立派な屋内プールを持っているのだから、そちらのプールを改修して深さを確保し、大きな電光掲示板も設置して、観客席も増設し、VIP 席を設けて、という風な具合にしなかったのか謎である。せっかっく国体をやるのであるから、良いものを作って、国体終了後は県民に還元すればよいものを。仮設なので屋外プール、観客席にも屋根どころか、ひさしの 1 か所もない。おまけに“仮設”なので観客席自体もお粗末で、足場の上にプラスチックの長椅子が設置されている。参加する際には、我が high intelligence な県では、熱中症対策のためにもテントを用意して観客席に張りましょう、ということになっていたのだが、強度が足りないのでテントの設置も禁止された。日影が作れない。太陽光がじりじり暑い。

 

 太陽からも熱が伝わってくる。これは、熱輻射と呼ばれる方法で伝わってくる。太陽の熱によって基本的に電磁波が放射され、この電磁波によってエネルギーが伝わってきている。地球にやってきた電磁波のエネルギーが、熱エネルギーに変わっている。

 

 こうして、熱伝導、対流、熱輻射の 3 つの方法で熱は伝わる。

 

 真夏の太陽光の下、仮設プールの仮設観客席で声援を送っていたところ、台風 5 号接近の影響で空は一転にわかに掻き曇り、スコールの様な雨が叩きつけた。屋根もひさしも隠れるところの全く無い仮設プールの観客は、みんなずぶ濡れになっていた。雷が鳴ったら中止だったろう。「大きな札へ黒々と湯の中で泳ぐべからずとかいて貼りつけ」ておくわけにもいかんぞな、もし。