71.二十四節気と太陰太陽暦

 「今日は立冬、暦の上では冬」なんていうニュースが毎年秋に流れる。今年もそうだった。日本には、立春立夏、立秋、立冬の「四立(しりゅう)」がある。もちろん、もともとは中国のものだ。夏至冬至春分秋分の「二至二分」は西洋でも意識しているが、四立があるのかは知らない。

 

 二至二分は、太陽の動きを観測していればわかる。そこで、冬至春分の中間を立春春分夏至の中間を立夏夏至秋分の中間を立秋、秋分冬至の中間を立冬と決める。こうして、8つのポイントが決まるが、各ポイント間をさらに3つに分ける。例えば、立春春分の間を3つに分け、立春春分の間に、雨水(うすい)、啓蟄(けいちつ)の2つのポイントを入れ区切る。こうして、1年、たとえば立春から次の立春までを24に区分する。

 

 二十四節気だ。

 

 そうすると、この区分を2つずつ纏めると1年を12に分けることができるので、2区分で「ひと月」とする。

 

 忘れないように書いておこう。

 

呼び名

 

二十四節気

 

1月

睦月(むつき)

立春(りっしゅん)

正月節

雨水(うすい)

正月中

2月

 

如月(きさらぎ)

啓蟄(けいちつ)

二月節

春分(しゅんぶん)

二月中

3月

弥生(やよい)

清明(せいめい)

三月節

穀雨(こくう)

三月中

4月

卯月(うづき)

立夏りっか

四月節

小満(しょうまん)

四月中

5月

皐月(さつき)

芒種(ぼうしゅ)

五月節

夏至(げし)

五月中

6月

水無月(みなづき)

小暑(しょうしょ)

六月節

大暑(たいしょ)

六月中

7月

文月(ふみづき)

立秋(りっしゅう)

七月節

処暑(しょしょ)

七月中

8月

葉月(はづき)

白露(はくろ)

八月節

秋分(しゅうぶん)

八月中

9月

長月(ながつき)

寒露(かんろ)

九月節

霜降(そうこう)

九月中

10月

神無月(かんなづき)

立冬(りっとう)

十月節

小雪(しょうせつ)

十月中

11月

霜月(しもつき)

大雪(たいせつ)

十一月節

冬至(とうじ)

十一月中

12月

師走(しわす)

小寒(しょうかん)

十二月節

大寒(だいかん)

十二月中

 

 1月から3月までは春、4月から6月までは夏、7月から9月までは秋、10月から12月までは冬となり、確かに春、夏、秋、冬の始まりに立春立夏、立秋、立冬が来ている。

 

 しかし、旧暦では「月」はお月様の動きで決めるので、「ひと月」は新月から始まり、15日の夜に満月、すなわち十五夜を迎え、次の新月の前に終る。お月様が地球を一回りするのが29.5日だから、ひと月は29日、または30日である。上の表のように、二十四節気のうち、月の最初の区切りを「節」、あとの区切りを「中」と名付ける。こうして、「中」が入っていることで「月」を決める。たとえば、「正月中」の「雨水」が入っている月は「1月」、「二月中」の「春分」が入っている月は「二月」といった具合である。また、秋分が入る月は「8月」、冬至が入る月は「11月」と決める。

 

 お月様を基本にすると1年だいたい354日になり、そうすると、太陽が1周する1年365日とは、ずれる。したがって、新月から次の新月までに「中」が入らない月がときどき存在してしまう。そこで、「中」が入らない月は「閏月」として余分にひと月を挿入し、その場合には1年が13ヶ月あるようにする。19年で7回閏月が現れる。

 

 これが太陰太陽暦で、月の動きをもとにして暦を決めるが、二十四節気といういわば太陽暦をうまく組み合わせている。なかなか感心する。

 

 「今日は旧暦の何月何日」とカレンダーに書いてあったり、地方局のテレビの天気予報で聞いたりするが、「立冬」はどうして「今日」なのか、説明を寡聞にして聞いたことが無い。旧暦のことなんか、学校で習わないし。雑談がてら、誰かちょっと話してくれたらいいのに。

 

 ここで記した太陰太陽暦は、1844年(弘化元年)から1872年(明治5年)まで使われていた暦で、渋川影佑らが作成した日本製であり、弘化元年が天保15年なので、天保暦と呼ばれる。明治5年以降は現在の太陽暦が使われているので、最後の旧暦だ(なんか変な言い方だが)。

 

 ところで。

 

 2033年には、「中」である秋分が今の暦の9月23日にあたり、秋分の入る月は「8月」とする約束なので旧暦8月とする。次に霜降が今の暦の10月23日にくるので、霜降が入る新月から新月までのお月様の動きによる旧暦ではここは「9月」になる。

 

 ところが。

 

 次の新月から新月までに、小雪(今の暦の11月21日)と冬至(今の暦の12月21日)の二つの「中」が入ってしまう。冬至が入る月は「11月」という約束なので、「10月」が入れられなくなる。

 

 一般社団法人日本カレンダー暦文化振興協会のホームページを見ると、冬至を優先して、冬至の入る月を「11月」、その前月は「10月」、その前月は秋分が入るので本来8月なのだがあきらめて「9月」とし、秋分がはいる前の月は「中」を含まないので本来は閏月で「閏7月」となるのだが、ここを「8月」にして、旧暦を作成することを推奨しているようだ。

 

 1844年に天保暦が作成されて以来、189年目にして初めて浮上した問題だそうだ。色々興味深いことがあるものだ。