94.゛機械学的”方法による求積

 新学期が始まり、いつも2~3週間したら、黄金週間という名の連休が入る。今年、2019年は改元があり、10連休になった。

 

 ずっと以前、大学に着任してまだ 5 年ほど、助手の頃に、共通教育という名の一般教育の授業で、「数学と物理学の進歩」だったか、「物理学の進歩と数学」だったかという名の授業を持つことになった。こういう科目は、ベテランの方が広い教養を活かしてお引き受け頂ければよいのだが、そういう発想がないのか、ようやらんのか、何故か私に回ってきた。

 そこで、ネタ作りで、いろいろ調べた。もちろん、ニュートン力学微積分や、一般相対論とリーマン幾何は話そうと思ったが、それだけだと話が広がらないので、沢山の本を読んだりして知識を集める。自分で講義ノートを作って板書しただけなので、すでに 20 年近くたってしまって講義ノートが散逸気味だ。そこで、残っている講義ノートをもとに備忘しておこう。

 

 ニュートンライプニッツ積分に行く前に、古来からの求積法を調べる。

 そこで出くわしたものの一つが、アルキメデスの「方法」に書かれているという、放物弓型の面積の計算法だった。

 図の太線で書かれた放物線に 2 点、A と C をとる。線分 AC に平行な放物線の接線を引き、接線が放物線に接する点を B とする。そうすると、放物線と線分 AC で囲まれた放物弓型の面積は、三角形 ABC の面積の 3 分の 4 倍に等しい。アルキメデスは、「てこの原理」を用いて示す。

 

 まず、線分 AC の中点をとり、D とする。D と B を結ぶ直線を描く。D を通って放物線の焦点と頂点を結ぶ線分に平行な軸を引いたと考えても良い。その軸と放物線との交点が B だ。

 次に、点 C で、放物線の接線を引き、線分 DB を延長した直線との交点を E とする。また、点 A から DB に平行に引いた直線が、点 C での接線と交わる点を F とする。三角形の辺 BC を延長して線分 AF と交わる点を K とする。さらに、CK を延長して、線分の長さが CK = KH となるように、点 H を取る。

 さらに、直線 CK 上に勝手な点 N をとり、N を通り線分と DB と平行な直線を引く。この直線が CF と交わる点を M、CA と交わる点を O、放物線との交点を P とする。図の通り。

 

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 ここから、少し放物線の性質を使わせてもらう。

 放物線の性質から、それぞれの線分の長さに関係がつけられる。まず、

 

    EB = BD

 

これを使うと、三角形 CED と三角形 CMO が相似であることから、

 

    MN = NO

 

が言える。

 もう一度、放物線の性質を使わせてもらおう。

 

    MO : OP = CA : AO

 

という比が、放物線であるということで得られる。これを使うと、三角形 CNO と三角形 CKA が相似であることから

 

    MO : OP = CA : AO =CK : KN =HK : KN

 

が得られる。最初の等式は放物線の性質、2 番目は三角形の相似、3 番目は CK = HK  と線分の長さをとって作図したことによる。第 1 式と第 4 式を取り出して書いておくと

 

    MO : OP = HK : KN

 

になる。分数で書けば

 

    MO / OP = HK / KN

 

だから、

 

    MO × KN = OP × HK    ・・・(1)

 

ということだ。

 

 さて、ここからが機械学的だ。

 まず、線分 CH を、点 Kを 釣り合いの中心とした“てこ”の棒と考える。また、OP と等しい長さの線分 TG を、その中心が H に来るように置く。図の通り。そうすると、(1)式は

 

    MO × KN = TG × HK   ・・・(2)

 

と書き直せる。ここで、てこ、またはシーソーの支点を K とし、MO と TG の線分が一様密度の棒と考えると、(2)式は、(重さ)×(てこの腕の長さ)が左右両辺で等しいという式になっている。左辺は、支点からの距離 KNに 、重さ MO を置いた式、右辺は支点からの距離 HK に重さ TG を置いたものと考えると、両者は釣り合っているという式だ。シーソーの釣り合いについては第 38 回参照。

 N は勝手な点として CK 上に取ったので、この操作を点 N を CK 上を動かしていって、今までの操作を繰り返すと、放物弓型を構成する線分 OP を全部 1 点 H に集めたものと、線分 MO をその線分が置かれている各点での位置 N ごとにすべて集めたもの、すなわち三角形 FAC が釣り合うことになる。三角形 FAC を構成する線分は各点 Nごとに場所は異なっておかれているが、その重さを三角形の重心にすべて集めたものと同じになるので、三角形 FAC の面積に対応した重さを、三角形 FAC の重心においたと思えばよい。それが、放物弓型の面積に対応した重さと、支点 K で釣り合うというわけだ。三角形 FAC の重心は、線分 CK を 2 対 1 に内分する点、図では W であるので、

 

    (放物弓型の重さ)× HK = (三角形FACの重さ)× KW   ・・・(3)

 

となる。また

 

    3 × KW = CK =HK  ・・・(4)

 

である。W は CK を 2 対 1 に内分していることと、作図から CK = HK だったことを使った。さらに、最初の設定から

 

    AC = 2 × AD

 

であったので、三角形の相似を睨んで

 

    AK = 2 × DB

 

となり、結果、

 

    AF = 2 × AK = 4 × DB

 

となるので、

 

    (三角形FACの面積)=4 ×(三角形ABCの面積)   ・・・(5)

 

となることが分かる。底辺 AC が共通で、高さ AF と DB が 4 倍違うからだ。

 

 こうして、(3)の KW を(4)で HK にして、また三角形 FAC を(5)を使って三角形 ABC に置き換えると

 

    (放物弓型の重さ)× HK = (三角形FACの重さ)× KW

                = 4 ×(三角形ABCの重さ)× HK / 3

 

なので、重さと面積が比例していることから

 

    (放物弓型の面積)= ( 4 / 3 ) ×(三角形ABCの面積)

 

が得られる。

 

 確かに、放物線と線分 AC で囲まれた放物弓型の面積は、三角形 ABC の面積の 3 分の 4 陪に等しいことが言えた。

 

 面積を求める際に、物理のてこの原理を使うとは、さすがアルキメデス。「支点とてこを与えられたら地球を動かして見せよう」と言っただけのことはある。