122.ネイピア数、再び

 学生時代、物理の勉強のため、「ファインマン物理学」を読みかかったことがあるが、難しいというよりテーマが多種多様で、何を足掛かりにしてすべてを構築していくべきか良くわからず、途中で読むのをやめてしまった。「ランダウ・リフシッツ理論物理学教程」の記述スタイルの方がしっくりきた。

 のちに、一通りの物理の基礎を勉強し終えてからファインマン物理学を読むと、極めて面白く読めてしまった。一回、物理をやってから読むべき本だなぁと思ったものだ。

 その「ファインマン物理学」の力学編に、代数学の章があり、説明うまいなぁと感じ入ったので、著作権の問題もあろうかとも思うが、備忘しておきたい。

 いや、すでに第 28 回「対数」の最初のところはファインマン物理から採っていた。

 

 対数自身については第28回「対数」または第 83 回「対数表」を見てもらおう。

 

 電卓で計算するのだが、まずは電卓が無いとして、平方根を求めてみよう。実に収束性の良い式がある。Xの平方根、√X を求めたいときには、2 乗したら X になりそうな適当な数 aをとって、

 

    a2 = (a1 + X / a1 ) / 2

 

を計算する。この aを改めて aと思い、また上の式に代入する。具体的に書くと

 

    a3 = (a2 + X / a2 ) / 2

 

で a3 を求める。この操作を繰り返すと、やがて X の平方根が得られる。要するに、適当な初項 a1 から初めて、数列

 

    an+1 = (an + X / an ) / 2    ・・・(1)

 

計算して行けというわけだ。これがXの平方根になることは、an がある値 a に近づいたと思って、an = an+1 = a とすると(1)は

 

    a = ( a + X / a ) / 2

 

なので、両辺 2a をかけて整理すると

 

    X = a2

 

になるので、a は √X というわけだ。

 X=2 としてやってみよう。2 乗して 2 になりそうなのは 1.5 より少し小さいと見積もれる。1.5×1.5 = 2.25 だから。a1 = 1.5 と置いてやってみよう。(1)式で

 

    a2 = (1.5 + 2 / 1.5 ) / 2 = 1.416666・・・

    a3 = (1.416667 + 2 / 1.416667 ) / 2 = 1.4142156・・・

    a4 = (1.414216 + 2 / 1.414216 ) / 2 = 1.41421356・・・

 

もうすでに、たった 3 回で「人世(ひとよ1.4)人世(1.4)に(2)人(1)見(3)ごろ(56)」と、知っている桁まで得られた。

 

 平方根を手計算する方法を手に入れたので、10 から始めて、次々に平方根をとっていこう。平方根は 101/2 とかくので、次々に平方根をとるというには、

 

    (101/2)1/2 = 101/4

    ((101/2)1/2 )1/2= 101/8

    (((101/2)1/2 )1/2 )1/2= 101/16

      ・・・

 

を計算するということ。表にしておこう。

 

 

     s       10s  

    -----------------------------------------------------

     1       10

     1/2               3.16227766・・・

     1/4      1.77827941・・・

     1/8      1.333531432・・・

     1/16      1.154781985・・・

     1/32      1.074607828・・・

     1/64      1.036632928・・・

     1/128     1.018151722・・・

     1/256     1.009035045・・・

     1/512     1.004507364・・・

     1/1024     1.002251148・・・

     1/2048     1.001124911・・・

     1/4096     1.000562313・・・

     1/8192     1.000281117・・・・

     1/16384    1.000140549・・・

     1/32768    1.000070272・・・

   --------------------------------------------------------

 

ここまでする必要もないが、計算はできるというわけだ。最初の方はそうも見えないのだが、s が小さくなるにつれ、10の小数点以下の部分は、一つ前の s のときの半分になっているように見える。例えば、s=1/512 の時には小数点以下は 0.004507364 だが、これを半分にして 1 を足すと、1.002253682 となり、s=1/1024 のときの 10s に近い。ほかのところも確かめられる。ということは、おそらく、10 p /32768 として、p=1、1/2、1/4・・・と次々計算して行かなくとも、おそらく

 

    10 p /32768 ≒ 1 + 0.000070272 × p

 

と近似できそうだ。数値を少しいじると、上の式は

 

    10 p /32768 = 1 + ( 2.3026… / 32768 )  × p

 

のようにも書ける。s = 32768 まで計算するのは実用的ではないので、10 p /1024 くらいまでにとどめておいて、上の式と同様に

 

    10 p /1024  ≒ 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × p     ・・・(2)

 

という近似式を用意しておこう。p = 1/2で 、この近似式では

 

    10 1 /2048  = 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × ( 1/2 ) = 1.001124・・・

 

が得られ、・・・の前の桁までは正しい。p=1/4 では

 

    10 1 /4096  = 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × ( 1/4 ) = 1.000562・・・

 

まぁ、良しとしよう。

 

 ここまで準備すると、底が 10 の対数がそこそこ計算できる。例えば、log10 2 を計算してみよう。表を見て、10s が初めて 2 より小さくなるところを見てみよう。s=1/4 の1.77827941 だ。2 をこの数で割っておく

 

    2/1.77827941 = 1.12467336・・・

 

でてきた 1.12467336 より初めて小さくなる s は、表から 1/32、つまり 1.074607828 なので、またこの数で割っておく。

 

    1.12467336  / 1.074607828 = 1.046589584・・・

 

今度は s = 1/64 だ。

 

    1.046589584 / 1.036632928 = 1.009604804・・・

 

次は s=1/256。

 

    1.009604804 / 1.009035045 = 1.000564657・・・

 

つぎは s=1/4096 だが、しんどいのでそろそろやめよう。最後に得られた 1.000564657は、近似式(2)を使うと

 

    1.000564657 = 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × p 

        -> 

    p = 0.25111・・・

 

よって、

 

    1.000564657 = 100.25111/1024

 

何をしてきたかというと、2を次々割り算していったので、逆に得られた割り算の結果、つまり商を掛け算していくと 2 に戻るというわけだ。

 

    2 = 1.77827941×1.12467336

     = 1.77827941×( 1.074607828×1.046589584)

     = 1.77827941× 1.074607828×( 1.036632928×1.009604804)

     = 1.77827941× 1.074607828× 1.036632928×1.009035045×1.000564657

 

さて、最後の行の各数字は、表から 10s と得られていたので、

 

    2 = 1.77827941× 1.074607828× 1.036632928×1.009035045×1.000564657

     = 101/4 ×101/32 × 101/64 × 101/256 × 100.2511/1024

     = 10(1/4 + 1/32 + 1/64 + 1/256 + 0.2511/1024)

     = 100.30102

 

が得られる。両辺、底が 10 の対数をとれば

 

    log102 = 0.3010・・・

 

と、求まるというわけだ。

 

 話を転回して、近似式(2)を見てみよう。再掲すると

 

    10 p /1024  ≒ 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × p     ・・・(2)

 

ここで、p / 1024 = ε と書くことにすると、ε はごく小さい値を持っていて、上式の近似式は、両辺、底が 10 の対数をとることで

 

    ε ≒ log10 ( 1 + 2.3026ε)

 

となっている。逆に、2.3026 ε を改めて ε と思うと(ε’ にした方が紛らわしくないかもしれないが)

 

    ε / 2.3026 = log 10 (1 + ε)    ・・・(3)

 

とも書いてよい。

 

 いつも出てくる 2.3016 何某が鬱陶しいので、ある数 e を底にとって

 

    ε= log e (1 + ε )     ・・・・(4)

 

と簡単になる e を探そう。対数の規則(第 28 回参照)から

 

    loge ( 1 + ε) = log 10 ( 1 +ε) / log 10 e

 

が成り立つので、(3)と(4)から、上式は

 

    ε= ( ε / 2.3026 ) / log 10 e

 

両辺 ε で割ると

 

    log 10 e = 1 / 2.3026

 

だから、e が求まり

 

    e = 101/2.3026 = 2.7182・・・

 

という数値が得られる。

 

 近似をしたので数値的に正確ではなかったが、実は、この e は前回の「ネイピア数」そのものだ。

   

 

    

121.ネイピア数

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 この感染症禍のもと、大学入構禁止となって、在宅でオンライン授業を受けている学生さん達が元気に過ごしていることを願って已まない。

 簡単に、「不安はパッと消え」ない。

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 銀行にお金を預けていたら、いつの間にか利息が付いていた、という時代は過去のものになっている。だから、ちょっと、夢を見よう。

 

 1 年間お金を預けたら、100 %の利率で利息が付く銀行に、1 万円預けたとしよう。1年後には、

 

   1万円 ×1(元本)+ 1万円 ×1(利息)= 1 万円 × ( 1 + 1 )

                    = 2 万円

 

と、2 万円になっている。

 

 嬉しい。

 

 右辺の括弧の中の最初の1は元本の部分、1 万円 ×1だ。2 番目の 1 は利率。100 %=1ということだ。

 

 銀行にお願いして、半年毎に利息をつけてもらえるようにした。利率は 1年で 100 %になるように、半年では 50 % = 0.5 とするという条件は呑む。この場合、

 

    1 万円 × ( 1 + 0.5 ) × ( 1 + 0.5 ) = 1 万円  ×( 1 + 1/2) 2

                  = 2.25 万円

 

最初の( 1 万円 × ( 1 + 0.5 ) )は、半年で増えた分だ。これを基本に、次の半年で、元本分 1 と利息分 0.5 を足したもの、 ( 1 + 0.5 ) を掛けると、後半の半年での元本と利息の合計になる。半年に分けると、2 万 2 千5 百円になり、有利だ。半年で付いた利息分を、次の半年の元本にできるから。

 

 だんだんパターンがわかってくる。毎月、1/12 = 8.3333・・・% の利息で、毎月利子をつけてもらうと

 

    1万円 × ( 1 +1/12 ) × ( 1 + 1/12 ) ×…×(  1 +1/12) 

   =1 万円 × ( 1 + 1/12 ) 12

   = 2.61303・・・万円

   ≒ 2 万 6130 円

 

ちょっと増えた。

 味を占めたので、日割りにする。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 365 ) × ( 1 + 1 / 365 ) ×…×( 1 + 1 / 365 )

   =1万円 × ( 1 + 1 / 365 ) 365

   = 2.71456748202・・・万円

   ≒ 2 万 7145 円

 

またちょっと増えた。計算はコンピュータにやらせよう。ついでに、「時間割」にしてみよう。1 年は 36 5日×24 時間 = 8760 時間だ。

 

    1万円 × ( 1 +1 / 8760 ) × ( 1 + 1 / 8760 ) ×…× ( 1 +1 / 8760 )

   =1 万円 × ( 1 + 1 / 8760) 8760

   = 2.71812669162・・・万円

   ≒ 2 万7181 円

 

あんまり増えないなぁ。「分割り」にしてもらおう。1 年は、8760 時間 × 60分 = 525600 分だ。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 525600 ) × ( 1 + 1 / 525600 ) ×…× ( 1 +1 / 525600 )

   =1 万円 × ( 1 + 1 / 525600) 525600

   = 2.718127924258・・・万円

   ≒ 2 万 7182 円

 

ほとんど増えない。1 円増えただけ。えい、「秒割」をお願いする。1 年は、525600 分× 60 秒 = 31536000 秒だ。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 31536000 ) × ( 1 + 1 / 31536000 ) ×…× ( 1 +1 / 31536000 )

   =1 万円 × ( 1 + 1  /31536000) 31536000

   = 2.718127924258・・・万円

   ≒ 2 万 7182 円

 

ここまでの桁では、もう変わらない。

 

 いっそ、無限分割して

 

    lim n→∞ ( 1 + 1 / n ) n

 

を考えると、この数は有限で、e と名前を付けて

 

    e =  lim n→∞ ( 1 + 1 / n ) n

  = 2.718281828459045235360287471352662497757247093699959574966967・・・

                                ・・・(1)

  

と、無限に続く数になる。

 

 この数は、ネイピア数として知られている。

 

 高等学校で微分を習うと出てくる数だ。円周率と同じく、数字が無限に続く無理数で、整数係数の代数方程式の解にはならない超越数だと知られている。

 

 微分でなぜ出てくるか。

 

 ある数 a の指数関数

 

     f (x) = ax    ・・・(2)

 

を考える。各点 x で、微分値、つまり導関数 d f(x) / dx が、その点での関数値 f(x) と等しくなるような数 a を探そう。微分の定義は

 

     「その点での値と、“隣の点”での値の差を、その点と“隣の点”の“距離”の差で     割ったもの」

 

だ。こうして、その点での接線の傾きが求まる。

 

 “隣の点”なんていうと、数学の先生は眼を剥くが。

 

 微分の値が、その点での関数の値と等しくなるのだから

 

    d f(x) / dx = f(x)     ・・・(3)

 

だ。微分の定義から

 

    d f(x) / dx = lim h→0 ( f( x+h) – f(x) ) / h    ・・・(4)

 

となる。lim h→0 は、“隣の点”を考えるので、2 点の差 h は限りなく小さく、極限としては 0 に持っていきなさいという命令。

 

        

 

(2)、(3)、(4)を使うと、微分の値がそこでの関数の値に一致するための数 aは 

 

    

    d f(x) / dx = lim h→0 ( ax + h – ax ) / h = ax   ・・・(5)

 

が成り立て、ということ。要するに

 

     lim h→0 ( ax + h – ax ) / h = lim h→0 ax ( a h – 1 ) / h

    = a x lim h→0 ( a h – 1 ) / h  =  ax 

               

 

が成り立てばよい、両辺 ax で割ると

 

    lim h→0 ( a h – 1 ) / h = 1

 

が成り立て、というわけだ。ちょっと、h を残してこの式を a について解くと、

 

    ( a h – 1 ) / h = 1  →  a = ( 1 + h )1/h

 

となる。h を零に持っていかないといけない。h を零に持っていく代わりに、

 

    1 / h = n

 

と変換して、n を無限大に持っていくことにすると、上式極限をとって

 

  a  = lim n→∞  ( 1 + 1/n )n

 

が得られる。この数字 a が、微分で得られる“導関数”がもとの関数と一致する指数関数の数を与える。

 

 (1)でみたネイピア数そのものだ。

 

こうして

 

    f(x) = ex    、   dex /dx = ex

 

となった。

 

 不思議なつながりだ。

 

 第 28 回で見たように、指数関数の逆関数は、対数関数だ。今の場合、

 

    X = eY  ならば、Y = log e X

 

となる。対数関数の底がネイピア数 e のものを、自然対数と呼び、英語では natural logarithm なので、

 

    log e X = ln X

 

のように書く。

 

 ついでに、自然対数を微分しておこう。今度は、関数 f(x) として

 

    f (x) = ln x

 

とする。微分の定義、「隣り合う点を考えて、引いてから割る」を実行しよう。第 28 回で見たように、対数の和は積の対数になるので、対数の差は商の対数になるから

 

     d f(x) / dx = d ln x / dx

    = lim h→0 ( ln ( x+h ) –ln(x) ) / h

    = lim h→0  1/ h × ln (( x+h )/x) )

    = lim h→0  1/ h × ln ( 1+h/x)

    = lim h→0  ln ( 1+h/x)1/h

 

となる。ここで、h / x =1 / t とおくと、h → 0 ということは、t → ∞ ということなので、

 

    d f(x) / dx =  lim t→∞  ln ( 1+1/ t )t/x

         =  lim t→∞  ln [( 1+1/ t )t ]1/x  

         =  ( 1/ x ) × lim t→∞  ln [ ( 1+1 / t)t ]

 

となるが、対数の中の極限 lim t→∞ ( 1+1/t)t は、また(1)式なので、ネイピア数だ。

 

    lim t→∞ ( 1+1/t )t = e

 

よって、

 

     d f(x) / dx = d ln x / dx

    =  (1/ x ) × lim t→∞  ln [ ( 1+1 / t)t ]

    = (1/ x ) × ln e

    = (1/ x ) × log e e

    = 1/ x

 

となる。log e e = 1 だから。こうして、自然対数 ln x の微分は 1/x となる。

 

 微分積分は逆演算なので、1/x の積分は自然対数 ln x ということだ。1/x は双曲線なので、双曲線をグラフに描いて、x = 1 から x = e まで、双曲線と x 軸が囲む面積は 1 ということだ。

 

    ∫1e  dx/x =  [ ln x ]1e = ln e – ln 1 = 1

 

 そういえば、第 43 回で音階について備忘した。周波数が 2 倍になると、1 オクターブ上がった音と聴き取る。音合わせの時は 440 Hz のラの音を使う。1オクターブ低いラの音の周波数は 220 Hzだ。これを、オクターブ違いの同じ音階と聴いている。440 Hz のラの音の 1 オクターブ上のラの音は、880 Hzの周波数だ。正確には 879.99 Hzだそうだが、まぁ、880 Hz としておこう。220 Hz のラからしたら周波数は 4 倍だが、4 オクターブでも 3 オクターブでもなく、2 オクターブ差と認識する。どうやら、耳は音を対数変換して聴いているようだ。どういうことかというと、底が 2 の対数で考えてみよう。すると、440 Hz と 220 Hz のラの音の差は、440-220 を聴いているのではなく

 

    log 2 440 - log 2 220 = log 2 ( 440 / 220 )

              = log 2 2

              =1

 

となって、1 オクターブだ。440 Hzと880 Hz のラの音も同じ。

 

    log 2 880 - log 2 440 = log 2 ( 880 / 440 )

              = log 2 2

              =1

やはり 1 オクターブ差として聴くことになる。

 220 Hz と880 Hz では、

 

    log 2 880 - log 2 220 = log 2 ( 880 / 220 )

              = log 2 4

              = log 2 22

              = 2 log 2 2

              = 2

 

と、2 オクターブと出る。周波数の差で聴いているなら ( 440-220 ) / 220 = 1 オクターブということになるわけなので、同様に計算すると、( 880 ― 220 ) / 220 = 3 オクターブ差として聴いていなければならないはずだ。こうして、耳は音の周波数を、周波数差ではなく対数変換して聴いているといえよう。

 

 ネイピア数から話がそれた。

120.空も飛べるはず

 2020年4月、世界的な感染症禍に巻き込まれ、我がHigh Intelligence 大学では新入生を迎えるも、入学式はできなかった。

 新入生には、これから 4 年間で大きく羽ばたいて欲しいという願いを込めて、空を飛ぶ話を備忘しておこう。

 

 

 大学の講義で「ベルヌイの定理」なるものを教える。定理でも何でもないのだが、なぜか定理と言われている。流体に関する一つの法則だ。しかも、理想化される条件がいくつかついた下で成り立つ法則だ。

 流体として、水を想像してみよう。ゆく川の流れは絶えずして、もとの水ではなくなるが、1 点に注視していると、その流れ方は時間がたっても何も変わらない場合がある。いつ見ても同じように流れているという状況だ。このような流れを、「定常流」という。また、流体の密度が場所にも時間にも依らず一定である状況を考える。これを「一様な流体」と呼ぼう。さらに、流れに渦がないとする。「渦なし流」と呼んでおこう。ついでに、流体のねばねば加減、粘性を無視してしまう。「定常流」「一様な流体」「渦なし流」の3つの条件の下、さらに粘性を無視すると、「ベルヌイの定理」が成り立つ。

 流体の密度を ρ、流れの速度を、流体の圧力を p、単位質量当たりの位置エネルギーを φ と書くと、単位体積当たりの流体のエネルギーは

 

    ( 1 / 2 ) ρ2 + p + ρφ  ・・・(1)

 

と表される。第 1 項は運動エネルギー、第3項は位置エネルギーだ。第 10 回に記したように、(力)×(移動距離)=(仕事)だったが、考えている体積で割ると、体積は(距離(長さ))×(面積)だから、(仕事)/(体積)=(力)×(移動距離)/(体積)= (力)/(面積)になる。(力)/(面積)は圧力 p になるので、こうして第 2 項は、(仕事)/(体積)のことで、単位体積当たりの仕事、つまり単位体積当たりに流体が仕事をされたことにより得られるエネルギーになっている。こうして(1)は流体の持つ単位体積あたりのエネルギーだ。

 「定常流」「一様な流体」「渦なし流」の 3 つの条件の下で流体の粘性を無視したとき、(1)式は時間にも場所にも依らず一定の値をとることが示せる。この事実を「ベルヌイの定理」と呼んでいる。時間によらないのはエネルギーが保存量なので分かるが、場所にも依らないことを示すには、ちょっと掛かるのでここでは省略する。かなり理想化された条件だが、まぁ、その条件が成り立つだろうというもとで、色々なことが言える。

 

 

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 上図右は、円柱が中心軸まわりに回転しながら、空中を左方向に進んでいる様子だ。円柱の立場に立てば、風が左から右に吹いているように見える。図で円柱の上側は、風の方向と円柱の回転方向が逆なので、空気と円柱の表面との摩擦で空気の流れは弱められる。つまり、空気の流速はやや遅くなる。一方、図で円柱の下側は、空気の流れと円柱の回転方向が同じなので、空気と円柱表面との摩擦は少なく、空気の流れは妨げられないので、流速は速いままだ。こうして、図で、下側の流速 v下 の方が、上側の流速 vよりも大きいことになる。空気が円柱を、図で上側から押す圧力を p、下側から押す圧力を p下 と書けば、ベルヌイの定理が成り立つとき、(1)はある一定の値になっているので、

 

 ( 1 / 2 ) ρv2 + p + ρφ = ( 1 / 2 ) ρv2 + p + ρφ

 

が成り立つはずだ。位置エネルギーは重力によるものだが、上と下で一緒、あるいは極めて近い値として無視すると、

 

     ( 1 / 2 ) ρv2 + p = ( 1 / 2 ) ρv2 + p下  ・・・(2)

 

となる。こうして

 

     v上 < v下

 

だったので、(2)から

 

     p上 > p

 

でなければ(2)が成り立たないことがわかる。したがって、図で上側の圧力の方が下側の圧力より大きいということだから、円柱は図で下側に押される。左方向へ進む円柱は、図の下側の方へ曲げられるというわけだ。

 円柱をボールに置き換えて、ボールが左方向に進んでいるところを真上、つまり天空から見ている図だと思うと、ボールはカーブ回転して、進行方向に対し左方向へ曲がっていくというわけだ。

 

 次に、さっきの上の左の図。飛行機の翼を真横から見たところだとしよう。図の下の方に地面があり、上の方は空だ。飛行機は左方向に進んでいるとする。やはり、図では左から右へ空気は流れていく。飛行機の翼は良くできていて、翼の下側を通る空気の速さ v下 は、上側を通る空気の速さ v上 より遅くなっている。今度は

 

     v上 > v

 

というわけだ。こうして、やはり(2)式が成り立つと、今度は

 

    p上 < p

 

とならねばならず、下から飛行機を持ち上げる圧力 p の方が、上から下へ押し付ける圧力 p より大きくなり、飛行機を下から上へ持ち上げる。この圧力による力が飛行機の重力より大きいと、飛行機は浮いたまま飛んでいられるというわけだ。飛行機の翼の面積を S とすると、飛行機にかかる「揚力」は、(圧力差)×(面積)だ。一方、飛行機の質量を m として、地球が飛行機を引っ張ることにより発生する重力加速度を g とすると、飛行機に mg の重力がかかる。こうして、飛行機が「飛べる」ための条件は

 

    ( p - p上 ) × S ≧ mg    ・・・(3)

 

となる。

 もう少し書き直そう。(2)式を使うと、

 

 ( p - p上 ) =〔( 1 / 2 ) ρv2 - ( 1 / 2 ) ρv2  〕

 

となるので、これを(3)式に使うと、

 

     ( 1 / 2 ) × ρ × (v2 - v2  ) × S ≧ mg  ・・・(4)

 

が得られる。共通に出てきた 1 / 2 と ρ で括った。この式を見ると、「飛べる」ためには、物体の質量 m か重力加速度 g が小さい、または大気の密度 ρ が大きいか、翼の上側を流れる大気の速さと下側を流れる大気の速さの差が大きければ良さそうだ。

 

 さて、人が両手を伸ばすと、大体身長くらいになるという。そこで、片手の長さを 70 cm と仮定しよう。進化の過程で翼が出来たとして、脇の下から 1 m くらいまで、両腕から三角形の翼が進化して出来ていたとする。両腕を広げてうつ伏せで飛ぶとすると、体躯の面積を翼の面積に足すことになる。両腕で 140 cmとしたので、体躯の幅を 30 cm として、身長 170 cm なので、体躯が見込む面積は 30 cm × 170 cmだ。こうして、翼と体躯をあわせた面積 S は

 

    S = ( 1 / 2 )× 0.7 × 1 × 2(枚)+ 0.3 × 1.70 = 1.21 m2

 

となる。

 

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  翼を持つように進化した人が、空を飛ぼうとする。時速 20 km で飛べたとしよう。2時間で 40 km なので、マラソン選手並みだが、大地を蹴って走るのではなく、飛んでいるのだから空想の翼を広げよう。翼の上側は、この速さで大気が駆け抜けていく。その速さ、v

 

    v = 20 km / 時 = 5.5555… m / s

 

だ。翼の下側は、なんかうまくできていて、大気の流速を抑えられるとしよう。まったく空想なので、例えば時速 5 km 、人が早足で歩く速さ程度にまで流速を落とせたとしよう。こうして

 

    v = 5 km / 時 = 1.38888… m / s

 

だ。地上では、大気、つまり空気があるが、空気の密度 ρair は、ちょっと調べると

 

    ρair = 1.293 kg / m3

 

とあった。ただし、摂氏 0 度で 1 気圧。重力加速度 g地球 は知られているように

 

    g地球 = 9.8 m / s2

 

だ。これらの値を(4)式に入れると

 

    ( 1 / 2 ) × 1.293 × (5.55552 - 1.388882  ) × 1.21 ≧ m × 9.8

  

 よって

 

   m ≦ 2.3 kg

 

となる。体重が 2.3 kg 以下というわけないので、こんな風に進化しても、人は空を飛べない。そこで、飛行機なんかを発明したのだろう。進化を待っていても間に合わない。

 

 でも、翼人間として生まれたからには、飛びたいじゃぁないか。

 

 そこで、どこか、条件の良いところに引っ越そう。

 

 重力と重力加速度の関係は、第 2 回に記した。地表面付近にある質量 m の物体を地球が引っ張るときには、地球の質量を M、地球の半径を R、万有引力定数を G、重力加速度を g として

 

   mg = G mM / R2 、よって  g = G M / R2

 

と、物体の質量によらず g は一定値になるのだった。地球を惑星などの星に置き換えると、その星での重力加速度 g星 は、星の質量を M、星の半径を R星 として

 

    g星 = G M / R2

 

となる。こうして、飛ぶのによい条件の重力加速度が小さいためには、星の質量が小さく、半径は大きい方が良い。

 

 まずは火星。地球より小さいので重力は弱く、重力加速度が小さい。飛ぶには良い条件だ。しかし、大気が希薄なので、大気の密度 ρ が小さく、飛ぶには悪い条件なのであきらめよう。

 水星も、太陽に近すぎて大気がなく、飛べない。金星はどうだろうか。地球よりやや小さいだけなので重力加速度はまぁ同じ程度だが、なんせ、大気が厚い。大気密度がずば抜けて大きければ、飛べる可能性があるのだが、調べてみても大気密度の値に行きつかなかったので、移住断念。

 木星土星はガス惑星で、降り立つ大地がないので駄目だ。

 

 あきらめるのはまだ早い。惑星がだめなら衛星を探そう。小さいながら大気が存在する、しかも濃い大気を持つ唯一の衛星、土星の衛星タイタン移住を考えよう。太陽系で2 番目に大きな衛星だ。タイタンは水と岩石からできた衛星で、メタンの海があり、メタンの雨が降る。また、メタンやアンモニアを吹き出す“火山”まである。表面温度がマイナス 180 度程度なので、“火山”ではなく、何と呼んだら良いのかわからないが。2005年に探査機カッシーニがタイタンに近づき、着陸機ホイヘンスをタイタン表面に着陸させて分かったことのようだ。タイタンの大気の質量密度は、およそ地球の 4 倍程度だそうだ。飛ぶためには良い条件だ。タイタンの質量 M は

 

    Mタイタン = 1.3452 × 1023 kg

 

半径 R は

 

    Rタイタン = 2.5749 × 106  m

 

だそうだ。ちなみに地球の質量と半径は、5.972 × 1024 kg、6.378 × 106 m。タイタン表面での重力加速度 gタイタン は計算できる。万有引力定数 G は G = 6.67 × 10-11 m3 / kg s2 なので、

 

    gタイタン = G Mタイタン / Rタイタン2

        = 6.67×10-11 ×1.3452 × 1023 / ( 2.5749×106 )2

        = 1.35 m / s2

 

と得られる。地球のおよそ 7 分の 1 だ。タイタンの大気密度 ρタイタン は地球の大気密度ρ地球 ( = ρair ) の 4 倍として

 

    ρタイタン = 4 × ρ地球

 

タイタンで、翼人間は飛べるか飛べないか? さっき仮定した v と v をもう一度使って、(4)式で計算してみよう。

 

   ( 1 / 2 ) × (4 × 1.293) × (5.55552 - 1.388882  ) × 1.21 ≧ m × 1.35

 

よって

 

   m ≦ 67 kg

 

今の条件では、体重 67 kg までなら、翼人間はタイタンの上空を飛べるということだ。

 

 ダイエットを頑張ろう。

 

 きっと、自由に空も飛べるはず

 

119.魔方陣

 数字を正方形に配置し、縦、横、斜めの数字を足したら、どれも同じ数字になる並び方を「魔方陣」と呼ぶ。1から 9 までの数字を使った 3×3 の魔方陣は、反転とか回転とかしたら同じになるものを除けば 1 種類しかなく、

 

     2 9 4

     7 5 3

     6 1 8

 

である。縦、横、斜め、それぞれ 3 つの数字を足すと、どれも 15 になる。子供の頃には、

 

  「憎し(294)と思う七五三(753)、618は十五なりけり」

 

と、五七五調で覚えることが、何かの本に書いてあった。

 

 1 から 16 まで使う 4×4 の魔方陣は、たくさんあるそうだ。中でもおそらく有名なのは、ドイツのアルブレヒト・デューラー (1471-1528) の「メランコリアI」に描かれている魔方陣だろう。しかも、下の行の中 2 つのマスは「15 14」とあり、制作年を表しているそうだ。

 

       f:id:uchu_kenbutsu:20200322110921j:plain

 

 デューラー方陣は、1 から 16 まで右上から順に並べた方陣

 

    4 3 2 1

    5 6 7 8

    9 10 11 12

    16 15 14 13

 

から出発し、まず、四隅の数の上下だけ入れ替える。

 

    16 3 2 13

    5 6 7 8

    9 10 11 12

    4 15 14  1

 

次に、真ん中の 2×2 の正方形にある4つの数字、6,7と 10、11、上下を入れ替える。

 

    16 3 2 13

    5 10 11 8

    9 6  7 12        ・・・(1)

    4 15  14  1

 

これで出来上がり。縦、横、斜め、それぞれ和は 34 になっている。おまけに、左上、左下、右上、右下にできる2×2の正方形の中の数字の和も 34 になる。例えば左上だと、16+3+5+10=34。ついでに、真ん中の 2×2 の正方形の中の数を足しても 34 だ。10+11+6+7=34。

 

 4×4 の魔方陣は、一旦出来たら、[A](i)1 行目と 4 行目を入れ替えてから、(ii)1列目と 4 列目を入れ替える、という操作で、新たな魔方陣ができる。また[B](i)2 行目と 3 行目を入れ替えてから、(ii)2 列目と 3 列目を入れ替える、という操作でも新たな魔方陣が出来る。さらには、[C](i)1 行目と 2 行目、3 行目と 4 行目それぞれを入れ替えてから、(ii)1 列目と 2 列目、3 列目と 4 列目をそれぞれ入れ替える、という操作でもできる。

 たとえば、(1)のデューラー方陣で、[C]の操作をすると

 

    5 10 11 8          10 5 8 11

    16 3 2 13    ->     3 16 13 2

    4 15 14 1          15 4 1 14

     9  6 7 12          6 9 12 7

 

となる。右側のが再びデューラー方陣だ。さらに [B] の操作をすると

 

    10 5 8 11          10 8 5 11

    15 4 1 14    ->    15 1 4 14

    3 16 13 2          3 13 16 2

    6 9 12 7          6 12 9 7

 

と、再び、右側にデューラー方陣が出来た。実は、デューラーの「メランコリアI」ばりに、とある人の誕生日を忍ばせておいた。

 

 デューラーの魔方陣も素晴らしいが、たとえば、

 

    7 2 16 9

    12 13 3 6

    1 8 10 15       ・・・(2)

    14 11 5 4

 

という魔方陣を考えると、縦、横、斜めはすべて 34 になるのはもちろん、2×2 の正方形、どこをとっても 4 つの数の和は 34 になる。デューラー方陣では 34 にならなかった 2 行目、3 行目、1 列目、2 列目の正方形では、12+13+1+8=34 になっている。ついでに、“斜め”も拡大し、1 行 2 列目の「2」から、右下に斜めに下っていくと、2、3、15と拾い、Uターンして最後に 14 を拾うと、2+3+15+14=34。今度は「2」から左斜め下に進むと、2、12 と拾ってからUターンして 5、15 の合計 4 つを斜めの数として拾うと、2+12+5+15=34 になる。こういう魔方陣は、完全魔方陣というそうだ。

 

(2)の魔方陣は使いやすく、行と列の異なる覚えやすい4つの数、13、14、15、16 に任意の数を足しても引いても、魔方陣になっている。ただし、完全魔方陣ではなくなるが、デューラー方陣と同じ性質は保たれる。例として、36 を足してみよう。そうすると、

 

 

    7 2 52 9

    12 49 3 6

    1 8 10 51       ・・・(3)

    50 11  5  4

 

となる。縦、横、斜めはそれぞれ足すと、70 になるデューラー方陣の誕生だ。四隅の2×2 の正方形と、中央の 2×2 の正方形の 4 つの数字の和も 70 になっている。

 

(2)の魔方陣をうまく使った手品を見たりする。手品の種は知らないが、数当てマジックで数を当てることが出来たとする。たとえば、その数が 70 だったとすると、手品師は、「思い浮かんだ数はこうだ」と言って(3)のように数字を配置する。どんな数でも、(2)の魔方陣で 13、14、15、16 のところに、適当な数を足せば、任意の数の魔方陣を作ることが出来る。今は 34 を足して 70 にしたが、95 にしたければ 13、14、15、16 のところに 61 を足しておけば良い。この中に選んだ数字はあるかと問いかけると無いので、手品師は答えを外したと思わせる。数字を選んだ客に当たらなかったと思わせてから、横に足してごらんというと、確かにどの行も 70 になり、客は数が当てられたと思うはずだ。おまけに、縦に足しても、斜めに足しても、4 隅に 4 つの数字を足しても、中央の 4 つの数字を足しても、常に 70 になるというわけだ。答えを外したと思わせてからのどんでん返しなので、驚きが増すのだろう。

 

 

 

 

 

118.正しく怖がる

 寺田寅彦の随筆、「小爆発二件」に、“ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた”とある。

 

 最近の新型コロナウイルスの流行では、報道を見聞きしていても、脱法行為と失政の両方を隠したい人たちと共に恐怖をあおって、データに基づいて説明してくれないのでストレスがたまる。

 ウェブで色々な人が色々書いているので、そこから数値を拝借しよう。1次データでは無いからどこまで精確かは判らないので、いちいち引用先は記さないでおく。一つだけ、https://www.worldometers.info/coronavirus/

 

 比較すべきは毎年流行する季節性インフルエンザだ。A型インフルエンザは世界的感染流行、いわゆるパンデミックを起こしうる。B型はパンデミックを起こすほどの感染力はない。C型の流行は稀だ。A型で見ておこう。潜伏期間は1,2日で、症状が出ているときにウイルスを撒いてしまう。接触感染、飛沫感染、空気感染を起こす。排泄物からも感染するそうだ。日本では、毎年1000万人規模で感染を起こし、1万人程度の方がインフルエンザで亡くなっている。致死率はおよそ0.1%。高齢者は主に肺炎を誘発し、小児は肺炎か脳症を起こし、亡くなることが多いようだ。

 毎年、インフルエンザ関連で1万人も亡くなっているとは知らなかった。

 

 新型コロナウイルスによるインフルエンザのデータはまだ多く分析されていないようだが、3月13日現在、世界で感染者は13万4681人、亡くなった方は4973人、致死率は3.7%といったところだ。すでに回復した人は6万9142人。感染者の半数以上はすでに回復している。

 致死率についてはよく見ないとわからないことがある。

 中国での感染者7万2314人を分析したデータを見つけた。無症状の人が1.2%で、経過としては回復している。軽症が80.9%で、この人たちも回復している。重症が13.8%で、やはり経過は回復となっている。超重症者は4.7%おり、2~3%の方が亡くなっている。致死率は2~3%。現在3月13日現在、中国では累計8万797人の感染者数なので、多くのデータの分析と考えてよかろう。ただし、中国は重症者の検査を優先したので、感染者はもっと多くて致死率はもう少し低いかもしれない。3月13日現在、亡くなった方は3170人なので、致死率は3.9%と高めにでている。

 積極的な検査をすすめた韓国では、3月13日時点で、感染者は7979人、亡くなった方は67人なので、致死率は0.84%と低い。感染者を多く見つけたら、(致死率)=(死亡者)/(感染者)なので、分母が大きくなり、必然的に致死率が下がる。

日本はクルーズ船の対応で批判された。続いてクルーズ船で感染者が出た国では、乗客を早く下船させている。日本での感染者数は3月13日時点で1387人、亡くなった方は26人なので、致死率は1.9%。しかし、クルーズ船で感染した696人中の約半数、325人はすでに回復済みだ。それ以外の日本国内では691人の感染者中、118人が回復している。国内のみでは亡くなった方は19人なので、致死率は2.7%と上がってしまう。韓国と違って検査数が少ないので、分母が小さく、致死率が大きく見えるのだろう。潜在的な感染者が把握できていないということだ。また、まだ回復数が少ないのは、感染の拡がりが中国より、またクルーズ船より遅かったからだろう。

 

(追記:2020年3月16日:イタリアやスペインでは感染者数、死亡者数とも増えており、3月16日時点で、イタリアでは(死者)/(感染者)=1809/24747 =7.3 %、スペインでは同じく、292/7845 = 3.7 %、フランスで127/5423 = 2.3 %、ドイツで13/5813  =  0.22%となっている。欧州人はマスクをしないとか、いろいろ言われているが、1000人あたりの病床数を見ておくと、イタリアで 3.2 床(2017年のデータ)、スペインで 3.1 床(2017年)、フランス 6.0 床(2017年)、ドイツ 8.0 床(2017年)とある。日本は 13.1 床(2017年)、韓国は 13 床(2018年)。何かヒントがあるかもしれない。)

 

 2003年に流行したSARS(重症性呼吸器症候群)の致死率は9.6%、2012年の流行のMERS(中東呼吸器症候群)では35%というから、今の新型コロナウィルスよりかなり怖い。

 3月6日までの中国のデータでは、4万4672人の感染者中、亡くなった方の割合は、0~9歳で0%、10~19歳で0.2%、20~29歳で0.2%、30~39歳で0.2%、40~49歳で0.4%、50~59歳で1.3%、60~69歳で3.6%、70~79歳で8.0%、80歳以上で8.0%だそうだ。若年層は明らかに少ない。

 日本の状況を知りたいが、厚生労働省のホームページを見る限り、データが無い。まぁ、亡くなった方の数が少ないので、有意なデータにならないかもしれないが。

 

 感染力は通常の季節性インフルエンザと同レベルらしい。単位がわからないが、感染力として1.5~2.5だそうだ。一人から移す人数なのだろうか。季節性インフルエンザの感染力は2~3、麻疹は感染力が強く、12~18。

  

 また、今のところ、新型コロナウイルスの遺伝子は、中国発生のものと99.9%は同じだそうなので、まだ危険な遺伝子変異は起こしていないようだ。

 有効な治療法が無いので怖い。しかしながら、せめてデータに基づいた情報と共に報道をしてもらいたい。侮るのは危険だが、データに基づいて「正当にこわが」りたい。

 

117.山口きらら

 化学が苦手だ。

 小学生の時、ヨウ素液をでんぷんに掛けると紫色になるとあり、ヨウ素液を掛けて紫になるかならないかで澱粉があるか無いかを見ていったが、そんなことより、デンプンがあるとなぜ紫色になるのかに興味があった。誰も教えてくれなかった。

 中学だか高校だか、化学反応で、酸素は手が2本とか炭素は手が 4本 とかで、手を残さず手を取り合って化合物ができるように化学反応式を作ったが、手ぇって何や? 

 大学で物理を勉強してようやく解った。

 大学では、1 回生の時に一応、物理化学だったか量子化学だったか、そんな名前の講義をとり、アトキンスだったか誰かの「物理化学」という教科書を上下巻買わされたが、結局シュレーディンガー方程式が出てくるのもいきなりすぎて良くわからず、あきらめてすぐに物理に走った。

 そのとき、化学反応で「マルコニコフ則」というものを習った。しばらくすると「反マルコニコフ則」が出てきて、マルコニコフ則と化学反応で逆の生成物ができる。反マルコニコフ則、またの名を逆マルコニコフ則。マルコニコフ則があって逆マルコニコフ則がある。何でもありの世界なのか、あるいはどっちもあるのだからそういうのは法則とは呼べないと思い、その授業から離れた。ついでに、大学では化学から距離を置いて生活をさせてもらっていた。

 

 しかし、物理を勉強していくにつれ、分野としての化学と繋がってきて、これは物理、これは化学と分けるのもなぁ、という感じになった。後年、大学で量子力学の講義を持った時には、原子中の電子配置から解る原子の手、共有結合とかを講義内容に含めて、量子化学っぽいことも話したりしていた。

 

 本を読んでいたら、ひょんなところで化学反応式を目にした。

 

    CaCO3 + CO2 + H2O  → Ca(HCO3)2        ・・・(1)

    炭酸カルシウム + 二酸化炭素 + 水 → 炭酸水素カルシウム

 

 貝殻とかサンゴとか、生物の死骸から石灰岩ができる。石灰岩には炭酸カルシウムが豊富だ。海底だったところが隆起して陸地になったら石灰岩が採れるわけだ。石灰岩の多い土地に二酸化炭素を含んだ雨が降ると、雨水が石灰岩に浸み込んで、反応式(1)で、石灰岩中の炭酸カルシウムを炭酸水素カルシウムに変える。炭酸水素カルシウムは水に溶けるので、炭酸水素カルシウムを含んだ水が地中へ落ちていく。あちらこちらから浸み込んできた炭酸水素カルシウム入りの水が、石灰岩質でないところの地下に溜まり、地下水脈になる。地殻変動などで土地が隆起したりして、地下水脈の位置が変わると、さっきまであった水脈のところに水がなくなり空洞ができる。鍾乳洞の誕生だ。

 その空洞に、さらに地表の雨が炭酸カルシウムを溶かして炭酸水素カルシウム入りの水となって滲み出してくる。地中では高かった圧力が、鍾乳洞の空洞内では圧力が下がり、圧力が低い方が水に溶け込める二酸化炭素の量が減るので、炭酸水素カルシウムを含んだ水から二酸化炭素が抜ける。こうして、(1)の逆反応、

 

    Ca(HCO3)2  →  CaCO3 + CO2 + H2O          ・・・(2)

    炭酸水素カルシウム → 炭酸カルシウム + 二酸化炭素 + 水 

 

(2)の反応が起き、炭酸カルシウムが析出する。これが鍾乳石の一つになる。

 

 鍾乳洞は空洞だからやがて崩落し、地表の土砂が流れこむ。そうすると、鍾乳洞のある山は、崩落したところが低くなるので、山並みがでこぼこになるはずだ。

 

 息子が参加標準記録を切れたので、山口市で行われる「きららカップ」という水泳大会に参加できた。山口きらら浜のほとりに立派な水泳競技場がある。リオ五輪に出ていたオリンピアンも何人か来ていた。最近まで世界記録を持ってた人も。これ幸いと、親は応援という名の旅行に出かけ、オリンピアンの泳ぎもついでに見てきた。High Intelligence City からは車で行ったので、山口県に入ってしばらく進むと、山並みがでこぼこになっていった。それで、山口県には秋吉台秋芳洞があるので、石灰岩質なんだろうと気付いた。結局、水泳会場とホテルの往復で観光が出来なかったので秋芳洞には行けなかったが、現地に行くと色々知らないこと、知っていても知識が繋がっていなかったことがピタリと嵌まってきて面白い。それで、思い出した話だ。

 

 High Intelligenceな県にも、龍河洞という鍾乳洞がある。秋芳洞と共に、日本三大鍾乳洞と言われている。もう一つは岩手県龍泉洞だそうだ。

 

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   http://loco-ao.com/s_feature-c112-pm1283.html より。山口県秋吉台付近。

116.インフルエンザ

 High Intelligence な我が大学の我が学部では、年に 3 回、構成教員が持ち回りで講演を行う「研究談話会」を行っている。各回 3 人程度お話しを聞かせて貰える。地方大学で、学部がコンパクトなので、専門外の話が色々聞ける。前回は、数学の先生と、防災工学系の先生のお話が聞けた。

 数学の先生は、長距離浸透モデルの話をされた。先生ご自身の研究の話はここでは置いておいて、導入でランダムウーク、日本語では酔っ払いが千鳥足でふらふら歩いている様子に擬して「酔歩」と言われている問題を紹介された。

 

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 上左図は 1 次元の場合で、白丸から始めて、左右に 2分の 1 の確率で次の格子点に動かしていき、これを続ける。上右図は 2 次元の場合で、白丸から始めて前後左右へ 4 分の 1 の確率で隣の格子点に動かしていき、これを続ける。1 次元と 2 次元の場合には、いつか必ず元の点に戻って来るそうだ。しかし、3 次元で格子点を組み、前後左右上下に 6 分の 1 の確率で動かしていくと、もう戻ってこない、非再帰的になるという。

 今度は、例えば 2 次元格子で、格子点間の結合を一部切って、そちらには行けないようにしてみる。下図では、各格子点から 2 本結合を切ってみた。こうして、各格子点から 2 分の 1 の確率でランダムにウォークさせると、果たして長時間たったら無限遠方の格子点に行きつくかどうか、非再帰的かどうかという問題を作ることが出来る。

 最後に先生がコメントしていたが、インフルエンザウィルスの伝搬のモデル化につなげられそうだ。自分の周りに 4 人いたとして、ウィルスが 2 人に伝搬するとして、そのウィルスが無限遠方まで伝搬、要するに酔歩の問題として非再帰的であれば、インフルエンザは蔓延するというわけだ。隣に 4 人は少ないので 6 人にしたければ 3 次元の格子点と結合をいくつか切った図を考え、酔歩させる。8 人にしたければ 4 次元格子を考えればよい。もっと感染させそうな人が近くにいる状況設定したければ、5 次元、6 次元・・・と、次元をあげて同じ問題を考えればよい。

  

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 話を聞いていて面白いなぁと興味を持ってしまった。

 

 離散格子の問題にすると、やや現実的で面白いのだが難しそうなので、連続的な問題にしてみる。微分方程式系の問題としてモデル化できるそうなので、備忘しておこう。

 

 まず、人に移し得る「感染者」の数を X とする。まだ罹っていないが感染する可能性のある「健常者」の数をYとする。感染したけど回復して免疫が出来てもう罹らない人を「治癒者」として Z とする。残念ながら亡くなった人の数も治癒者に入れておこう。時間を t として、微分方程式を立てる。健常者 Y が、感染により減っていく割合 dY/dt は、すでに感染している者が多ければ多いほど大きくなるであろうし、健常者の母数自身が大きくても大きいだろうから

 

    dY/dt = -v XY     ・・・(1)

 

となるだろう。健常者は感染により減っていくので右辺は負号がある。また、vは [ 1/ 人数・時間 ] という次元を持つ量で、単位時間、単位人数に感染させる「感染の速度」みたいなものだ。実際には v が大きいほど、短い時間で感染させて健常者数 Y が減っていくようになっている。次に、治癒者の数の変化の割合については、感染者に比例して大きくなるだろう。感染者が零になるとそもそも「治癒」しようがないし、感染者が多いほど治癒する人も多いはずだ。よって

 

    dZ/dt = w X      ・・・(2)

 

と置けそうだ。ここで w は感染から「治癒する速さ」みたいな量で、次元は [ 1/時間]。w が大きいほど、治癒者が速く増えることになる量だ。最後に感染者数の変化の割合だが、まずは治癒することで減っていく。これは(2)の右辺に符号をつけたものだ。一方、感染者数は、健常者を感染させることで増えていく。(1)の右辺の符号を変えたものだ。こうして

 

    dX/dt = ― wX + vXY   ・・・(3)

 

(1)(2)(3)を全部足すと、右辺は消えるので

 

    d (X + Y + Z ) /dt = 0

 

が得られ、感染者、健常者、治癒者の総数は変化しないことを意味している。総数を Nと書こう。

 

    N = X + Y + Z 、 dN/dt =0

 

要するに、閉じた集落や島を考え、流入、流出はないとしたというわけだ。流出入まで考慮したら連立微分方程式はもっと複雑になるだろう。ここでは、考えないでおこう。

 (1)と(3)の“比”をとると、

 

    dX/dY = (― wX + vXY) / (― vXY ) = ―1 + ( w / v ) / Y

       = -1 + r / Y                    ・・・(4)

 

となる。ここで、r = w / v と書いた。r の次元は [ 人数 ] だ。 微分の“比をとる”なんて、こういう計算は数学屋さんは眼を剥くが、物理屋は割と平気だ。いや、私だけか・・・。

 (4)から直ちにわかることがある。 r / Y < 1、すなわち r < Y と、健常者数が、感染速度と治癒速度の比 r より大きい時は

 

    dX/dY < 0

 

なので、健常者数 Y が減る( dY < 0 ) と、感染者 X が増える( dX > 0 )ということだ。インフルエンザは拡がっていく。やがて、健常者数 Y が減ってきて r = Y となると

 

    dX/dY = 0

 

なので、感染者数 X が最大値をとる。それを過ぎると r > Y と健常者数が減り、このとき

 

    dX/dY > 0

 

となるので、健常者数 Y が減っても( dY < 0 ) 、感染者数 X も減る( dX < 0 )。要するに治癒者が増えるはずなので、インフルエンザの流行は収束するというわけだ。感染者数が減るということは、やがて X=0 となる。その時の時間を t∞ としておき、X = 0 と書いておく。

 

 (4)は積分できる。

 

    ∫dX = ∫(―1 + r / Y ) dY

      積分して

    X = -Y + r ln Y + C (積分定数)    ・・・(5)

 

時刻 t=0 で、感染者は X(t=0) = X0、健常者は Y(t=0)=Y0 とすると、積分定数 C は

 

    C = X0 + Y0 -r ln Y0

    

となるが、時刻 t=0 ではまだ誰も治癒していないので、治癒者は Z(t=0)=Z0 = 0 なので、総数 N は変わらないことから

 

    N = X0 + Y0 + Z0   = X0 + Y0

 

であり、(5)は

 

     X(t) = -Y(t) + r ln Y(t) + N-r ln Y0   

       = N -Y(t) + r ln ( Y(t) / Y0 )      ・・・(6)

 

と得られる。

 

 さて、健常者数 Y が r に近いとして

  

    Y0 = r + h

 

として、h << r とする。感染者は最初少ないとして、X0 ≒ 0 としておく。こうして

 

    N = X0 + Y0 + Z≒ Y0

 

となる。感染者数が零になる時刻 t のときには X = 0 なので、(6)は

 

    0 = Y0 - Y + r ln ( Y/ Y0 ) 

     = Y0 - Y + r ln ( 1-( 1-Y/ Y0 ))

     = Y0 - Y ― r ( ( 1-Y/ Y0 )―(1 / 2 ) ×( 1-Y/ Y0 )2 + ・・・)

     ≒ ( Y0 - Y )×( 1 ― r / Y0 ―( r / 2 Y0 2 ) ×(Y0 -Y))

 

と近似できる。ここで Y/ Y0 ≒ 1 としている。こうして、上式の右辺の括弧の中が零にならないといけないので

 

    Y0 - Y = ( 2 Y02 / r)× ( 1-r / Y0 )

         = 2 Y0 ( Y0 / r -1 )

         = 2 ( r + h ) ( r + h - r ) / r

         = 2 ( r + h ) h / r

 

となるが、h << r なので右辺の h2 を無視すると、結局

 

    Y0 - Y = 2 h

 

となる。こうして、健常者は最初 Y0 だったものが、感染者が居なくなる時間 t での健常者は Y なので、その間に感染した人の数は、最初の健常者数 Yから最後の健常者数Y∞ を引いて、 2 h となることが分かった。

 

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 さて、(1)と(2)の“比”をとると

 

    dY/dZ = - (vXY) / (wX ) = -Y / r

 

となるので、積分すると

 

    Y = Y0 e( ― Z / r )    ・・・(7)

 

と得られる。初めの時間 t=t0 では治癒者はまだ出ていないので Z0=0 だから、係数 Y0 が現れる。

 

(1)と(3)の“比”をとると

 

    dX/dZ = (―wX + vXY ) / (wX)

       = -1 +Y / r

       = -1 + ( Y0 / r )× e( ― Z / r )  

 

となる。ここで、(7)を使った。これも積分できて、(5)から(6)へ積分定数を決めた時と同様のことをすると

 

    X = -Z ― Y0  e( ― Z / r ) + N    ・・・(8) 

 

(6)と(7)と(8)で、X(t)、Y(t)、Z(t) の関係は出たが、時間 t の関数としてあらわに解きたいが、力尽きた。

 

 そこで、極めて大雑把に考えておこう。

 

 (1)式から

 

    dY / Y = ―vX dt

 

となるので、これを積分する。∫ dY / Y = ln Y + (積分定数)なので、

 

    ln Y(t) = - v ∫0 t X(t) dt +(積分定数

 

となる。時間 t=0 までの積分だと右辺の X(t) の積分は零になり、左辺は Y(t=0)=Y0 だったので、積分定数は ln Y0 だ。こうして、

 

    ln Y(t) =  - v ∫0 t X(t) dt +ln Y0

 

よって

 

    Y(t) = Y0 exp( - v ∫0 t X(t) dt )

 

と得られる。ここで、exp(a) = e a と、指数関数のこと。これをすでに計算しておいた(6)式に代入することで

 

    X(t) = N - Y0 exp( - v ∫0 t X(t) dt ) - r v ∫0 t X(t) dt   ・・・(9)

 

のように、X(t) のみで時間 t の関数で閉じた形に書けた。しかし、解けてはいない。

 インフルエンザが蔓延して「全員が罹ってしまう」パンデミック状態を考えてみよう。感染者数 X(t) の時間の推移は解けないので、荒っぽいことをしよう。今、有限の時間で、すべての人、N 人が罹患したとする。最後の感染者が出た時刻以降には、すべての「感染者」はいずれ「治癒者」になるので、零になるはずだ。この瞬間をとらえると(9)の左辺は零になる。積分0 t X(t) dt が出来ないので、全員が有限の時間 τ で感染したとして、

 

    ∫0 t X(t) dt = Nτ

 

と、荒っぽく置いてみよう。また、初期の時刻 t = 0 では、種となる感染者は少なく、ほぼ全員「健常者」だとすると、Y0 ≒ N としてよかろう。そうすると、(9)式から、

 

    0 = N- N exp( - v Nτ ) - r v Nτ

 

となる。r = w / v と書いたことを思い出すと、rv = w だから、ちょっと整理して

 

    ( 1― wτ ) N = N exp(- v Nτ)

 

となり、対数をとると

 

    N = -( 1 / (vτ) ) × ln ( 1-wτ)    ・・・(10)

 

となる。。感染のスピードみたいな v と、治癒するスピードみたいな w が与えられていて、閉ざされた世界の人数 N がわかっていた時に、上の式を成り立たせるような有限の τ があれば、すべての人が感染してしまうということだ。でも、この荒っぽすぎる議論では、右辺の対数の中身、1-wτ が零になれば対数はマイナスで無限大になるので、τ = 1/w の時間で必ず無限大になるので、必ず 1/w までのどこかの時間で N と等しくなり、完全に蔓延してしまうことになる。しかし、もし、かなり大きな τ でなければ条件を満たさないのであれば、実質 τ→∞ とみなせて、感染は蔓延しないということになろう。季節が変わって、v とか w とかの時間依存性まで考慮しないといけないとか。

 でも、もうちょっと、丁寧に解析しないとなぁ。蔓延するかしないかの臨界点となる r ( = w / v ) を見つけたかったのだが・・・。