126.時間発展と虚数

 2020年も2学期になり、感染症禍の中、対面授業が一部再開された。学生さんも授業参加できるので、授業後に気楽に質問ができるようになったのは好ましい。

 

 ある授業の後、量子力学を自分で勉強しているという学生さんから、量子力学の基礎方程式のシュレーディンガー方程式の時間発展部分に、なぜ虚数単位が現れるのか、という質問を受けた。こんな方程式。

 

    i ℏ ∂ψ/∂t = H ψ   ・・・(1)

 

左辺に虚数単位 i(=√(-1))が現れる。物理なんだから実数の世界なのに、なぜ虚数が出てくるか?

 

 そういえば、少し違うが、学生の時に何故、量子力学波動関数 ψ は複素数なんだろうと考えたことを思い出した。質問の回答にはならないかもしれないが、折角思い出したので、備忘しておこう。

 

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 量子の世界では、粒子に波動性が伴う。粒子である電子の 2 重スリット実験を見ておこう。まず、スリットが一つのとき。図で、1の場合。左からやってきた電子は、衝立の穴、スリット①を通ってくるので、スリットの真正面に電子が来る割合は多いだろう。スクリーンに、電子を捉えたカウント数をプロットしていくと、スリットの前が多いヒストグラムになるだろう。図では曲線で書いておいたが。

 今度は図2のように、スリット②だけ空けておく。そうすると、スリット②の前に到達する電子は多いだろう。

 そこで、今度はスリットを①、②ともに空けておく。そうすると、スリット①と②の前に到達する電子が多く、カウント数のヒストグラムは 2 つのピークを持つかと思いきや、3のように電子がたくさん来るところと全然来ないところが何度も繰り返して現れる。これは、光を2重スリットに通して波の干渉縞を観察する実験で得られるパターンと同じであり、波の干渉縞が現れているのと同じになっている。こうして、電子には、ある種の“波動”が伴うと結論される。

 そこで、①を通った電子の波動の状態を ψ1、②を通った電子の波動の状態を ψと書くことにすると、2 つともスリットを空けたときの波動の状態 ψ は、波は拡がり、重ね合わせができるので、比例定数を除いて ψ=ψ1+ψと書けるはずだ。この電子の波動の状態そのものが電子を観測したカウント数に直接比例するなら、ψ で表される 2 つのスリットを空けた場合のカウント数は、ψと ψの和、つまりふた山になるはずだ。

 しかし実験結果は異なる。

 

 そこで、電子を観測したときに電子のカウントした位置が、電子の波動の状態の2乗に比例するなら、うまく干渉縞が説明できる。2 乗と書いたが、今、複素数が出るかも、という話をしているので、絶対値の 2 乗としておこう。こうして、

 

    |ψ|2 = |ψ1|2 + |ψ2|2 + ( ψ1ψ2* + ψ1*ψ2 )

 

となり、右辺の最初の 2 つの項がそれぞれのスリットの前に来るふた山になるはずのものだが、3 項目の括弧の項が干渉縞を与える項になり、実験を説明できる。

 

 今の 2 重スリットの例では電子が来るところ、来ないところが現れたが、2 重スリットなんか考えなくて、電子がどこにでも等しい割合でやって来る状況を考えてみよう。もし電子に伴う波を実数の波に制限すると、電子がどこにでもやってくるという状況を表すことができない。実数の波はフーリエ解析を使えば、いや、使うまでもなく、サインやコサインの三角関数、あるいはそれらの重ね合わせで書けるはずだ。例えばサインだと、波は

 

    sin (2πνt -2πx/λ)

 

と表される。ここで、ν は波の振動数、λ は波の波長だ。t は時間、x は座標。この波の2 乗、または絶対値の 2 乗は図のように、0 になるところも出てきて、一様な値にならない。

 

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 “波”なのに、2 乗または絶対値の 2 乗が場所に依らずに一定になるためには、サイン、コサインを重ね合わせて複素数の波を作ればよい。例えば、

 

     ψ(x,t) = cos (2πx/λ-2πνt) + i  sin (2πx/λ-2πνt)

       = exp ( i (2πx/λ-2πνt))

 

を用いてみよう。ここで、オイラーの公式

 

   eiθ = cosθ + i sinθ

 

を使った。また、exp ( iθ) = eiθ のこと。このとき、

 

   |ψ(x,t)|2 = exp ( i (2πx/λ-2πνt)) × exp (- i (2πx/λ-2πνt))

       = 1

 

なので、位置 x に依らず一定値となる。こうして、至る所、同じ割合で電子が観測される状況が実現される。

 こうして、粒子に伴う波は、複素数の波を許さなければならないという理解に至る。

 

 さて、粒子に波の性質が伴うのならば、波の伝播を考えることができる。詳細は省略するが、ファインマンはこの状況から経路積分を導いた。最初に粒子がいた位置 rと、次に粒子を観測した位置 rを固定しておいて、2点を結ぶ可能な経路 r(t) について積分する。

 

    ψ(rf , t ) = ∫D r(t) exp(iS/ℏ) ψ(r0 , t0 )

 

ここで、S は作用と呼ばれる量で、また、ℏ= h /2π。hはプランク定数。eiS/複素数とはいえ三角関数の波なので、プラスとマイナスの部分があり、積分していくと殆ど打ち消しあって寄与しない。最も経路積分に寄与するのはあまり振動しないもの、すなわち S が最小になる経路 r(t ) が“粒子”の軌道を与えることになる。これが解析力学で言う最小作用の原理だ。粒子に伴う初期の波 ψ(r0 , t0 ) が eiS/で伝播していくので、eiS/も波だとみなそう。作用 S は解析力学では、空間 1 次元で、かつエネルギーが保存する場合には

 

    S = ∫dt ( p (dx/dt) -E )

     = ∫p dx -E t

 

となる。ここで、p は運動量、x は座標、E はエネルギー。粒子に力が働かなければ、運動量 p は位置 x に依らず一定なので、S は

 

    S = px-Et

 

となるので、波は

 

    eiS/ = exp [ (i/ℏ)・( px-Et)]

 

となる。さっきの複素数の波

    ψ = exp ( i (2πx/λ-2πνt))

 

と比較すると、

 

    2πν=E/ℏ

    2π/λ = p/ℏ

 

が得られる。こうして、ℏ= h / 2π に注意して、

 

    E = hν

    p = h / λ

 

が得られる。左辺は“粒子”のエネルギーと運動量。右辺は“波”の振動数と波長。こうして粒子性と波動性がプランク定数 h を通して結び付く。この関係を、アインシュタイン・ド-ブロイの関係式という。

 

 さて、粒子に伴う波動が

 

    ψ(x, t ) = exp [ (i/ℏ)・( px-Et)]

 

の場合、左辺の“波”から“粒子”の性質、すなわちエネルギー E と運動量 p を引き出すには、

 

     i ℏ∂ψ/∂t = E ψ     ・・・(2)

    -i ℏ∂ψ/∂x = p ψ

 

と、虚数単位 i を含んだ微分演算を行えばよい。一般にエネルギーは、ポテンシァル(位置)エネルギーを V(x) として

 

    E = p2 /(2m) + V(x)

 

となる。ここで、運動量 p を波 ψ から取り出すには、座標微分-i ℏ∂/∂x を波 ψ に施せばよかった。したがって、上の E を波 ψ から取り出すには、波 ψ に作用して粒子の量を取り出すべきと考えると、E を H と書くことにして

 

    E → H = - (ℏ2/(2m)) ∂2/∂x2 + V(x)   ・・・(3)

 

として、(2)は

 

        i ℏ∂ψ/∂t = H ψ

     ここで、Hは(3)式

 

となり、(1)式が得られる。こうして、(1)の左辺の時間発展のところに、虚数単位iが現れる。粒子に伴う波が複素数の波とならざるを得なかった。

 

 こんな説明で、質問の回答になっているかなぁ。

125.快適な宇宙旅行

 Go to トラブル、ミスタイプだ、Go to トラベルを始めとした、Go to カンセーン、今日はタイプミスをよくするなぁ、もとい、Go to キャンペーンが政府の肝いりで行われている( 2020 年 9 月現在)。国内旅行などを推奨して、経済を動かそうという目論見。海外旅行はまだ難しそうなので、折角だから宇宙旅行に出かけよう。

 でも、無常量状態でぷわぷわ浮かんだまま旅行すると、絶対宇宙酔いしそうなので、なるべく快適な宇宙旅行をしたい。

 アインシュタインが、光速に近い物体の運動を記述するにはニュートン力学ではダメだということに気づき、特殊相対性理論を作った。さらに、加速度まで考えると、必然的にニュートンの重力理論を変えて作り直さないといけなくなり、一般相対性理論を作り上げた。その時、加速度系に居る人は、自分が加速度を持つ座標系に居るのか、はたまた、加速度座標系ではない慣性系なのだが単に重力場中にいるのか、区別ができないことに気づき、「等価原理」として一般相対性理論、重力の理論を構成する際の指導原理とした。エレベーターが上に向かって動き出したとき、下向きに押さえつけられるのと同じだ。エレベーターが上向きの加速度を持ち、エレベーターの中が加速度座標系になったので、加速度の向きと反対向きに押し付けられる。でも、ひょっとしたら、エレベーターは静止したままで、急に地球が私たちを引っ張る重力が強くなったのかもしれない。区別ができないはずだ。

 地表面付近にある物体は地球の重力場にいるので、地球が地表面付近の物体を引っ張る引力によって地表面付近の物体には加速度が生じる。物体に生じた加速度を g と書こう。地球の質量を M、地球の半径を R、地表面付近にある物体の質量を m、万有引力定数を G とすると、第 2 回でやったように、(質量)×(加速度)=(力)、つまり

 

    m g = G mM / R2

 

から、物体に依らず、地上の物体は

 

     g = G M / R2 = 9.8 m/s2

 

という共通の加速度を持つはずだと言える。この g を重力加速度と呼ぶ。

 というわけで、常に重力加速度でもって宇宙船が進んで行けば、「等価原理」から、宇宙船の中の人は、実際には宇宙船が加速度座標系なのだが、宇宙船は静止していて地球と同じ重力場中に居るのと区別がつかず、地上にいるのと同じ環境になるはずだ。地球から目的地に向かって一定の加速度 g で進んで行くと、宇宙船の中の人は出発した地球側を「下」として、押さえつけられ、地上にいる重力場と同じ環境になる。目的地まで、ちょうど半分の距離まで宇宙船が到達したら、今度は大きさ g の加速度でもって減速していけばよい。今度は地球側を「上」、目的地側を「下」にして、下側に押し付けられ、地上にいるのと同じ環境になる。ちょうど半分で加速度の向きを反転したので、目的地には速度 0 で軟着陸できるだろう。宇宙船の中では、真ん中の距離のところで加速度を反転させる時だけふわっとなるけど、それ以外は宇宙船の片面を床にして、自由に歩き回れて、地球に居るのと同じ快適な「重力圏」に居るのと同じになる。

 

 とりあえず目的地を隣の恒星、プロキシマケンタウリをまわる惑星、プロキシマケンタウリ b にしよう。地球から 4.2 光年離れている。この惑星は地球の 1.17 倍の質量を持つので、重力の大きさとかではまぁまぁ快適だろう。そのうえ、水が液体で存在できそうな惑星で、生命居住可能領域、いわゆるハビタブルゾーンにある。

 

 今、宇宙船は地球に対して速さ V [m/s] になっているとしよう。地球が静止系として、地球でで測った時間 ΔT [s] と、速度 V で動く宇宙船内での進む時間 Δt は、アインシュタイン特殊相対性理論から

 

   Δt = ΔT×√( 1-V2 / c2 )  ( = ΔT×( 1-V2 / c2 )1/2 ) ・・・(1)

 

の関係がある。ここで、c は光速度、c = 3.0×108 [m/c]。ここで、√( 1-V2 / c2 ) ≦ 1より、

 

    Δt < ΔT

 

となるので、動いている宇宙船内の時間は、地球で経過する時間に比べて遅れる。

 宇宙船の人にとっては、今、速さ V であり、Δt の時間で加速して速さが Δv 増加したとしよう。特殊相対性理論の速度の合成則から(ここでは認めてください)、地球から見た加速後の速さ V'は

 

    V' = ( V +Δv ) / ( 1 + V×Δv / c2 )   ・・・(2)

 

と得られる。宇宙船の加速により、地球に対して ΔV [m/s] だけ速くなっているとすると、もともと速さが V だったので、地球の人にとっては宇宙船は

 

    V' = V + ΔV    ・・・・(3)

 

の速さになったはずだ。こうして、(2)= (3)として、

  

   ΔV = Δv × (1-V2 / c2) / ( 1 + V×Δv / c2)

 

が得られる。地球から見た人が測定する宇宙船の加速度 A [m/s2] は、地球から見た宇宙船の速度の変化 ΔV を、かかった時間 ΔT で割れば得られる。ΔT の代わりに(1)から Δt で表すと

 

   A = ΔV / ΔT = (Δv / Δt )×( 1-V2 / c23/2 / ( 1 + V Δv / c2 )

 

となる。ここで、Δv→0、Δt→0 の極限をとると、Δv/Δt は宇宙船の人が感じる加速度なので、これを a [m/s2] と書いて

 

    A = ΔV / ΔT = a × ( 1-V2 / c2 )3/2   ・・・(4)

 

と、地球と宇宙船の中の人の加速度に関係が付く。

 ここからは、宇宙船に乗る人が感じる加速度 a は一定としよう。宇宙船内の人が感じる等価速度運動だ。

 (4)式から、ΔT→dT、ΔV→dVと書いて積分に直すと

 

    ∫dV / ( a×( 1-V2 / c2 )3/2 ) = ∫dT

 

となり、この積分は実行出来て

 

    T = V / ( a×( 1-V2 / c2 )1/2 )

 

と得られる。逆に V について解くと、さらに

 

    V = aT / ( 1 + a2T2 / c2 )1/2      ・・・(5)

 

が得られる。これは、地球の人が時刻Tの時に、地球の人から見た宇宙船の速さ V である。

 次に V = ΔX / ΔT で、ΔX は地球から見て時間 ΔT の間に宇宙船が進んだ距離としよう。地球時刻 Tで宇宙船が地球から進んだ距離 X が次のように計算出来る。ここで、Vに(5)を使って

 

    X = ∫( dX / dT ) dT = ∫V dT = a ∫ T / ( 1 + a2T2 / c2 )1/2 dT 

     = ( c2 / a ) × ( ( 1 + a2T2 / c2 )1/2 -1 )           ・・・(6)

 

となる。T=0 で X=0 を考慮した。逆に解いておくと

 

    T = ( c / a ) × [ ( 1 + a X /c2 )2 -1 ]1/2   ・・・(7)

 (1)式に戻って、やっぱり積分してみよう。V に(5)を用いて

 

    t = ∫dt = ∫0T ( 1-V2 / c2 )1/2 dT

     = ∫0T 1 / ( 1+ a2 T2 / c2 )1/2 dT

     = ( c / a ) × arcsinh (aT / c )      ・・・(8)

 

積分できてしまう。ここで、arcsinh は、ハイパボリックサイン、sinh逆関数で、ハイパボリックサイン自体は、sinh θ = ( eθ - e-θ ) / 2 が定義。こうして(8)から、さらに逆関数をとって

 

    T = ( c / a ) × sinh( at / c )

 

と得られる。ちなみに、(6)の X の右辺の T に、今得られた T を代入すると

 

    X = ( c2 / a )× ( ( 1 + sinh2 (at/c))1/2 - 1 )

 

が得られ、こうして、宇宙船の地球からの距離 X が、宇宙船の中の人の時間 t と、宇宙船の中の人が感じる加速度 a で表せた。c は光速だった。

 

 さて、4.2 光年先のプロキシマケンタウリ b に行くことを計画しているのだった。2.1光年先まで加速度 a=g で行って、あと半分は加速度 g で減速していく。プロキシマケンタウリ b まで要する飛行時間は、その距離の半分まで行くのにかかる時間の 2 倍になるだろうから、X=2.1 光年として、かかった時間を 2 倍して評価しよう。まず、

 

    X = 2.1光年 × 365.25日 × 24時間 × 60分 × 60秒  ×(3.0×108  m/s)

     = 2.0×1016 m

 

(7)から、宇宙船が 2.1 光年先まで到達したときの地球で測った時間 T は、上の X を代入して

 

    T = 9.19×107 [s] = 2.9年

 

(8)から、2.1 光年まで到達したときに宇宙船の中の人が感じる時間 t は、この T を用いて

 

    t = 5.56×107 [s] = 1.8 年

 

と計算できる。こうして、プロキシマケンタウリ b まで、宇宙船の中の人にとっては 2t = 3.6 年で着く。地球の人にとっては 5.8 年後だが。

 

 4.2 光年先まで、3.6 年と意外と早く着いたので、目的地を変えて、もう少し遠くまで旅行してみよう。地球から 39.4 光年先のトラピスト-1 の周りをまわる惑星、トラピスト-1eへの旅行を計画するのがよさそうだ。光の速さで 40 年弱もかかるのなら行くのも嫌だが、半径が地球半径の 0.92 倍、重さは地球質量の 0.77 倍、よって、地表面での重力加速度は 8.94 m/s2 なのでまぁまぁ良さそうな惑星だ。おまけに平均気温は大気の温室効果を考えなければ-22 度だそうで、地球も大気の温室効果を考えなければ-18 度なので、温室効果ガスがあれば地球並みで、暮らしやすいだろう。トラピスト-1e までの距離の半分まで飛行にかかる時間を計算して 2 倍しよう。今度は、

 

    X = ( 39.4 / 2 )光年 × 365.25日 × 24時間 × 60分 × 60秒 × (3.0×108  m/s)

     = 1.86 × 1017 m

 

となるので、(7)、(8)式から

 

    T = 6.51 × 108  [s] = 20.6 年

    t = 1.15 × 108 [s] = 3.63 年

 

ということは、宇宙船中では 2t = 7.3 年の時間で、40 光年先まで行けるというわけだ。

 

 意外といけるなぁ。オリオン座のペテルギウスが爆発しそうなので、見に行ってみようか。地球から 640 光年くらい離れているので、光の速さで 640 年かかる。でも、宇宙船内の時間は遅れてゆっくり進むので、可能性はありそうだ。計算してみよう。

 

    X = ( 640 / 2 ) 光年 × 365.25日 × 24時間 × 60分 × 60秒 × ( 3.0×108  m/s )

     = 3.02 × 1018 m

 

となるので、(7)、(8)式から

 

    T =1.01 × 1010  [s] = 321 年

    t = 1.98 × 108 [s] = 6.30 年

 

ということで、2t = 12.6 年で、ペテルギウスを見に行ける。地球では 640 年以上経っているのだが。

 ハビタブルな惑星が見つからなければ地球に帰ってくることになるが、宇宙旅行は 25 年強で終えて、地球に帰還できる。しかし、地球は出発後、1284 年も経ってしまっている。今 ( 2020 年)から 1284 年前と言えば 736 年。日本は奈良時代だ。藤原鎌足の子の不比等の子、藤原 4 兄弟、武智麻呂(むちまろ)、房前(ふささき)、宇合(うまかい)、麻呂(まろ)が聖武天皇の下で政治を執っていたころだ。今から 1284 年後はどんな時代なんだろうか。

 

124.確率は難しい?

 高校生の時、数学はまぁまぁ出来た方だと思うが、確率だけは苦労した。条件付確率辺りが特に厄介だった覚えがある。

 

 確率は難しいらしく、有名なところでは「モンティ・ホール問題」というのが知られている。アメリカのモンティ・ホールという人が司会をする「Let’s make a deal」 という番組でゲームが行われていたそうだ。どんなものかというと、ゲームの挑戦者の前に3 つのドアがあり、そのうちの一つのドアの向こうには車が、あと 2 つのドアの向こうにはヤギがいる。車のドアを当てれば、その新車がもらえるというゲーム。ドアが 3 つあり、そのうちの一つに車があるのだから、車をもらえる確率は 1/3 (3分の1)だ。挑戦者がドアを選ぶと、司会者のモンティ・ホールが、選んでいない 2 つのドアのうち、ヤギのいるドアを開ける。そこで、挑戦者はドアを変えることが許される。ドアを変えても変えなくても、正解する確率は 1/3 のままのような気がするが、最初に選んだドアを変えた方が、正解する確率が 2 倍になるそうだ。ある雑誌の読者質問欄に、モンティ・ホールがヤギのドアを開けた後、ドアを変えた方が良いのか変えない方が良いのかをある読者が質問したところ、マリリン・ボス・サヴァントという名の回答者が、ドアを変えた方が良いと回答し、数学者を巻き込んだ議論になったそうだ。しかし、マリリンが正しかった。

 

 どういうことか。

 

 まず、最初にドアを選んだ時、3 つのドアから一つ選ぶのだから、車を選ぶ確率は 1/3だ。司会者が、選ばれなかった 2 つのドアのうちから、ヤギのいるドアを開けてみせる。ここで、初志貫徹することに決めていたら、車が当たっている確率は 1/3 のままだ。

 ところが、必ずドアを変更することにする。

 図で見たら早い。最初に車を選んでいても、必ずドアを変更したらハズレだ。ハズレの確率は、最初に正解のドアを選んだ 1/3 だ。一方、最初にヤギのドアを選んでいて必ずドアを変更すると、確実に車にあたるので、最初にハズレを選んだ 2/3 の確率で車が当たることになる。

 

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 では、ドアを変更しなかったら? 最初に 1/3 の確率で車を選んでいたので、ドアを変更しなければ確率 1/3 のまま、車がもらえる。最初、2/3 の確率でヤギを引いていたので、ドアを変更しなかったら 2/3 の確率のまま、ヤギだ。こうして、最初に車を選んでいた 1/3 の確率で車に行きつくことになる。

 ドアを変更したら 2/3 の確率で車、変更しなければ 1/3 の確率で車。車をもらえる確率が、確かに倍になっている。

 

 今度は、確実にドアを変更するのではなく、半々の確率で、ドアを変更したりしなかったりしたらどうなるだろうか。最初に車を選んでいる確率が 1/3、次に 1/2 の確率でドアを変更したらヤギで、1/2 の確率でドアを変更しなかったら車だ。だから、1/3×1/2=1/6 の確率で車に行きつく。一方、最初、2/3 の確率でヤギの時、1/2 の確率でドアを変更したら車なので、車に行きつく確率は 2/3×1/2=1/3 だ。こうして、車に行きつく確率は、先ほどの 1/6 と今回の 1/3 を足して、1/6+1/3 = 1/2 となる。下図が分かりやすいかな。

 

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 これは、司会者がヤギのドアを開けた後、2 つのドアを新たに選びなおしたので、正解する確率が、2 つに一つ、すなわち 1/2 の確率に変わったということだ。

 

 うーむ、難しい。

 

 ドアの数を 1000 個にして、そのうちの一つだけ車で、残りの 999は ヤギがいるとしよう。最初、一つドアを選ぶ。1/1000 の確率でしか車に当たっていないだろう。司会者が、残り 999 のドアのうち、ヤギのいるドアを 998 まで開けたとしよう。残るドアは、最初に選んだドアと、司会者が残したドアの 2 つだ。最初に選んだドアは 999/1000 の確率でハズレだったのだろうから、司会者が一つ残したドアに変更した方が当たるだろうというわけだ。

 

 次に、別の問題を考えてみよう。今度はコインだ。コインの表が出たら月曜日に質問され、裏が出たら月曜日と火曜日に質問される。しかし、被験者は日曜日に睡眠薬を飲まされており、飲まされた後の記憶はない。だから、裏が出たときに月曜日に質問されても、質問されたことは忘れてしまって、また火曜日に質問されるということになる。

 質問内容は、「コインが表だった確率はいくらと思いますか?」

コインの表が出る確率も裏が出る確率も、ともに 1/2 だ。だから、起こされて質問されたら 1/2 と答える。

 いや、結論するのは早い。場合の数としては、コインが表で月曜に質問された場合、コインが裏で月曜に質問された場合、コインが裏で火曜に質問された場合、の 3 通りあるが、コインが表だったのはそのうちの一つ、コインが表で月曜に質問された場合だけだ。3 通りのうち、一つなので、質問されたときにコインが表だった確率は 1/3 のはずだ。コイン投げでは表裏出る確率は同じなのに。

 さて、どちらが正しいのだろうか?

 「眠り姫問題」と呼ばれる難題だ。

 

 今度はサイコロ。あなたは大勢の人の中にいて、ランダムに選ばれるとしよう。呼ばれたときにサイコロが振られ、6 の目が出たら 1 万円没収されるが、それ以外の目が出たら 1 万円もらえる。お金の得られる期待値は、

 

   1万円×(5/6:もらえる確率)-1万円×(1/6:没収される確率)= 6666円

 

なので、ラッキーだ。期待値として 6666 円貰えるのだから、参加しない手はない。ただし、6 が出たら、ゲームはそこですべて終了。そのときまでにあなたがランダムに選ばれていなかったなら、まぁ、ゲームに参加できず、諦めよう。

 まず最初、一人呼ばれた。サイコロは 6 以外の目が出て、その人は 1 万円貰って帰った。うらやましい。

 次に 9 人呼ばれた。サイコロは、やっぱり 6 以外。この 9 人も同時に 1 万円ずつ貰って帰った。

 次いで、90 人呼ばれ、サイコロが 6 以外で、いいなぁ。

 次は 900 人だ。その次は 9000 人呼ばれる。最初の一人以外、9人、90人、900人と10倍ずつ呼ばれる。

 いずれ、6 の目が出て、そこに参加していた人は 1 万円ずつ没収される。そうすると、今まで参加していた人の 90 % の人が 1 万円ずつ没収されることになる。たとえば、9000人の時に 6 の目が出たら、それまでの 1+9+90+900=1000人は 1 万円ずつ得したが、最後の 9000人は 1 万円ずつ損し、ゲームの胴元は、9000万円―1000万円= 8000万円儲かる。言い方を変えたら、サイコロの目の出る確率として 5/6 の高確率で 1 万円得られるが、全体の 90 %が 1 万円損するということは、9/10 の確率で損をする。1 万円得られた人の集団に入る確率は、たった 1/10 の確率だということになる。

 あれ、さっき、1 万円貰える 5/6 の高確率はどうした?

 

 誰か、マリリンに聞いてくれないかなぁ

123.ネイピア数と三角関数

 前回と前々回、ネイピア数 e に触れた。

 

    e =  2.7182・・・

 

という数だ。この数を底にしておくと、ε を小さい数として、対数は

 

    ε ≒ log e (1 + ε )     ・・・(1)

 

と近似できた。

 

 今回は、「複素数乗」を見ておこう。

 

 x2 = -1 の解は、実数の中には見当たらない。(負の数)×(負の数)は正の数になるので、同じ数を 2 乗したら必ず正の数になってしまい、負の数にはならない。だから-1 になる数はない。そうしたら、解けない方程式が出てくるので、x2 = -1 の解として「虚数」を導入する。-1 の平方根を i と書き、虚数単位という。

 

    i = √(-1)

 

こうして、ネイピア数複素数乗を考えてみよう。eiθ を考える。θ は実数とする。e もまた複素数だろうから、

 

    eiθ = x + i y     ・・・(2)

 

と置いてみよう。ここで、x と y は実数、ふつうの数としておき、ここには虚数単位 i は含まれない。ここで、「複素共役」と呼ばれる数、e-iθ を導入しよう。i を-i にしたものなので、(1)と同様、i を-i にして

 

    e-iθ = x - i y     ・・・(3)

 

となる。(2)と(3)をかけると、すべての数の「ゼロ乗」は1だから、e0 = 1 を使って、

 

    1 = eiθ-iθ = eiθ×e-iθ = ( x +iy) (x-iy) = x2 + y2

 

となっていなければならないことがわかる。ここで、i=-1を 使っている。

 

 さて、(1)から、

 

    eε ≒ 1 + ε

 

だったので、ε= iθ として

 

    eiθ ≒ 1 + iθ

 

だ。θ が小さいとしたので、θ= 1/1024 あたりから計算しておき、次々掛け算して値を見てみよう。まずは

 

    ei (1/1024) = 1.000 + 0.00097656× i

 

次々かけるというのは

    

    ei (1/512)  = ei (2/1024) = ei (1/1024)×ei (1/1024)

        = ( 1 + 0.00097656× i )×( 1 + 0.00097656× i )

        =( 1×1 +0.00097656 ×0.00097656×i2 )

          + i×(1×0.00097556 +0.00097656×1)

        =0.9999990463 + 0.001953125 × i

 

という計算をするということ。次は、ei (1/256) = ei (2/512) = ei (1/512) × ei (1/512) を計算する。表にまとめてみよう。近似なので、あまり桁の数がずれていることには気にしないで。

 

        iθ       eiθ  

    -----------------------------------------------------

       i/1024         1.0000+0.000097656×i

       i/512          0.9999990463+0.001953125×i

       i/256          0.9999942779+0.003906246×i

       i/128          0.9999732971+0.007812447×i

       i/64           0.9998855606+0.015624477×i

       i/32           0.9995270100+0.031245378×i

       i/16           0.9980779701+0.062461199×i

       i/8            0.9922582330+0.124682293×i

       i/4            0.9690307268+0.247434064×i

       i/2            0.8777969335+0.479542422×i

       i             0.5405665220+0.841881735×i

 

電卓で計算しているので間違えているかもしれない。実際、

 

       i             0.5403+0.8415×i

 

になるはず。ここからは、この桁で進もう。

 

         i             0.5403+0.8415×i

       2i          -0.4162+0.9093×i

       4i          -0.6536-0.7569×i

       8i          -0.1457+0.9894×i

 

2 倍ずつしたが、例えば e3i だったら、

 

      e3i = e2i ei =(-0.4162+0.9093×i)×(0.5403+0.8415×i)

        = -0.9900+ 0.1411×i

 

として計算できる。

 ざっと見ると、eiθ の実数部分、x は 1 から始まり振動している。虚数部分、y は 0 から始まりやはり振動している。グラフに表すと、

 

        f:id:uchu_kenbutsu:20200620133747j:plain

となる。

  ここで、e の実数部分が 0 になる θ は 1 と 2 の間、実数部分を右に平行移動した虚数部分が 0 になる θ は 2 と 4 の間にある。そこで、虚数部分が 0 になる θ を π と書く。実数部分が最初に 0 になる θ は π/2 になる。虚数部分が最初に 0 になる θ、すなわち π は

 

    π=3.141592653589793・・・

 

となる。円周率の導入だ。

 

 さらに、実部、虚部の振動する関数として

 

    x= cos θ、  y = sinθ

 

と書いておこう。三角関数だ。確かに、x2 + y2 = cos2θ + sin2θ = 1 だ。

 

 こうして、

 

    eiθ = cosθ + i sinθ

 

オイラーの公式だ。

122.ネイピア数、再び

 学生時代、物理の勉強のため、「ファインマン物理学」を読みかかったことがあるが、難しいというよりテーマが多種多様で、何を足掛かりにしてすべてを構築していくべきか良くわからず、途中で読むのをやめてしまった。「ランダウ・リフシッツ理論物理学教程」の記述スタイルの方がしっくりきた。

 のちに、一通りの物理の基礎を勉強し終えてからファインマン物理学を読むと、極めて面白く読めてしまった。一回、物理をやってから読むべき本だなぁと思ったものだ。

 その「ファインマン物理学」の力学編に、代数学の章があり、説明うまいなぁと感じ入ったので、著作権の問題もあろうかとも思うが、備忘しておきたい。

 いや、すでに第 28 回「対数」の最初のところはファインマン物理から採っていた。

 

 対数自身については第28回「対数」または第 83 回「対数表」を見てもらおう。

 

 電卓で計算するのだが、まずは電卓が無いとして、平方根を求めてみよう。実に収束性の良い式がある。Xの平方根、√X を求めたいときには、2 乗したら X になりそうな適当な数 aをとって、

 

    a2 = (a1 + X / a1 ) / 2

 

を計算する。この aを改めて aと思い、また上の式に代入する。具体的に書くと

 

    a3 = (a2 + X / a2 ) / 2

 

で a3 を求める。この操作を繰り返すと、やがて X の平方根が得られる。要するに、適当な初項 a1 から初めて、数列

 

    an+1 = (an + X / an ) / 2    ・・・(1)

 

計算して行けというわけだ。これがXの平方根になることは、an がある値 a に近づいたと思って、an = an+1 = a とすると(1)は

 

    a = ( a + X / a ) / 2

 

なので、両辺 2a をかけて整理すると

 

    X = a2

 

になるので、a は √X というわけだ。

 X=2 としてやってみよう。2 乗して 2 になりそうなのは 1.5 より少し小さいと見積もれる。1.5×1.5 = 2.25 だから。a1 = 1.5 と置いてやってみよう。(1)式で

 

    a2 = (1.5 + 2 / 1.5 ) / 2 = 1.416666・・・

    a3 = (1.416667 + 2 / 1.416667 ) / 2 = 1.4142156・・・

    a4 = (1.414216 + 2 / 1.414216 ) / 2 = 1.41421356・・・

 

もうすでに、たった 3 回で「人世(ひとよ1.4)人世(1.4)に(2)人(1)見(3)ごろ(56)」と、知っている桁まで得られた。

 

 平方根を手計算する方法を手に入れたので、10 から始めて、次々に平方根をとっていこう。平方根は 101/2 とかくので、次々に平方根をとるというには、

 

    (101/2)1/2 = 101/4

    ((101/2)1/2 )1/2= 101/8

    (((101/2)1/2 )1/2 )1/2= 101/16

      ・・・

 

を計算するということ。表にしておこう。

 

 

     s       10s  

    -----------------------------------------------------

     1       10

     1/2               3.16227766・・・

     1/4      1.77827941・・・

     1/8      1.333531432・・・

     1/16      1.154781985・・・

     1/32      1.074607828・・・

     1/64      1.036632928・・・

     1/128     1.018151722・・・

     1/256     1.009035045・・・

     1/512     1.004507364・・・

     1/1024     1.002251148・・・

     1/2048     1.001124911・・・

     1/4096     1.000562313・・・

     1/8192     1.000281117・・・・

     1/16384    1.000140549・・・

     1/32768    1.000070272・・・

   --------------------------------------------------------

 

ここまでする必要もないが、計算はできるというわけだ。最初の方はそうも見えないのだが、s が小さくなるにつれ、10の小数点以下の部分は、一つ前の s のときの半分になっているように見える。例えば、s=1/512 の時には小数点以下は 0.004507364 だが、これを半分にして 1 を足すと、1.002253682 となり、s=1/1024 のときの 10s に近い。ほかのところも確かめられる。ということは、おそらく、10 p /32768 として、p=1、1/2、1/4・・・と次々計算して行かなくとも、おそらく

 

    10 p /32768 ≒ 1 + 0.000070272 × p

 

と近似できそうだ。数値を少しいじると、上の式は

 

    10 p /32768 = 1 + ( 2.3026… / 32768 )  × p

 

のようにも書ける。s = 32768 まで計算するのは実用的ではないので、10 p /1024 くらいまでにとどめておいて、上の式と同様に

 

    10 p /1024  ≒ 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × p     ・・・(2)

 

という近似式を用意しておこう。p = 1/2で 、この近似式では

 

    10 1 /2048  = 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × ( 1/2 ) = 1.001124・・・

 

が得られ、・・・の前の桁までは正しい。p=1/4 では

 

    10 1 /4096  = 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × ( 1/4 ) = 1.000562・・・

 

まぁ、良しとしよう。

 

 ここまで準備すると、底が 10 の対数がそこそこ計算できる。例えば、log10 2 を計算してみよう。表を見て、10s が初めて 2 より小さくなるところを見てみよう。s=1/4 の1.77827941 だ。2 をこの数で割っておく

 

    2/1.77827941 = 1.12467336・・・

 

でてきた 1.12467336 より初めて小さくなる s は、表から 1/32、つまり 1.074607828 なので、またこの数で割っておく。

 

    1.12467336  / 1.074607828 = 1.046589584・・・

 

今度は s = 1/64 だ。

 

    1.046589584 / 1.036632928 = 1.009604804・・・

 

次は s=1/256。

 

    1.009604804 / 1.009035045 = 1.000564657・・・

 

つぎは s=1/4096 だが、しんどいのでそろそろやめよう。最後に得られた 1.000564657は、近似式(2)を使うと

 

    1.000564657 = 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × p 

        -> 

    p = 0.25111・・・

 

よって、

 

    1.000564657 = 100.25111/1024

 

何をしてきたかというと、2を次々割り算していったので、逆に得られた割り算の結果、つまり商を掛け算していくと 2 に戻るというわけだ。

 

    2 = 1.77827941×1.12467336

     = 1.77827941×( 1.074607828×1.046589584)

     = 1.77827941× 1.074607828×( 1.036632928×1.009604804)

     = 1.77827941× 1.074607828× 1.036632928×1.009035045×1.000564657

 

さて、最後の行の各数字は、表から 10s と得られていたので、

 

    2 = 1.77827941× 1.074607828× 1.036632928×1.009035045×1.000564657

     = 101/4 ×101/32 × 101/64 × 101/256 × 100.2511/1024

     = 10(1/4 + 1/32 + 1/64 + 1/256 + 0.2511/1024)

     = 100.30102

 

が得られる。両辺、底が 10 の対数をとれば

 

    log102 = 0.3010・・・

 

と、求まるというわけだ。

 

 話を転回して、近似式(2)を見てみよう。再掲すると

 

    10 p /1024  ≒ 1 + ( 2.3026… / 1024 )  × p     ・・・(2)

 

ここで、p / 1024 = ε と書くことにすると、ε はごく小さい値を持っていて、上式の近似式は、両辺、底が 10 の対数をとることで

 

    ε ≒ log10 ( 1 + 2.3026ε)

 

となっている。逆に、2.3026 ε を改めて ε と思うと(ε’ にした方が紛らわしくないかもしれないが)

 

    ε / 2.3026 = log 10 (1 + ε)    ・・・(3)

 

とも書いてよい。

 

 いつも出てくる 2.3016 何某が鬱陶しいので、ある数 e を底にとって

 

    ε= log e (1 + ε )     ・・・・(4)

 

と簡単になる e を探そう。対数の規則(第 28 回参照)から

 

    loge ( 1 + ε) = log 10 ( 1 +ε) / log 10 e

 

が成り立つので、(3)と(4)から、上式は

 

    ε= ( ε / 2.3026 ) / log 10 e

 

両辺 ε で割ると

 

    log 10 e = 1 / 2.3026

 

だから、e が求まり

 

    e = 101/2.3026 = 2.7182・・・

 

という数値が得られる。

 

 近似をしたので数値的に正確ではなかったが、実は、この e は前回の「ネイピア数」そのものだ。

   

 

    

121.ネイピア数

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 

 この感染症禍のもと、大学入構禁止となって、在宅でオンライン授業を受けている学生さん達が元気に過ごしていることを願って已まない。

 簡単に、「不安はパッと消え」ない。

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

 銀行にお金を預けていたら、いつの間にか利息が付いていた、という時代は過去のものになっている。だから、ちょっと、夢を見よう。

 

 1 年間お金を預けたら、100 %の利率で利息が付く銀行に、1 万円預けたとしよう。1年後には、

 

   1万円 ×1(元本)+ 1万円 ×1(利息)= 1 万円 × ( 1 + 1 )

                    = 2 万円

 

と、2 万円になっている。

 

 嬉しい。

 

 右辺の括弧の中の最初の1は元本の部分、1 万円 ×1だ。2 番目の 1 は利率。100 %=1ということだ。

 

 銀行にお願いして、半年毎に利息をつけてもらえるようにした。利率は 1年で 100 %になるように、半年では 50 % = 0.5 とするという条件は呑む。この場合、

 

    1 万円 × ( 1 + 0.5 ) × ( 1 + 0.5 ) = 1 万円  ×( 1 + 1/2) 2

                  = 2.25 万円

 

最初の( 1 万円 × ( 1 + 0.5 ) )は、半年で増えた分だ。これを基本に、次の半年で、元本分 1 と利息分 0.5 を足したもの、 ( 1 + 0.5 ) を掛けると、後半の半年での元本と利息の合計になる。半年に分けると、2 万 2 千5 百円になり、有利だ。半年で付いた利息分を、次の半年の元本にできるから。

 

 だんだんパターンがわかってくる。毎月、1/12 = 8.3333・・・% の利息で、毎月利子をつけてもらうと

 

    1万円 × ( 1 +1/12 ) × ( 1 + 1/12 ) ×…×(  1 +1/12) 

   =1 万円 × ( 1 + 1/12 ) 12

   = 2.61303・・・万円

   ≒ 2 万 6130 円

 

ちょっと増えた。

 味を占めたので、日割りにする。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 365 ) × ( 1 + 1 / 365 ) ×…×( 1 + 1 / 365 )

   =1万円 × ( 1 + 1 / 365 ) 365

   = 2.71456748202・・・万円

   ≒ 2 万 7145 円

 

またちょっと増えた。計算はコンピュータにやらせよう。ついでに、「時間割」にしてみよう。1 年は 36 5日×24 時間 = 8760 時間だ。

 

    1万円 × ( 1 +1 / 8760 ) × ( 1 + 1 / 8760 ) ×…× ( 1 +1 / 8760 )

   =1 万円 × ( 1 + 1 / 8760) 8760

   = 2.71812669162・・・万円

   ≒ 2 万7181 円

 

あんまり増えないなぁ。「分割り」にしてもらおう。1 年は、8760 時間 × 60分 = 525600 分だ。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 525600 ) × ( 1 + 1 / 525600 ) ×…× ( 1 +1 / 525600 )

   =1 万円 × ( 1 + 1 / 525600) 525600

   = 2.718127924258・・・万円

   ≒ 2 万 7182 円

 

ほとんど増えない。1 円増えただけ。えい、「秒割」をお願いする。1 年は、525600 分× 60 秒 = 31536000 秒だ。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 31536000 ) × ( 1 + 1 / 31536000 ) ×…× ( 1 +1 / 31536000 )

   =1 万円 × ( 1 + 1  /31536000) 31536000

   = 2.718127924258・・・万円

   ≒ 2 万 7182 円

 

ここまでの桁では、もう変わらない。

 

 いっそ、無限分割して

 

    lim n→∞ ( 1 + 1 / n ) n

 

を考えると、この数は有限で、e と名前を付けて

 

    e =  lim n→∞ ( 1 + 1 / n ) n

  = 2.718281828459045235360287471352662497757247093699959574966967・・・

                                ・・・(1)

  

と、無限に続く数になる。

 

 この数は、ネイピア数として知られている。

 

 高等学校で微分を習うと出てくる数だ。円周率と同じく、数字が無限に続く無理数で、整数係数の代数方程式の解にはならない超越数だと知られている。

 

 微分でなぜ出てくるか。

 

 ある数 a の指数関数

 

     f (x) = ax    ・・・(2)

 

を考える。各点 x で、微分値、つまり導関数 d f(x) / dx が、その点での関数値 f(x) と等しくなるような数 a を探そう。微分の定義は

 

     「その点での値と、“隣の点”での値の差を、その点と“隣の点”の“距離”の差で     割ったもの」

 

だ。こうして、その点での接線の傾きが求まる。

 

 “隣の点”なんていうと、数学の先生は眼を剥くが。

 

 微分の値が、その点での関数の値と等しくなるのだから

 

    d f(x) / dx = f(x)     ・・・(3)

 

だ。微分の定義から

 

    d f(x) / dx = lim h→0 ( f( x+h) – f(x) ) / h    ・・・(4)

 

となる。lim h→0 は、“隣の点”を考えるので、2 点の差 h は限りなく小さく、極限としては 0 に持っていきなさいという命令。

 

        

 

(2)、(3)、(4)を使うと、微分の値がそこでの関数の値に一致するための数 aは 

 

    

    d f(x) / dx = lim h→0 ( ax + h – ax ) / h = ax   ・・・(5)

 

が成り立て、ということ。要するに

 

     lim h→0 ( ax + h – ax ) / h = lim h→0 ax ( a h – 1 ) / h

    = a x lim h→0 ( a h – 1 ) / h  =  ax 

               

 

が成り立てばよい、両辺 ax で割ると

 

    lim h→0 ( a h – 1 ) / h = 1

 

が成り立て、というわけだ。ちょっと、h を残してこの式を a について解くと、

 

    ( a h – 1 ) / h = 1  →  a = ( 1 + h )1/h

 

となる。h を零に持っていかないといけない。h を零に持っていく代わりに、

 

    1 / h = n

 

と変換して、n を無限大に持っていくことにすると、上式極限をとって

 

  a  = lim n→∞  ( 1 + 1/n )n

 

が得られる。この数字 a が、微分で得られる“導関数”がもとの関数と一致する指数関数の数を与える。

 

 (1)でみたネイピア数そのものだ。

 

こうして

 

    f(x) = ex    、   dex /dx = ex

 

となった。

 

 不思議なつながりだ。

 

 第 28 回で見たように、指数関数の逆関数は、対数関数だ。今の場合、

 

    X = eY  ならば、Y = log e X

 

となる。対数関数の底がネイピア数 e のものを、自然対数と呼び、英語では natural logarithm なので、

 

    log e X = ln X

 

のように書く。

 

 ついでに、自然対数を微分しておこう。今度は、関数 f(x) として

 

    f (x) = ln x

 

とする。微分の定義、「隣り合う点を考えて、引いてから割る」を実行しよう。第 28 回で見たように、対数の和は積の対数になるので、対数の差は商の対数になるから

 

     d f(x) / dx = d ln x / dx

    = lim h→0 ( ln ( x+h ) –ln(x) ) / h

    = lim h→0  1/ h × ln (( x+h )/x) )

    = lim h→0  1/ h × ln ( 1+h/x)

    = lim h→0  ln ( 1+h/x)1/h

 

となる。ここで、h / x =1 / t とおくと、h → 0 ということは、t → ∞ ということなので、

 

    d f(x) / dx =  lim t→∞  ln ( 1+1/ t )t/x

         =  lim t→∞  ln [( 1+1/ t )t ]1/x  

         =  ( 1/ x ) × lim t→∞  ln [ ( 1+1 / t)t ]

 

となるが、対数の中の極限 lim t→∞ ( 1+1/t)t は、また(1)式なので、ネイピア数だ。

 

    lim t→∞ ( 1+1/t )t = e

 

よって、

 

     d f(x) / dx = d ln x / dx

    =  (1/ x ) × lim t→∞  ln [ ( 1+1 / t)t ]

    = (1/ x ) × ln e

    = (1/ x ) × log e e

    = 1/ x

 

となる。log e e = 1 だから。こうして、自然対数 ln x の微分は 1/x となる。

 

 微分積分は逆演算なので、1/x の積分は自然対数 ln x ということだ。1/x は双曲線なので、双曲線をグラフに描いて、x = 1 から x = e まで、双曲線と x 軸が囲む面積は 1 ということだ。

 

    ∫1e  dx/x =  [ ln x ]1e = ln e – ln 1 = 1

 

 そういえば、第 43 回で音階について備忘した。周波数が 2 倍になると、1 オクターブ上がった音と聴き取る。音合わせの時は 440 Hz のラの音を使う。1オクターブ低いラの音の周波数は 220 Hzだ。これを、オクターブ違いの同じ音階と聴いている。440 Hz のラの音の 1 オクターブ上のラの音は、880 Hzの周波数だ。正確には 879.99 Hzだそうだが、まぁ、880 Hz としておこう。220 Hz のラからしたら周波数は 4 倍だが、4 オクターブでも 3 オクターブでもなく、2 オクターブ差と認識する。どうやら、耳は音を対数変換して聴いているようだ。どういうことかというと、底が 2 の対数で考えてみよう。すると、440 Hz と 220 Hz のラの音の差は、440-220 を聴いているのではなく

 

    log 2 440 - log 2 220 = log 2 ( 440 / 220 )

              = log 2 2

              =1

 

となって、1 オクターブだ。440 Hzと880 Hz のラの音も同じ。

 

    log 2 880 - log 2 440 = log 2 ( 880 / 440 )

              = log 2 2

              =1

やはり 1 オクターブ差として聴くことになる。

 220 Hz と880 Hz では、

 

    log 2 880 - log 2 220 = log 2 ( 880 / 220 )

              = log 2 4

              = log 2 22

              = 2 log 2 2

              = 2

 

と、2 オクターブと出る。周波数の差で聴いているなら ( 440-220 ) / 220 = 1 オクターブということになるわけなので、同様に計算すると、( 880 ― 220 ) / 220 = 3 オクターブ差として聴いていなければならないはずだ。こうして、耳は音の周波数を、周波数差ではなく対数変換して聴いているといえよう。

 

 ネイピア数から話がそれた。

120.空も飛べるはず

 2020年4月、世界的な感染症禍に巻き込まれ、我がHigh Intelligence 大学では新入生を迎えるも、入学式はできなかった。

 新入生には、これから 4 年間で大きく羽ばたいて欲しいという願いを込めて、空を飛ぶ話を備忘しておこう。

 

 

 大学の講義で「ベルヌイの定理」なるものを教える。定理でも何でもないのだが、なぜか定理と言われている。流体に関する一つの法則だ。しかも、理想化される条件がいくつかついた下で成り立つ法則だ。

 流体として、水を想像してみよう。ゆく川の流れは絶えずして、もとの水ではなくなるが、1 点に注視していると、その流れ方は時間がたっても何も変わらない場合がある。いつ見ても同じように流れているという状況だ。このような流れを、「定常流」という。また、流体の密度が場所にも時間にも依らず一定である状況を考える。これを「一様な流体」と呼ぼう。さらに、流れに渦がないとする。「渦なし流」と呼んでおこう。ついでに、流体のねばねば加減、粘性を無視してしまう。「定常流」「一様な流体」「渦なし流」の3つの条件の下、さらに粘性を無視すると、「ベルヌイの定理」が成り立つ。

 流体の密度を ρ、流れの速度を、流体の圧力を p、単位質量当たりの位置エネルギーを φ と書くと、単位体積当たりの流体のエネルギーは

 

    ( 1 / 2 ) ρ2 + p + ρφ  ・・・(1)

 

と表される。第 1 項は運動エネルギー、第3項は位置エネルギーだ。第 10 回に記したように、(力)×(移動距離)=(仕事)だったが、考えている体積で割ると、体積は(距離(長さ))×(面積)だから、(仕事)/(体積)=(力)×(移動距離)/(体積)= (力)/(面積)になる。(力)/(面積)は圧力 p になるので、こうして第 2 項は、(仕事)/(体積)のことで、単位体積当たりの仕事、つまり単位体積当たりに流体が仕事をされたことにより得られるエネルギーになっている。こうして(1)は流体の持つ単位体積あたりのエネルギーだ。

 「定常流」「一様な流体」「渦なし流」の 3 つの条件の下で流体の粘性を無視したとき、(1)式は時間にも場所にも依らず一定の値をとることが示せる。この事実を「ベルヌイの定理」と呼んでいる。時間によらないのはエネルギーが保存量なので分かるが、場所にも依らないことを示すには、ちょっと掛かるのでここでは省略する。かなり理想化された条件だが、まぁ、その条件が成り立つだろうというもとで、色々なことが言える。

 

 

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 上図右は、円柱が中心軸まわりに回転しながら、空中を左方向に進んでいる様子だ。円柱の立場に立てば、風が左から右に吹いているように見える。図で円柱の上側は、風の方向と円柱の回転方向が逆なので、空気と円柱の表面との摩擦で空気の流れは弱められる。つまり、空気の流速はやや遅くなる。一方、図で円柱の下側は、空気の流れと円柱の回転方向が同じなので、空気と円柱表面との摩擦は少なく、空気の流れは妨げられないので、流速は速いままだ。こうして、図で、下側の流速 v下 の方が、上側の流速 vよりも大きいことになる。空気が円柱を、図で上側から押す圧力を p、下側から押す圧力を p下 と書けば、ベルヌイの定理が成り立つとき、(1)はある一定の値になっているので、

 

 ( 1 / 2 ) ρv2 + p + ρφ = ( 1 / 2 ) ρv2 + p + ρφ

 

が成り立つはずだ。位置エネルギーは重力によるものだが、上と下で一緒、あるいは極めて近い値として無視すると、

 

     ( 1 / 2 ) ρv2 + p = ( 1 / 2 ) ρv2 + p下  ・・・(2)

 

となる。こうして

 

     v上 < v下

 

だったので、(2)から

 

     p上 > p

 

でなければ(2)が成り立たないことがわかる。したがって、図で上側の圧力の方が下側の圧力より大きいということだから、円柱は図で下側に押される。左方向へ進む円柱は、図の下側の方へ曲げられるというわけだ。

 円柱をボールに置き換えて、ボールが左方向に進んでいるところを真上、つまり天空から見ている図だと思うと、ボールはカーブ回転して、進行方向に対し左方向へ曲がっていくというわけだ。

 

 次に、さっきの上の左の図。飛行機の翼を真横から見たところだとしよう。図の下の方に地面があり、上の方は空だ。飛行機は左方向に進んでいるとする。やはり、図では左から右へ空気は流れていく。飛行機の翼は良くできていて、翼の下側を通る空気の速さ v下 は、上側を通る空気の速さ v上 より遅くなっている。今度は

 

     v上 > v

 

というわけだ。こうして、やはり(2)式が成り立つと、今度は

 

    p上 < p

 

とならねばならず、下から飛行機を持ち上げる圧力 p の方が、上から下へ押し付ける圧力 p より大きくなり、飛行機を下から上へ持ち上げる。この圧力による力が飛行機の重力より大きいと、飛行機は浮いたまま飛んでいられるというわけだ。飛行機の翼の面積を S とすると、飛行機にかかる「揚力」は、(圧力差)×(面積)だ。一方、飛行機の質量を m として、地球が飛行機を引っ張ることにより発生する重力加速度を g とすると、飛行機に mg の重力がかかる。こうして、飛行機が「飛べる」ための条件は

 

    ( p - p上 ) × S ≧ mg    ・・・(3)

 

となる。

 もう少し書き直そう。(2)式を使うと、

 

 ( p - p上 ) =〔( 1 / 2 ) ρv2 - ( 1 / 2 ) ρv2  〕

 

となるので、これを(3)式に使うと、

 

     ( 1 / 2 ) × ρ × (v2 - v2  ) × S ≧ mg  ・・・(4)

 

が得られる。共通に出てきた 1 / 2 と ρ で括った。この式を見ると、「飛べる」ためには、物体の質量 m か重力加速度 g が小さい、または大気の密度 ρ が大きいか、翼の上側を流れる大気の速さと下側を流れる大気の速さの差が大きければ良さそうだ。

 

 さて、人が両手を伸ばすと、大体身長くらいになるという。そこで、片手の長さを 70 cm と仮定しよう。進化の過程で翼が出来たとして、脇の下から 1 m くらいまで、両腕から三角形の翼が進化して出来ていたとする。両腕を広げてうつ伏せで飛ぶとすると、体躯の面積を翼の面積に足すことになる。両腕で 140 cmとしたので、体躯の幅を 30 cm として、身長 170 cm なので、体躯が見込む面積は 30 cm × 170 cmだ。こうして、翼と体躯をあわせた面積 S は

 

    S = ( 1 / 2 )× 0.7 × 1 × 2(枚)+ 0.3 × 1.70 = 1.21 m2

 

となる。

 

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  翼を持つように進化した人が、空を飛ぼうとする。時速 20 km で飛べたとしよう。2時間で 40 km なので、マラソン選手並みだが、大地を蹴って走るのではなく、飛んでいるのだから空想の翼を広げよう。翼の上側は、この速さで大気が駆け抜けていく。その速さ、v

 

    v = 20 km / 時 = 5.5555… m / s

 

だ。翼の下側は、なんかうまくできていて、大気の流速を抑えられるとしよう。まったく空想なので、例えば時速 5 km 、人が早足で歩く速さ程度にまで流速を落とせたとしよう。こうして

 

    v = 5 km / 時 = 1.38888… m / s

 

だ。地上では、大気、つまり空気があるが、空気の密度 ρair は、ちょっと調べると

 

    ρair = 1.293 kg / m3

 

とあった。ただし、摂氏 0 度で 1 気圧。重力加速度 g地球 は知られているように

 

    g地球 = 9.8 m / s2

 

だ。これらの値を(4)式に入れると

 

    ( 1 / 2 ) × 1.293 × (5.55552 - 1.388882  ) × 1.21 ≧ m × 9.8

  

 よって

 

   m ≦ 2.3 kg

 

となる。体重が 2.3 kg 以下というわけないので、こんな風に進化しても、人は空を飛べない。そこで、飛行機なんかを発明したのだろう。進化を待っていても間に合わない。

 

 でも、翼人間として生まれたからには、飛びたいじゃぁないか。

 

 そこで、どこか、条件の良いところに引っ越そう。

 

 重力と重力加速度の関係は、第 2 回に記した。地表面付近にある質量 m の物体を地球が引っ張るときには、地球の質量を M、地球の半径を R、万有引力定数を G、重力加速度を g として

 

   mg = G mM / R2 、よって  g = G M / R2

 

と、物体の質量によらず g は一定値になるのだった。地球を惑星などの星に置き換えると、その星での重力加速度 g星 は、星の質量を M、星の半径を R星 として

 

    g星 = G M / R2

 

となる。こうして、飛ぶのによい条件の重力加速度が小さいためには、星の質量が小さく、半径は大きい方が良い。

 

 まずは火星。地球より小さいので重力は弱く、重力加速度が小さい。飛ぶには良い条件だ。しかし、大気が希薄なので、大気の密度 ρ が小さく、飛ぶには悪い条件なのであきらめよう。

 水星も、太陽に近すぎて大気がなく、飛べない。金星はどうだろうか。地球よりやや小さいだけなので重力加速度はまぁ同じ程度だが、なんせ、大気が厚い。大気密度がずば抜けて大きければ、飛べる可能性があるのだが、調べてみても大気密度の値に行きつかなかったので、移住断念。

 木星土星はガス惑星で、降り立つ大地がないので駄目だ。

 

 あきらめるのはまだ早い。惑星がだめなら衛星を探そう。小さいながら大気が存在する、しかも濃い大気を持つ唯一の衛星、土星の衛星タイタン移住を考えよう。太陽系で2 番目に大きな衛星だ。タイタンは水と岩石からできた衛星で、メタンの海があり、メタンの雨が降る。また、メタンやアンモニアを吹き出す“火山”まである。表面温度がマイナス 180 度程度なので、“火山”ではなく、何と呼んだら良いのかわからないが。2005年に探査機カッシーニがタイタンに近づき、着陸機ホイヘンスをタイタン表面に着陸させて分かったことのようだ。タイタンの大気の質量密度は、およそ地球の 4 倍程度だそうだ。飛ぶためには良い条件だ。タイタンの質量 M は

 

    Mタイタン = 1.3452 × 1023 kg

 

半径 R は

 

    Rタイタン = 2.5749 × 106  m

 

だそうだ。ちなみに地球の質量と半径は、5.972 × 1024 kg、6.378 × 106 m。タイタン表面での重力加速度 gタイタン は計算できる。万有引力定数 G は G = 6.67 × 10-11 m3 / kg s2 なので、

 

    gタイタン = G Mタイタン / Rタイタン2

        = 6.67×10-11 ×1.3452 × 1023 / ( 2.5749×106 )2

        = 1.35 m / s2

 

と得られる。地球のおよそ 7 分の 1 だ。タイタンの大気密度 ρタイタン は地球の大気密度ρ地球 ( = ρair ) の 4 倍として

 

    ρタイタン = 4 × ρ地球

 

タイタンで、翼人間は飛べるか飛べないか? さっき仮定した v と v をもう一度使って、(4)式で計算してみよう。

 

   ( 1 / 2 ) × (4 × 1.293) × (5.55552 - 1.388882  ) × 1.21 ≧ m × 1.35

 

よって

 

   m ≦ 67 kg

 

今の条件では、体重 67 kg までなら、翼人間はタイタンの上空を飛べるということだ。

 

 ダイエットを頑張ろう。

 

 きっと、自由に空も飛べるはず