16.割り切る

 小学校1年生のとき、2階建ての木造校舎の1階に教室があった。教室の床も廊下も木で、今から思うと重厚で、いい感じだった。1階に1年生3つのクラスの教室があった。その校舎以外は鉄筋コンクリート製だった。

 

 田中の角さんが教育に力を入れていた。おかげで、どんな学校にもグランドピアノが1台は入った。教師は優秀な人がなるべしということで、教員の給与を上げて優秀な人材が教育に携わるようにしつらえた。国家百年の計である。アメリカ合衆国の意向に背いて中華人民共和国との平和を進めたことが合衆国の怒りを買ってあのように嵌められたのだが。

 

 小学1年生の頃、今の時代のように、わざわざ木造建築をしつらえたわけではない。

 戦争終わって、まだ26年余り。しょっちゅう光化学スモッグで、校庭で遊べなかった時代のことである。

 

 木の階段を登った2階は図書室になっていた。3年生くらいになって以降だと思うが、時々木造校舎の図書室に行って本を借りた。面白かったのは算数関係の本で、あまりはっきり覚えてないが、曾呂利新左ェ門の話なんかがあって、気に入っていた。

 あるとき、曾呂利新左ェ門は何かうまいことをして、豊臣秀吉から褒美が貰える事になった。何をして褒美を貰うようになったのかは記憶にないし、興味もなかったのだろう、覚えてないもん。曾呂利新左ェ門は秀吉に、「将棋盤の最初のマスに、1日目は1粒の米を、2日目は次のマスに2粒の米を、3日目はさらに次のマスに4粒の米を、と言う具合に、毎日次のマスに前の日の2倍の米粒を褒美として頂きたい」とかなんとか言った。らしい。

 秀吉が、「欲のないやつじゃ」みたいなことを言ってその通りの褒美をとらした。らしい。

 1,2,4 、8、16、32、64、128、256、512、1012、2048、4096、8192、16384、32768、65536、131072、262144、524288と、20日でここまで大きくなる。35日目には17179869184粒、170億粒余りになり、2倍2倍で、将棋盤の升目の81日まで、どんどん大きくなるので、秀吉は参ったと言う話。曾呂利新左ェ門、恐るべし。でも、秀吉から得た米は、「秀吉様が民衆のために」とか言って、みんなに分け与えたので、秀吉は何とも言えなかったという話もあるらしい。閑話休題。全て閑話なんだけど。

 

 同じ本だったか違ったか、勝手に同じ本だと思い込んでいるのだが、ある数字が2とか3で割り切れるかどうかの判定法が書いてあった。2で割り切れるかどうかは、最後の1の位の数字が2で割りきれるかどうかを見ればよい。2、4、6、8、と、2倍2倍にしていくと、必ず偶数だから、偶数は2で割り切れる。これは納得。

 

 5で割り切れる数は、1の位の数が5か0だったら良い。5の倍数は、5、10、15,20、25、30と、どこまでいっても5と0が交互に出てくるからだ。これも納得。

 

 3で割り切れるかはどうやったらわかるか。それはね、その数字の全ての位の数を足して3で割り切れたら割り切れるんだよ、と書いてあった(一部脚色)。例えば、237を考えてみよう。位の数字をばらして足すと、2+3+7=12。12は3で割り切れるので、237も3で割り切れるはずだ。実際に、237÷3=79。別の数でも試してみよう。例えば、968547237。適当に選んだ。ばらして足してみる。9+6+8+5+4+7+2+3+7=51。不安だから、出てきた数字をもう一回やってみる。5+1=6。3で割り切れる。理屈は書いてなかったが、何度試してもうまくいくので不思議だった。でも面白かった。

 

 じゃあ、4で割り切れるかどうかは? それはね、下の2桁の数字が4で割り切れたら、その数字は4で割り切れるんだ、と書いてあった(脚色あり)。753468。下の2桁、68は4で割り切れ・・・る。68÷4=17。じゃあ、753468÷4=188367。確かに割り切れる。今度は3377559924。下の2桁の24は4で割り切れるので、割り切れるはず。3377559924÷4=844389981。今度は123456782。82は4で割り切れない20余り2だ。123456782÷4=30864195余り2。面白い。手当たり次第にやってみた。理屈はわからなかった。

 

 6で割り切れるかどうかはどうやって見分けるのか。それはね、2でも割れて3でも割れたら6でも割り切れるんだよ(かなり脚色)。1758は。偶数だから2で割り切れる。それぞれの位の数字を足してみると、1+7+5+8=21だから3で割り切れる。2でも3でも割り切れるので、6でも割り切れるはずだ。1758÷6=293。よし!!

 ただし、8で割り切れるかどうかは、4で割り切れて2でも割り切れればよいと言うわけではない。4で割り切れると言うことは必ず2でも割り切れるのだから、判定できない。ちょいむず。

 

 巷には電卓なるものが売り出され始めたが、まだまだ形が大きくて、その上値段がとても高い。小学生に買える代物ではなかった。欲しかったが、そもそも手の出ない、購入不可能な値段なので、全くもって欲望の対象外だった。それよりコンパスや分度器が欲しかった。それで、広告の裏(という、昭和時代にはそういう概念が存在した)に、せっせと筆算をして計算していた。いまや、電卓は、当時と4桁ほど違って、税抜き価格100円で買えるのに(あわてて、念のために言っておくと、昭和も戦後は10銭とか1銭とかは流通していなかった)。

 

 理屈がわかったのは中学生か高校生になってからだ。2と5は良いとして、まずは3。各桁の数をap で現して、n桁の数anan-1・・・a1a0 があったとする。10進法なのだから

    an×10n +an-1×10n-1 +・・・+a1×101 +a0

ということだ。ここで10n とは、1の後ろに0がn個並ぶ数のこと。101 =10、102 =100、103 =1000、ということ。このとき1000は1000=999+1だから、こうして、

 

  an×10n +an-1×10n-1 +・・・+a1×101 +a0

    =an×(999・・・9 + 1) + an-1×(999・・9 + 1 )+・・+a2×(99+1)+a1×(9+1) +a0

  = (an×999・・・9 + an-1×99・・9 +・・+a2×99 +a1×9)

   +(an +an-1 +・・・+a2 +a1 +a0 )

 

と書き直せる。an×999・・・9 の9は、n個並んでいる。an-1×999・・9 の9はn-1 個並んでいる。以下同様。こうして、9の並んだ数字との掛け算からはみ出した部分の数が、もとの数字のそれぞれの位の数字を足したもの、(an +an-1 +・・・+a1 +a0 )になっている。9が出てくる999・・・9 なんてのは必ず3で割り切れるので、残りの(an +an-1 +・・・+a1 +a0 )が3で割り切れれば、もとの数字は3で割り切れるということだ。

 

 応用で一つおまけが付いた。もとの数字を、9が出てくる999・・・9なんてのとの掛け算の部分と、おつりの(an +an-1 +・・・+a1 +a0 )にわけた。999・・・9 なんてのは必ず9で割り切れるので、もとの数字のそれぞれの位の数字を足したもの、(an +an-1 +・・・+a1 +a0 )が9で割り切れれば、もとの数字は9で割り切れるはずだ。新発見だ。1111111101は、各桁の数を足してみると1+1+1+1+1+1+1+1+0+1=9だから9で割り切れるはずだ。実際、1111111101÷9=123456789。

 「9で割り切れるかはどうやったらわかるか。『それはね、その数字の全ての位の数を足して9で割り切れたら割り切れるんだよ。』」

 

 3の次は4だ。下2桁の数字が4で割り切れたら、もとの数字も4で割り切れる。n桁の数anan-1・・・a1a0 があったとする。10進法なのだからan×10n +an-1×10n-1 +・・・+a1×101 +a0 ということだ。ここで10n とは、1の後ろに0がn個並ぶ数のこと。なんかさっきも同じことを書いたような気がする。まぁ、そんなことはどうでも良い。今度はこの数を

 

    an×10n +an-1×10n-1 +・・・+a2×102+a1×101 +a0

   =(an×10n-2 +an-1×10n-3 +・・・+a2)×102 +(a1×101 +a0)

 

のように、(100の位より上の数を100でくくったもの)+(下2桁の(a1×10 +a0))と書き直してみる。100(=102)でくくった(an×10n-2 +an-1×10n-3 +・・・+a2)×102 の部分は、100(=102) が当然4で割り切れる(100÷4=25 )ので割り切れる。あとの残りの(a1×101 +a0)が4で割り切れれば、もとの数は4で割り切れるということだ。だから下2桁の数が4で割り切れれば、もとの数も4で割り切れるということ。

 

 おまけがついたことに気づいた。もとの数を

 

    an×10n +an-1×10n-1 +・・・+a3×103+a2×102+a1×101 +a0

   =(an×10n-2 +an-1×10n-3 +・・・+a3)×103

     +(a2×102 + a1×101 +a0)

 

のように、10=1000 でくくっておくと、残りはもとの数の、下の3桁a2 a1a0=

(a2×100 + a1×10 +a0)が余っている。でも、1000は8で割り切れる(1000÷8=125)ので、残りの下3桁の数字、a2 a1a0=(a2×100 + a1×10 +a0) が8で割り切れれば、もとの数字が8で割り切れるということだ。こうして、ちゃんと考えればおまけがついてきた。

 

 さらにおまけがついてくる(10000÷16=625と割り切れる)のだが、割るほうの数がちょっと大きくなる(実は2 と規則的なのだが)のでやめておこう。

 

 2で割り切れるかどうか、3で割り切れるかどうか、4、5、6、8、9で割り切れるかどうかはわかった。1は自明だから、これで一桁の数字で割り切れるかどうか、結構わかった。

 

 小学生のときは理屈もわからず楽しかったが、中・高校になると「証明」という考え方に触れて、また楽しからずや、という感じであった。でも、小・中・高を通して、7で割り切れるかどうかの判定法を知らなかった。