49.長さ・重さ・時間の単位

 

 光速度の測定の歴史に48回で触れたが、現在ではレーザー光を使って極めて精度よく光速度が測定されている。

 特殊相対性理論を構築する際に実験事実として置かれる光速度不変の原理、つまり、すべての慣性系の人にとって真空中では光の速さは同じ値を取る、という事実、要するに、ある慣性系に静止している観測者に対して一定の速度で運動している別の観測者に対しても真空中では光の速さは同じ値を取る、という事実と、光速度があまりに精度よく測定されていることで、今や、光速は「定義値」となっている。普通の「長さ」や「時間」を使って、光の速さ c は

 

    c = 299792458 m/s

 

なのだが、真空中の光の速さが慣性系の誰にとっても同じであることを逆手にとって、現在では光の速さから逆に「長さ」の単位を決めるようになっている。

 

 今はMKS単位系という単位系に基づいて、講義を行っている。Mは長さの基本単位メートル、Kは質量(重さ)の基本単位kg、Sは時間の基本単位s(econd)(秒)ということだ。電磁気学を扱うには、これに加えて電流の基本単位アンペア(A)を加え、MKSA単位系と言われるが、ここでは電磁気はやめておこう。

 私が学生の頃は、cgs 単位系(センチメートル(cm)、グラム(g)、秒(s))の単位系が多く使われていて、電磁気学に至っては、ガウス単位系とか色々錯綜しており、勉強するときにかなり厄介であった。教科書によって、使っている単位系が違うので、方程式に出てくる係数が異なっていた。

 

 さて、長さと重さと時間を見ておこう。

 

 18世紀ころまで、世界中で統一された長さの単位は存在していなかった。18世紀まで世界中というよりは、ごく限られた地域でも共通の長さの単位はなかなか決められない。そこで、18世紀末のフランスで、長さの単位を決めるプロジェクトが始動する。ルイ16世の治世の時であった。1789年にバスチーユ牢獄襲撃に端を発してフランス革命が起き始める。革命の精神は「自由・平等・博愛(Liberté, Égalité, Fraternité)」である。そこで、地域、人種、民族等々に関わらず平等に長さの単位を決めようとして、地球を基準にすることに決める。

 

    北極から赤道までの距離の1000万分の1を「1メートル」と定める

 

実際にはフランス北部のダンケルクからパリを通る子午線に沿って、スペインのバルセロナまで測量を行い距離を測り、極から赤道までの長さを割り出して、1メートル(1 m )を決定した。1792年に測量を開始し、1 mが決まった時には、命令を出した国王ルイ16世はすでに断頭台に消えていた。

 

 長さの単位1mが決まったので、重さは、

 

    1辺が10cm (=0.1 m)の立方体(1000 cm3)の水の重さを単位にとり、

    これを 1 kg の質量と定める

 

 さらに、時間は地球の1自転を1日と定め、1日は10時間、1時間は100分、1分は100秒、10日で1週間と定めたが、これはフランス人にも不評だったようで、革命後、やまっている。10進法が便利だが、慣れ親しんだ24時間、60分、60秒が使われる。革命政府の時間だと、1日は100000秒、いつも使っている時間だと、1日は86400秒。革命政府の1秒は今の0.864秒。

 

 先に時間の単位の定義を見ておこう。

 1960年に、「1秒」が再定義されている。1900年という特定の1年を取り、この

 

    1900年の1年間の長さの31556925.9747分の1を「1秒」

 

と定義した。ちなみに31556925.9747=60(秒)×60(分)×24(時間)×365.2421988(日)である。

 その後、1967年からは、

 

    『セシウム133原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移に対応する放射の周

     期の9192631770(91億9263万1770)倍に等しい』    ・・・(1)

 

として、1 秒 が定められ、現在に至っている。セシウム133 原子のエネルギーの最も低い状態は微妙に 2 つに分かれており、高いエネルギー準位から低い方へ電子が遷移すると光を放出する。光は波なので振動しているが、その振動回数が 9192631770 回続いた時の時間間隔を 1 秒と定めている。ただし、1997年にこのときのセシウム原子は絶対 0度に置かれているという条件が加えられている。

 ちなみに、6 週間は何秒になるだろうか。1 秒が 60 集まって、1 分、それが 60 集まって 1 時間、それが 24 集まって 1 日、それが 7 集まって 1 週間、それが 6 集まって 6週間と考えていくと、

 

     1×60×60×24×7×6

    =1×(2×3×10)×(3×4×5)×(3×8)×7×6

 

ここで、下線を付けた 3 どうし掛けると 3×3=9 だから、

 

     1×60×60×24×7×6

    =1×2×10×3×4×5×9×8×7×6

    = 1×2×3×4×5×6×7×8×9×10

    = 10 !

 

と、1 から 10 まで掛けた数、10 の階乗(10 ! )秒になっている。びっくりしたからビックリマーク( ! )を付けた訳ではない。

 

 だからどうなんだ。まぁ、こんな話をしているのではなかった。

 

 さて、長さの単位の定義に戻ろう。1792年にフランスで 1 mが決められた。それを基に、1889年には、

 

    ある特定のプラチナ・イリジウム合金の棒を氷が融ける温度の環境に

    置いたとき、その棒上に刻んだ2本の線の間の距離

 

を 1 mと定めなおした。いわゆる「メートル原器」である。1960 年になるとさらに定義が変えられる。

 

    クリプトン86原子が真空で放射する電磁気(光)スペクトルのオレンジ・

    赤の輝線の波長の1650763.73(165万763.73)倍

 

を 1 m とした。

 最終的に、光速度不変の原理を基にして、光の速さは「定義値」とし、1 m は

 

  『光が真空中を299792458分の1(2億9979万2458分の1)秒かけて移動する距離』

                                ・・・(2)

 

とされ、現在に至っている。長さを決めるのに時間の定義を必要としている。

 

 (1)と(2)で時間と長さが決まった。次は重さだ。1000立方センチメートルの水の重さではなく、1889年に、

 

   『プラチナにイリジウムを10%混ぜた合金で作られたキログラム原器』 

                                ・・・(3)

 

の質量を 1 kg と定め、現在に至っている。各国にキログラム原器のコピーがあって、それを標準としている。質量だけなんかアナログ感がある。

 

 しかし、質量の定義はもうすぐ変更される予定だそうだ。

 

 フランスに留学するとき、長さの単位がメートルでなくてフィートとかだったら嫌だなぁと思っていたが、メートルの発祥はフランスなのだから、無知なる危惧であった。

 

 そういえば、私が子供の頃には、まだ家に「鯨尺」なる物差しがあり、寸や尺の目盛りが刻まれていた。