74.ひらめきと直感
薬学・脳科学研究者の池谷裕二さんの著書を読んでいたら、「ひらめき」と「直感」が区別されていた。『「ひらめき」は思いついた後に、その答えの理由を言語化でき』るということで、一方、『「直感」は、本人にも理由がわからない確信を指』すとある。なるほどなぁ、と思って読む。ひらめきで解く問題の例として、
1 2 4 ▢ 16 32
とあった時に、▢に入る数字は?というものが挙げられていた。もちろん、左の数字に順に2をかけていくという「答えの理由」が「言語化できる」ので、おそらく8だ。ひらめいた。
ここで終わるとそれまでなので、こんな問題があったのを思い出したので記しておこう。
1 2 4 8 16 ▢ 。さて、▢に入る数字は?
まぁ、ひらめいて、32だろうと思うのが義理だ。いや、人情だ。
ここで終わるとそれまでなので、円を考え、円周上に点を打っていくことを考えてみる。まずは点を2つ打ってみよう。その点を直線で結ぶと、円が2つの領域に分けられる。下の図の左上だ。次いで、もう一点打つ。そして各点を直線で結ぶと、円が4つの領域に分けられる。図の上中だ。さらにもう一点打つ。各点を直線で繋ぐと、円が8つの領域に分けられる。図の右上だ。また点を打つ。ただし、今度も各点間を直線で結ぶが、結んだ3つの直線が一点で交わらないように、新しい点を円周上にとることにする。そうすると、円は16個の領域に分けられる。図の左下だ。また、各点を結ぶ直線3本が一点で交わらないようなところの円周上に点を取る。1、2、4、8、16と来たんだから、次は32個の領域に分けられると思うのが人情だ。いや、義理か。
しかし。
円は32個の領域ではなく、31個の領域に分割される。こうして、先ほどの問題、『▢に入る数字は?』の答えは‘‘31’’となる。
3本の直線が1点で交わらないように円周上にn 個の点を打った時に分割された円の領域は
(n4 - 6 n3 + 23 n2 -18 n + 24) / 24
となるそうだ。証明は見たことないので、数学科の先生にでも聞いてみよう。自分も「数学物理学科」の一員なのではあるが・・・。代入してみると確かに n=2 で2、n=3 で4、n=4 で8、n=5 で16、n=6 で31、n=7 で57になる。
ちなみに、今度は2次元平面で、1本ずつ直線を引いて面を分割してみよう。
特に理由は無い。
0本の直線では、何もしていないので分割も何もなく、もとの図形が1つ。1本の直線では2つに分割できる。2本では4つ、直線が1点で交わらないようにして3本の直線をひくと、7つに分割できる。1、2、4、7、11と分割されていく。下の左の図。
ついでに、1次元の棒も分割しよう。
少し理由がある。
0本では1、1本では2、2本では3、3本では4つに分割できる。当たり前だ。
ここで、表を作る。棒の分割を(A),面の分割を(B)としておく。
分割する線の数 |
右図の棒の分割(A) |
左図の面の分割(B) |
0本 |
1 |
1 |
1本 |
2 |
2 |
2本 |
3 |
4 |
3本 |
4 |
7 |
4本 |
5 |
11 |
5本 |
6 |
16 |
こうすると、
(A)の0本の時の分割数 +(B)の0本の時の分割数 =(B)の1本の時の分割数
つまり、
1+1=2
となっている。以下同様に、
(A)の1本の時の分割数 +(B)の1本の時の分割数 =(B)の2本の時の分割数
2+2=4
(A)の2本の時の分割数 +(B)の2本の時の分割数 =(B)の3本の時の分割数
3+4=7
(A)の3本の時の分割数 +(B)の3本の時の分割数 =(B)の4本の時の分割数
4+7=11
(A)の4本の時の分割数 +(B)の4本の時の分割数 =(B)の5本の時の分割数
5+11=16
となることがわかる。(B)の分割の一般式は、n 本の直線を使ったときにできる分割の最大数として
1 + n(n+1) / 2
が得られる。2項係数を使うと、
nC0 + nC1 + nC2
と書ける。もちろん(A)のときは
n + 1
2項係数を使うと
nC0 + nC1
だ。だから、
(A)のn本の時の分割数 +(B)のn本の時の分割数 =(B)の(n+1)本の時の分割数
( n + 1 ) + (1 + n(n+1)/2 ) = 1 + (n+1)(n+2) / 2
となる。
今度は、立体を切っていく。3次元の立体を、2次元の平面で分割するということだ。さっきの表に、分割される最大数を載せておこう。
分割する線(本)、面(枚)の数 |
直線による面の分割(B) |
平面による立体の分割(C) |
0 |
1 |
1 |
1 |
2 |
2 |
2 |
4 |
4 |
3 |
7 |
8 |
4 |
11 |
15 |
5 |
16 |
26 |
今度もやっぱり、次元を一つ落とした側、直線による 2 次元面の分割を使って
(B)の0本の時の分割数 +(C)の0枚の時の分割数 =(C)の1枚の時の分割数
1+1=2
(B)の1本の時の分割数 +(C)の1枚の時の分割数 =(C)の2枚の時の分割数
2+2=4
(B)の2本の時の分割数 +(C)の2枚の時の分割数 =(C)の3枚の時の分割数
4+4=8
(B)の3本の時の分割数 +(C)の3枚の時の分割数 =(C)の4枚の時の分割数
7+8=15
(B)の4本の時の分割数 +(C)の4枚の時の分割数 =(C)の5枚の時の分割数
11+15=26
となっていて、棒と面の時の関係と同じだ。ここで、(C) の一般式は
( n3 + 5n + 6) / 6
となる。2項係数を知っていると、
nC0 + nC1 + nC2 + nC3
になる。こうして、
(B)のn本の時の分割数 +(C)のn枚の時の分割数 =(C)の(n+1)枚の時の分割数
(1 + n(n+1)/2 )+ ( n3 + 5n + 6) / 6 = ( (n+1)3 + 5(n+1) + 6) / 6
となる。
まぁ、2項係数の和の公式を使うのがいいんだろうなぁ。そんなの覚えてないけど。2項係数で示してしまったら代数的に話は終わるのだが、1次元の棒の分割が2次元平面の分割に顔を出し、2次元平面の分割が3次元立体の分割に顔を出すのはなぜなのだろう。異なる次元での分割を幾何学的に示せるのかなぁ。
また、数学科の先生を捕まえるか。