87.潮の満ち引き

 第86回では、月が地球から離れているという観測事実から理解できることを見た。

 

 では、なぜ月は地球から離れて行っているのであろうか。

 第86回と同様な状況設定しておこう。

 

 月と地球は万有引力を及ぼしあいながら、共通の重心の周りを回転運動している。月に比べて地球は重いので、ここでは地球は静止していて、その周りを月がまわっていると近似する。月の質量を m、月の中心と地球の中心間の距離を r、地球の質量を M地球、地球の半径を R、万有引力定数を G とする。下の図の通り。

  

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                   図1

 

 月の存在によって地球の各点に万有引力が働いている。地球の大きさを考えると、地球上で月に近い方の有る点を A、地球の中心を B、月の反対側の有る点を C とすると、A、B、C の各点におかれた質量 m の物体に働く月の引力をそれぞれ、FA、FB、FCとすると

 

    FA = G m m / (r-R)2

    FB = G m m / r2

    FC = G m m / (r+R)2

 

となる。一番大きいのは右辺の分母が一番小さい Fだ。力の大きさは FA > FB > FC の順になる。こうして、まず FA - FB >0 より、A 点の方が B 点より月に引っ張られているので、A 点は B 点に比べて月の側に寄る。一方、FC - FB <0 なので、C 点で月から受ける引力は B 点のそれよりも小さく、B 点に比べて月へ引っ張られていない。B 点が月に引き寄せられても C 点は一緒に引き寄せられずに取り残されるというわけだ。

 地球が硬い岩石だけでできているなら、引力の相違は大きく目には見えないかもしれないが、地球は水で覆われているので、月からの引力の相違を受けて、A 点では月に引き寄せられ、C 点では取り残される。こうして、図の様な状況が起きることになる。つまり、海水面は月の側と、その反対側の2カ所で膨らむ。これが満潮だ。月の側と反対側で起きるので、満潮は 1 日  2回起きることになる。もちろん干潮も同じ。潮の干満は1 日に 2 回起きる。

 

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                    図2

 

 ときどき、月の反対側の海水面が膨らむのは、地球と月が共通重心の周りを周ることによって起きる遠心力だと説明したものが見受けられるが、間違っている。地球を固定して考えても月の反対側でも海水面は膨らむので、“遠心力”では有り得ない。

 さて、ここからさらに進めよう。地球は自転している。図は地軸の上方、北極の側から見たものとする。図で地球は反時計回りに回っている。月も地球の自転と同じ方向へ公転している。地球の自転に際して、地球表面と海水の摩擦によって海水は地球の自転に引きずられて、海水のふくらみ部分は若干自転の方向へ引っ張られる。下図のようになるわけだ。

 

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                  図3

 

 逆に、今度は上の図の地球の A 点、B 点(地球の中心)、C 点の物質が月に及ぼす万有引力、fA 、fB 、fC を考えてみる。A 点と月の距離は他の点からの月までの距離より近いので、引力は大きくなる。月が受ける引力を表す矢印 fA は大きい。

 fA 、fB 、fC を取り出して見たのがさらに下の図。fA 、fC の力を、地球に向く成分と月が動いていく公転軌道方向の成分に分けたものが点線だ。地球に向かう力は地球と月の万有引力であるが、公転軌道に沿った成分を見ると fA の公転軌道方向成分 fA の方が fC の公転軌道方向成分 fC より大きいことがわかる。すなわち、差し引きすると、月を公転軌道方向に押す力の成分が残るというわけだ。

    

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                  図4

 

 こうして、月は、自分が進む方向に“押される”。そうすると、(力)=(質量)×(加速度)のニュートン方程式から、月の進行方向に月は加速され、月が地球を回る速さは速くなる。月が加速されるので、月の公転半径 r は大きくなる。自動車でもカーブを大きな速さで回ると外側に膨らむのと同じだ。こうして、地球と月の距離 r が大きくなるというわけだ。

 それが、1 年でおよそ 3.8 cm だというのが観測事実。

 

 こうして、第 86 回に従って、地球の自転は遅くなり地球の1日は長くなる。おまけに、月の公転周期も長くなっていく。

 

 月がもう地球から離れて行かなくなるのは、どういう状況になった時だろうか。地球の自転周期が月の公転周期より速いので、図 3 のような状況が起きるのだった。月が進むより先に地球の自転で A 点が月と地球を結ぶ線分より前に出てしまうのだ。もし、月が地球から離れて行って月の公転周期が遅くなり、地球の自転も遅くなると、いずれ地球の自転周期と月の公転周期が一致してしまうだろう。このときには地球が自転して A 点が月と地球を結ぶ線分の前に行こうとしても、月も同じように進んでいるので、いつも A 点は月の正面にあるはずだ。こうして、最終的に、地球の片側の面と月の片側の面はいつも向き合ってしまい、いつも月が見える側と、いつも月が見えない側に地球は 2分される。

 

 実は、地球よりも軽い月はすでにこの状況が起きている。月も自転しているので、月と地球を入れ替えてみると、月の自転周期と“地球が月を周る公転周期”が一致して、月の片側の半分、うさぎさんのいる側だけを地球に向けているのだ。

 

 潮の満ち引きから色んなことがわかった。