88.平方数の和

 第30回で四元数に触れた。少し復習しておこう。

 

 まずは、普通の数。a と b という二つの数があったとしよう。数字 a の“大きさ”を絶対値と言って、|a| と書くと、

 

    |a| |b| = | ab|

 

になるのは、ほぼ当たり前だ。

 

 次に複素数。2 乗したら-1に なる“虚数単位” i = √(-1) を使って、

 

    u = a + i b、 v = c + i d

 

のような u、v といった数。二つの複素数の積は i2 = -1 に注意して、

 

    uv = (a + i b )×( c + i d ) = ac-bd + i ( ad + bc )   ・・・(1)

 

となる。また、“複素平面”というものを使ってグラフ化しておこう。u の実数部 a を横軸に、虚数部 b を縦軸にして座標風に描くと

        

          f:id:uchu_kenbutsu:20190103110314j:plain

といった感じ。x 軸は複素数の“実部”、y 軸は複素数の“虚部”になっている。複素数 uの“大きさ”は図の r になっていて、

 

    r = √(a2 + b2 )

 

になる。面倒なので、大きさの 2 乗を考えると、a2 + b2 だ。2 つの複素数 u と v の大きさの積は ( a2 + b2 ) × ( c2 + d2 ) だが、簡単な式変形で、

 

    ( a2 + b2 ) × ( c2 + d2 ) = ( ac-bd )2 + (ad + bc )2

 

になる。右辺をよく見ると(1)式の右辺の実数部の 2 乗と虚数部の 2 乗の和になっているので、これは複素数 uv の大きさの 2 乗だ。こうして複素数 u の大きさを |u| の様に書くと

 

    |u|2  |v|2 = |uv|2

 

になっていることがわかる。

 

 さて、四元数。2 乗したらマイナス 1 になる 3 つの数、i、j、k を用意する。

 

    i2 = j2 = k2 = -1 ・・・(2)

 

i、j、k には次のような掛け算の関係がある。

 

    i j = -j i = k 、    j k = -k j = i 、   k i = -i k =  j   ・・・(3)

 

2つの四元数

 

   u = a + i b +j c + k d 、   v = x +i y + j z + k w

 

と書くと、2 つの四元数の積は、(2)(3)に注意して

 

    uv= ( ax-by-cz-dw ) + i ( bx + ay-dz + cw )

      + j ( cx +dy +az-bw ) + k (dx-cy +bz + aw) ・・・(4)

 

となる。四元数の“大きさ”の 2 乗は、予想通り

 

    |u|2 = a2 + b2 + c2 + d2

 

である。ここで、複素数の時と同様に、

 

    ( a2 + b2 + c2 + d2 ) × ( x2 + y2 + z2 + w2 )

   =  ( ax-by-cz-dw )2 + ( bx + ay-dz + cw )2 + ( cx +dy +az-bw )2

    + (dx-cy +bz + aw)2                   ・・・(5)

 

という恒等式が示せる。右辺をよく見ると、(4)の右辺の各項の 2 乗の和なので、四元数の積 uv の大きさの 2 乗になっていることがわかる。こうして、上の式(5)は、

 

    |u|2 |v|2 = |uv|2

 

と書ける。

 

 ところで。

 

(5)式が教えてくれることは、ある2つの数がそれぞれ 4 つの数字の 2 乗の和で書けたとする( a2 + b2 + c2 + d2 と x2 + y2 + z2 + w2 )と、その積もまた、4 つの数字の 2 乗の和で書ける( ( ax-by-cz-dw )2 + ( bx + ay-dz + cw )2 + ( cx +dy +az-bw )2 + (dx-cy +bz + aw)2 )ということだ。ということで、すべての素数が、0 を含む 4 つの自然数の 2 乗の和で書ければ、

 

    『すべての自然数は高々 4 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

ということになる。すべての自然数素因数分解できるので、素数が 4 つの数の 2 乗和で書ければ、その積も 4 つの  2乗和で書けるので、結局、すべての数は高々 4 つの自然数の 2 乗の和で書けるということだ。

 

 実際、

 

    『すべての素数は高々 4 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

ことが証明できる(証明は略)。

 

 たとえば、

 

    2 = 12 + 12 ( + 02 + 02 )

    11 = 32 + 12 + 12 (+ 02 )

    23 = 32 + 32 + 22 + 12

 

などなど。こうして、すべての自然数は 4 つの自然数の 2 乗の和で書けることになる。

 

 では、すべての自然数は、3 つの自然数の 2 乗の和で書けるだろうか?

 それは、無理ということだ。

 ある自然数が 3 つの自然数の 2 乗の和で書けるための条件は、

 

   『ある自然数が 2 つの整数 a、b を用いて4a ( 8b + 7 ) という形に書けないとき

    に限り、高々 3 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

だそうだ(証明は略)。例えば

 

    244 = 62 + 82 +122

 

しかし、240 は 240 = 42 ( 8×1 + 7 ) という形に書けてしまうので、上の定理からいくら頑張っても 3 つの自然数の 2 乗の和で書けない。

 

 では、2 つの自然数の 2 乗の和で書ける数は、どんな条件があるのだろうか?

 

   『自然数素因数分解したときに、4 の倍数+3 の素数が現れた時にはその素

    数がすべて偶数乗されているときに限り、2 つの自然数の 2 乗の和で書ける』

 

たとえば、221=13×17 となるが、素因数はともに “4の倍数+ 1” あって、“4の倍数 + 3” は現れていないので、2 つの自然数の和で書けるはずだ。実際、221 = 52 + 142 。では、245 は? 245 = 5×72素因数分解できる。素数 7 は “4の倍数 + 3”、7 = 4×1 +3 と書けるが、2 乗(72 ) のかたちで現れているので、構わない。2 乗はすなわち偶数乗だ。だから 245 は 2 つの自然数の 2 乗の和で書ける。実際、245 = 72 + 142 。では、275 では? 275 = 52 ×11。11 は “4の倍数 + 3”、11 = 4×2 + 3。これが 1 乗、奇数乗で入っているので、上の条件から、2 つの自然数の 2 乗の和では書けないはずだ。

 

 ちなみに。

 

 次のような 3 つの素数の 2 乗の和を考えよう。

 

    72 + 112 + 432

    72 + 172 + 412

    132 + 132 + 412

    112 + 232 + 372

    172 + 192 + 372

    232 + 232 + 312

 

 全部 2019 になる。2019 は 3 つの素数の 2 乗の和で、6 通りの書き方がある。

 

 今年は西暦で 2019 年。

 

 2019 の各数字を足すと、2 + 0 + 1 + 9 = 12 になり、これは 3 の倍数なので、2019は3 で割り切れることがわかる(第16回)。こうして 2019=3×673 と素因数分解できる。673は 大きい数だが素数だ。2019 の素因数分解で現れる 3 は “4の倍数+3”、3 = 4×0 + 3であり、これが一つ、奇数乗として入っているので、2019 は 2 つの自然数の 2 乗の和では書けないことがわかる。

 2019 は4a ( 8b + 7 ) の形には書けない。奇数だから 4が有ってはいけないので、a=0でなければならない。2019 の素因数分解を見ると 3 も 673 も ( 8b + 7 ) の形には書けない。673-7 が 8 の倍数でないので。というわけで、2019 は 3 つの自然数の 2 乗の和で書けるというわけだ。

 

 2019 は素数だけの 2 乗和で 6 通りに書ける不思議な数だ。