92.漱石から採る物理の問題

 子供が、入試勉強で、国語や英語の長文問題では問題を解く時間が無くなるとぼやいていた。そういう時は、問われている問題を先に読んでから、問題文である長文に目を通したら、どこに答えが潜んでいるかわかりやすい、と助言しておく。長文読んでから問題を読むと、問われたことをまた長文の中から探さないといけなくなるので二度手間だ。

 

 物理でも、長文読解できないかと考えてみたが、アイデアが無い。そこで、ちょっとした遊びで、夏目漱石を引用して問題にあたらせてみた。

 

 寺田寅彦が「吾輩は猫である」の寒月君のモデルになっていることは有名な話だ。寺田寅彦は、現在の高知県立追手前高校、旧制の高知県尋常中学校を卒業後、熊本の旧制第五高等学校に進学した。そこの英語の先生が漱石であり、その後、親交が続く。漱石の「三四郎」では、三四郎の同郷の理科大学の教師の野々宮さんのモデルが寺田寅彦だ。

 

 そこで、「三四郎」を引用し、こんな問題を作る。数式をいじらせるのではなく、概念を述べさせる目的だ。

 

『(「三四郎」から引用)

「物理学者でも、ガリレオが寺院の釣りランプの一振動の時間が、振動の大小にかかわらず同じであることに気がついたり、ニュートンが林檎(りんご)が引力で落ちるのを発見(1)したりするのは、はじめから自然派ですね」

「そういう自然派なら、文学のほうでも結構でしょう。原口さん、絵のほうでも自然派がありますか」と野々宮さんが聞いた。

問1. 下線部(1)に関して、ニュートンが発見した引力の法則は、「万有引力の法則」と呼ばれている。万有引力の法則に関して、その数学的表現を書き,法則の物理的な内容をあわせて記しなさい。また、万有引力の法則により理解できる自然界の事実について述べなさい。』

 

『(「三四郎」から引用)

「野々宮さん光線の圧力の試験はもう済みましたか」

「いや、まだなかなかだ」

「ずいぶん手数がかかるもんだね。我々の職業も根気仕事だが、君のほうはもっと激しいようだ」

「絵はインスピレーションですぐかけるからいいが、物理の実験はそううまくはいかない」

(中略)

「我々はそういう方面へかけると、全然無学なんですが、はじめはどうして気がついたものでしょうな」

「理論上はマクスウェル(2)以来予想されていたのですが、それをレベデフという人がはじめて実験で証明したのです。近ごろあの彗星の尾が、太陽の方へ引きつけられべきはずであるのに、出るたびにいつでも反対の方角になびくのは光の圧力で吹き飛ばされるんじゃなかろうかと思いついた人もあるくらいです」

批評家はだいぶ感心したらしい。

問2.

下線部(2)に関して、電磁気学に関する真空中のマクスウェル方程式を書きなさい。また、マクスウェル方程式は、ベクトルの方程式として4組現れるが、それぞれについて、物理的な意味合いを述べなさい。』

 

みたいな感じ。

 

 問題を解いた学生諸君は、夏目漱石の小説に興味を抱いたかしらン?