95.パスカルの三角形からニュートンへ

 nを自然数として、( x + y )n の展開は比較的容易にできるが、逆の因数分解はなかなか難しい。

 高校生になった息子が、

 

    x4 + 4 y4因数分解せよ

 

という問題に出くわし、どうしたらよいかわからないようだった。

 物理の研究を30年近くしている身にも、こんなに綺麗な数式を、なぜわざわざ因数分解するのか?という疑問を持つが、練習問題だから仕方がない。

 結局息子は自分で解いたが、答えは

 

    x4 + 4 y4 = ( x2 +2 x y + 2 y2 ) ( x2 -2 x y + 2 y2 )

 

左辺と右辺のどちらが美しいか?

 でも、そんなこといったら、i = √(-1) という、2乗したらー1になる、つまり i 2

= -1 になる虚数単位を使えば

 

  x4 + 4 y4 = ( x2 + i 2 y2 ) ( x2 - i 2 y2 )

      = ( x + √2 i3/2 y ) ( x-√2 i 3/2 y ) ( x-√2 i 1/2 y ) ( x+√2 i 1/2 y )

      =  ( x + √2 ei(3/4)π y ) ( x-√2 ei(3/4)πy ) ( x-√2 ei(1/4)πy ) ( x+√2 ei(1/4)πy )

 

ともできるぞ?ここで、i 3/2 = ei(3/4)π =(-1 + i ) / √2、また、 i 3/2 = ei(1/4)π =(1 + i ) / √2

だ。

 

 ( 1 + x )n を展開した時の係数を、2項係数と呼ぶ。1665年、二項定理に現れる二項係数が、パスカルの三角形として簡単に表された。二項定理は

 

    ( 1 + x ) = 1 + x

    ( 1 + x )2 = 1 + 2 x + x2

    ( 1 + x )3 = 1 + 3 x + 3 x2 + x3

    ( 1 + x )4 = 1 + 4 x + 6 x2 +4 x3 + x4

       ・・・・

    ( 1 + x )n = nC0 + nC1 x + nC2 x2 + ・・・ + nCn xn

 

   ただし nCr = n(n-1)×・・・×(n-r+1) / (1・2・3×・・・×r)

 

となる。ここで、xr の係数を並べると

 

             1

            1    1

           1  2  1

          1    3     3    1

         1    4     6    4    1

        ・・・・・・・・・・・・

 

と三角形に並ぶが、中の数字は必ず、上斜め右と上斜め左の数の和になっている。例えば 5 段目の 6 は、右斜め上の 3 と左斜め上の 3 を足した数になっている。これをパスカルの三角形と言う。

 

 少し並べ替えて、(1 + x )n の係数を縦に並べよう。一番上の段は、n の値。

  

n=0

1

2

3

4

5

1

1

1

1

1

1

 

1

2

3

4

5

 

 

1

3

6

10

 

 

 

1

4

10

 

 

 

 

1

5

 

 

 

 

 

1

 

そうすると、右へ右へ新たな数字を書き込むには、左斜め上と左の数字を足していけば良いことが見て取れる。たとえば、n = 5 の 3 段目の 10 は、左斜め上の 4 と左の 6 を足したものだ。空欄は 0 と思う。

 

 ニュートンは、この表を、n が負の時に拡張した。一番上の段は、n の値。

-5

-4

-3

-2

-1

n=0

1

2

3

4

5

 

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

← x0

-5

-4

-3

-2

-1

 

1

2

3

4

5

← x1

15

10

6

3

1

 

 

1

3

6

10

← x2

-35

-20

-10

-4

-1

 

 

 

1

4

10

← x3

70

35

15

5

1

 

 

 

 

1

5

← x4

-126

-56

-21

-6

-1

 

 

 

 

 

1

← x5

 

 

 

 

 

 

 

 

表は下へ、無限に続く。n が負の時の表の作り方は、右隣の数字から真上の数字を引くことで得られる。例えば、n = -3 の時の4段目、x3 の係数になる-10 は、右隣の-4 から真上の 6 を引く、つまり、-4-6 = -10 として得られる。こうして、n ≧ 0 のパスカルの三角形から、n が負の左側へ表を拡張していく。こうすると、例えば、n =-3をみていくと、確かに

    

    ( 1 + x )-3 = 1 - 3 x + 6 x2 - 10 x3  + 15 x4 -21 x5 +・・・

 

と、無限に続く二項展開が得られる。微分積分学を学んでテーラー展開を知っている人は、x = 0 の周りのテーラー展開をしてみるとよい。

 1676 年には、ニュートンは、n が分数の場合の展開にも成功する。ただし、パスカルの三角形を直接拡張したものではないことを、1676 年の手紙で示している。( 1-x2 )n 、(n=0,1,2・・・) のグラフの下の面積を求める問題から、n = 1 / 2 の場合への補間を考えて得たそうだ。ニュートンが書いたように書くと(下付き棒線は本当は上に書いている、また分数は分数として書いている)

 

 P +PQ |m/n

 = P m/n + (m / n ) AQ + ( m-n ) / (2n) BQ + (m-2n) / (3n) CQ + (m-3n) / (4n) DQ +&c

 

ここで、P は第1項、Q は残りの項を P で割ったもの、A、B、C、D はすぐ前の項といったことだ。

 具体例を見ておこう。( 1 + x ) 1/2 でやってみよう。1 + x の平方根だ。見比べると P = 1、Q = x、m = 1、n = 2 だ。A は前の項、Pm/n = 1 、B も前の項、(m/n)AQ =(1/2)×1×x、C も前の項、(m-n) / (2n) BQ = (1-2) / (2×2) ×(x/2) × xだ。こうして、

 

    ( 1 + x )1/2 = 1 + (1/2) x -(1/8) x2 + (1/16) x3 -(5/128)x4 +・・・

 

となることが確かめられる。これも、テーラー展開を知っていると確認できる。