99.黄金比

 息子も高校生となり、数学の先生から授業以外の数学の話を聴く機会が増えた様だ。先生が黄金比の話をしたようで、詳しくなっていた。教科書以外の知識が学問への導入になることは多い。

 そういえば、自分自身も、正五角形の黄金分割の話を何かで読み、興味を持っていたことを思い出す。

 

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 図のように正五角形を書こう。三角形ABC と ACD と ADE の 3 つから 5 角形が作られるので、正五角形の内角の和は、180 度 × 3 = 540 度となり、正五角形の内角一つは540 ÷ 5=108 度だとわかる。三角形ABE を考えると、これは二等辺三角形で、しかも角BAE が 108 度なので、角ABE と角AEB はともに 36 度になる。正五角形の 2 頂点を結ぶ線分は BE だけでなく、AC も同じだ。だから、同じく、角BAC(=角BAF )も、角ABE(=角ABF )と同じく 36 度だから、三角形FAB は二等辺辺三角形になる。底角FBA と FAB が等しいから。こうして、三角形ABE と三角形FAB は相似だ。だから、それぞれの三角形の辺の長さの比として

 

    AB : BE = BF:AB つまり AB / BE = BF / AB

 

だから、

 

    (AB)2 = BE × BF   ・・・(1)

 

となる。

 また、角EAF は、角EAF =角BAE -角BAF = 108 度-36 度 = 72 度となり、角AEF = 3 6度だったので、三角形EAF を考えると、角EFA=180度 - 角AEF - 角EAF =180度-36度-72度=72度なので、三角形EAF も二等辺三角形であることがわかる。こうして辺の長さは AE = EF である。

 今、正五角形の辺の長さを 1 としておくと、

 

    AB = AE = EF = 1

 

である。さらに、対角線の長さ BE に対して、BE = x とすると、EF =1よ り、BF=x-1 になる。こうして(1)式から

 

   12 =x ( x-1)

 

という式が得られる。整理すると、

 

 

    x2 - x -1 = 0    ・・・(2)

 

となる。こうして、この2次方程式を解くと、

 

    x = ( 1 + √5 ) / 2  (>0)

 

が得られる。こうして、

 

    BF :FE  =  x-1 : 1

         =  x2 - x : x

         = 1 : x

が得られる。1 行目から 2 行目は、比の値にそれぞれ x を掛け、2 行目から 3 行目へは(2)式から x2-x = 1 であることを使った。こうして正五角形の対角線は、他の対角線で、1:x に分割されることが分かった。この分割を、黄金分割と呼び、比

 

    x = ( 1 + √5 ) / 2 =φ

 

黄金比と呼ぶ。あらたに、φ という文字で定義した。φ はもちろん(2)式の正の解。√5 なんて無理数が入っているので、大体の数値を見ておくと

 

    φ = 1.618033989・・・

 

 さて、黄金比 φ が得られたが、下の図のように、辺の長さが φ と φになる長方形ABCDを考えておこう。φ で割っておくと、変の長さの比は、

 

    1 : φ

 

だ。φ は(2)式を満たすので

 

    φ+1= φ2    ・・・(3)

 

だから、一辺の長さ φ の正方形AEFD をとると、長方形EBCF が残る。この長方形の辺の長さは図のように 1 と φ だ。1 になるのは(3)式から、φ2-φ=1 だから。

 

 こうして、辺の長さが 1:φ(=φ:φ2 ) の長方形から正方形を取り除くと、また辺の長さが 1:φ の長方形が得られる。何度やっても同じだ。

 

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 そこで、下図のように次々正方形を取っていって、ついでに各正方形に 4 分の 1 の円を内接させていくと、アンモナイトの貝殻を横から見た様な図になる。生物は、進化の過程で、黄金比を知ることになったのだろうか。

 

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            アンモナイトWikipediaより)

 

 さてさて、幾何学から離れてみよう。

 黄金比 φ は、次のような式で表される(フォントが無いので見にくい・・・)。

 

    φ = √(1+√(1+√(1+√(1+・・・

 

つまり、ルート(1+ルート(1+ルート(1+・・・)と、ルートの中に1+√・・・が繰り返し現れる。証明は簡単で、右辺を x とおくと、最初のルート(1+・・・)を考えると、・・・の部分はまたxそのものだから、

 

    x = √(1 + x )

 

に他ならない。2 乗すると

 

    x2 = 1 + x

 

となり、これは黄金比を求めた際の(2)式だから、解いて正の解を取ったら φ になる。

 

 また、黄金比は連分数でも表される(フォントが無いのでちょっと書けないなぁ)。

  

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右辺の1+の次の分数の分母も、1+となっていて、これは φ そのもの。そこで、φ の代わりにまた x と書くと、

 

    x = 1 + 1 / x

 

となるので、x を掛けると

 

    x2 = x + 1

 

となって、やっぱり(2)式だ。だから、解は黄金比 φ に一致する。

 

 さてさてさて、黄金比 φ の逆数を見ておこう。

 

   1 /φ = 2 / (1 + √5 ) = 2×( 1-√5)/ ( ( 1 + √5)×( 1-√5 ) )

      = -( 1 -√5 ) / 2

      = ( 1 + √5  ) / 2 - 1

      = φ- 1

 

となる。計算するまでもなく(3)式を両辺 φ で割ると得られる式だ。何が言いたかったかと言うと、黄金比の逆数 1 /φ は黄金比の小数点以下の部分、0. 618033989・・・を表しているということ。φ から、整数部分の 1 を引いているから。

 

 フィボナッチ数との関係も見ておこう。

 一つがいの兎がいた。1 年目は成長するだけで何も起きないので、1 年後、つまり 2年目も兎は一つがいだ。2 年目中に一つがいの兎を産む。こうして、3 年目(の初め)には 2 つがいの兎がいる。4 年目にも一つがいの兎を産むが、昨年生まれたつがいの兎はまだ子を産まないので、4 年目には全部で 3 つがいの兎だ。5 年目には最初に生まれた兎が成長して一つがいの兎を産む。もとからいた一つがいの兎も一つがいの兎を産むので、5 年目には全部で 5 つがいだ。こうして数列を書いていくと、

 

    1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、・・・    ・・・(4)

 

となる。この数列は

 

    Fn+2 = Fn+1 + Fn   , (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(5)

 

と表される。これを提案者の名前を取って、フィボナッチ数、フィボナッチ数列と呼ぶ。たとえば、フィボナッチ数の 5 番目は(4)の 5 番目、5 だ。6 番目は 8 だから、(5)式に当てはめ、

 

    F7 = F6 + F5 = 8 + 5 = 13

 

と、正しく(4)の並びの 7 番目の数が出ている。

 

 このフィボナッチ数列で、一つ前の数字との比を取ってみる。例えば、

 

    F4 / F3= 3 / 2 = 1.5

         F5 / F4 = 5 / 3 = 1.6666666666・・・

    F6 / F5 = 8 / 5 = 1.6

    F7 / F6 = 13 / 8 = 1.625       

    F8 / F7 = 21 / 13 = 1.615384615・・・

    F9 / F8 = 34 / 21 = 1.619047619・・・

    F10 / F9 = 55 / 34 = 1.617647059・・・

    F11 / F10= 89 / 55 = 1.611818181・・・

 

と、なんとなく、黄金比、1.618033989・・・に近づいてくるようだ。調子にのって、もっと計算すると

 

    F20 / F19 = 6765 / 4181 = 1.618033963・・・

 

うん、近い。もうちょっと。

 

    F50 / F49 = 12586269025 / 7778742049 = 1.618033989・・・

 

いい感じだ。

 

 今、r n という形の数列が、フィボナッチ数列を決める(5)式を満たすとしてみよう。すると、

 

    rn+2 = rn+1 + rn   ・・・(6)

 

が成り立つはずだ。rn で割っておくと

 

    r2 = r + 1    ・・・(6)’

 

となり、これは黄金比を求めた(2)式と同じだ。そこで、黄金比となる解を φ、もう一方を ψ としておこう。つまり、

 

    φ=( 1 + √5 ) / 2 、   ψ=( 1 - √5 ) / 2

 

これはどちらも(6)式を満たすので、

 

    φn+2 = φn+1 + φn  、   ψn+2 = ψn+1 + ψn 

 

が成り立っている。だから、c、d を定数として、

 

    c φn + d ψn

 

も(6)すなわち(5)式を満たしている。フィボナッチ数列の最初の 2 項はともに1なので、この条件から c と d を決めよう。n=1、n=2で

 

    c φ + d ψ = 1 、    c φ2 + d ψ2 = 1

 

ここで、φ2 = φ + 1、ψ2 = ψ+ 1が成り立っているので、2 乗の項を消去すると、上の 2式から

 

    c + d = 0

 

が得られる。よって、

 

    ( 1 = )  F1 = c φ + dψ = cφ- cψ= c√5  、よって、c = 1 / √5

 

と決まる。さらに

 

    ψ= ( 1 - √5 ) / 2 = -1 / φ

 

の関係に気づけば、フィボナッチ数は黄金比を用いて、

 

    Fn = ( φn -(-1 / φ)n ) / √5

 

と書けてしまう。n を十分大きくとると、( 1 / φ ) n → 0 となるので、Fn ≒ φn / √5になる。こうして、

 

    Fn+1 / Fn   -(n大きいとき)→ φ

 

が得られる。これが、隣り合うフィボナッチ数の比が、だんだん黄金比に近づいてくる理由だ。

 

 黄金比の話からフィボナッチ数列まで来てしまった。最後に、95 回で見た「パスカルの三角形」にもフィボナッチ数列が現れることを見ておしまいにしておこう。図の矢印の並びの数を足すとフィボナッチ数列が現れる。

 

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 フィボナッチはイタリアのピサで生まれた。「ピサのレオナルド」が名前の様だが、「ボナッチオ ( Bonacci o) の息子」、filius Bonacci と呼ばれていたようだ。filius が息子。フランス語では fils だ。filius はラテン語そのまま、イタリア語になっている。

 イタリアのフィレンツェで国際会議が行われたときに参加したが、学会の合間にエクスカージョン(遠足)があり、ピサに行った。ピサの斜塔に上がり、ガリレオが振り子の等時性を発見した教会に行き、と定番コースの観光をしている最中に、数学の研究所を見つけた。Laboratorio FIBONACCI という名の研究所であった。

 

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