118.正しく怖がる

 寺田寅彦の随筆、「小爆発二件」に、“ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた”とある。

 

 最近の新型コロナウイルスの流行では、報道を見聞きしていても、脱法行為と失政の両方を隠したい人たちと共に恐怖をあおって、データに基づいて説明してくれないのでストレスがたまる。

 ウェブで色々な人が色々書いているので、そこから数値を拝借しよう。1次データでは無いからどこまで精確かは判らないので、いちいち引用先は記さないでおく。一つだけ、https://www.worldometers.info/coronavirus/

 

 比較すべきは毎年流行する季節性インフルエンザだ。A型インフルエンザは世界的感染流行、いわゆるパンデミックを起こしうる。B型はパンデミックを起こすほどの感染力はない。C型の流行は稀だ。A型で見ておこう。潜伏期間は1,2日で、症状が出ているときにウイルスを撒いてしまう。接触感染、飛沫感染、空気感染を起こす。排泄物からも感染するそうだ。日本では、毎年1000万人規模で感染を起こし、1万人程度の方がインフルエンザで亡くなっている。致死率はおよそ0.1%。高齢者は主に肺炎を誘発し、小児は肺炎か脳症を起こし、亡くなることが多いようだ。

 毎年、インフルエンザ関連で1万人も亡くなっているとは知らなかった。

 

 新型コロナウイルスによるインフルエンザのデータはまだ多く分析されていないようだが、3月13日現在、世界で感染者は13万4681人、亡くなった方は4973人、致死率は3.7%といったところだ。すでに回復した人は6万9142人。感染者の半数以上はすでに回復している。

 致死率についてはよく見ないとわからないことがある。

 中国での感染者7万2314人を分析したデータを見つけた。無症状の人が1.2%で、経過としては回復している。軽症が80.9%で、この人たちも回復している。重症が13.8%で、やはり経過は回復となっている。超重症者は4.7%おり、2~3%の方が亡くなっている。致死率は2~3%。現在3月13日現在、中国では累計8万797人の感染者数なので、多くのデータの分析と考えてよかろう。ただし、中国は重症者の検査を優先したので、感染者はもっと多くて致死率はもう少し低いかもしれない。3月13日現在、亡くなった方は3170人なので、致死率は3.9%と高めにでている。

 積極的な検査をすすめた韓国では、3月13日時点で、感染者は7979人、亡くなった方は67人なので、致死率は0.84%と低い。感染者を多く見つけたら、(致死率)=(死亡者)/(感染者)なので、分母が大きくなり、必然的に致死率が下がる。

日本はクルーズ船の対応で批判された。続いてクルーズ船で感染者が出た国では、乗客を早く下船させている。日本での感染者数は3月13日時点で1387人、亡くなった方は26人なので、致死率は1.9%。しかし、クルーズ船で感染した696人中の約半数、325人はすでに回復済みだ。それ以外の日本国内では691人の感染者中、118人が回復している。国内のみでは亡くなった方は19人なので、致死率は2.7%と上がってしまう。韓国と違って検査数が少ないので、分母が小さく、致死率が大きく見えるのだろう。潜在的な感染者が把握できていないということだ。また、まだ回復数が少ないのは、感染の拡がりが中国より、またクルーズ船より遅かったからだろう。

 

(追記:2020年3月16日:イタリアやスペインでは感染者数、死亡者数とも増えており、3月16日時点で、イタリアでは(死者)/(感染者)=1809/24747 =7.3 %、スペインでは同じく、292/7845 = 3.7 %、フランスで127/5423 = 2.3 %、ドイツで13/5813  =  0.22%となっている。欧州人はマスクをしないとか、いろいろ言われているが、1000人あたりの病床数を見ておくと、イタリアで 3.2 床(2017年のデータ)、スペインで 3.1 床(2017年)、フランス 6.0 床(2017年)、ドイツ 8.0 床(2017年)とある。日本は 13.1 床(2017年)、韓国は 13 床(2018年)。何かヒントがあるかもしれない。)

 

 2003年に流行したSARS(重症性呼吸器症候群)の致死率は9.6%、2012年の流行のMERS(中東呼吸器症候群)では35%というから、今の新型コロナウィルスよりかなり怖い。

 3月6日までの中国のデータでは、4万4672人の感染者中、亡くなった方の割合は、0~9歳で0%、10~19歳で0.2%、20~29歳で0.2%、30~39歳で0.2%、40~49歳で0.4%、50~59歳で1.3%、60~69歳で3.6%、70~79歳で8.0%、80歳以上で8.0%だそうだ。若年層は明らかに少ない。

 日本の状況を知りたいが、厚生労働省のホームページを見る限り、データが無い。まぁ、亡くなった方の数が少ないので、有意なデータにならないかもしれないが。

 

 感染力は通常の季節性インフルエンザと同レベルらしい。単位がわからないが、感染力として1.5~2.5だそうだ。一人から移す人数なのだろうか。季節性インフルエンザの感染力は2~3、麻疹は感染力が強く、12~18。

  

 また、今のところ、新型コロナウイルスの遺伝子は、中国発生のものと99.9%は同じだそうなので、まだ危険な遺伝子変異は起こしていないようだ。

 有効な治療法が無いので怖い。しかしながら、せめてデータに基づいた情報と共に報道をしてもらいたい。侮るのは危険だが、データに基づいて「正当にこわが」りたい。