119.魔方陣
数字を正方形に配置し、縦、横、斜めの数字を足したら、どれも同じ数字になる並び方を「魔方陣」と呼ぶ。1から 9 までの数字を使った 3×3 の魔方陣は、反転とか回転とかしたら同じになるものを除けば 1 種類しかなく、
2 9 4
7 5 3
6 1 8
である。縦、横、斜め、それぞれ 3 つの数字を足すと、どれも 15 になる。子供の頃には、
「憎し(294)と思う七五三(753)、618は十五なりけり」
と、五七五調で覚えることが、何かの本に書いてあった。
1 から 16 まで使う 4×4 の魔方陣は、たくさんあるそうだ。中でもおそらく有名なのは、ドイツのアルブレヒト・デューラー (1471-1528) の「メランコリアI」に描かれている魔方陣だろう。しかも、下の行の中 2 つのマスは「15 14」とあり、制作年を表しているそうだ。
デューラー魔方陣は、1 から 16 まで右上から順に並べた方陣
4 3 2 1
5 6 7 8
9 10 11 12
16 15 14 13
から出発し、まず、四隅の数の上下だけ入れ替える。
16 3 2 13
5 6 7 8
9 10 11 12
4 15 14 1
次に、真ん中の 2×2 の正方形にある4つの数字、6,7と 10、11、上下を入れ替える。
16 3 2 13
5 10 11 8
9 6 7 12 ・・・(1)
4 15 14 1
これで出来上がり。縦、横、斜め、それぞれ和は 34 になっている。おまけに、左上、左下、右上、右下にできる2×2の正方形の中の数字の和も 34 になる。例えば左上だと、16+3+5+10=34。ついでに、真ん中の 2×2 の正方形の中の数を足しても 34 だ。10+11+6+7=34。
4×4 の魔方陣は、一旦出来たら、[A](i)1 行目と 4 行目を入れ替えてから、(ii)1列目と 4 列目を入れ替える、という操作で、新たな魔方陣ができる。また[B](i)2 行目と 3 行目を入れ替えてから、(ii)2 列目と 3 列目を入れ替える、という操作でも新たな魔方陣が出来る。さらには、[C](i)1 行目と 2 行目、3 行目と 4 行目それぞれを入れ替えてから、(ii)1 列目と 2 列目、3 列目と 4 列目をそれぞれ入れ替える、という操作でもできる。
5 10 11 8 10 5 8 11
16 3 2 13 -> 3 16 13 2
4 15 14 1 15 4 1 14
9 6 7 12 6 9 12 7
となる。右側のが再びデューラー魔方陣だ。さらに [B] の操作をすると
10 5 8 11 10 8 5 11
15 4 1 14 -> 15 1 4 14
3 16 13 2 3 13 16 2
6 9 12 7 6 12 9 7
と、再び、右側にデューラー魔方陣が出来た。実は、デューラーの「メランコリアI」ばりに、とある人の誕生日を忍ばせておいた。
7 2 16 9
12 13 3 6
1 8 10 15 ・・・(2)
14 11 5 4
という魔方陣を考えると、縦、横、斜めはすべて 34 になるのはもちろん、2×2 の正方形、どこをとっても 4 つの数の和は 34 になる。デューラー魔方陣では 34 にならなかった 2 行目、3 行目、1 列目、2 列目の正方形では、12+13+1+8=34 になっている。ついでに、“斜め”も拡大し、1 行 2 列目の「2」から、右下に斜めに下っていくと、2、3、15と拾い、Uターンして最後に 14 を拾うと、2+3+15+14=34。今度は「2」から左斜め下に進むと、2、12 と拾ってからUターンして 5、15 の合計 4 つを斜めの数として拾うと、2+12+5+15=34 になる。こういう魔方陣は、完全魔方陣というそうだ。
(2)の魔方陣は使いやすく、行と列の異なる覚えやすい4つの数、13、14、15、16 に任意の数を足しても引いても、魔方陣になっている。ただし、完全魔方陣ではなくなるが、デューラー魔方陣と同じ性質は保たれる。例として、36 を足してみよう。そうすると、
7 2 52 9
12 49 3 6
1 8 10 51 ・・・(3)
50 11 5 4
となる。縦、横、斜めはそれぞれ足すと、70 になるデューラー魔方陣の誕生だ。四隅の2×2 の正方形と、中央の 2×2 の正方形の 4 つの数字の和も 70 になっている。
(2)の魔方陣をうまく使った手品を見たりする。手品の種は知らないが、数当てマジックで数を当てることが出来たとする。たとえば、その数が 70 だったとすると、手品師は、「思い浮かんだ数はこうだ」と言って(3)のように数字を配置する。どんな数でも、(2)の魔方陣で 13、14、15、16 のところに、適当な数を足せば、任意の数の魔方陣を作ることが出来る。今は 34 を足して 70 にしたが、95 にしたければ 13、14、15、16 のところに 61 を足しておけば良い。この中に選んだ数字はあるかと問いかけると無いので、手品師は答えを外したと思わせる。数字を選んだ客に当たらなかったと思わせてから、横に足してごらんというと、確かにどの行も 70 になり、客は数が当てられたと思うはずだ。おまけに、縦に足しても、斜めに足しても、4 隅に 4 つの数字を足しても、中央の 4 つの数字を足しても、常に 70 になるというわけだ。答えを外したと思わせてからのどんでん返しなので、驚きが増すのだろう。