121.ネイピア数

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 

 この感染症禍のもと、大学入構禁止となって、在宅でオンライン授業を受けている学生さん達が元気に過ごしていることを願って已まない。

 簡単に、「不安はパッと消え」ない。

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

 銀行にお金を預けていたら、いつの間にか利息が付いていた、という時代は過去のものになっている。だから、ちょっと、夢を見よう。

 

 1 年間お金を預けたら、100 %の利率で利息が付く銀行に、1 万円預けたとしよう。1年後には、

 

   1万円 ×1(元本)+ 1万円 ×1(利息)= 1 万円 × ( 1 + 1 )

                    = 2 万円

 

と、2 万円になっている。

 

 嬉しい。

 

 右辺の括弧の中の最初の1は元本の部分、1 万円 ×1だ。2 番目の 1 は利率。100 %=1ということだ。

 

 銀行にお願いして、半年毎に利息をつけてもらえるようにした。利率は 1年で 100 %になるように、半年では 50 % = 0.5 とするという条件は呑む。この場合、

 

    1 万円 × ( 1 + 0.5 ) × ( 1 + 0.5 ) = 1 万円  ×( 1 + 1/2) 2

                  = 2.25 万円

 

最初の( 1 万円 × ( 1 + 0.5 ) )は、半年で増えた分だ。これを基本に、次の半年で、元本分 1 と利息分 0.5 を足したもの、 ( 1 + 0.5 ) を掛けると、後半の半年での元本と利息の合計になる。半年に分けると、2 万 2 千5 百円になり、有利だ。半年で付いた利息分を、次の半年の元本にできるから。

 

 だんだんパターンがわかってくる。毎月、1/12 = 8.3333・・・% の利息で、毎月利子をつけてもらうと

 

    1万円 × ( 1 +1/12 ) × ( 1 + 1/12 ) ×…×(  1 +1/12) 

   =1 万円 × ( 1 + 1/12 ) 12

   = 2.61303・・・万円

   ≒ 2 万 6130 円

 

ちょっと増えた。

 味を占めたので、日割りにする。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 365 ) × ( 1 + 1 / 365 ) ×…×( 1 + 1 / 365 )

   =1万円 × ( 1 + 1 / 365 ) 365

   = 2.71456748202・・・万円

   ≒ 2 万 7145 円

 

またちょっと増えた。計算はコンピュータにやらせよう。ついでに、「時間割」にしてみよう。1 年は 36 5日×24 時間 = 8760 時間だ。

 

    1万円 × ( 1 +1 / 8760 ) × ( 1 + 1 / 8760 ) ×…× ( 1 +1 / 8760 )

   =1 万円 × ( 1 + 1 / 8760) 8760

   = 2.71812669162・・・万円

   ≒ 2 万7181 円

 

あんまり増えないなぁ。「分割り」にしてもらおう。1 年は、8760 時間 × 60分 = 525600 分だ。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 525600 ) × ( 1 + 1 / 525600 ) ×…× ( 1 +1 / 525600 )

   =1 万円 × ( 1 + 1 / 525600) 525600

   = 2.718127924258・・・万円

   ≒ 2 万 7182 円

 

ほとんど増えない。1 円増えただけ。えい、「秒割」をお願いする。1 年は、525600 分× 60 秒 = 31536000 秒だ。

 

    1 万円 × ( 1 +1 / 31536000 ) × ( 1 + 1 / 31536000 ) ×…× ( 1 +1 / 31536000 )

   =1 万円 × ( 1 + 1  /31536000) 31536000

   = 2.718127924258・・・万円

   ≒ 2 万 7182 円

 

ここまでの桁では、もう変わらない。

 

 いっそ、無限分割して

 

    lim n→∞ ( 1 + 1 / n ) n

 

を考えると、この数は有限で、e と名前を付けて

 

    e =  lim n→∞ ( 1 + 1 / n ) n

  = 2.718281828459045235360287471352662497757247093699959574966967・・・

                                ・・・(1)

  

と、無限に続く数になる。

 

 この数は、ネイピア数として知られている。

 

 高等学校で微分を習うと出てくる数だ。円周率と同じく、数字が無限に続く無理数で、整数係数の代数方程式の解にはならない超越数だと知られている。

 

 微分でなぜ出てくるか。

 

 ある数 a の指数関数

 

     f (x) = ax    ・・・(2)

 

を考える。各点 x で、微分値、つまり導関数 d f(x) / dx が、その点での関数値 f(x) と等しくなるような数 a を探そう。微分の定義は

 

     「その点での値と、“隣の点”での値の差を、その点と“隣の点”の“距離”の差で     割ったもの」

 

だ。こうして、その点での接線の傾きが求まる。

 

 “隣の点”なんていうと、数学の先生は眼を剥くが。

 

 微分の値が、その点での関数の値と等しくなるのだから

 

    d f(x) / dx = f(x)     ・・・(3)

 

だ。微分の定義から

 

    d f(x) / dx = lim h→0 ( f( x+h) – f(x) ) / h    ・・・(4)

 

となる。lim h→0 は、“隣の点”を考えるので、2 点の差 h は限りなく小さく、極限としては 0 に持っていきなさいという命令。

 

        

 

(2)、(3)、(4)を使うと、微分の値がそこでの関数の値に一致するための数 aは 

 

    

    d f(x) / dx = lim h→0 ( ax + h – ax ) / h = ax   ・・・(5)

 

が成り立て、ということ。要するに

 

     lim h→0 ( ax + h – ax ) / h = lim h→0 ax ( a h – 1 ) / h

    = a x lim h→0 ( a h – 1 ) / h  =  ax 

               

 

が成り立てばよい、両辺 ax で割ると

 

    lim h→0 ( a h – 1 ) / h = 1

 

が成り立て、というわけだ。ちょっと、h を残してこの式を a について解くと、

 

    ( a h – 1 ) / h = 1  →  a = ( 1 + h )1/h

 

となる。h を零に持っていかないといけない。h を零に持っていく代わりに、

 

    1 / h = n

 

と変換して、n を無限大に持っていくことにすると、上式極限をとって

 

  a  = lim n→∞  ( 1 + 1/n )n

 

が得られる。この数字 a が、微分で得られる“導関数”がもとの関数と一致する指数関数の数を与える。

 

 (1)でみたネイピア数そのものだ。

 

こうして

 

    f(x) = ex    、   dex /dx = ex

 

となった。

 

 不思議なつながりだ。

 

 第 28 回で見たように、指数関数の逆関数は、対数関数だ。今の場合、

 

    X = eY  ならば、Y = log e X

 

となる。対数関数の底がネイピア数 e のものを、自然対数と呼び、英語では natural logarithm なので、

 

    log e X = ln X

 

のように書く。

 

 ついでに、自然対数を微分しておこう。今度は、関数 f(x) として

 

    f (x) = ln x

 

とする。微分の定義、「隣り合う点を考えて、引いてから割る」を実行しよう。第 28 回で見たように、対数の和は積の対数になるので、対数の差は商の対数になるから

 

     d f(x) / dx = d ln x / dx

    = lim h→0 ( ln ( x+h ) –ln(x) ) / h

    = lim h→0  1/ h × ln (( x+h )/x) )

    = lim h→0  1/ h × ln ( 1+h/x)

    = lim h→0  ln ( 1+h/x)1/h

 

となる。ここで、h / x =1 / t とおくと、h → 0 ということは、t → ∞ ということなので、

 

    d f(x) / dx =  lim t→∞  ln ( 1+1/ t )t/x

         =  lim t→∞  ln [( 1+1/ t )t ]1/x  

         =  ( 1/ x ) × lim t→∞  ln [ ( 1+1 / t)t ]

 

となるが、対数の中の極限 lim t→∞ ( 1+1/t)t は、また(1)式なので、ネイピア数だ。

 

    lim t→∞ ( 1+1/t )t = e

 

よって、

 

     d f(x) / dx = d ln x / dx

    =  (1/ x ) × lim t→∞  ln [ ( 1+1 / t)t ]

    = (1/ x ) × ln e

    = (1/ x ) × log e e

    = 1/ x

 

となる。log e e = 1 だから。こうして、自然対数 ln x の微分は 1/x となる。

 

 微分積分は逆演算なので、1/x の積分は自然対数 ln x ということだ。1/x は双曲線なので、双曲線をグラフに描いて、x = 1 から x = e まで、双曲線と x 軸が囲む面積は 1 ということだ。

 

    ∫1e  dx/x =  [ ln x ]1e = ln e – ln 1 = 1

 

 そういえば、第 43 回で音階について備忘した。周波数が 2 倍になると、1 オクターブ上がった音と聴き取る。音合わせの時は 440 Hz のラの音を使う。1オクターブ低いラの音の周波数は 220 Hzだ。これを、オクターブ違いの同じ音階と聴いている。440 Hz のラの音の 1 オクターブ上のラの音は、880 Hzの周波数だ。正確には 879.99 Hzだそうだが、まぁ、880 Hz としておこう。220 Hz のラからしたら周波数は 4 倍だが、4 オクターブでも 3 オクターブでもなく、2 オクターブ差と認識する。どうやら、耳は音を対数変換して聴いているようだ。どういうことかというと、底が 2 の対数で考えてみよう。すると、440 Hz と 220 Hz のラの音の差は、440-220 を聴いているのではなく

 

    log 2 440 - log 2 220 = log 2 ( 440 / 220 )

              = log 2 2

              =1

 

となって、1 オクターブだ。440 Hzと880 Hz のラの音も同じ。

 

    log 2 880 - log 2 440 = log 2 ( 880 / 440 )

              = log 2 2

              =1

やはり 1 オクターブ差として聴くことになる。

 220 Hz と880 Hz では、

 

    log 2 880 - log 2 220 = log 2 ( 880 / 220 )

              = log 2 4

              = log 2 22

              = 2 log 2 2

              = 2

 

と、2 オクターブと出る。周波数の差で聴いているなら ( 440-220 ) / 220 = 1 オクターブということになるわけなので、同様に計算すると、( 880 ― 220 ) / 220 = 3 オクターブ差として聴いていなければならないはずだ。こうして、耳は音の周波数を、周波数差ではなく対数変換して聴いているといえよう。

 

 ネイピア数から話がそれた。