129.パスカルの三角形とフィボナッチ数とその拡張

 前回や第95回で、( 1 + x )n を展開した時の係数を、2項係数と呼び、2項係数の具体を見た。二項係数 nCk

 

    ( 1 + x )0 = 1

    ( 1 + x ) = 1 + x

    ( 1 + x )2 = 1 + 2 x + x2

    ( 1 + x )3 = 1 + 3 x + 3 x2 + x3

    ( 1 + x )4 = 1 + 4 x + 6 x2 +4 x3 + x4

       ・・・・

    ( 1 + x )n = nC0 + nC1 x + nC2 x2 + ・・・ + nCn xn

       ただし nCr = n!/ ( (n-r)! r!)

              = n(n-1)×・・・×(n-r+1) / (1・2・3×・・・×r)

 

と、展開係数に現れた。また、二項係数は、パスカルの三角形として簡単に表された。上の式で、xr の係数を三角形にして並べると

 

             1

            1   1

           1  2  1

          1    3     3    1

         1    4     6    4    1

        ・・・・・・・・・・・・

 

と並ぶ。中の数字は必ず、上斜め右と上斜め左の数の和になっていた。例えば 5 段目の6 は、右斜め上の 3と左斜め上の 3 を足した数になっている。

 

  (1 + x )n の係数、上のパスカルの三角形を左揃えで書いておこう。

  

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 さて、第 99 回で見たフィボナッチ数を思い出しておこう。

 一つがいの兎がいた。1 年目は成長するだけで何も起きないので、1 年後、つまり 2年目も兎は一つがいだ。2 年目中に一つがいの兎を産む。こうして、3 年目(の初め)には 2 つがいの兎がいる。4 年目にも一つがいの兎を産むが、昨年生まれたつがいの兎はまだ子を産まないので、4 年目には全部で 3 つがいの兎だ。5 年目には最初に生まれた兎が成長して一つがいの兎を産む。もとから居た一つがいの兎も一つがいの兎を産むので、5 年目には全部で5つがいだ。こうして数列を書いていくと、

 

    1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、・・・    ・・・(1)

 

となる。この数列は

 

    F1 (n+2) = F1(n+1) + F1(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(2)

       ただし、F1(1) = F1(2) = 1

 

と表される。これが、フィボナッチ数の定義で、フィボナッチ数列と呼ばれるのだった。たとえば、フィボナッチ数の 5 番目は(1)の 5 番目、5 だ。6 番目は 8 だから、(2)式に当てはめ、

 

    F1(7)=F1(6)+ F1(5) = 8 + 5 = 13

 

と、正しく(1)の並びの 7 番目の数が出ている。

 

 第 95 回で見たように、「パスカルの三角形」にもフィボナッチ数列が現れる。図の矢印の並びの数を足すとフィボナッチ数列が現れる。三角形に並べた数字を左端に寄せたので、傾き1の直線状に並ぶ数を足したものになっている。

 

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 さて、(1)、(2)のフィボナッチ数を拡張しておこう。(2)の定義の代わりに、p ≧ 1 の自然数として、

 

     Fp (n+p+1) = Fp(n+p) + Fp(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(3)

       ただし、Fp(1) = Fp(2) =・・・= Fp(k) = 1  (ただし、1≦ k ≦ p + 1 )

 

といった数列を導入しよう。たとえば、p = 1 でフィボナッチ数列(2)が現れる。  

 今、p = 2 とすると

 

     F2 (n+3) = F2(n+2) + F2(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(4)

       ただし、F2(1) = F2(2) = F2(3) = 1 

 

となり、最初の幾つかを書いておくと、

 

     F2(1) = 1 

     F2(2) = 1 

     F2(3) = 1 

     F2(4) = F2(3) + F2(1) = 1 + 1 = 2 

     F2(5) = F2(4) + F2(2) = 2 + 1 = 3 

     F2(6) = F2(5) + F2(3) = 3 + 1 = 4 

     F2(7) = F2(6) + F2(4) = 4 + 2 = 6 

     F2(8) = F2(7) + F2(5) = 6 + 3 = 9 

 

実は、この数列も、パスカルの三角形に現れる。今度は、傾き 2 の直線状に並ぶ数字を足したものになっている。

 

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 今度は、p = 3 とすると

 

     F3 (n+4) = F3(n+3) + F3(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(5)

       ただし、F3(1) = F3(2) = F3(3) = F3(4) = 1 

 

となり、最初の幾つかを書いておくと、

 

     F3(1) = 1 

     F3(2) = 1 

     F3(3) = 1 

     F3(4) = 1 

     F3(5) = F3(4) + F3(1) = 1 + 1 = 2 

     F3(6) = F3(5) + F3(2) = 2 + 1 = 3 

     F3(7) = F3(6) + F3(3) = 3 + 1 = 4 

     F3(8) = F3(7) + F3(4) = 4 + 2 = 5 

     F3(9) = F3(8) + F3(5) = 5 + 2 = 7 

     F3(10) = F3(9) + F3(6) = 7 + 3 = 10 

 

この数列も、パスカルの三角形に現れ、傾き 3 の直線状に並ぶ数字を足したものになっている。

 

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 こうして、どんどん拡張できる。

 

 とりとめのない話をもう少し。次の1行目の関数を考え、べき展開すると

 

    f1(x) = 1 / ( 1-x-x2 )

      = 1 + x + 2 x2 + 3 x3 +5 x4 + 8 x5 + 13 x6 +・・・

 

と、xr の係数にフィボナッチ数が現れている。どうしてそうなるか、見ておこう。

 便宜のために、F(0) = 0 と付け足しておこう。このとき、フィボナッチ数(1)または(2)を用いて

 

    f(x) = Σn=0∞ F1(n) xn

      =  F(0) + F(1) x + F1(2) x2 + F1(3) x3 + F1(4) x4 + F1(5) x5 +・・・

      =    0 + x +  x2 + 2 x3 + 3 x4 + 5 x5 +・・・

 

を導入しておく。両辺から x を引いておくと、F(0) = 0 に注意して

 

    f(x) - x = Σn=2∞ F1(n) xn

         = Σn=2∞ ( F1(n-1) + F1(n-2) ) xn

         = Σn=1∞ F1(n) xn+1 + Σn=0∞ F1(n) xn+2

 

となる。1 行目から 2 行目はフィボナッチ数列の関係式(2)を使い、2行目から3行目は第1項目は n を n+1 と変えて、2 項目は n を n+2 と付け替えて、和を揃えた。第 1 項目に F1(0) = 0 を足しておくと

 

      f(x) - x = Σn=0∞ F1(n) xn+1 + Σn=0∞ F1(n) xn+2

          = x Σn=0∞ F1(n) xn + x2 Σn=0∞ F1(n) xn

          = x f(x) + x2 f(x)

 

となるので、f(x) について解くと

 

    f(x) = x / ( 1-x-x2 )

 

が得られる。こうして、両辺 xでわったものを f1(x) と名付けると、F(0) = 0 に注意して 

 

    f(x) / x = f1 (x)

        = F(1) + F(2) x + F1(3) x2 + F1(4) x3 + F1(5) x4 + F1(6) x5 +・・・

        =  1+ x + 2 x2 + 3 x3 + 5x4 + 8 x5 +・・・

 

 と、欲しい関係が得られる。

 (3)の級数についてはどうだろうか。もう簡単だが、今と同じようにして、

 

   fp (x) = 1 / ( 1-x-xp )

     = Fp(1) + Fp(2) x + Fp(3) x2 + Fp(4) x3 + Fp(5) x4 + Fp(6) x5 +・・・(6)

 

と、フィボナッチ p 数が展開係数として得られる。

 

 さらに、もうひとつ、よもやま話。

 第 77 回で、素粒子物理、弦理論などで出てくる

 

    1 + 2 + 3 + 4 + ・・・ = -1/12

 

を紹介した。正の量を無限に足していくと、負の数が出てくる。

 同じことをフィボナッチ数でやってみよう。フィボナッチ数を無限に足していく。

 

    S1 = 1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 +・・・

 

少しずらして、同じものを 2 行に並べて書いておこう。

 

    S1 = 1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 +・・・    

    S1 =    1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 +・・・

 

上と下、辺々足すと

 

   2 S1 = 1 + ( 1 + 1) +( 2 + 1) + ( 3 + 2 ) + ( 5 + 3) + ( 8 +5 ) +・・・

     = 1 + 2 + 3 + 5 + 8 + 13 + ・・・

     = 1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 + 13 + ・・・-1

     = S1 -1

 

3 行目は 1 を足して 1 引いておいた。3 行目の・・・までに、再びフィボナッチ数列の無限和が現れている。そこで、4行目のようになる。こうして、

 

    S1 = -1

 

となった。やっぱり負の数になる。

 

 フィボナッチ p 数の和も同じだ。

 

     Sp = Fp(1) + Fp(2) + Fp(3) + Fp(4) + Fp(5) + Fp(6) +・・・

      = Σn=1 Fp(n)

 

同じようにして、少しずらして 2 行に分けて和を書いておくと、

 

2 Sp = Fp(1) + Fp(2) + ・・・+ Fp(p)          + Fp(p+1) + Fp(p+2) +・・・

                          +  Fp(1) +   Fp(2) + ・・・

  = Fp(1) + Fp(2) + ・・・+ Fp(p)            + Fp(p+2) + Fp(p+3) +・・・

  = Fp(1) + Fp(2) + ・・・+ Fp(p) + Fp(p+1)  + Fp(p+2) + Fp(p+3) +・・・-Fp(p+1)

  = Sp-Fp(p+1)

 

こうして、

   

    Sp =-Fp(p+1) = -1

 

まぁ、収束半径を無視して、(6)で両辺 x = 1 を入れたのと同じになる。

 

 なんか、物理から離れてきたなぁ。