133.春の日差し

 


 新学期が始まるも、感染症禍のため、50 名とかの授業であれば対面講義が何とか可能なのだが、大人数となると対面講義ができない。密を避けるために教室定員の 50 %を目途にすると、100 人を超える大講義では、収容できる教室が限られてきて、どうしてもオンライン授業にならざるを得ない。

 

 第 80 回では、170 名を超える学生が受講する対面授業では、春4月でも講義室が暑いといった話を記した。シュテファン・ボルツマンの法則を体験できる機会だったのだが、昨年、今年とその機会が奪われて寂しい。

 

 外部から入射してくるあらゆる波長の電磁波を完全に吸収し、またあらゆる波長の電磁波を熱放射できる理想化された物体のことを、物理では「黒体」と呼んでいる。黒体放射のエネルギー密度は、すでに第12回で導いている。プランク分布だ。振動数 ν [1/s] の光がどれくらい強く放射しているかの分布式だ。振動数 ν と ν+dν の間にある放射のエネルギー密度 U が

 

 

    U = (8πν2) / c3 ×hν / (e(hν/ k T) -1) ・・・・(1)

 

となる。ここで、h = 6.6×10-34 Js はプランク定数、ν [1/s] は放射される光の振動数、c =3.0×108 m/s は光の速さ、T [K] は絶対温度、k = 1.38×10-23 J / K は「ボルツマン定数」と呼ばれる数。第 9 回でも見た式だ。

 

 第 9 回では太陽から来る光-電磁波のことだが―の分布の測定値と、プランク分布式(1)を比べて、(1)の中の未定の温度 T [K] が推定できることを記した。光の波長 λ [m] と、振動数 ν [1/s] と光速 c [m/s] の間には

 

   c = λν

 

の関係があるので、図では振動数分布の代わりに波長分布に変換して描かれている。

 

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        (大気と放射過程,会田勝,東京堂出版、より)

 

破線で描かれた「大気圏外における太陽輻射」の測定値と、プランク分布で T = 5762 K としてプランク分布自身の理論曲線を描いた「5762 K の黒体放射」はよく一致していることが分かる。こうして、太陽の表面温度が、摂氏温度だと絶対温度+273 度なので、摂氏温度でおよそ 6000 OC であることが分かる。

 

 でも、素人には、全波長(振動数)領域の太陽の放射の強さを測定していくなんて、ちょっと大変だ。他の方法で、太陽の表面温度を推定できないかしらん?

 

 第 6 回では、太陽から地球にやってくるエネルギーを考えた。地表面では 1 秒当たり1 平方センチメートルあたり、1 cal のエネルギーがやって来ている。これは測定できそうだ。ただし、地球には大気があり、大気や雲による反射・吸収、地表面での反射などで、50 % 程度の太陽エネルギーが地表では得られないので、太陽からの放射のエネルギーは、地球には 1 秒当たり 1 平方センチメートルあたり、2 cal のエネルギーがやって来ていることになる。このうちの 50 % 測定して、「 1 秒当たり 1平方センチメートルあたり、1 cal のエネルギー」と言っているわけだ。こうして、太陽が放出する1秒あたりのエネルギー  W [J/s] を、第 6 回では地球と太陽の間の距離の知識、1 億 5000 万km = 1.5×1011 m を用いて求めている。

 

W=(太陽から1億5千万キロメートル離れた地球の位置で、1秒あたりで1平方メー

   トルあたりに降り注ぐ太陽のエネルギー)×(半径が太陽と地球の距離になっ

   ていて、太陽を取り囲む球の表面積)

   = (8.4 [J] / (60 [s]×10-4 [m]) ×(4×π×(1.5×1011) ×(1.5×1011) ) [m2]

   = 4.0×1026 [J / s]                      ・・・(2)

 

だった。第 6 回を参照してくださいね。

 

 太陽が放射している単位時間 [1/s] 当たりのエネルギー [J] が分かったので、太陽を黒体と近似してしまって、シュテファン・ボルツマンの法則の登場だ。

 

 第 80 回の再登場だ。そちらを参照してくださいね。

 第 80 回では、単位時間あたり、単位面積から放射される全エネルギー P を計算してみた。結果を再掲しておくと

 

     P =  2 π5 k4 T4 / ( 15 c2 h3 )

             =σT4                              ・・・(3)

      ここで、σ = 2 π5 k4  / ( 15 c2 h3 ) = 5.67×10-8 W / m2

 

となっていた。放射 P は絶対温度 T の 4 乗に比例する。これが「シュテファン・ボルツマンの法則」と呼ばれているものだった。最後の σ の数値は、ボルツマン定数 k、光速c、プランク定数 h のそれぞれの物理定数の値を代入して求めた。単位 W(ワット)は単位時間のエネルギーなので、1 W = 1 J / s のこと。

 

 太陽が、単位時間単位面積当たり P のエネルギーを放射しているので、太陽表面からは

 

    P×(太陽の表面積)= σT4 × 4πR2     ・・・(4)

 

だけの放射があるはずだ。ここで、太陽の半径を R [m] とした。これが単位時間当たり太陽が放射する全エネルギー。

 太陽が放射する全エネルギーは、地表に到達する太陽エネルギーから計算済み、(2)だ。そこで、(2)と(4)を等しいと置けば、太陽表面の温度 T が求まるはずだ。

 

 やってみよう。

 

 太陽の半径 R [m] は

 

    R = 6.96×108 m

 

だ。地球と太陽までの距離は知っているとしたので、地球から見た太陽の視半径を測定すれば太陽の半径は分かるはずだ。この値を使って、(2)=(4)とすると

 

 

    4.0×1026 =  ( 5.67×10-8 T4 ) × ( 4×3.14×( 6.96×108 )2 )

 

よって、

 

    T4 = 1018 / ( 3.14×6.962 ×5.67 )

      = 0.1159×1016

 

と得られる。あとは 4 乗根を外して、( 1016 )1/4 = 104 だから

 

    T = 0.5835 ×104

     ≒ 5800 K

 

と、太陽表面温度が見積れた。摂氏温度でおよそ 6000 度。

 

 さっきの、プランク分布の波長分布から見積った太陽表面温度とよく一致している。

 

 外へ出て、春の陽光にあたってみよう。

 2 年ぶりに、教室の外で、シュテファン・ボルツマンの法則が体験できる。

 

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