134.死を想え

 コロナ禍の初めのころ、昨年 4 月末には全国一斉にいわゆる緊急事態宣言が出され、人の動きがほとんど無くなった。県をまたぐ移動は自粛を求められ、巣ごもり生活が始まった。

 そんな中、春先に父が肺炎となった。コロナ禍のため PCR 検査をされたが陰性であり、誤嚥性肺炎と診断された。万が一病院にコロナウイルスを持ち込むことがあってはいけないという理由で、病院は面会禁止措置をとっていた。そのため、入院先の病院への見舞いはかなわず、病状が悪化したときには母と、近隣に住む兄が呼ばれるが、持ち直すとまた面会禁止に戻る、そのような繰り返しで見舞いに行けないまま、看取れないまま、昭和天皇の誕生日に亡くなった。

 県を跨いで慌てて帰省するも、高速道路は殆ど車が走っておらず、いや田舎だからというのではなく、関西圏、神戸・大阪に入っても何だこれはというくらいに車が走っていなかったのが印象的であった。

 全国に緊急事態宣言が出されている中で、父の兄姉、甥姪など親族の弔問を受け入れる選択肢もなく、葬儀も近親でのみ済まさざるを得なかった。

 

 第 72 回で触れた広島出身の、お世話になっていた大先生も 6 月頃に亡くなられた。やはりコロナ禍のため、弔問はかなわず、最後にご尊顔を拝することはできなかった。

 

 父の葬儀を済ませた晩、少し寄り道をして、第 7 回で記した O 君のご実家の前を通ってホテルに戻った。

 そういえば、O 君は、亡くなるとも思えず全く元気だったので、訃報に際してご両親の悲嘆は如何ばかりだったかと思う。親が先に逝くのは順番だが。

 

 突然亡くなった場合は心臓が止まるのだから心不全ということになるのだろうが、いわゆる突然死というものだ。

 

 大学院 1 年目、院進学をせずに就職した友人を、就職後 1 年経たずして亡くした。O君と同じく彼も突然死だった。ご実家が奈良なので、大学時代に彼と下宿で飲んだり、一緒に比叡山にハイキングに行ったりしてよく一緒だった大学院に残った友人 3人で奈良へ行き、葬儀前に喫茶店で香典ってどう渡すのか、3 人で悩んだのを思い出す。貧乏なので香典は少額になってしまうから、3 人の香典を一つにまとめて名前は 3 人連名で書いて良いものか、3 人並べず簡潔に「有志一同」としても良いのか、お悔やみするのに「こころざしあるもの」はおかしいだろうとか、喫茶店で悩んでいた。今なら、スマホで「香典 書き方」と入力すればすぐに答えが出てくるが、当時はそんなものはない。SNS もなにもない。パソコンはあったが、外付けハードディスクの容量はせいぜい10 メガバイト程度で、20 メガバイトにしようものなら大金が要った時代、bitnet という日本語入力のできない電子メールを使い始めた時代、world wide web もない時代。悩んだ挙句、3 人連名にした。今ググってみたが、それも有り、のようだ。

 

 意外と突然亡くなる人は多いのかと思い、年間どれくらいの人が突然死に襲われるのか、調べてみた。突然死は「急死」の 1 形態だが、急死より範囲は狭い。突然死は「虚血性心疾患や不整脈などによる心臓死や脳卒中といった脳心血管系疾病がほとんどを占める」そうだ(http://www.jsomt.jp/journal/pdf/062010057.pdf )。突然死の死者数は年間なんと 7万9000 人に上るそうで(https://aed-zaidan.jp/knowledge/index.html )、1日平均 200 人が、前兆無く突然亡くなっていることになる。交通事故で亡くなった友人は幸い居ないのに、そりゃぁ、人生経験で身近にいるはずだ。交通事故死者より群を抜いて多いというわけだ。

 

 新型コロナウイルス禍で、2021 年 6 月 25 日現在、新型コロナウイルス感染者は日本国内で 79 万人余り、亡くなった方は 1 万 4 千人を超えている。この感染症禍も、ワクチン接種で収まると期待したい。

 現在は、新しいタイプのワクチンが使われているそうだ。これまでは、例えば結核なんかだと、結核菌を培養して弱毒化し、それを生きたまま接種し、ヒトの体内で抗体を作るように仕向ける。いわゆる生ワクチンだ。一方、季節性インフルエンザの場合には、インフルエンザウイルスの内、抗体を作らせる基になる抗原成分をウイルスから精製し、それをワクチンとして接種して、体内で抗体を作らせる。

 今回の新型コロナウイルスワクチンは、コロナウイルスの外側にある棘上のスパイクと呼ばれる抗原になる蛋白(たんぱく)質を合成するメッセンジャー RNA( mRNA )を人工的に合成し、それを接種するそうだ。こうすると、体内に入れられた mRNA がアミノ酸を、mRNA に書かれた設計図通りに集めてきて、コロナウイルスが持つスパイク部分の蛋白質のみ合成する。このスパイクになる蛋白質を異物と判断し、体内で抗体ができる。こうして、実際にコロナウイルスが体内に入ってきても、ウイルスの表面にあるスパイクを異物と認識する抗体が既にできているので、罹らない、または重症化しなくなる。mRNAは短時間で壊れるので、スパイクを作り続けることはない。また、できるのはスパイクになる蛋白質だけなので、ウイルスそのものでは無いから増殖するはずもない。

 

 なかなかうまくできている。

 

 しかしながら、このワクチン接種だが、接種後亡くなる人が一定数いるらしい。原因は、殆どわかっていない。抗体ができたときにショックが起きるとか、血栓ができるとかいったことがあるのかもしれないが、これは、ワクチンを打たずにコロナウイルスに感染しても、当然同じリスクがあるはずのものだ。ワクチン固有の問題ではなく、抗体反応の問題のような気がする。

 

 では、他に原因はあるのだろうか。

 そこで、先ほどの突然死のことを考えてみる。

 

 本当に、今まで病気一つしたことが無かった人が、ワクチン接種後不幸にも亡くなった場合もあると思うので、統計的な概算であることは、予め強調しておこう。

 

 1 日当たり突然死する方は平均 200 [人/1日 ] であった。おおむね 65 歳以上の人たちが接種しているので、突然死される方も 65 歳以上に限定しておこう。全人口 1 億 2563 万人に占める 65 歳以上の方の割合を計算すると、28.8 %だった

https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202106.pdf)。そこで、考える対象者は

   

    200 [人/1日] × 0.288 = 57.6 [人/1日]    ・・・(1)

 

この数字は、どの年代も突然死する確率が同じとした場合であり、実際には突然死する方の年代別ピークは 70 歳代なので、57.6 人/1日よりもっと多くなるはずだが、こういう推定では条件を厳しくして考える方が良いので、このように低く見積もっておこう。

手に入ったデータでは、2021 年 2 月 17 日から 6 月 22 日までの 126 日間で、1950 万人の方が 1 回目の接種を終わらせている

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_sesshujisseki.html)

 https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html   

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/progress/ )。2 回目を打った後に亡くなった方もいらっしゃるので、延べ回数(人数)で考える方が良いと思うが、やはり条件を厳しくして考えて、1950 万回の接種としておこう。全人口の内、ワクチン接種している確率は、1950 万人÷1 億 2653 万人(総人口)と考えれば良いので、上の突然死をした 57.6 人/1日のうち、「ワクチン接種をした後、突然死をした 1 日当たりの 65 歳以上の人数」は

 

   ( 1950万人÷1 億 2563 万人) × 57.6[ 人/1日] ≒ 8.8769

                       ≒ 8.88 [人/1日]  ・・・(2)

 

と得られる。これは低い見積もりなのが分かってもらえるだろうか。突然死が 70 歳代をピークに持つことを考慮すると、(1)で求めた 57.6 がもっと大きくなるはずなので、この数も左辺の分子に現れるから、結果は 8.88 より大きくなる。

 さて、厚生労働省が出している 2 月 17 日から 6 月 18 日までのワクチン接種後亡くなった方の総計は、355 人となっている。この方達の評価データを見ると、不明を除き

https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000796557.pdf )、接種当日亡くなった方は 22 人、以下 1 日後 68 人、2 日後 45 人、3 日後 27 人、4 日後 34 人、5 日後 21 人、6 日後 22 人、7 日後 15 人、8 日後8  人、9 日後 7 人、10 日後 8 人、11 日後 7 人、12日後 5 人、13 日後 9 人、14 日後 5 人、15 日後 3 人、16 日後 2 人、17 日後 3 人、18日後 2 人、19 日後 3 人、20 日後 1 人、21 日後 2 人、22 日後 2 人、23 日後 1 人、とんで25 日後 1 人、26 日後 1 人、とんで 28 日後 1 人、さらにとんで 35 日後 1 人、36 日後 1人、さらにさらにとんで 40 日後 1 人となっている。「正」の字書きながら集計したので正確な値では無いと思うが、とにかく最大接種後 40 日までに亡くなった方を、ワクチンの影響かもしれないと評価対象としていることは判る。

 1 日当たり 8.88 人が、ワクチンを接種の後に突然死が訪れた。厚生労働省が出している 2 月 17 日から 6 月 18 日までのデータでは、接種後 40 日目までに亡くなった方がカウントされているが、40 日は長いから条件を厳しくして、亡くなった日の 10 日前までに接種していた人の数のみ、計算では取り込もう。2 月 17 日から数えて 12 0日目に亡くなった方は、亡くなった日の 10 日前までに接種していないと、ワクチンの影響かもしれずに亡くなったという統計に入ってこないので、亡くなった日の 10 日前までに接種していた確率、10 / 120 を掛けておかないといけない。でも、2 月 17 日から数えて30 日目に亡くなった人は、亡くなる 10 日前までに接種をしていた確率は 10 / 30 と、さっきより大きくなる。そこで、全期間 126 日の平均の 63 日をとって、その 10 日前までに接種していた確率10 / 63 を、統計的に掛け算しておこう。そうすると(2)式の8.88 人の内、亡くなった日の 10 日前までに接種していた人の数は

 

     8.88 [人/1日] × ( 10日間 / 63日間) ≒ 1.409人/1日   ・・・(3)

 

となり、この数字が、「ワクチン接種したんだけれどもワクチン接種していなくても統計的に突然死で亡くなってしまう 1 日当たりの人」の数と見積れたことになる。

 期間は 2 月 17 日から 6 月 22 日までの 126 日なので、この期間中に、「ワクチン接種したんだけれどもワクチン接種していなくても統計的に突然死で亡くなってしまった人の数」は、全期間の日数をかけて

 

    1.409 [人/1日] ×126 日 = 178 人   ・・・(4)

 

と推定される。

 厚生労働省による発表では、2 月 17 日から 6 月 18 日までに 355 人の方が接種後亡くなっているそうだ(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000796557.pdf )。

(4)の結果は、6 月 18 日までに亡くなった 355 人よりは少ないように見える。しかし、概算では、接種後 10 日以内に亡くなった方のみ考慮したが、厚生労働省のデータは 40 日後まで入れているので、計算の条件を少し緩めて、例えば突然死する 20 日前までに偶然ワクチンを接種していたと延ばすと、(3)の計算は変わり、

 

    ‘8.88 [人/1日] × ( 20日間 / 63日間) ≒ 2.819人/1日   ・・・(3)’

 

となって、(4)は

 

    ‘2.819 [人/1日] ×126 日 = 355 人   ・・・(4)’

 

となり、実際に報告されている数と同程度の数になる。同じになったのは偶然だ。ワクチン接種後亡くなった方の全てが、ワクチン接種だけを原因としているものでは無いのではないかと、この数値を見て感じた。  

 2 倍、3 倍は、このような概算ではすぐに変わる。私たちは、数倍の因子を factor(ファクター)と呼んで、factor は変わることをよく知っている。こういう概算では、今の場合 100 の桁、実数の 335 と推定値の 178 とか、同じ桁であったら、まぁ、当たらずと雖も遠からずだと考える。逆に、桁が合わなければ、どこかに根本的な誤りがあると探り出す。桁を order (オーダー)と呼んで、order が合っていれば、その概算は良しとして、次に精密な計算に移るのが常だ。こういったことを、「order estimate (オーダー エスティメート)」と呼んでいて、私たちはしばしば行っている。

 

 先に記したように、本当に今まで病気一つしたことが無かった人が、ワクチン接種後不幸にも亡くなった場合もあると思うので、すべてが自然な死であったと言うつもりも、その意図も全くない。お一人お一人には家族や友人・知人が居られ、大変悲しい思いをされていることは容易に想像できる。87 歳と十分長生きした父でさえ、亡くなると寂しいものだ。ここでも、お一人お一人の死を統計データとしてのみ扱う意図は決してない。しかし、数字が出てきたときに、少し立ち止まって考えてみることも必要では無いかと考え、数値の推定をしてみたものである。

 数値が示されたら背後の統計を考え、統計値が示されたら実際の数値に当たってみる。違った面から色々考えてみることも必要だ。今回は、概算または推定だったので、微分積分も、三角関数すら出てこなかったが、世の中、色々なことを考えなければならないので、微分積分やサイン・コサイン・タンジェントも必要になってくる。某国の財務大臣は、微分積分も必要ない、みたいなことを言ったそうだが、そうやって考えることから離れられれば、日々の決裁書類も読まずに決済印を平気で押したりできるようになれそうなので、もう少し時間ができるんだけどなぁ。

 

  MEMENTO MORI -死を想え(死ぬことを忘れるな)

 

 いや、こんな状況だからこそ、今はホラティウスの方が良いか。

 

  CARPE DIEM -今を楽しめ(今日という日を摘め)