140.ランジャタイ

 2021年の漫才の大会「M1グランプリ」で、最終決戦に残った漫才コンビモグライダーやランジャタイを、最近地上波テレビでよく見かける。M1グランプリ最終決戦登場までは全く知らなかったコンビ達だ。

 ランジャタイ、もちろんコンビ名は、奈良の正倉院御物の香木、「蘭奢待」から採っているのだろう。黄熟香(おうじゅくこう)という香木で、別名「蘭奢待」。蘭奢待の文字の中に「東大寺」が入っている。

 香をたくと、どんな香りがするのだろう。蘭奢待を切り取ったのは、足利義満織田信長明治天皇、それと足利義教足利義政だそうだ。義教は後土御門天皇、信長は正親町天皇に献上しているので、香りを知っているのはこれで7人。実際にはもっといるのだろうが。

 大学、大学院時代の9年間、京都に暮らしていたので、たまにお香を買ってきて、下宿で焚いたこともある。香と言っても、短い線香状のもので、それを立てるガラスの皿と併せても庶民向けの安いものだった。

 

 安い香とはいえ、どれを焚いても、大学生には香りは判別できぬ。

 

 「源氏香」という遊びがある。5種の香木を5つずつ、計25用意し、その中から無作為に5つとる。それぞれを焚いていき、等しい香、単独の香と聞き分けていく“嗅ぐ”のではなく、“聞く”のだそうだ)。このとき、第1番目の香、第2番目の香、・・・、第5番目の香を右から縦棒で書き、等しい香を横棒で結んで図を描く。Wikipedia から引用すると、こんな感じ。

 

 

 

 何通りあるか?

 

 まず、どの香も違う場合、下図の①。5本の縦棒、どれも結ばないので、これは1通り。組み合わせの言葉で書けば、5本のうちからどの2つもとらないので、2項係数で書けば

 

     5C0 =  5 ! / ( 5 ! 0 ! ) = 1

 

      

 

 2つの香が同じで、残り3つはどれも違う場合。上図の②。第1の香と2が同じ時、あるいは1と3が同じ時、あるいは1と4が同じ時、あるいは1と5が同じ時、あわせて4通り。次に2と3が同じ時、2と4が同じ時、2と5が同じ時の3通り。次いで3と4が同じ時、3と5が同じ時の2通り、最後に4と5が同じときの1通り。全部で、4+3+2+1=10通りだ。これは、5本のうちから2本を選ぶ組み合わせの数だから、2項係数を使って

 

    5C2 = 5 ! / ((5-2) ! 2 ! = ( 5×4×3×2×1 ) / ( ( 3×2×1 )×( 2×1 ) )

      =10

 

で計算できる。

 

 2つの香が2組同じで、残り1つが違うとき。図の③。他と違うものをとる場合の数は5通りで、残り4本から2つずつ結ぶ方法はそれぞれ3通りなので、

 

     5×3 = 15 通り。

 

組み合わせの数で書けば、まず異なる香をとる場合の数5通りのうち、残り4本から2本をとる組み合わせの数になる。残った2本は必ず結ぶ。でも、「残った2本」を先に結んでいるかもしれないので、2回数えすぎたことになり2で割る必要がある。こうして、2項係数で書けば

 

   5 ×( 4C2 / 2 ) = 5 × 4 ! / ((4-2) ! 2 ! = 5×( 4×3×2×1 ) / ( ( 2×1 )×( 2×1 ) ) / 2

           =15

 

 2つが同じで、残り3つも同じ場合。図の④。5本から2本とり、残りは必ず結んでしまうので、②と同じく、2つだけとってくれば良いので

 

     5C2 = 5 ! / ((5-2) ! 2 ! = ( 5×4×3×2×1 ) / ( ( 3×2×1 )×( 2×1 ) )

      =10

 

 3つ同じで残り2つは異なる場合。図の⑤。これも、異なる2本をとってくれば残り3つは横棒で結んでしまうので、5つから異なる2つをとる組み合わせになり、先ほどと同じだ10通りだ。

 

     5C2 = 5 ! / ((5-2) ! 2 ! = ( 5×4×3×2×1 ) / ( ( 3×2×1 )×( 2×1 ) )

      =10

 

 一つだけ異なり、後の4つは同じ場合。図の⑥。これは異なる香を一つとる場合の数なので5通りだ。

 

      5C1 = 5 ! / ((5-1) ! 1 ! = ( 5×4×3×2×1 ) / ( ( 4×3×2×1 ) × 1 )

      = 5

 

 最後に、5つの香すべて同じ場合。図の⑦。これは明らかに1通りだ。

 

     5C0 =  5 ! / ( 5 ! 0 ! ) = 1

 

 

 ①から⑦まで、全部足すと、できる図のパターンは、

 

     1 + 10 + 15 + 10 + 10 + 5 + 1 = 52 通り

 

となる。

 

 これらの52パターンを、源氏物語54帖と対応させる。初めの「桐壺」と最後の「夢の浮橋」を除く52帖と対応させるのである。例えば、①の、すべての香が異なる場合は、源氏物語第2帖の「帚木(ははきぎ)」、第1香と第2香が同じで、残り3つは異なる場合は「空蝉(うつせみ)」といった具合だ。

 

 いにしえの人も場合の数を数えたのだろうか。優雅に源氏物語に対応させたものだ。

 

 源氏物語後半、宇治十帖あたりでは、光源氏女三宮の次男(実父は光源氏でないが)の薫君(かおるのきみ)と、今上帝の第3皇子の匂宮(におうのみや)とが主要登場人物になる。薫と匂、香に連想されるはずだ。

 

 源氏物語では、タイトルだけあって、本文の無い章がある。「雲隠(くもがくれ)」がそれだ。1帖としては数えていないようだが。

 

 このブログも、源氏物語に倣って、タイトルだけ書いて本文の無い章を設けてみようか。

 まっ、源氏物語と違って、どの章も、本文は有っても中身は無いが。