133.春の日差し

 新学期が始まるも、感染症禍のため、50 名とかの授業であれば対面講義が何とか可能なのだが、大人数となると対面講義ができない。密を避けるために教室定員の 50 %を目途にすると、100 人を超える大講義では、収容できる教室が限られてきて、どうしてもオンライン授業にならざるを得ない。

 

 第 80 回では、170 名を超える学生が受講する対面授業では、春4月でも講義室が暑いといった話を記した。シュテファン・ボルツマンの法則を体験できる機会だったのだが、昨年、今年とその機会が奪われて寂しい。

 

 外部から入射してくるあらゆる波長の電磁波を完全に吸収し、またあらゆる波長の電磁波を熱放射できる理想化された物体のことを、物理では「黒体」と呼んでいる。黒体放射のエネルギー密度は、すでに第12回で導いている。プランク分布だ。振動数 ν [1/s] の光がどれくらい強く放射しているかの分布式だ。振動数 ν と ν+dν の間にある放射のエネルギー密度 U が

 

 

    U = (8πν2) / c3 ×hν / (e(hν/ k T) -1) ・・・・(1)

 

となる。ここで、h = 6.6×10-34 Js はプランク定数、ν [1/s] は放射される光の振動数、c =3.0×108 m/s は光の速さ、T [K] は絶対温度、k = 1.38×10-23 J / K は「ボルツマン定数」と呼ばれる数。第 9 回でも見た式だ。

 

 第 9 回では太陽から来る光-電磁波のことだが―の分布の測定値と、プランク分布式(1)を比べて、(1)の中の未定の温度 T [K] が推定できることを記した。光の波長 λ [m] と、振動数 ν [1/s] と光速 c [m/s] の間には

 

   c = λν

 

の関係があるので、図では振動数分布の代わりに波長分布に変換して描かれている。

 

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        (大気と放射過程,会田勝,東京堂出版、より)

 

破線で描かれた「大気圏外における太陽輻射」の測定値と、プランク分布で T = 5762 K としてプランク分布自身の理論曲線を描いた「5762 K の黒体放射」はよく一致していることが分かる。こうして、太陽の表面温度が、摂氏温度だと絶対温度+273 度なので、摂氏温度でおよそ 6000 OC であることが分かる。

 

 でも、素人には、全波長(振動数)領域の太陽の放射の強さを測定していくなんて、ちょっと大変だ。他の方法で、太陽の表面温度を推定できないかしらん?

 

 第 6 回では、太陽から地球にやってくるエネルギーを考えた。地表面では 1 秒当たり1 平方センチメートルあたり、1 cal のエネルギーがやって来ている。これは測定できそうだ。ただし、地球には大気があり、大気や雲による反射・吸収、地表面での反射などで、50 % 程度の太陽エネルギーが地表では得られないので、太陽からの放射のエネルギーは、地球には 1 秒当たり 1 平方センチメートルあたり、2 cal のエネルギーがやって来ていることになる。このうちの 50 % 測定して、「 1 秒当たり 1平方センチメートルあたり、1 cal のエネルギー」と言っているわけだ。こうして、太陽が放出する1秒あたりのエネルギー  W [J/s] を、第 6 回では地球と太陽の間の距離の知識、1 億 5000 万km = 1.5×1011 m を用いて求めている。

 

W=(太陽から1億5千万キロメートル離れた地球の位置で、1秒あたりで1平方メー

   トルあたりに降り注ぐ太陽のエネルギー)×(半径が太陽と地球の距離になっ

   ていて、太陽を取り囲む球の表面積)

   = (8.4 [J] / (60 [s]×10-4 [m]) ×(4×π×(1.5×1011) ×(1.5×1011) ) [m2]

   = 4.0×1026 [J / s]                      ・・・(2)

 

だった。第 6 回を参照してくださいね。

 

 太陽が放射している単位時間 [1/s] 当たりのエネルギー [J] が分かったので、太陽を黒体と近似してしまって、シュテファン・ボルツマンの法則の登場だ。

 

 第 80 回の再登場だ。そちらを参照してくださいね。

 第 80 回では、単位時間あたり、単位面積から放射される全エネルギー P を計算してみた。結果を再掲しておくと

 

     P =  2 π5 k4 T4 / ( 15 c2 h3 )

             =σT4                              ・・・(3)

      ここで、σ = 2 π5 k4  / ( 15 c2 h3 ) = 5.67×10-8 W / m2

 

となっていた。放射 P は絶対温度 T の 4 乗に比例する。これが「シュテファン・ボルツマンの法則」と呼ばれているものだった。最後の σ の数値は、ボルツマン定数 k、光速c、プランク定数 h のそれぞれの物理定数の値を代入して求めた。単位 W(ワット)は単位時間のエネルギーなので、1 W = 1 J / s のこと。

 

 太陽が、単位時間単位面積当たり P のエネルギーを放射しているので、太陽表面からは

 

    P×(太陽の表面積)= σT4 × 4πR2     ・・・(4)

 

だけの放射があるはずだ。ここで、太陽の半径を R [m] とした。これが単位時間当たり太陽が放射する全エネルギー。

 太陽が放射する全エネルギーは、地表に到達する太陽エネルギーから計算済み、(2)だ。そこで、(2)と(4)を等しいと置けば、太陽表面の温度 T が求まるはずだ。

 

 やってみよう。

 

 太陽の半径 R [m] は

 

    R = 6.96×108 m

 

だ。地球と太陽までの距離は知っているとしたので、地球から見た太陽の視半径を測定すれば太陽の半径は分かるはずだ。この値を使って、(2)=(4)とすると

 

 

    4.0×1026 =  ( 5.67×10-8 T4 ) × ( 4×3.14×( 6.96×108 )2 )

 

よって、

 

    T4 = 1018 / ( 3.14×6.962 ×5.67 )

      = 0.1159×1016

 

と得られる。あとは 4 乗根を外して、( 1016 )1/4 = 104 だから

 

    T = 0.5835 ×104

     ≒ 5800 K

 

と、太陽表面温度が見積れた。摂氏温度でおよそ 6000 度。

 

 さっきの、プランク分布の波長分布から見積った太陽表面温度とよく一致している。

 

 外へ出て、春の陽光にあたってみよう。

 2 年ぶりに、教室の外で、シュテファン・ボルツマンの法則が体験できる。

 

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132.“幾何”級数

 これまで、何度か数列の和が出てきた。近いところでは、2 回前、130 回で、

 

    1 + x + x2 + x3 + x4 +・・・ = 1 / ( 1-x )

 

何てのが出てきた。これは、項が進むごとに x を掛けていく、言い換えれば、ある項 xnと、一つ前の項 xn-1 の比 xn / xn-1 が常に x であるという意味で、各項の数列は等比級数と呼ばれ、今はすべて足しているので、等比級数の和と呼ばれる。

 

 一応証明しおこう、

 

 次の数列の和を考えよう。収束性を考えて、0 < r < 1 としておく。

 

    S(r) = r + r2 + r3 + r4 +・・・+ rn 

      = Σk=1n rk

 

両辺に r を掛けると

 

    r S(r) = r2 + r3 + r4 +・・・+ rn + rn+1

 

となる。辺々引き算をすると、右辺の rから rn は引き算されてなくなるので、

 

   ( 1-r ) S(r) =  r - rn+1

 

が得られる。こうして、欲しい数列の和 S は

 

    S(r) = r + r2 + r3 + r4 +・・・+ rn

      = ( r - rn+1 ) / ( 1-r )

      = r ×( 1-rn ) / ( 1-r )

 

と纏められる。証明終わり。

 

 今、n が無限大まで続く級数の和が欲しいので、今導いた式で n →∞ にすると、r < 1だったので、rn =  0 から、

 

    S(r) = r + r2 + r3 + r4 +・・・

      = lim n  r×( 1- rn ) / ( 1-r )

      = r / ( 1-r )           ・・・(1)

 

となる。

 ついでに、両辺 1 を足しておくと

 

    1 + r + r2 + r3 + r4 +・・・

   = 1 + r / ( 1-r )

   = 1 / ( 1-r )

 

が得られ、r=x と書くと、一番初めにあげた式になっていることが分かる。

 証明再び終わり。

 

 ところで、等比級数のことを、何故 “幾何級数” というのだろうか? どうしてだか良く判らない。

 

 とりあえず、こんなことなんだろうかと、想像してみる。

 

 例えば、p を 2 以上の自然数として、r = 1 / p  ( < 1 ) の場合を考えてみよう。まずは、p=2。このとき、正方形の 2 倍の長方形を分割して行こう。図のように最初、面積1 の長方形を 2 つに分けて、2 つの正方形にする。

 

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正方形の面積はそれぞれ 1/2 だ。そのうちの一つを置いておく。もう一つの正方形を、再び 2 つの長方形に分ける。この長方形の面積はそれぞれ 1/4 だ。できた長方形の一つを先ほどの面積 1/2 の正方形に足す。残りの面積 1/4 の長方形を再び 2 つの正方形に分割する。面積 1/8 の正方形が2つできる。一つを、面積 1/2 と面積 1/4 の方形を足した方に足しておいて、残りの 1/8 も長方形を再び、面積 1/16 の正方形に分割して、一方を足して、他方をさらに分割し、という操作を繰り返すと、結局元の面積 1 の長方形を、1/2、1/4、1/8、1/16、・・・と分割して足したものになる。こうして、数式としては

 

    1 = 1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/32 + ・・・・

 

となるはずだ。これは、(1)式で、r = 1/p = 1/2 と置いたもの

 

    S(1/2) = (1/2) / ( 1-1/2 ) = 1

 

に他ならない。

 

 

 この図形を下の図のように並べると、一目瞭然だ。

 

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 次いで、p=3、すなわち r = 1/3 のときを見てみよう。図の面積 1 の長方形を 3 分割し、面積 1/3 の図形を 2 つ並列しておく。

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残りの 1/3 の正方形を 3 等分し、それぞれ 1/9 の長方形の 2 つを、先ほどの面積 1/3 の正方形に並置しておく。残り 1 つの 1/9 の長方形を面積 1/27 の 3 つの正方形に分割し、2 つをさっきの 1/3、1/9 の図形の続きに並べておこう。残った 1/27 の長方形を 3分割し・・・と続けていくと、最初の面積 1 の長方形が、まったく同じ 2 つの系列に分割できる。こうして、各方形の系列の面積を足すと、それぞれ 1/2 になっているはずだ。こうして、

 

    1/2 = 1/3 + 1/9 + 1/27 + 1/81 +・・・

 

が得られる。これは、やはり(1)式で r=1/3 を代入したものになっている。

 

    S(1/3) = ( 1 / 3 ) / ( 1-1/3 ) = 1 / 2

 

 

 えい、p=4 でやっておこう。今度は r =1/4 の場合だ。もう、さっきとおんなじ。図の面積 1 の正方形を 4 分割し、面積 1/4 の図形を 3 つ並列しておく。

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残りの 1/4 の正方形を 4 等分し、それぞれ 1/16 の正方形の 3 つを、先ほどの面積 1/4の正方形に並置しておく。残り 1 つの 1/16 の正方形を面積 1/64 の 4 つの正方形に分割し、3 つをさっきの 1/4、1/16 の図形の続きに並べておこう。残った 1/64 の正方形を 4 分割し・・・と続けていくと、最初の面積 1 の正方形が、まったく同じ 3 つの系列に分割できる。こうして、各、方形の系列の面積を足すと、それぞれ 1/3 になっているはずだ。こうして、

 

      1 / 3 = 1 / 4 + 1 / 16 + 1 / 64 + ・・・

 

 

 

 これを続けると、p を 2 以上に自然数のとき、

 

     1 / ( p-1 ) = 1 / p + 1 / p2 + 1 / p3 + 1 / p4 +・・・    (2)

 

が得られるだろう。ここで、1 / p = r とおくと、

 

     1 / ( p-1 ) = 1 / ( 1 / r -1 ) = r / ( 1-r )

 

なので、(2)式は

 

     r / ( 1-r ) = r + r2 + r3 + r4 + ・・・

 

となって、(1)式が再現される。ただし、“幾何学的”には、r が単位分数、1 / p の場合だけだ。一般に、r は 0 < r < 1 であれば無理数でも良いので、(1)式の証明は強い。

 

 でも、まぁ、一部とはいえ、幾何学的に解釈可能だから、“幾何級数”というのだろうか?

 

131.弘法大師

 前回、最後に落語の『持参金』を引き合いに出した。

 ついでなので、『抜け雀』も見ておこう。

 

 ある宿屋に、身なりの粗末な客がやってくる。金はあるので、先に宿代を払っておこうと言うが、宿屋の主人は、出立のときで良いと言って、客人を泊める。客人は、夜は一升の酒を用意するように言って、先に風呂に入ってから、一升酒を飲みきって寝てしまう。朝は早く起きて、朝飯を食べたら、ぶらぶら散歩をして、昼頃帰ってきて、酒を五合用意させ、飲んだら昼寝してしまう。夜は風呂の後、また一升酒。毎日これを繰り返す。宿の奥さんが、身なりの粗末な客が本当にお金を持っているか疑い、今までの5日分の酒代だけでも貰って来いと、主人に言う。主人が客人に酒代だけ入れてくれと言うと、金はないという。一文無しで勘定払えないからといって、着物を脱がしても、ボロボロなので売れそうもない。職業を聞くと絵描きという。それで、宿代代わりに、衝立に何か書いてやろうと言って、飛んでいる雀を5羽描く。また自分が戻って来るまで誰にもこの衝立てを売るなと言い残し、去っていく。雀5羽で2両。翌朝、主人が衝立のある部屋を開けると、雀がいる。雨戸をあけると外へ飛んで出るが、暫くすると戻ってきて、衝立に戻る。絵に描いた雀が抜けて出ていたことに気づき、驚く。次の朝、奥さんが同じことをしてみると、衝立には雀が無く、部屋から雀が飛び出し、また衝立に帰ってくる。これが話題になり、殿様が1000両で買おうというが、客人との約束があるので売れないと断る。噂を聞いた大勢の客が宿にやって来て、宿は大繁盛になる。ある時、ある絵描きがやって来て、抜け出すほどの力のある雀なら、衝立の中で飛び続けて、力が尽きて死ぬぞ、という。そこで、衝立に書き足してやろうと言って、止まり木と鳥籠(かご)を描いて去っていく。次の日の朝、抜け出した雀が衝立に戻って来ると、鳥かごに入ったり、止まり木に泊まったりする。殿様が聞き出して、2000両で買おうというが、客人と約束があるので売らない。その後、二十日ほどして、最初に雀を5羽描いた絵描きが、立派な装束で戻ってくる。書き足された鳥籠と止まり木の絵を見て、親不孝だと、はらはらと泣きだす。宿の亭主が、そんなに立派になって何が親不孝かというも、鳥かごを書いたのは自分の父親だという。

 「自分は親不孝者だ。親に籠(かご、駕籠)を描かせた(かかせた)。」

 駕籠を運ぶ人は、「駕籠かき」と言い、駕籠を運ぶことを「かく」という。これが下げだ。

 

 何でこんな話を記したかというと、身なりの悪い人が、実は偉い人だったという教訓が落語にあるのが面白い。

 

 四国に住む人は、お遍路さんを見かけることがままある。四国遍路、八十八か所巡りをする人たちだ。伊予国に河野家という一族があり、一族中に衛門三郎という人がいた。ある時、身なりの悪いみすぼらしい僧侶がやってきたが、身なりを見て追い返してしまう。毎日現れるが、8日目に衛門三郎は、僧侶の托鉢の鉢を叩き割る。その後、僧侶は現れなくなるが、衛門家では、8人の子供が毎年一人ずつ亡くなるという不幸が続く。三郎は、あの僧侶が弘法大師であったことに夢で気付き、弘法大師にお詫びをするために弘法大師を追って四国を巡る。

 

 これが四国遍路の起源だそうだ。

 

 衛門三郎は弘法大師に会えず、四国を逆に廻ってみる。

 

 これが「逆打ち」と呼ばれる巡礼の方法になっている。

 

 死の間際に弘法大師に会えて、非礼を詫びる。弘法大師が望みを聞くと、三郎は来世は河野本家に生まれて、人の役に立ちたい」と言い残して亡くなる。弘法大師は石を拾って「衛門三郎再来」と書いて三郎に握らせて去っていく。翌年、河野家に生まれた子供が手を握りしめていたので、その手を開けてみると「衛門三郎再来」と書かれた石を握っていたのだった。

 ということで、その石は、松山の石手寺に祀られているそうだ。

 

 たとえ身なりが悪い人でも非礼を働いてはいけない、と読める。抜け雀の絵師と弘法大師が、私の中では、なんか重なる。

 

 ついでに。

 

 衛門三郎が詫びた後の石手の「奇跡」に目が行くが、もし、8人の子が亡くなったのが弘法大師の怨念なら、なんと弘法大師ご無体な、と思ってしまうのは、信仰心のない私だけなのだろうか。

 

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 折角だから、八十八か所の、1番札所からの距離を見ておこう。1番札所から23番札所までの23の札所は阿波、24番から39番までの16か所が土佐、40番から65番までの26か所が伊予、66番から88番までの23か所が讃岐に位置している。石手寺は51番札所だ。「距離」の図で傾きが大きいほど、札所間の距離が大きいことを意味している。阿波國を見ると、11番札所と12番札所の距離がやや離れている。「札所の標高」の図を見ると12番札所は高いところに位置しており、山を登るため札所間距離は大きくなっている。23番と24番も距離が開いているが、ここは国境だ。土佐に入ると、26番から28番まで、札所間距離がこれまでと異なっている。27番札所の標高は高い。28から36辺りまで、また一定の傾きになっているが、36番札所から41番札所まで、傾きが大きく、札所間距離が開いていることが分かる。39番と40番の間に国境がある。41から43までは再び、いつもの傾きになるが、43と44が大きく開いている。ここは宇和島から久万までだ。45と46もやや開いているが、三坂峠を越えて松山平野に出るからだ。59と60、64と65、65と66もややギャップがあるが、60、65、66の札所の標高が高い。その後は、ほぼ一定の傾きになっていることが見て取れる。

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 ついでに、歩き遍路では下り坂より上り坂がきついだろうから、次の札所までの最大の上りの標高差を、図「山越の上りの標高差」で示しておいた。0になっているのは下りのみ。20番札所21番札所の標高はほぼ同じだが、20から21まで、一旦下ってから上るので、440 m 上らないといけない。札所間距離は6.7 km なので、結構大変だろう。

 

 

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 札所間距離を、1番札所から2番札所、2番札所から3番札所・・・と横軸に取り、縦軸に札所間距離をとると、下図のようになる。

 

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 ついでに、札所間距離を長い方から棒グラフにしてみると、下のようになる。

 

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 横軸は、ランキング何位だ。なんとなく、指数関数のように見えなくもない。縦軸を対数にしてみると、こんな感じ。

 

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 上位18位くらいまでの傾きは大きく、18位から75位くらいまでの傾きは、先程とは異なるが傾きほぼ一定で、75位以上はまた傾きが変わる。札所間距離にもこういったスケーリングがみられるようだ。

 

 こうやって、いろいろ見ていると、机上でも遍路道が楽しめる。

130.金は天下の回り物

 経済学を勉強してこなかったので、経済の仕組みが良く判らない。これが「飯米に追われる」あるいは、赤貧を洗ってしまう元になっているのかもしれない。

 

 何かの本で読んだような気がするのだが、どの本に書いてあったのか、覚えがない。興味が無いとそういうものなのだろう。

 ある銀行Aに100万円の資金があったとしよう。大きなお金と言えば、今も昔も100万円だ。その銀行は、支払い準備のために10万円を手元に残して、残りの90万円をPさんに貸し出す。今の場合、100万円のうちの10万円を残したので、“支払準備率”は10 % ということだ。Pさんは、最近自宅を改装してパン屋さんを始めるためだ。その90万円を大工のXさんに支払い、改装する。借金はパンを売って儲けて返す予定だ。まだ返せないけど。大工のXさんは労賃として得た90万円をA銀行に預ける。A銀行は、現金としては支払い準備として残した10万円と、Xさんからの預金90万円のあわせて100万円だが、Pさんに貸し付けた90万円がいずれ戻って来るので、資産としては100+90=190万円になっている。

 最初は100万円だったはずなのに、なぜか増えている。その上、Pさんから利子付きで返してもらうので、一層増えるだろう。

 

 大工のXさんがA銀行に預けるとは限らないので、話を少し一般化しておこう。

 Xさんは、B銀行に90万円を預けた。B銀行は、やはり支払準備率10%で、手元に9万円残して残りの81万円をQさんに貸し付けた。Qさんは仕事を頼んだYさんに81万円を支払った。Yさんは受け取ったお金をB銀行に預けた。この時点で、B銀行には、手元の9万円と、Yさんが預けた81万円と、いずれ戻って来るQさんへの貸付金81万円の、合わせて90 + 81 = 171万円あることになる。さっきはA銀行に190万円あったが、今、Xさんが A銀行に預けなかったので、190―90 = 100万円あるので、それと合わせて、100 + 171 = 271万円が市中にある勘定だ。

 あれ、190万円だったのが、また増えた。もとは100万円しか無かったのに。

 

 ちょっと整理しよう。

 100万円から出発して、“支払準備率”をrとする。ただし、0 < r < 1だ。

 最初、100万円あった。

 

            100 万円

 

 100×r万円残して残りを貸し付ける。市中には

   

      100 + 100×( 1-r ) 万円

 

出回っている。最初にA銀行、Pさん、Xさんのときの190万円だ。ここで、r=0.1 を入れると確かにそうなる。

 次に、100×(1-r)万円の預かりを受けたB銀行が、準備率rでr×(100×(1-r))万円残して、残りをQさんに貸し付ける。要するに、預かった(100×(1-r))万円の1-r倍、r=0.1なら90%を貸し付けるというわけだ。つまり、( 1-r)×(100×(1-r))万円貸し付けて、市中にお金を出回らせる。ここまでで、市中に出回っているお金は

 

     100 + 100×( 1-r ) + ( 1-r)×(100×(1-r))万円

 

要するに、

 

     100×[ 1 + ( 1-r )+ ( 1-r )2  ] 万円

 

というわけだ。Qさんから支払いを受けたYさんがC銀行に全額、 ( 1-r)×(100×(1-r))万円預けて、C銀行は準備率r で一部を手元に置いて、残りの(1-r )×( 1-r)×(100×(1-r))をRさんに貸し付けて・・・。

 これを繰り返していくと、最終的に、市中には

 

    100×[ 1 + ( 1-r )+ ( 1-r )2 + ( 1-r )3  + ( 1-r )4  ・・・ ] 万円

   =100 ×( 1 / r ) 万円

 

出回っていることになる。ここで、

 

    1 + x + x2 + x3 + x4 +・・・ = 1 / ( 1-x )

 

級数公式を使った。今は、x = 1-r とすればよい。

 

 こうして、例えば“支払準備率”が10%、すなわちr=0.1 の時、100万円しか現金は無いのに、最大、100 / 0.1 =1000万円市中にお金があるように見える。10倍だ。

 お金が動けば、実際以上にお金があるようになり、景気が良くなるのだろう。流通するお金を増やすために、単に紙幣を10倍印刷すると、お金の価値は10分の1になり、インフレになってしまうが、お金が動けば、紙幣を刷らずに市中に出回る見かけのお金が増えて、景気が良くなるということだろう。

 

 最初に戻ろう。支払準備率とか、もう良しにする。

 ある銀行Aに100万円の資金があったとしよう。大きなお金と言えば、今も昔も100万円だ。その銀行は、その100万円をPさんに貸し出す。Pさんは、最近自宅を改装してパン屋さんを始めるためだ。その100万円を大工のXさんに支払い、改装する。借金はパンを売って儲けて返す予定だ。まだ返せてないけど。大工のXさんは労賃として得た100万円をA銀行に預ける。A銀行は200万円の資産になり、Xさんは儲かったので+100万円、Pさんは借金だから-100万円。やっぱりトータル200万円になっている。だが、現金100万円は、A銀行からぐるっと廻ってA銀行に戻ってきただけだ。現金とは不思議な代物だ。この話では、現金が無くても成り立つ。

 

 でも、こんなことは、昔から解っていたことのようだ。

 落語に「持参金」という噺がある。

 長屋住まいのある男が、大店(おおだな)の番頭さんから20円を借りていた。番頭さんがその男の親に世話になっていたとかの縁で、ある時払いの催促無しで貸していたが、急に入用になったので、返してもらえるように頼みに来る。その男も借りた金なので返すつもりだが、番頭さんは今晩までに欲しいと言い残して帰っていく。急に言われても20円もの金を工面できるわけもなく、ごろごろしているところへ、世話好きの金物屋の佐助さんがやってくる。佐助さん曰く、嫁さんをもらわないか、という縁談話。お相手のお花はん、一つ困ったことにお腹に子がいるので、持参金の20円も持たせて旦那を探している。お前どうだ、という話。この男、ちょうど持参金が20円ということで、持参金目当てでその日のうちに祝言を上げる。が、佐助さん、20円はもうちょっと待ってくれと言う。結局翌朝になって、番頭さんが20円の取り立てに男のところへやってくるも、男は、もうすぐお金が入るので、少し待ってほしいと頼むと、番頭さん、お店(たな)を出たり入ったりするのも変に思われるので、ここで待たせてほしいとなって、その間に、何故急に20円を用立てしないといけないかの理由を話し出す。お店のお花はんと良い関係になって、子が出来た、店の大旦那に知れたら大ごとなので、何とかならないか佐助さんに相談したら、20円用立ててくれたら何とかすると言われたので、20円が要るのだ。というわけで、佐助さんは、番頭さんから20円払ってもらった後、その20円を男に持参金として渡す算段をしていることが分かる。そのお金で、男は番頭さんに借金返済をするということになっているのだった。実際には現金の20円は要らず、男が手ぬぐいを出し、これが20円ということで番頭さんに借金返済し、番頭さんはそれを佐助さんに渡した体(てい)で、結局佐助さんから男に20円に見立てた手ぬぐいが戻ってきた、これで良いな、となって、『あぁ、金は天下の回り物』というのが下げ。

20円の現金は動かないが、丸く収まるという噺。

 

 現金って何なんだろうか。

 

 古典落語、恐るべし。

 

129.パスカルの三角形とフィボナッチ数とその拡張

 前回や第95回で、( 1 + x )n を展開した時の係数を、2項係数と呼び、2項係数の具体を見た。二項係数 nCk

 

    ( 1 + x )0 = 1

    ( 1 + x ) = 1 + x

    ( 1 + x )2 = 1 + 2 x + x2

    ( 1 + x )3 = 1 + 3 x + 3 x2 + x3

    ( 1 + x )4 = 1 + 4 x + 6 x2 +4 x3 + x4

       ・・・・

    ( 1 + x )n = nC0 + nC1 x + nC2 x2 + ・・・ + nCn xn

       ただし nCr = n!/ ( (n-r)! r!)

              = n(n-1)×・・・×(n-r+1) / (1・2・3×・・・×r)

 

と、展開係数に現れた。また、二項係数は、パスカルの三角形として簡単に表された。上の式で、xr の係数を三角形にして並べると

 

             1

            1   1

           1  2  1

          1    3     3    1

         1    4     6    4    1

        ・・・・・・・・・・・・

 

と並ぶ。中の数字は必ず、上斜め右と上斜め左の数の和になっていた。例えば 5 段目の6 は、右斜め上の 3と左斜め上の 3 を足した数になっている。

 

  (1 + x )n の係数、上のパスカルの三角形を左揃えで書いておこう。

  

   f:id:uchu_kenbutsu:20210117082048j:plain

 

 さて、第 99 回で見たフィボナッチ数を思い出しておこう。

 一つがいの兎がいた。1 年目は成長するだけで何も起きないので、1 年後、つまり 2年目も兎は一つがいだ。2 年目中に一つがいの兎を産む。こうして、3 年目(の初め)には 2 つがいの兎がいる。4 年目にも一つがいの兎を産むが、昨年生まれたつがいの兎はまだ子を産まないので、4 年目には全部で 3 つがいの兎だ。5 年目には最初に生まれた兎が成長して一つがいの兎を産む。もとから居た一つがいの兎も一つがいの兎を産むので、5 年目には全部で5つがいだ。こうして数列を書いていくと、

 

    1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、・・・    ・・・(1)

 

となる。この数列は

 

    F1 (n+2) = F1(n+1) + F1(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(2)

       ただし、F1(1) = F1(2) = 1

 

と表される。これが、フィボナッチ数の定義で、フィボナッチ数列と呼ばれるのだった。たとえば、フィボナッチ数の 5 番目は(1)の 5 番目、5 だ。6 番目は 8 だから、(2)式に当てはめ、

 

    F1(7)=F1(6)+ F1(5) = 8 + 5 = 13

 

と、正しく(1)の並びの 7 番目の数が出ている。

 

 第 95 回で見たように、「パスカルの三角形」にもフィボナッチ数列が現れる。図の矢印の並びの数を足すとフィボナッチ数列が現れる。三角形に並べた数字を左端に寄せたので、傾き1の直線状に並ぶ数を足したものになっている。

 

   f:id:uchu_kenbutsu:20210117082651j:plain

 

 さて、(1)、(2)のフィボナッチ数を拡張しておこう。(2)の定義の代わりに、p ≧ 1 の自然数として、

 

     Fp (n+p+1) = Fp(n+p) + Fp(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(3)

       ただし、Fp(1) = Fp(2) =・・・= Fp(k) = 1  (ただし、1≦ k ≦ p + 1 )

 

といった数列を導入しよう。たとえば、p = 1 でフィボナッチ数列(2)が現れる。  

 今、p = 2 とすると

 

     F2 (n+3) = F2(n+2) + F2(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(4)

       ただし、F2(1) = F2(2) = F2(3) = 1 

 

となり、最初の幾つかを書いておくと、

 

     F2(1) = 1 

     F2(2) = 1 

     F2(3) = 1 

     F2(4) = F2(3) + F2(1) = 1 + 1 = 2 

     F2(5) = F2(4) + F2(2) = 2 + 1 = 3 

     F2(6) = F2(5) + F2(3) = 3 + 1 = 4 

     F2(7) = F2(6) + F2(4) = 4 + 2 = 6 

     F2(8) = F2(7) + F2(5) = 6 + 3 = 9 

 

実は、この数列も、パスカルの三角形に現れる。今度は、傾き 2 の直線状に並ぶ数字を足したものになっている。

 

   f:id:uchu_kenbutsu:20210117082841j:plain

 

 今度は、p = 3 とすると

 

     F3 (n+4) = F3(n+3) + F3(n)   (n=1, 2, 3, ・・・)     ・・・(5)

       ただし、F3(1) = F3(2) = F3(3) = F3(4) = 1 

 

となり、最初の幾つかを書いておくと、

 

     F3(1) = 1 

     F3(2) = 1 

     F3(3) = 1 

     F3(4) = 1 

     F3(5) = F3(4) + F3(1) = 1 + 1 = 2 

     F3(6) = F3(5) + F3(2) = 2 + 1 = 3 

     F3(7) = F3(6) + F3(3) = 3 + 1 = 4 

     F3(8) = F3(7) + F3(4) = 4 + 2 = 5 

     F3(9) = F3(8) + F3(5) = 5 + 2 = 7 

     F3(10) = F3(9) + F3(6) = 7 + 3 = 10 

 

この数列も、パスカルの三角形に現れ、傾き 3 の直線状に並ぶ数字を足したものになっている。

 

   f:id:uchu_kenbutsu:20210117082930j:plain

 

 こうして、どんどん拡張できる。

 

 とりとめのない話をもう少し。次の1行目の関数を考え、べき展開すると

 

    f1(x) = 1 / ( 1-x-x2 )

      = 1 + x + 2 x2 + 3 x3 +5 x4 + 8 x5 + 13 x6 +・・・

 

と、xr の係数にフィボナッチ数が現れている。どうしてそうなるか、見ておこう。

 便宜のために、F(0) = 0 と付け足しておこう。このとき、フィボナッチ数(1)または(2)を用いて

 

    f(x) = Σn=0∞ F1(n) xn

      =  F(0) + F(1) x + F1(2) x2 + F1(3) x3 + F1(4) x4 + F1(5) x5 +・・・

      =    0 + x +  x2 + 2 x3 + 3 x4 + 5 x5 +・・・

 

を導入しておく。両辺から x を引いておくと、F(0) = 0 に注意して

 

    f(x) - x = Σn=2∞ F1(n) xn

         = Σn=2∞ ( F1(n-1) + F1(n-2) ) xn

         = Σn=1∞ F1(n) xn+1 + Σn=0∞ F1(n) xn+2

 

となる。1 行目から 2 行目はフィボナッチ数列の関係式(2)を使い、2行目から3行目は第1項目は n を n+1 と変えて、2 項目は n を n+2 と付け替えて、和を揃えた。第 1 項目に F1(0) = 0 を足しておくと

 

      f(x) - x = Σn=0∞ F1(n) xn+1 + Σn=0∞ F1(n) xn+2

          = x Σn=0∞ F1(n) xn + x2 Σn=0∞ F1(n) xn

          = x f(x) + x2 f(x)

 

となるので、f(x) について解くと

 

    f(x) = x / ( 1-x-x2 )

 

が得られる。こうして、両辺 xでわったものを f1(x) と名付けると、F(0) = 0 に注意して 

 

    f(x) / x = f1 (x)

        = F(1) + F(2) x + F1(3) x2 + F1(4) x3 + F1(5) x4 + F1(6) x5 +・・・

        =  1+ x + 2 x2 + 3 x3 + 5x4 + 8 x5 +・・・

 

 と、欲しい関係が得られる。

 (3)の級数についてはどうだろうか。もう簡単だが、今と同じようにして、

 

   fp (x) = 1 / ( 1-x-xp )

     = Fp(1) + Fp(2) x + Fp(3) x2 + Fp(4) x3 + Fp(5) x4 + Fp(6) x5 +・・・(6)

 

と、フィボナッチ p 数が展開係数として得られる。

 

 さらに、もうひとつ、よもやま話。

 第 77 回で、素粒子物理、弦理論などで出てくる

 

    1 + 2 + 3 + 4 + ・・・ = -1/12

 

を紹介した。正の量を無限に足していくと、負の数が出てくる。

 同じことをフィボナッチ数でやってみよう。フィボナッチ数を無限に足していく。

 

    S1 = 1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 +・・・

 

少しずらして、同じものを 2 行に並べて書いておこう。

 

    S1 = 1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 +・・・    

    S1 =    1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 +・・・

 

上と下、辺々足すと

 

   2 S1 = 1 + ( 1 + 1) +( 2 + 1) + ( 3 + 2 ) + ( 5 + 3) + ( 8 +5 ) +・・・

     = 1 + 2 + 3 + 5 + 8 + 13 + ・・・

     = 1 + 1 + 2 + 3 + 5 + 8 + 13 + ・・・-1

     = S1 -1

 

3 行目は 1 を足して 1 引いておいた。3 行目の・・・までに、再びフィボナッチ数列の無限和が現れている。そこで、4行目のようになる。こうして、

 

    S1 = -1

 

となった。やっぱり負の数になる。

 

 フィボナッチ p 数の和も同じだ。

 

     Sp = Fp(1) + Fp(2) + Fp(3) + Fp(4) + Fp(5) + Fp(6) +・・・

      = Σn=1 Fp(n)

 

同じようにして、少しずらして 2 行に分けて和を書いておくと、

 

2 Sp = Fp(1) + Fp(2) + ・・・+ Fp(p)          + Fp(p+1) + Fp(p+2) +・・・

                          +  Fp(1) +   Fp(2) + ・・・

  = Fp(1) + Fp(2) + ・・・+ Fp(p)            + Fp(p+2) + Fp(p+3) +・・・

  = Fp(1) + Fp(2) + ・・・+ Fp(p) + Fp(p+1)  + Fp(p+2) + Fp(p+3) +・・・-Fp(p+1)

  = Sp-Fp(p+1)

 

こうして、

   

    Sp =-Fp(p+1) = -1

 

まぁ、収束半径を無視して、(6)で両辺 x = 1 を入れたのと同じになる。

 

 なんか、物理から離れてきたなぁ。

 

128.2021

 二項係数 nCk は、次のように定義される。

 

    nCk = n ! / ( ( n-k)! k! )

 

ここで、ビックリマークは“階乗”で、

 

    n ! = n×(n-1 )×( n-2 )×・・・×2×1

 

ただし、0 ! = 1 と定義しておく。

 

 二項係数は、べき乗の展開の時に現れる。

 

   ( x + y )n = xn + n xn-1 y + ( n ( n-1)/2) xn-2 y2 +・・・+ n x yn-1 + yn

       = nC0 xn + nC1 xn-1 y+ nC2 xn-2 y2 + ・・・+  nCn-1 x yn-1+ nCn yn

       = Σk=0n nCk xn-k yk

 

 ここまで準備しておいて、( n + 1 )n+1 を展開しよう。ここでnは自然数で、上の式に対応させるために、x=n、y=1として、さらにべきのnはn+1として、上の式から

 

 ( n + 1 )n+1 = n+1C0 nn+1 + n+1C1 nn + n+1C2 nn-1  + ・・・+ n+1Cn-1 n2

        + n+1Cn n + n+1Cn+1

      = n2 ×( n+1C0 nn-1 + n+1C1 nn-2 + n+1C2 nn-3  + ・・・+ n+1Cn-1 )

        + ( n+1 )! / ((n+1-n)!n!×n + 1

      = n2 ×( n+1C0 nn-1 + n+1C1 nn-2 + n+1C2 nn-3  + ・・・+ n+1Cn-1 )

        + n ( n+1 ) + 1

      = n2 ×( n+1C0 nn-1 + n+1C1 nn-2 + n+1C2 nn-3  + ・・・+ n+1Cn-1 )

        + n2 + n + 1

      = n2 ×( n+1C0 nn-1 + n+1C1 nn-2 + n+1C2 nn-3  + ・・・+ n+1Cn-1 + 1 )

        + n + 1

 

1 行目は式に代入し、2 行目は後ろの2項を残して、n2 で括った。3 番目の等式は後ろの2 項の二項係数の具体的表式を入れて、4 番目の等式は後ろの 2 項をばらし、n2 がまた出てきたので、n2 で括った括弧の中に入れた。そうすると、両辺を n2 でわると、n+1 が余るというわけだ。ただし、n+1 が“余り”となるには、

 

    n2 > n+1 すなわち、n が自然数であるので、n ≧ 2

 

が必要。

 

 じゃぁ、n=2 でやってみよう。このとき n+1=3 なので、

 

    33 = 27 = 4×6 + 3

     = 22 ×6 + 3

 

なので、33 は 22 でわると、3 余る。

 

 こうして、いきなりだが、

 

    20212021  は  20202 で割ると、2021 余る

 

 上の話と関係ないが、ついでに

 

    2021 = 43 ×47

 

と、2021 は 2 つの連続する素数素因数分解できる。

こうして、( x - y )×( x + y ) = x2 - y2 が使えて、

 

    2021 = 452 - 22

   

 

 

127.統計は、難しい

 高等学校では、2次元平面内のベクトルを習うはずだ。ベクトルとは大きさと向きを持つ量。

 図のように、2つのベクトルVWがあったとしよう。図では、ベクトルには英字の上に矢印をつけている。X 軸、y 軸の代わりに、p と q と書いているが、矢印のベクトルを、pと q 方向に分解すると

 

    V= ( Vp , Vq ) , W = ( Wp , Wq )

 

と、“成分表示”できる。2つのベクトルを“足して”、新たなベクトルを作るのは、それぞれのベクトルの成分同士を足して、新たなベクトルを作ればよい。

 

     V  + W = ( Vp + Wp ,  Vq + Wq )

 

図でわかる通り、2つのベクトルからつくられる平行四辺形の対角線にあたる部分が、新たに足し算で作られたベクトルだ。

 

     f:id:uchu_kenbutsu:20201205090746j:plain

 

 さて。

 

 ある疾患に製薬会社 A が作る薬 A か、製薬会社 B が作る薬 B を投与し、効き目を測定した。集団1に薬 A を投与したところ、8% の患者に良い傾向が見られた。ところが、集団2に薬 B を投与したところ、11% の患者に良い傾向が見られた。

 そこで、製薬会社 A は負けじと治験を繰り返し、集団3に薬 A を投与したところ、16% の患者に良い傾向が見られたので満足した。ところが、対抗して、製薬会社 B は、集団 4 に薬 B を投与した治験を繰り返したところ、今度も A の 16% を超える 20% の患者に良い傾向が見られた。

 こうなると、製薬会社 B が作る薬 B を投与するのが良さそうだ。

 データを見ておこう。ここで、

 

    (良くなった割合)=(良くなった患者数)/ (薬を投与した患者数)

 

である。被験者の数も書いておこう。

 

 

A社の作る薬Aを投与

B社の作る薬Bを投与

1回目

集団1 :8%=40/500

集団2 :11%=220/2000

2回目

集団3 :16%=240/1500

集団4 :20%=40/200

 

A 社の作る薬 A を集団 1 に投与した人が 500 人で、そのうち 40 人に良い傾向が見られたので、40 / 500 = 8% という意味で書いている。

 

 1 回目を比べても、 2 回目を比べても B 社の方が成績が良い。B 社の薬 B を使うべきだ。

 

 しかし。

 

 全体で見てみよう。

 A 社の作る薬を投与された数は、1 回目、2 回目、併せて500 + 1500 =2000人。良くなった数は、40 + 240 = 280人。よって、良くなった患者の割合は、

 

    A社: 280 / 2000 = 14 %

 

一方、B 社では、薬 B を投与された数は、1 回目、2 回目、併せて 2000 + 200 =2200人。良くなった数は、220 + 40 = 260人。よって、良くなった患者の割合は、

 

    B社: 260 / 2200 = 11.82 %

 

あれ、A 社の薬 A の方が、よく効くじゃないか。

 

 ちょっと、ベクトルで見ておこう。

 

 被験者の数を p、良くなった患者数をqとしておくと、良くなった人の割合は

 

    q / p

 

だ。そこで、ベクトル P = ( q , p ) を導入しよう。こうしておくと、ベクトル が p 軸となす“傾き” q / p が良くなった人の割合なので、ベクトルが q 軸に沿うようになっている方が、良くなった人の割合が高いということ。

 

 差が見えるように、ベクトル図は少し誇張して書いておいた。縦軸と横軸のスケールも異なって書いている。

 

      f:id:uchu_kenbutsu:20201205090819j:plain

 

1 回目の A 社の集団 1 では

  

    α = ( 40 , 500 ) = ( αp ,αq )

 

1 回目の B 社の集団2では

  

    β = ( 220 , 2000 ) = ( βp ,βq )

 

2回目の A 社の集団3では

  

    A = ( 240 , 1500 )  = ( Ap ,Aq )

 

2回目の B 社の集団4では

  

    B = ( 40 , 200 ) = ( Bp ,Bq )

 

被験者全体で比較するには、A 社では

 

    α + A = ( 40 , 500 )+( 240 , 1500 )=

       = ( 280 ,  2000 ) 

       = ( αp + Ap,αq +Aq )

 

一方、B 社では

  

    β + B = ( 220 , 2000 )+( 40 , 200 )=

       = ( 260 ,  2200 ) 

       = ( βp + Bp,βq +Bq )

 

 図から解る通り、ベクトル α とベクトル β では、β の方が傾きが急なので、良くなった人の割合 ( = q / p ) はベクトル β で表される方が高い。同様に、ベクトル とベクトル では、の方が傾きが急なので、良くなった人の割合は で表される方が高い。

 ところが、α + A β + を比べると、α + の方が傾きが急なので、A 社の方が良くなった人の割合が高いということを意味している。

 

 まとめれば、

 

   αq / αp  <  βq / βp   かつ   Aq / Ap  <  Bq / Bp   

 であっても、

    ( αq + Aq ) / ( αp + Ap )  <  ( βq + Bq ) / ( βp + Bp ) は必ずしも成り立たない  

 

という、分数の基本が現れている。

 

 統計は、難しい。