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34.三平方の定理と次元解析

 フェルマーの最終定理

 

  n を3以上の自然数とするとき、xn + yn = zn を満たす整数解x、y、zは存在しない

 

と言えた。逆に言うと、n=2 のときには、

    

    x2 + y2 = z2

 

をみたす自然数の組 (x, y, z) は存在するということだ。たとえば、x=3、y=4、z=5。辺の長さが3対4対5の三角形を作ると、それは直角三角形になることを、古代エジプトの人は知っていたそうだ。

 

 整数に限らず、直角三角形の直角を挟む2辺の長さをそれぞれ a、b とし、直角に向かい合う辺(斜辺)の長さを c とすると

 

   a2 + b2 = c2 ・・・(1)

 

が成り立つ。3つの2乗、すなわち平方の間に成り立つこの直角三角形の辺の長さの間の関係は三平方の定理と呼ばれている。もちろん、直角三角形に対して成り立つ関係なので、a、b、c は自然数でなくてもよい。そればかりか、直角を挟む2辺の長さが1のときには、斜辺の長さc は

 

   12 + 12 = c2 、 つまり c2 = 2

 

だから、2乗して2になる数、ルート2で、1.41421356・・・と、分数であらわされない無理数が現れる。

 

 さて、三平方の定理の証明であるが、実にいろいろなバージョンがある。日本では和算家の関孝和の著作にも表れているが、証明は「見よ」みたいな感じで、図が書かれているのみらしい。実物見たことないけど。

         f:id:uchu_kenbutsu:20160201142509j:plain

 幾何学的な証明は、例えば図1の通り。①の直角三角形に着目する。長さ c の斜辺を1辺とする正方形㊥を作る。そうすると②、③、④のように①と同じ形で大きさの直角三角形を配置すると、1辺 a+b の正方形ができる。では面積を考える。1辺 a+b の正方形の面積は、(a+b)×(a+b)。これは、1辺 c の正方形の面積と、考えている直角三角形4つの面積を足したものに等しいことがわかる。三角形の面積は、底辺×高さ÷2だから、

 

    (a+b)×(a+b) = c×c + (a×b÷2)×4 ・・・(2)

 

という式が成り立つ。(2)の左辺は

 

    (a+b)×(a+b) =a2 + 2ab + b2 ・・・(3)

 

(2)の右辺は

 

    c×c + (a×b÷2)×4 = c2 +2ab ・・・(4)

 

(2)から(3)と(4)が等しいので、両辺共通の 2ab を引き算して

 

    a2 + b2 = c2 ・・・(1)

 

が成り立つ。

 

 ちょっとおしゃれなお気に入りの証明法がある。そもそも直角三角形は「直角」という一つの条件が付いているので、うまい量をあと2つ決めれば形と大きさが決まってしまう。たとえば、斜辺の長さと一つの角度を決めてしまえば形と大きさが決まる。図2のように直角を挟んで直線を引いておいて、斜辺の長さの線分を用意し、その斜辺は角度θで一つの辺とつながるとすれば、直角を挟む直線にぴたりとはまるように斜辺を持っていけばよい。そうすると、直角三角形はただ一つに決まる。つまり斜辺の長さ(c としよう)と、直角以外の一つの角度 ( θ としよう) を持ってくれば、直角三角形の形と大きさは一意に決まる。角度は2つあるので、常に45度以下の方を取ることにしよう。

        f:id:uchu_kenbutsu:20160201142729j:plain

 

 では、面積はどのように、c と θ で決まるのだろうか。面積は長さの2乗の次元、平方メートルとか、を持っている。角度 θ は「度」または「ラジアン」だから、θ をどのようにいじくり倒しても、どんなに料理しても、長さの2乗なんて出てこない。だから、直角三角形の面積は、長さ c に頼らないといけない。長さの次元を持っているのは、今のところ c だけだから。面積は長さの2乗だから、c2 に比例するはずだ。比例定数は、三角形の形、つまり θ に依存しているだろう。どんなふうに依存しているか知らなくてもよいので、関数 f (θ) としておこう。そうすると、直角三角形の面積S は

 

    S = c2 × f (θ)  ・・・(5)

 

となっているはずだ。関数 f は c に依存してはいけない。依存していたら、 S 自身が長さの2乗の次元にならず、長さの3乗(たとえば f = c×θ のときとか)やら4乗(たとえば f = c×θ のときとか)やら1乗(たとえば f = θ÷ c のときとか)やらになってしまうだろう。

       f:id:uchu_kenbutsu:20160201143123j:plain

 そこで、今度は考えている直角三角形を、さらに2つの、形の等しい(相似な)直角三角形に分割する。図3 のように、三角形 OAB を三角形 COB と三角形 CAO に分けた。3つの三角形は相似なので、45度より小さい角はすべて θ だ。そこで、三角形OABの面積は、三角形 COB と三角形 CAO の面積を足したものだから、図3と(5)をよく見て、どこが直角三角形の斜辺か見極めて

 

    三角形OABの面積 = c2 ×f (θ)

             = 三角形 COB の面積 + 三角形 CAB の面積

             = b2 × f (θ) + a2 × f (θ)

 

となることがわかる。共通の因子 f (θ) を割り算してしまえば、

 

    c2 = a2 + b2

 

が得られる。右辺と左辺がひっくり返ったが、おんなじこと。

 

 物理では、こういった考え方、方法を、次元解析と呼ぶ。面積の「次元」は長さの 2乗。長さの 2 乗になるには、ここに現れてくる長さの次元を持つ唯一の量、c を 2 乗するしかない。だから、三角形の面積は斜辺の長さの 2 乗に比例するべきである。こんな風に考えると、三平方の定理も、物理学的に(?)証明できてしまう。