152.壺算

 唐突ではあるが、計算のルールを適当に決めてみよう。

 2つの自然数を考え、次のような演算を定義しよう。まず、2つのそれぞれの数を素因数分解し、両方の素因数の和を取ることにする。すべての素因数を足した数が元の数より大きければ、その数を演算の答えとする。元の数より小さければ、もとの数の大きい方から素因数を足したものを引くことにする。2つの数が両方素数だったら、素因数分解が面白くないので、2つの数を掛けてから1を足し、10 で割ったものを演算の答えとする。

 例えば。

 演算を矢印、→で書くことにして、

    4→6

の場合。

     4=2×2

     6=2×3

なので、右辺の素因数をすべて足すと

     2+2+2+3=9

もとの4,6より大きいので、よって

    4→6=9

みたいな。

 1は素数に入れないので、1がでたら、0としてしまおう。

    1→1=0   ・・・(1)

    1→2=2   ・・・(2)

2は素数だから、下の式は、0+2=2となる。

 この調子で、

    6→9=?

     6=2×3

     9=3×3

 よって

    6→9=2+3+3+3=11   ・・・(3)

 両方素数だったら、

    2→5=?

掛けて1たして10で割って

     (2×5+1)/ 10=1.1

こうして

    2→5=1.1    ・・・(4)

 2023年の漫才コンテスト「M1」で、さや香のネタの「見せ算」の結果と一致するではないか。

 では

    1→100=?

     1は素数でないので0

     100=2×2×5×5

よって

     2+2+5+5=14

これは元の100より小さいので、100から引いて

    1→100=100-14=86

ん? 漫才では100から17倒すから、83だそうだ。さては、舞台で緊張して上がってしまって、さや香のお二人、計算間違えたのかな、と思ったが、そんなことは無い。その後も話があって、1増えたりするようだ。最終的な答えは言わなかった。84? 85? 86? 大学院レベルだそうなので、もうひとひねりありそうだ。

 

 と、計算ルールを勝手に作ってみたが、演算は数学的には「群」を為さないといけないので、上の話はただのお遊びでしかない。

 群とは、群Gに属する要素 { a }に演算「・」が定義されていて、次を満たさないといけない:

    (1)a・b は、またGの要素

    (2)単位元「1」の存在

        a・1=1・a = a

    (3)逆元a―1の存在

        a・a―1=a―1・a = 1

    (4)結合則の成立

        (a・b)・c=a・(b・c)

 

 たとえば、整数の足し算。演算「・」を「+」、単位元を「0」として、(1)は明らか。(2)からは

    (2)a + 0 = 0 + a = a

    (3)a + (-a) = (-a) + a = 0

    (4)( a + b ) + c = a + (b + c )

だから、足し算は群を為しており、数学的にうまく行っているというわけだ。

 残念ながら私の開発した「見せ算もどき」は群を為さないからアウト。

 

 さや香の「見せ算」の漫才を聞いて、数字つながりで、落語の「壺算」という噺を思い出した。

 引っ越してきた家で、猫のせいで棚の布袋さんが落っこちて、水をためておく水壺が割れてしまう。そこで、買い物上手の徳さんに頼んで、一緒に水壺を瀬戸物町に買いに行く。今までは一荷入り((いっか=60 リットルくらい)の水壺だったので、倍の二荷入りの水壺を買いに行く。しかし、まず一荷入りの水壺の値段を店の番頭に聞くと、ドーンと負けて 3 円 50 銭。ドーンと負けなかったら幾らかと聞くも 3 円 50 銭。徳さん、頼まれて買いに来たので言い値では買って帰れない、2 人で持って帰るので 3 円に負けろ、あとあと、親戚、友達、長屋中に、瀬戸物町で瀬戸物買うならこの店一点張りと言うから負けろ、ということで、3 円に負けさせる。で、2 人で担いで帰るふりをして、そこらを 1 周回って、もとの店に戻る。一荷入りでは無くて二荷入りがいるそうだ、二荷入りはいくらだと尋ねると、番頭さん、一荷入りの2倍だから、3 円 50 銭の倍の 7 円、いやいや、3 円で売ったから 6 円かぁ、あんさん買い物上手やな。ということで、徳さん、一荷入りの水壺は要らなくなったから下取ってくれるか、と言うと番頭さん、さっき持って行ったところなので傷も無ければ元の 3 円で取るという。そこで、徳さん、「さっき 3 円渡したな。」番頭、「ここにまだ置いてあります。」徳さん「で、一荷入りの水壺 3 円で取ってもらうから、そこの 3 円と併せて 6 円やな。」そのまま二荷入りの水壺を持って帰る。番頭さん、何かおかしいと思い、何度も呼び止めるも、混乱してラチが明かない。番頭さん「ここの金の 3 円は分かるが、壺の 3 円が・・・」徳さん「それがこちらの思う壺」で下げ。

 落語ならではの計算が出てくる噺だ。