149.アインシュタインと光量子論

 第 148 回で、アインシュタインエントロピー  s の表式を導いていたことを備忘した。どんな式だったかと言うと

 

    s = kB ln w(u)                    ・・・(1)

     ( w(u) =  ∫dq1dqndp1…dpn )

 

だった。また、エントロピー絶対温度 T には、エネルギー E を通じて

 

    1 / T = dS(E) / dE       ・・・(2)  

 

 さて。

 

 黒体輻射の話を第 12 回で備忘した。その時には、振動数 ν の光が空洞から出てくるとき、温度 T のもとで出てくる単位体積当たりの光の強度は

 

     U dν= 8πν2 / c3 ×( hν/ ( ehν/ ( kBT) -1)) dν   ・・・(3)

 

プランク分布を示しておいた。

 歴史的には、空洞輻射の光の振動数と強度の関係を求めることは、プランクが出るまでは近似的な表式のみで、理解に苦労していた。古典電磁気学に基づけば、エネルギー等分配則も使って、レーリー・ジーンズの分布則

 

     U dν= 8πν2 / c3 ×kB T dν   

 

になるのだが、この分布則を信じて全振動数の光の寄与を足せば、光の強度が無限大になるという無意味な結果を与えてしまい、結局のところ低振動数のところでのみ実験データを再現する近似式であった。

 一方、ウィーンは、断熱不変量の考えを適用し、分布則として

 

     Udν= 8πν3 / c3 × F(ν/ T) dν     ・・・(4)

 

を導く。ウィーンの変位則と呼ばれる。ここで、F は、断熱不変量 ν/ T の関数。導出は結構大変なので、朝永先生の「量子力学 I 」を見てもらうことにしよう。大学時代に量子力学が良く判らず、今でも良く判っていないが、とにもかくにも朝永さんの教科書を読んで、なぜに量子力学が必要なのかは判った(気がした)。

 ウィーンは関数 F として

 

     F(x) = kB αe-αx        ・・・(5)

 

を仮定し、α を適当に、実際は α = h / kB と置けば、大きな振動数のところで輻射の実験値を良く再現することを見つける。後知恵ではあるが、α = h / kB と置くことは、”正しい”輻射式であるプランクの式(3)で ehν/ ( kBT) -1 ≒ ehν/ ( kBT) のように、ehν/ ( kBT) に比べて 1 を無視した近似に対応している。

 今は、歴史をたどるために、プランク分布を知らずして、ウィーンの変位則のみ手にしているとしよう。(4)に(5)を代入し、α = h / kB とし、U を u に戻すと

 

      u dν= 8πhν3 / c3 × ehν/ ( kBT)  dν 

        = Aν3 ehν/ ( kBT)  dν   

 

ここでいらん定数を A と纏めた。これは単位体積当たりの放射光のエネルギー密度なので、体積 v を掛けて

 

      u = v Aν3 ehν/ ( kBT)  

 

となるが、逆に、温度の逆数 1 / T を引っ張り出すと

 

     1 / T = -kB / (hν)×ln ( u / Avν3 )

 

(2)を思い出すと

 

     ds / du = 1 / T = -kB / (hν)×ln ( u / Avν3 )

 

と 1/ T を仲立ちに、u に関する微分微分方程式が得られるので、これは解けて

 

     s = -∫kB / (hν)×ln ( u / Avν3 ) du

      = -kB u / (hν) × ( ln ( u / Avν3 )- 1 ) + (積分定数

 

が得られる。体積 v の部分系では無く体積 V の全体を考えると、エントロピー S は

 

     S =-kB u / (hν) × ( ln ( u / AVν3 )- 1 ) + (積分定数

 

となるので、部分系と熱浴の差をとって

 

     s-S = kB u / (hν) ×  ln ( v / V )     ・・・(6)

 

が得られる。

 

 一方、理想気体を考えよう。第 10 回では理想気体の状態方程式を備忘した。熱力学第 1 法則によれば、気体の内部エネルギーの増分 du は、気体にした仕事 -pdV と熱の移動 dQ とから

 

    du = dQ -pdV      ・・・(7)

 

であることが知られている。dV は体積の変化で、p は圧力。圧力は単位面積あたりに働く力なので、圧力の加わる面積を S とすると、力 F は pS。これで気体が押されて移動距離 dr 動くと、力×移動距離が仕事 dW なので、pS×dr = pdV だ。ここで、dV=S×dr で体積変化。体積変化が負ならば気体は押し込まれて仕事をされているので、気体がされた仕事は -pdV と負号が付く。この仕事が気体のエネルギーとして蓄えられるので、(7)が得られる。理想気体では内部エネルギー u は温度Tのみの関数である。また理想気体の状態方程式は、気体分子数を N として

 

     pV = N kB T

 

であった。こうして、エントロピー変化は

 

     S = ∫dQ / T = ∫( pdV / T -du / T )

           = ∫( NkB / V )dV -∫du(T) / T

           = NkB ln V -f(T)

 

が得られる。最後の f(T) は ∫du / T が温度 T のみの関数であるので、こう書いた。体積が v の部分系ではエントロピー s は

 

     s =  NkB ln v - f(T)

 

となるので、差をとると

 

     s-S = NkB × ln (v / V )      ・・・(8)

 

が得られる。

 こうして、理想気体で得られた(8)式と、黒体輻射で得られた(7)式を見比べると、

 

     NkB = kB u / (hν)

 

すなわち

 

     N = u / ( hν)

 

が得られる。こうして、黒体放射のエネルギー密度 u を、hν で割ったものは、整数値である粒子数と対応することから、放射された光はエネルギー hν を持つ“粒子”の理想気体であると解釈できる。逆に言えば

 

     u = Nhν

 

なので、エネルギー hν の光の粒子が N 個集まって、黒体輻射のエネルギー強度を与えていると言える。

 

 光の粒子性、光量子説の誕生だ。

 アインシュタインは熱・統計力学を駆使して、量子論の扉を開いたようだ。