148.アインシュタインとエントロピー

 第 143 回で、恒星の形成は無秩序に思える星間ガスから秩序だった恒星が生まれる際にエントロピー増大の法則に反しないことを備忘した。エントロピー S は、系の物質が取り得ることが可能な状態の数 W と

 

    S = kB ln W    ・・・(1)

 

であることを用いた。これは「統計力学」を習うと出てくる。

 一方、「熱力学」を習うと、ある絶対温度 T で、「熱量」の変化 dQ があれば、エントロピー変化 dS は

 

    dS = dQ / T     ・・・(2)

 

と書かれている。(1)で書かれたエントロピーと、(2)の変化から得られるエントロピーが同じものであることを、モデルを使って備忘したのが第 27 回だった。

 今回は、物体の合計のエネルギーが E である多粒子系での粒子の存在確率として、第11 回で“ボルツマン因子”も導いた。これを使って、(1)と(2)が同じものであることを、もう一度見ておこう。

 

 たくさんの粒子があり、それを2つの部分に分けて置こう。注目している部分の粒子の位置が qi と qi + dqi の間に居る。ここで、i は粒子の番号と x、y、z 成分の両方を示しているとする。その運動量は pi と pi + dpi の中にある。2つに分けた別の方、こちらは注目しない部分だが、注目する部分に比べて大きいとしておく。“熱浴”と呼ばれる。こちらは大文字で、位置が Qj と Qj + dQj 、運動量は Pj と Pj + dPj の間にあるとしよう。すべての粒子のエネルギーの総和がEのとき、粒子をこれらの位置・運動量の中に見出す確率は

 

    dNG = A e-E / (kB T) dq1dqn dp1…dpn dQ1dQNdP1…dPN

 

となることになる。A は確率が 1 になるように決めよう。注目していない方は、すべての粒子をカウントすべく積分しておこう。また注目している方のエネルギーを u としておくと

 

    dN = e-u / (kB T) dq1dqn dp1…dpn ×A∫e-(E-u) / (kB T) dQ1dQNdP1…dPN

 

注目している部分のエネルギー u は、全体のエネルギー E に比べて小さいので、ここで、

 

    χ(E) =∫ e-E / (kB T) dQ1dQNdP1…dPN

        = e-E / (kB T) W(E)

 

と、χ と W を定義しておく。W は熱浴が“取り得る状態の個数”である。

 

    W(E) = ∫ dQ1dQNdP1…dPN

 

今、u は E に比べて小さく、u での変化は無視できるので、

 

    χ(E) = χ(E-u)

 

すなわち

 

    dχ(E) / dE = 0 、すなわち、 ( -1 / (kB T ) W(E) + dW(E) / dE ) e-E / (kB T) = 0

 

なので、

 

    1 / T = kB W’(E) / W(E) = kB d ln W(E) / dE     ・・・(3)

 

となる。

 注目している系でも同様で、

 

    dNu = B e-u / (kB T) dq1dqndp1…dpn

        =  eC-u / (kB T) w(u)

 

となる。w(u) は以下の(5)式で定義している。ここで、全確率が 1 となるように決める定数を B=eC と取り直した。つまり

 

  1 = ∫eC-u / (kB T) dq1dqndp1…dpn 

 

よって、 

 

  C = -ln ∫e-u / (kB T) dq1dqndp1…dpn     ・・・(4)

 

また、

 

    w(u) = ∫ dq1dqndp1…dpn    ・・・(5)

 

だ。

 注目している系が熱浴から仕事をされてエネルギーをやり取りし、変化したとすると、

 

    C → C + dC

    1 / ( kB T ) → 1 / ( kB T ) + dβ = β + dβ  (β=1 / ( kB T ))

    u → u +du

 

とする。変化後も全確率は 1 なので、er = exp ( r ) と書いて

 

    1 = ∫ exp ( (C+dC)-( u+δF)×( 1 / (kB T) +dβ)) dq1dqndp1…dpn 

 

変化の 1 次まで考える。部分系でも粒子はたくさんあるので、エネルギー u は平均のエネルギー〈u〉に置き換えて、また β=1 / ( kB T ) に注意して

 

    dC -〈u〉dβ-βδF  = 0     ・・・(6)

 

でなければならない。ここで、熱浴からされた仕事 δF は、熱力学第 1 法則から、エネルギーの変化 du、熱の移動 δQ と

 

    du = δQ + δF

 

の関係があるので、(6)は、〈u〉が面倒なので平均エネルギーであることを覚えておいて再度 u と書いておくと

 

    δQ / T =- kB dC + kB u dβ+ kB βdu

        = d ( kB ( -C + uβ) )

        = d ( u / T -kB C )

       =ds           ・・・(7)

 

と変形できる。3 行目で全微分となったので、s を定義した。

 

 こうして、“エントロピー” s が導入されて

 

     s = u / T + kB  ln ∫e-u / (kB T) dq1dqndp1…dpn + (定数)   ・・・(8)

 

が得られる。ここで、規格化の C に(4)を戻した。(7)の右辺の u は平均のエネルギーだから積分の外に出すと、

 

     s = u / T + kB  ln (e-u / (kB T)  ∫dq1dqndp1…dpn )+ (定数) 

      = u / T + kB ( ln (e-u / (kB T) ) + ln ( ∫dq1dqndp1…dpn ) ) + (定数) 

               = u / T + kB (-u / (kB T) ) + kB ln ( ∫dq1dqndp1…dpn )  +  (定数) 

      = kB ln w(u)                    ・・・(9)

       ( w(u) =  ∫dq1dqndp1…dpn )

 

が得られる。こうして(7)と(9)から

 

      δQ / T =ds

         = kB ln w(u)終わり - kB ln w(u)始め      ・・・(10)

 

となり、左辺の熱力学でのエントロピー(変化)の定義と、右辺2行目の統計力学の表式の対応が得られた。

 

 もうひとつ。(3)式では熱浴について考えたが、注目している部分と熱浴の温度は同じなので、注目している部分系でも(3)と同じ関係が成り立って、

 

       1 / T = kB d ln w(u) / du  

 

が成り立っているはずだ。こうして、(9)式と組み合わせると、ただちに

 

       1 / T = d ( kB ln w(u) )/ du  

         = ds / du

 

が得られる。一般に、エネルギー u を E と書くと

 

        1 / T = dS(E) / dE       ・・・(11)         

 

となる。

 

 以上はアインシュタインによる議論だ。

 さすが。