56.手で掛け算、続報

 第 21 回で、1 から 5 までの数同士の掛け算を知っていたら、6 から 9 までの数同士の掛け算は両手の指を使ってできることを記した。最近、同じようにして、10 から 15までの数同士の掛け算を手で使ってできることを知った。ただし、ある数の 10 倍というのは知っていないといけない。

 

 たとえば、12 × 14。例によって、手を開いた、じゃんけんのパーの形から、指折り数える。10 まで行くとまたパーに戻るので、12 だと親指と人差し指の 2 本だけが折れている状態。14 では親指、人差し指、中指、薬指の 4 本が折れている。

 折れている指の本数を数える。2 + 4 で 6 だ。これを10 倍して 60 と覚えておく。

 次に折れている指の本数同士を掛ける。12 側は 2 本、14 側は 4 本だから、2×4 = 8。

 さっきの 60 に今の 8 を足してから、さらに 100 足す。

 

    60 + 8 + 100 = 168  ( = 12 × 14 )

 

簡単に証明できる。10 から 15 までの数は 10 + a と書ける。ここで、a が折れている指の数だ。10 から 15 までの二つの数を掛けるということは、10 + a と 10 + b を掛けるということだから、

 

    ( 10 + a) × ( 10 + b ) = 100 + 10 × (a + b ) + a × b

 

つまり、折れている両手の指の本数の和、( a + b ) を 10 倍して覚えておいて、折れている指の本数同士の掛け算、a × b をして、さっき覚えた数 10 × ( a + b ) に足して、最後に 100 を足せば、確かに (10 + a ) × (10 + b) になっている。12×14 だったら、a=2、b=4としてみればよい。

 

 大学には、いつもは自家用車で通っているが、久しぶりに JR を使う。当地では JR は電化されていないので、人々は JR のことを「汽車」と呼ぶ。街中は JR と異なり路面電車が走っているので、人々は路面電車のことを「電車」と呼ぶ。きちんと区別している。

 

 どうだ、すごいだろ、この知恵。

 

 都会と違い、頻繁には汽車は来ない。汽車の時刻に合わせて駅に向かう。しかし、都会と違い、ダイヤに拘泥しない。今日は雨だから、きっと汽車は遅れてやって来る。

 安全第一、30 秒遅れたとかで人命が失われるような事故は起きない(と思う)。運転手さんをいつも間近に見れるが、いつでもきちんと指差し確認しながら運行している。エライ。地方万歳!!

 安全第一、ちょくちょく汽車は遅れる。無人駅でも何故か放送は流れる。かなり前だが、「列車は少々遅れています」という放送があったが、待てど暮らせど汽車は来ない。ようやく来たから乗ったら、乗るつもりの汽車はキャンセルされていて、次の列車が、しかも遅れてやって来たことがある。先週は「列車妨害の為、列車は少々遅れています」という放送があって、かなり遅れた。どんな妨害があったのか、あとで JR 四国のホームページを見たが、「現在、遅れ等の情報はありません」と出ていた。30 分までのダイヤの乱れは、乱れの範疇に入らない。健全な生活環境が未だ保たれている。

 無人駅で汽車を待つ。予定通りの時刻に「間もなく、下り列車が参ります。」のアナウンス。駅で待つ人たちがそろそろ来るなとホームで身構える。狭いホーム、その前を、雨を蹴散らし猛スピードで特急が通過していった。そのあとに、「OO線で発生しました停電のため、列車は少々遅れています。」のアナウンス。単線なので、特急が停車する次の駅で上りの列車と行き違い、それが目の前を通り過ぎて終着駅についてから、やおら目的の下り各駅停車がその駅を出発する手筈なので、しばらく駅で時間が出来た。

 

 5 から 10 までの数同士の掛け算は指でできた。10 から 15 までの数同士の掛け算も指でできた。ということは、15 から 20 までの数同士の掛け算も同じようにしてできるのではないかと思い、汽車の待ち時間に駅で考える。予定時刻に汽車が来ないので、駅には通学の高校生たちが増えていた。両手の指を折りながら、ぢっと手をみる、変なおっさんが居るのはさぞかし気味が悪かっただろう。

 

 10 台同士の数の掛け算は第 20 回で記した方法で暗算できるので、その答えに会うような指の組み合わせを考える。第 20 回でやったように、例えば、16 × 18 だったら 16に相方の 18 の 1 の位の数 8 を足してから 10 倍しておく。16 + 8 = 24 だから、240。これに 1 の位同士の数を掛けてから、さっきの 240 に足す。6 × 8 + 240 = 48 + 240 = 288。さぁ、立っている、または折れている指の本数から 288 が出るように、ぢっと手をみる。考える。指折り数えると 16 では 1 本指が立っている。18 では立っている指は 3 本。

① 立っている指の本数を足して 20 倍して覚えておく。1 + 3 = 4 の 20 倍だから80。2 × 4 は知っていることになっている( 5 までの数同士だから)。

② 次に折れている指の数を掛ける。16 だと 4 本折れていて、18 だと 2 本折れているので、4 ×2 = 8 。

③ さっき覚えておいた 80 に足すと、88。

④ 最後に 200 をたす。88 + 200 = 288 (=16 × 18 )。

正しい。他の数でもチェック。正しい。いけるぞ。

 

 汽車に乗る。調子に乗る。20 から 25 までの数同士の掛け算を手の指を使ってできるか挑戦する。例えば、22 × 24。指折り数えると、22 では 2 本の指が折れている。24 では 4 本折れている。

 ぢっと手を見る。

① 折れている指の本数を足して 20 倍する。( 2 + 4 ) × 20 = 120。

② 折れている本数同士を掛ける。2 × 4 = 8。

③ さっきの 120 に足すと、128。

④ これに 400 を足す。

528 だ。確かに 22 × 24 = 528。他の数でチェック。正しい。

 

 今度は折れている指の本数しか使わない。10 から 15 までの数同士の掛け算の時と同じだ。なんか規則が見えてきた。が、これ以上暗算できない。汽車は大学の最寄り駅に着いた。ここで、ひとまず終了。

 

 研究室に到着してから、見えてきた規則を早速、整理しておく。

 

(A) ◇十五から△十(ただし、△ = ◇ + 1 )までの数同士の掛け算では、立っている指の本数を足して、「10 の倍数のいくばくかの数」を掛け、折れている指の本指数同士を掛けて、さっきの数に足し、最後に「100 の倍数のいくばくかの数」を足している。「10 の倍数のいくばくかの数」は、どうやら△十のようだ。△十は(◇ + 1 ) × 10と同じ。「100 の倍数のいくばくかの数」は、△十と(△―1)十を掛けた数の様だ。◇十の言葉では(△=◇ + 1 )だから、((◇ + 1 )十) × (◇十)。さっきの 16 × 18 の時には、◇は 1 だ(△は 2 )。立っている指の本数の和 4 を 2十 ( つまり20 ) 倍した。最後に10×20 (=200 ) を足した。

 

(B) △十から△十五までの数同士の掛け算では、折れている指の本数を足したものに「10 の倍数のいくばくかの数」を掛け、これまた折れている指の本数同士を掛け、さっきの数に足しておき、最後に「100 の倍数のいくばくかの数」を足す。立っている指の本数は使わない。今度は「10 の倍数のいくばくかの数」は△十。「100 の倍数のいくばくかの数」は ( △十) × ( △十 ) だ。さっきの 22 × 24 では、△は 2 なので、折れている指の数の和 6 に 20 を掛けた。最後に 20 × 20 ( = 400 ) を足した。

 

 最後にもう一度整理。パーから指折り数えて、折れている指の数を a、b とする。立っている指の数はそれぞれ 5-a、5-b、これらを p ( = 5-a )、q ( = 5-b ) としておこう。

 

◎ 10 n + 5 から 10 n + 10 までの数同士の場合

 (10 n は 10 × n のこと。n は 0 から 9 までの整数)

 指折り数えると

    ( 10 n + 5 + p ) × ( 10 n + 5 + q )

 を計算することになる。左右の手に立っている指の本数が p と q。掛け算を実行する。

 

    ( 10 n + 5 + p ) × ( 10 n + 5 + q )

      = ( 10 n + 5 ) × (10 n + 5) + (10 n + 5 ) × (p + q ) + p × q

      = ( 100 n × n +100n + 25 ) + ( (10 n +10 ) × (p + q ) + ( 5 -p ) × ( 5-q) )-25

      = 10 n × ( 10 n + 10) + 10 × (n+1) × ( p + q ) + (5-p) × (5-q)

 

こうして、最後の式の真ん中、10 × (n+1) × ( p + q ) は、立っている指の本数の和 ( p + q ) に、◇十五から△十の場合の△(=◇ + 1 )を 10 倍している。これに最後の (5-p) × (5-q) を足しているが、(5-p)、(5-q) は 5 から立っている指の数を引いているので折れている指の数だから、折れている指の本数同士を掛けたことになっている。最後に初項 10 n × ( 10 n + 10) は (◇十)×((◇ + 1 )十)。これを足しておしまい。これで、(A) は示せた。

 

◎ 10 n から 10 n + 5 までの数同士の場合 (n は 1 から 9 までの整数)

  指折り数えると

    ( 10 n + a ) × ( 10 n + b )

 を計算することになる。左右の手で折れている指の本数が a と b 。掛け算を実行する。

 

    ( 10 n + a ) × ( 10 n + b )

            = 10 n ×10 n  + 10 n × ( a + b ) + a × b

 

今度はやさしい。最後の式の真ん中、10 n × ( a + b ) は、折れている指の本数の和  (a + b ) に、△十から△十五の場合の△( = n) の 10 倍。これに最後の項 a × b を足しているが、これは折れている指の本数同士の掛け算だ。最後に初項 10 n × 10 n  は (△十)×(△十)。これを足しておしまい。これで、(B) も示せた。

 

 スマホなんて持ってないので、空き時間に web を見ることもない。汽車が遅れて、ぽっかり時間が出来たら、普段考えないことが考えられる。汽車が遅れても、良いこともあるものだ。