15.水の波と海岸線

 前に、光の屈折の話をした。波の速さが速いところから遅いところに差し掛かると、波の進む角度が折れ曲がる。こんな感じ。

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 熱海の海岸を散歩した。

 幼稚園在園中だが夏休み中だった子供が、突然、見境もなく裸足になって海に突進した。海水に浸かって戻ってきたときには砂浜の砂だらけ。どうやってべっとり付いた砂を払って靴下履いて靴履いてホテルに戻るのか。全く持って前後の脈絡も見境も、無い。海岸に設置されているシャワーで足を洗って、手持ちの薄いハンカチで足を拭いて、最早そのハンカチは手も拭けないほどグショグショに水で濡れてしまったが本人は至って平気である。びしょ濡れのハンカチをポケットに仕舞うのも、やだ。

 もう少し、熱海の海岸、散歩してみたかったのだが。

 

 そんなことはともかく、良く見ると、まぁ良く注目したわけでもないが、熱海の海岸では、海の波はまっすぐ海岸線に向かってくる。きれいな波の山(谷)がまっすぐ海岸線に向かってくる。波の山谷のラインが海岸線と平行だ。

 

 おかしい。

 

 High Intelligence なK県の桂浜なる海岸線でも、波は真っ直ぐやってくる。桂浜からしたらちょっと曲がって、南西に向いているヤシイパークなるところでも、はたまた台風が来たときには透明傘をさして風雨に耐えながら実況中継する、おばかなテレビ局の全国ニュースでも取り上げられる室戸でも足摺でも、そういえば波は海岸線に真っ直ぐ来てるぞ。

 

 桂浜から遠くの海を眺めると、黒潮っぽいのが右から左に、西から東に流れているように見える。なのに、海岸では向こうからこちら、南から北に流れて波は海岸に打ち寄せる。

 

 不思議だ。

 

 水の波の速さを考えてみる。比較的浅い海では、海の深さが波の速さに関係してくる。深さを h [m] とする。水は地球に引かれているから、重力加速度 g = 9.8 [m / s2 ]にも関係する。この二つの量からm / s の形になる早さ v [m / s]にするには

 

    v = ( gh )1/2   つまり  ルート gh ・・・・(1)

 

重力加速度の g のメートル毎秒毎秒 [m / s2 ] に、深さ h のメートル [m] を掛けたらメートルの2乗÷秒の2乗 [ m2 / s2 ]、これをルートすると、おう、ぴったり速さの次元、m/s になっている。

 実際、水深が浅いときにはこれでよろしい。

 

 (1)式の水の波の速さを見ると、深い (h が大きい) 時には波の速さは速く、浅い(h が小さい)時には波の速さは遅いということだ。

 

 ということは、海岸から離れた比較的深い海を、こちらに斜めに進んできた波も、海岸線に近づくにつれて、水深がだんだん浅くなってくるので、h が小さくなり、水の波の速さは遅くなる。ということは海岸線に近づくほど、水の波の速さは遅くなっていくということ。波の速さが違った場所では屈折が起きた。光のときに見た通り。ということは、同じ「波」なのだから、水の波でも屈折が起きるはずだ。

 

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  波が速いほう(深いほう)から、遅いほう(浅いほう)に入ると、波は屈折して曲げられる。実際には海の深さは連続的に浅くなって海岸線に来るので、深いところで斜めに進んでいた波は、海岸線に近づくにつれ曲げられ、最後はとうとう海岸線に垂直に向かってやってくる。つまり波の山谷のラインは海岸線と平行ということ。

 

 だから、どこの海岸線でも遠浅である限り、波は真っ直ぐ海岸線に向かってやってくるというわけだ。解決した。

 

 しかし、海岸線に近くなると、すでに波は真っ直ぐ来るようになり、もう屈折しない。そうなると、海岸線近くの海水は、遅い速度でチンタラ海岸に向かってくるのに、その後ろからは波は速いスピードで押し寄せてくる。渋滞してくれれば良いが、前の波がゆっくり進んでつかえているからといって、スピードの速い、少し深い後ろから来る波は待ってくれない。そこで、波は大きく乗り上げて、やがて重力で、どどっと潰れる。こんな感じ。   

 

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        (Wikipedia より、葛飾北斎 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏)

 

 水の波の速さ v、正確には

 

    v2 = (gλ/(2π))×tanh (2πh / λ)

 

波の波長 λ にも依存する。水深 h が比較的浅いと双曲線関数 tanh (2πh / λ)≈ 2πh / λ と近似できて、v2 = gh になる。