25.光の運動量

 第3回では、質量とエネルギーの等価性を、大栗博さんの著書から拝借して導いた。今度は山本義隆さんの著書を読んでいたら、似てはいるが別の導き方があったので、忘れないように記しておこうと思う。

 

 漱石の野々宮さんは光の圧力の研究をしていた。まずは、光の圧力のもとになる、光の運動量を、山本義隆氏に倣って導いておこう。
 一辺 L [m] の立方体の箱の中に光を閉じ込めたとしよう。光が運動量 p [m/s] を持つとし、この光が箱の壁に当たって、向きを変えたとする。最初の運動量は p、跳ね返った後は向きが正反対になったので、-p だ。運動量の変化Δp は


   Δp= p - (-p) = 2 p


となる。一つの壁の面にだけ注目しておくと、この壁に光があたるためには、一回当たってから次に戻ってくるまでに1往復、つまり2 L [m] 進まないといけない。光は光の速さ c = 3.0 × 108 [m/s] で動くので、壁に一回当たってから次に当たるまでの時間Δt [s] は


    Δt = 2L / c [s]


となる。ニュートンの運動法則、「質量かける加速度は力」だが、加速度は速度の変化率、質量かける速度が運動量なので、質量×加速度は、「運動量の変化率」だ。こうしてニュートンの法則は「運動量の変化率が力」となるので、壁が受ける力f は


    f = Δp / Δt = p c / L


になる。
 さて、この力に逆らって箱の壁をΔL だけ押し込んだとしよう。(力)×(移動距離)=(仕事)なので、この時にした仕事Wは


   W = F×ΔL = (pc / L)×ΔL ・・・(1式)

になる。
 

 さてさて、光のエネルギーEは、光の振動数をν[1/s] と書いて


    E = h ν ・・・(2式)


となる。これは、金属に光を当てた時に飛び出してくる電子のエネルギーの測定と、アインシュタインが考えたことから得られる実験事実だ。金属に光を当てても、ある振動数ν0より小さい光をいくら強力にあてても金属から電子は飛び出してこない。ところが、ある振動数よりも大きな光をあてると、たとえその光が弱くても、金属から電子がたちどころに飛び出してくる。これを光電効果という。飛び出した電子のエネルギーは、あてた光の振動数に比例していた。ということは、ある振動数ν0 までの振動数の光では、光のエネルギーが小さくて、金属に束縛されている電子を、その束縛を断ち切って自由に飛び出させるにはエネルギーが足りないということだ。飛び出した電子の運動エネルギーTは

   

    T = h ν-B、ここで B = hν0

もちろんTが負の時には電子は飛び出してこない。こうして、当てた光のエネルギーは

    E = h ν

と考えられる。これでアインシュタインノーベル賞を貰う。今は実験事実として認めておこう。詳しく実験したのはミリカンだ。この式は第3回でも第8回でもすでに使っている。


 ここまで準備をしておいて、もう一度、辺Lの箱の壁を押し込んだ時の仕事に戻ろう。押し込む前は1辺Lの箱だったので、光は箱の中で定在波を作っているはずだ。つまり、箱の表面では光は波として上下動しない。光の波長をλ[m] とすると、箱の表面で波の上下動は0なので、


    2L / λ = n (=1,2,3・・・)


となる。光の波の速さcと振動数νと波長λには


    c = λ×ν


の関係があったので、光のエネルギーEは


    E = h ν= h c / λ = n h c / (2L)    ・・・(4式)


となることがわかる。上の2つの式を使った。このE は箱の一辺の長さLが決まれば決まっているのでE=E(L)と関数の形に書いておこう。今、箱の辺の長さをΔLだけ押し込んだので、押し込んだ後の辺の長さはL-ΔL になった。光のエネルギーの変化は


    E(L-ΔL) - E(L) = nhc / (2(L-ΔL)) - nhc / (2L)
             ≒ nhc / (2 L2 )×ΔL       ・・・(3式)


となる。2行目へはΔLがL に比べて十分小さいとして、1 / (L-ΔL) = (1/L)×(1/(1―ΔL / L) ≒ (1/L)×(1+ΔL / L)となることを使った。
 光のこれだけのエネルギーの増加は、箱をΔLだけ押し込んだ仕事によって得られているわけだから、両者、(1式)と(3式)を等しいとおいて


    W = E(L-ΔL) - E(L)


つまり、


    (pc / L)×ΔL = nhc / (2 L2 )×ΔL


が成り立っている。適当に与えたΔLは打ち消しあって、光の運動量p と光の速さcをかけた量はこの式から


    p c = nhc / (2L)


となる。でも、光のエネルギーEは(4式)からE=nhc / (2L) だったから、右辺そのものだ。だから


    p c = E


つまり、光の運動量pは


    p = E / c = h ν / c = h / λ


と得られた。最後にもう一度(2式)と c = λνを使った。
 
 これで光の運動量が得られた。エネルギーと質量の等価性は、これを使って次回。