41.歩行とダイエット

 不思議な式を見つけた。運動時のおよその消費カロリーは、(メッツ)×体重[kg] ×運動時間 [時間] ×1.05 で見積もれるらしい。どっから導かれるんだ、この式? 1.05 掛けるのは何故だ? とか、全く理解はしていない。メッツとは、その運動が安静時の消費エネルギーの何倍かを示すものらしい。厚生労働省のホームページにも値が書いてある。信じて計算してみると、体重 60 kg の人が速足で1時間歩いたときに必要なエネルギーは 158 kcal と出る。基礎代謝も含んでいるようだ。いや、わからん。はっきり書いておらん。基礎代謝とは運動せず安静にしていても生きていくの必要なエネルギー、消費カロリーのこと。基礎代謝プラス速足歩行の消費カロリーが 158 kcal なのか?

 

 3 月は 10 日間、大学の色々な用事を皆さんに任せて、海外逃亡していた。いわゆる、高飛びというやつだ。行った先がヨーロッパなので往復に時間がかかり、先方での滞在は実質 6 日間であったが。飛行機の機内での時間や乗り継ぎの待ち時間があるので、何冊か本を持って行って読む。その一方、空港内の移動などでとにかく良く歩く。空港のターミナル間移動も半端では無い。先方に着いても、滞在時のホテルから先方の大学、あるいはスーパーマーケットへと、とにかく歩く歩く。持って行った何冊かの本の中に、人が歩くときに要するエネルギーは、さほど多くない、という記述があった。チンパンジーが手(前足?)をグーにして四足歩行しているときに必要なエネルギーの3 分の 1 程度だそうだ。チンパンジーの歩行でどんな風にエネルギーが使われるのか知らないが、人が歩く時に必要なエネルギーを、不思議な式に頼らずに、簡単に当たってみる。ボールペンは胸ポケットにさしていたが紙が無いので、読んでいた本に付けていたブックカバーで行った計算。

 

 その本によると、人が普通に歩行しているときには、重心が持ち上がり、また元に戻るとあった。重心を高く移動させて位置エネルギーを稼ぐ。その位置エネルギーはすべて前進するための運動エネルギーとして使われると仮定する。授業のレポート課題に丁度良い。エネルギー保存則だ。

  

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 図の左端のように、まずは両足を開いた状態。次に図の左から  2 番目のように両足が一瞬揃い、その後、図の左から 3 番目のように、浮かせた足を着地させる。とりあえず人の重心はへそのあたりにあるだろうから、重心の移動距離だけ考えるのであれば図の黒丸の移動の高さを見積もればよい。足の長さを l (エル)[m]、歩幅を s [m] としておく。右端の図のように、左端の図の前足、両足が揃った時の足、左から3番目の図の後ろ足と、足の動きだけ抜き出して書くと、黒丸の高さの移動が三平方の定理を利用して計算できる。

 

    h = l - √( l2 - ( s / 2 )2 ) ( = l - ( l2 - (s / 2)2 )1/2 )  ・・・(1)

 

 重心の高さの移動がわかったので、足を踏み出してから重心が最高点に達するときに体がした仕事が、重心移動の位置エネルギーとして蓄えられる。位置エネルギー U は

    

    U = m g h  ・・・(2)

 

だ。m [kg] は人の質量(体重)、g = 9.8 m/s2 は重力加速度、h [m] は(1)で求めた重心の高さの移動だ。人が一歩、歩くとき、これだけのエネルギーが必要としよう。位置エネルギーに変換されたこのエネルギーが、すべて前進するための運動エネルギーになるとする。運動エネルギーは「二分の一エムブイの2乗」、mv2 /2 だ。ここで、v [m/s] は移動の速度。(2)の位置エネルギーがすべて運動エネルギーに変換されると、「エネルギー保存則」から

  

    m g h = m v2 /2

 

だから、得る速度 v は

 

    v = √(2 g h) [m/s]  ・・・(3)

 

となる。h [m] には(1)を代入すればよい。

 

 1 時間歩いたとしよう。1時間歩いて進む距離 L [m] は、速さ×時間だから、1時間は3600秒であることと、(3)式は秒速であることに注意して

 

    L = v × 3600 [m]   ・・・(4)

 

となる。1 時間歩いた時の歩数 N は、歩いた距離が L [m]、歩幅が s [m] だったので

 

    N = L ÷ s    ・・・(5)

 

で求められる。1 歩ごとに体は(2)式のエネルギー mgh を必要としていた。だって、一歩ごとに位置エネルギー U = m g h を体が提供しないといけないのだから。ということは、1 時間歩いて必要な(消費される)エネルギー E [J] は、

 

    E = m g h × N [J]  ・・・(6)

 

となる。

 

 ちょっと、数値を仮定して、1 時間歩いて消費されるエネルギーを当たっておこう。足の長さは、l = 0.70 m としよう。70 cm もないかもしれないが、盛っておく。歩幅もエイやっと、s = 0.70 m としておく。体重は軽めに、60 kg。

 

    l = 0.70 [m]

    s = 0.70 [m]

    m = 60 [kg]

 

このとき、重心の高さの移動 h は(1)式から

 

    h = 0.0937 [m]

 

と計算できる。およそ 9 cm。h がわかったので、移動の速さ v は(3)式から得られる。  

 

    v = 1.35 [m/s]

 

およそ、秒速 1.4 m。時速に直すと、4.87 km / h。およそ時速 4.9 km だ。少し早足。では、1 時間で歩く距離 L は(4)式で分かる。時速 4.87 km なので、言うまでもなく

 

    L = 4.87 × 103 [m]

 

では、何歩歩いたか。それは(5)式でわかる。

 

    N = 6.96 × 103

 

およそ 7000 歩だ。さぁ、消費したエネルギー E は、(6)式でわかる。

 

    E = 3.83 × 105 [J] ・・・(7)

 

今の仮定の下での計算ではあるが、これだけの運動で、これだけのエネルギーを使うと言える。ジュール [J] という単位になじみが無ければ、カロリー [cal] に直しておこう。

 

    1 cal = 4.19 J

 

なので、(7)の値を 4.19 でわればカロリーで表示できる。やってみると

 

    E = 9.14 × 104 [cal]

     = 91.4 [kcal]

 

およそ 91 キロカロリーと出た。

 

 実際の測定値もきっとあるのだろうが、調べきれていない。

 

 ちなみに、鳥肉のから揚げ 1 個 (30g) で 70 kcal 程度、ビール一缶 (350 ml ) で140 kcal 程度、クロワッサン 1 個 (40g) で 180 kcal 程度らしい。また、チーズケーキ一人分、まあホールの 6 分の 1 か 8 分の 1 位だろうが、それでおよそ 300 kcal 程度だそうだ。

 

 チーズケーキは以前から好きだが、それにも増して、うちのおくさんの作るチーズケーキは最高においしい。絶品である。余りケーキが好きでない息子ともども、親子でいつもパクパク食べる。

 

 それとこれとは別なのだ。

40.プラス0.1%、マイナス0.1%

 水泳のことは良くわからない。良くわからないが、子供は新年の頃には全国で20位前後であったのが、春の全国大会での直接対決では 40 位台に後退した。自己ベストを出したにもかかわらずである。みんな頑張っている。

 そういえば、以前はスイミングから帰ってきても、家で柔軟や筋トレをして鍛えていたが、最近はゲームをしたり遊んだり。そこで、たとえ話を思いつく。

 

 スイミングで毎日 6000 メートルとか泳いでいる。しかし、他の子たちもそれぞれのスイミングチームで泳いでいる。同じように練習していると同じようにタイムは伸びるだろう。タイムは伸びるが他の子も伸びるので、他の子との比較という観点からは、ある意味現状維持だ。そこで、これを

 

    1

 

としておく。家でゲームなどせず、すぐに遊びに出かけず、少しでも柔軟をして体を柔らかくし、関節の可動域を広げる。その効果はわからないが、やらなかった場合より0.1%だけでも効果があるとしよう。1 日で、

 

    1.001

 

倍の自分ができる。これを継続すると、1 年で

 

    1.001×1.001×・・・×1.001

 

と、1.001 を 365 回掛ける。そうすると、

 

    1.001365 = 1.44025・・・

 

と、みんながタイムを上げるより、1.44 倍も強くなった自分がいる。

 

 朝練で 6000 m 泳いで、昼間、体の疲れをとらず、遊ぶ。あるいは、凝り固まってゲームをして筋肉を硬くする。柔軟の反対だ。その効果は、少しだけマイナスだ。休息を取らなかったり、同じ姿勢でゲームをして体を凝り固めたりして、折角の現状維持から0.1%だけ悪くなったとする。午後の通常練習に参加しても、だ。0.999 倍の自分。これを1 年続けると

 

    0.999365 = 0.6940・・・

 

0.7 倍に弱くなった自分がいる。

 

 1 日 0.1 %でも普段より何かをし、1 年継続すると強くなる自分がいる。

 

 自戒を込めた計算だ。今日から何か始めよう。

 

 ところで、最初は 1 %アップのつもりで計算したが、そうすると

 

    1.01365 = 37.783・・・

 

と、38 倍にもなる。たとえ話としては大きすぎだが、借金の利息と考えると怖い。ついでに 1 %サボると

 

    0.99365 = 0.02551・・・

 

わずか 40 分の 1 になった自分がいる。

 

 ついでに、今はこんな冪の計算は、ちょっといい電卓で計算できる。昔はどうしていたかというと、28 回目に書いた対数だ。

 

    y=1.001365

 

として、両辺対数をとる。底は何でもよいが 10 をとって、常用対数と呼ばれるものを使っておこう。

 

    log 10 y = log 10 1.001365

            = 365 × log 10 1.001

 

対数表を調べて、少し計算して log 10 1.001を求める。そうして

 

    log 10 1.001 = 0.000434077・・・

 

を得る。よって、

 

 

    log 10 y = 365 × 0.000434077

       = 0.158438・・・

 

こうして、

 

    y = 100.158438・・・

     = 1.44025・・・

 

と計算される。電卓にも機能が沢山ついているので、もうこんなことはしないで済んでいる。

 

 

39.骨の折れる計算

 骨折した。

 

 とある店の中を平地のつもりで歩いていたら、段が1段だけあって、段がないつもりだったので右足で勢いよく着地してしまった。ただそれだけ。

 骨折といっても、正確には、右足の甲の骨の一部が欠損し、欠損した骨片が旧石器時代の骨角器の矢じりのように足の内部で肉に刺さった状態になっている状況。レントゲンを見ると骨片が見事に写っている。あまりに鮮明に映っているので、そのレントゲン写真が欲しいのだがなぁ。

 

 第1回ノーベル物理学賞はレントゲンによるX線の発見だ。素晴らしい。

 

 足、切り開いて骨片取り出すかと言われるも、恐ろしいので自然治癒の道を選択。痛み止めの湿布で散らす。

 

 骨も物体なので、圧縮したらどこかで壊れるはずだ。

 長さ l (エル) [m] の物体を圧縮したらΔl(デルタエル) [m] だけ縮んだとする。Δl で一文字。Δl =0. 1 mm とか。長さの変化率 Δl ÷ l を圧縮ひずみ Sと呼んでおこう。

 

    St = Δl / l ・・・(1)

 

これだけ圧縮するために要した力を F [N] として、この物体の単位面積あたりにかかった力を応力 S と呼ぶことにしよう。物体の断面積を A [m2 ] として

 

    S = F / A   ・・・(2)

 

S と St の比はヤング率と呼ばれて、弾性体の物理を勉強していると出てくる。ヤング率は大抵 Y と書かれて

 

    Y = S / St = ( F × l ) / ( A×Δl )  ・・・(3)

 

 物体が壊れない範囲で、弾性体ではこの値は物体によって決まった定数になっている。St は長さを長さで割り算しているので次元をもたず、応力 S は力を面積で割っているので圧力の次元を持つ。だから、ヤング率も圧力の次元を持ち、調べてみると骨のヤング率は、

 

    Y = 1.4 × 1010 [Pa]  ・・・(4)

 

という値を持つそうだ。ついでに骨に力がかかって、骨が圧縮されて壊れるときの応力S は

 

    S = 1.0 × 108 [Pa] ・・・(5)

 

だそうだ。1気圧は1013ヘクトパスカル。1ヘクトパスカル[hPa] は100パスカル[Pa]。ということは、1000気圧にも耐えられる。まぁ、骨だけそんな状況に置かれることは無いが。

 

 弾性体といえば、圧縮したら元に戻る。ばねが典型的な例だ。ばねを自然な長さからΔl [m] だけ伸ばすのに必要な力 F [N] は

 

    F = -k × Δl ・・・(6)

 

と表される。ここで、k [N/m] は、ばね定数と呼ばれる定数。力は伸びに比例するというのはフックの法則として知られている。マイナスを付けたのは力の向きまで考慮したから。力の大きさだけを問題にするなら、Δl は正にとっておいてマイナス符号を外せばよい。ついでに証明抜きで記すと、Δl だけ伸びた、あるいは縮んだ時にばねに蓄えられるエネルギー E [J] は

 

    E = k×(Δl) ÷ 2   ・・・(7)

 

ここで、(3)からY= ( F × l ) / (A × Δl) だったので、

 

     F = ( Y × A ÷ l ) × Δl    ・・・(8)

 

となる。ここでは力の大きさだけを問題にしているので、(6)と違って負号が無いが、ばね定数 k は

    

    k = Y A / l

 

に対応していることがわかる。だから、Δl [m] 圧縮したときに物体に蓄えられるエネルギーは、(7)式の k として、すぐ上の式を代入して

 

    E = Y A / (2 l) × (Δl)  ・・・(9)

 

となることが分かった。

 

 今、応力の定義(2)と、今導いた力の(8)から

 

     Δl = F l / (Y A) = S l / Y

 

が得られるので、この Δl を、圧縮により蓄えられるエネルギー(9)に代入して Δl を消去すれば

 

     E = S2 A l / (2Y)  ・・・(10)

 

となる。応力 S、ヤング率 Y、物体の長さ l、物体の断面積 A で表せた。

 

 さて、骨。

 骨が折れる、壊れるときには(5)の数値以上の応力がかかっているということだ。段差に気づかず、全体重を右足の足裏の面積にあずけてしまった場合、(10)の S としては(5)式の値、ヤング率 Y は(4)式の値、面積 A としては足裏の面積、長さ lとしては足の骨の厚さを取ればよかろう。足裏の面積は長方形として大体 25cm ×10 cm 程度。常に幅 10cm ということもないが、長さを短めにしたのでトントンだろう。足の甲の骨の厚みは知らないので、2cm くらいとしておこう。そうすると、足の骨が欠けるのに必要なエネルギーは(10)式から

 

   E = ( 1.0 × 108 [Pa] )2 ×( 0.25 ×0.1 [m2] × 0.02 [m] ) / (2×1.4 × 1010 [Pa])

    = 1.785×102 [J]  ・・・(11)

    

大体 179 ジュールとでた。

 右足を踏み出して着地したかなと思ったら、地面が無かった。そのまま、1段、全体重 m = 70 kg が高さ h [m] の段差を自由落下したと思えばよい。この時の位置エネルギーUは

 

   U = m g h ・・・(12)

 

だ。g は重力加速度で、9.8 m/s2 。この位置エネルギーが、右足が着地した時に足の弾性エネルギー(10)に変わる。骨が壊れるには最低(11)のエネルギーが必要なので、(11)と(12)を等しいとおいて、危険な段差 h [m] が求まるはずだ。

 

   1.785×102 [J] = 70 kg × 9.8 [m/s2] × h

 

つまり

 

    h = 178.5 ÷70 ÷9.8

     = 0.26 [m]

 

だいたい 26 cm の段差でアウトである。家の階段でも 1 段 20 cm あるので、25 cm 位はあっただろう。また、実際には土踏まずもあるし、力がかかった足裏の骨の面積はもっと狭いはずなので(11)式の値はもっと小さく出る。たとえば、体重がかかった足裏の面積は土踏まずなど除いて骨の部分だけとして 25cm ×10 cm の半分に見積もると、危険な高さも半分の 13 cm となる。段差の h はかなり低くても危険だということだ。

 

 段差を認識していたら、筋肉やらなにやらの動きやらで力を分散させるので、骨折には至らない。実際、1 m くらいから飛び降りても大丈夫なんだから。

38.力のモーメントと釣り合い

 小学6年生の理科の問題集に、どうやって解いたんだというものがあった。図 1 のように、重さ 30 g、長さ 60 ㎝ の均質な棒の左端を支点にし、支点から 40 ㎝ のところに重さ 60 g の重りをつるす。このとき、棒の右端にばねばかりをつけ、ばねばかりを持って棒と重りを支えると、ばねばかりは何グラムを指すか、という感じの問題。問題文は正確ではないが。小学校でどんなふうに教わっているのか知らないので、解答をみる。そこには、

 

    40 cm × 60 g ÷ 60 cm = 40 g

    30 g ÷ 2 = 15 g

    40 g + 15 g = 55 g           ・・・(0)

 

と、謎の数式が並んでおり、答えは「55 g」。

 

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な、なんだ?

 

 

 以下では質量と重さを混同して使う。

 (0)の 2 番目の式は、重さ 30gの棒を左端の支点と右端のばねばかりで平等に支えているということで、30gを2で割っているのだろうと推測できる。では 1 番目の式はどういう理屈で出てきたのだろう。これがわからない。支点から錘までの距離 40 cm に錘の重さ 60 g を掛けている。そのあと、支点からばねばかりまでの長さ 60 cm で割っている。どうしてなのかの説明が欲しいが、問題集の解答集には解説がない。

 

 高校・大学では「力のモーメント」という概念が出てきて、それでこういった類の問題は解決する。詳しいことはやめて、簡単に見てみる。

 

 小学校なので、まずはシーソーは扱っているのだろう。

 

図 2 の感じ。シーソーの台というか棒というか、それは人に比べて軽いとして今は無視しておこう。シーソーに乗ってわかることは、シーソーで 2 人が釣り合おうとしたら、体重の重い人はなるべく前へ、軽い人は後ろに乗るということ。釣り合いの条件は  

  

  (支点から、体重のかかっている人(作用点)までの長さ)×(体重)

 

が、左右両者で等しい時だ(「体重」というのは、本来は下に向かう「力」のこと)。

 

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図 2 の場合だと

 

    4 m × 30 kg(重)= 2 m × 60 kg (重)

 

で釣り合っている。(重)と書いたのは、質量ではなくて力ということを示すためだ。もし右の体重 60 ㎏ の人が支点から 3 m のところに座ると、3 m × 60 kg(重) = 180 kg(重) m となって、左の人の120 kg (重)m より大きくなって、シーソーは右の側が下がる。

 

 この知識をもとに、もう1度、図 1 を考えてみよう。重さ 30 g の棒は均質なので、棒の中央に 30 g 分の力が下向きに働いていると考えてよい。棒の中央が棒の重心だ。おもりは支点から 40 cm のところに下げたので、そこで下向きに 60 g 分の力を与える。この二つの力が、棒を右回りに回転させようとする。それを、右端のばねばかりが指す重さ分の力を上向きに与えて阻止する。図3 のように考えればよい。

 

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右回りに回転させようとする「力のモーメント」、つまりシーソーの時の(支点から力の作用点までの長さ)×(重さ(力))は、

 

    ( 30 cm × 30 g (重)) + ( 40 cm × 60 g(重) ) ・・・(1)

 

となる。最初のカッコは棒自身の重さで、支点を中心に右回転させようとする寄与、2番目のカッコはおもりが棒を右回転させようとする寄与。一方、右端に力を与えて、それが x g 相当だとすると

 

    ( 60 cm × x g(重)) ・・・(2)

 

の「力のモーメント」で、支点を中心に棒を左回りさせようとする。(1)式と(2)式が等しければ釣り合って棒は回転しないので

 

   ( 30 cm × 30 g (重)) + ( 40 cm × 60 g(重) ) =  ( 60 cm × x g(重)) 

 

つまり、

 

    x = ( 30 × 30 + 40 × 60 ) ÷ 60

     = 55 [ g ]

 

と正解が出る。

 

 この式を解きほぐしてみる。1 行目から 2 行目に行く前に、÷ 60 をそれぞれに作用させて

 

    x = ( 30 cm × 30 g + 40 cm × 60 g) ÷ 60 cm

     = 30 g ÷ 2 + (40 cm × 60g ÷ 60 cm )

     = 15 g + 40 g

     = 55 [ g ]

 

とも書ける。まず、x = ・・・の棒の寄与だけ見ると

 

    30 cm × 30 g ÷ 60 cm = 30 g ÷ 2 = 15 g

 

と、3 行目の第 1 項だ。おぅ、問題集の解答の謎の(0)の 2 番目の式だ。今度は残りのおもりの寄与を見る。

 

    40 cm × 60 g ÷ 60 cm = 40 g

 

だ。おぅ、謎の(0)の第 2 式と同じ。

 

 こんな計算過程や物理的意味合い抜きに答えを出さないといけないとは。

 

 小学校、難し過ぎだ。

 

 というか、中学入試を受けるには、何も考えず、すらすら(0)式のような式を立てられないといけないのだろうなぁ。

 (0)の第2式の味するところは何となく分かったが、同じ論理では(0)の第1式は解釈できない。そんな非論理的な考え方で良いのか? 

 

 一応「物理屋」を名乗っていて、査読のある論文誌に100編以上英文で論文を書いている我が身であるが、小学校の理科、特に物理の内容の範疇の問題の解答の仕方が良くわからない。現在、大学設置審の審査にかかっている身なので、お前は小学校の問題も解説できない、大学で専門の物理を教えられるはずはないと、大学設置審の委員から不可がでそうなので、ここでの話は内緒である。きつく言っておくが、決して拡散してはいけない。誰が見るか気づくかわからない。

 

 幸い息子は最初から公立中学に進む予定なので、今後おいおい意味を理解して、考えてから解けるようになればよろしい。意味不明な「解き方」を覚える必要は無いぞ。私立中学を受験しないおかげで、受験の頃まっただ中にあった水泳の県大会で、2種目目となる全国標準の記録を突破し、3月末に東京で行われる水泳連盟の全国大会に初日から参加できた。旅費は親持ちだが、水泳で息子に東京に連れて行ってもらえるとは思ってもいなかったので純粋に嬉しかった。ついでに県大会で200 m バタフライの県の学童記録も貰った。慌てて受験テクニックだけ身に付けなくて良しとしよう。つまらんテクニックだけを身に着けて、意味も分からない「勉強のできる」人になる必要もない。基礎に立ち返って考えることができるようになればよいのだが。

37. 力と次元

 三角形の面積や、角錐の体積に空間次元が顔を出していることをみた(36回)。それは算数の話だったので、もう少し物理の話題を。

 

 基本的な力を考えてみよう。真っ先に思い浮かぶのは、おそらく重力。「万(よろず)」重さの「有」るものには「引」き合う「力」が働くので、万有引力。質量 m [kg] と M [kg] の2つの物体が、距離 r [m] 離れておかれているときにお互いに働く万有引力の大きさは、それぞれの物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例する。比例定数を G [Nm2 / kg2 ] と書いて、万有引力の大きさ F [N] は

 

    F = G M m / r2    ・・・(1)

 

となる。距離 r2 に反比例している。

 

 なぜ正確に距離の2乗に反比例しているのだろう。こんな風に考えられる。

  

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 簡単のために、まずは空間が1次元、つまり一方向とその反対方向にしか空間が広がっていないとしよう(図1(a))。力の源泉の強さを g としておくと、この力は右に g / 2、左に g / 2 の効力を持って伝わると考えればよい。右も左も特別な方向ではなく同等だから、等しい効力が伝わる。右に伝わる力の効力と、左に伝わる力の効力を足すと、もとの力の源泉 g になっているはずだ。このとき、力の源からの距離によらず、力は一定の効力 g /2 に比例する。つまり、空間が 1 次元しかないとき、力 F は

 

    F = σ’ g / 2   ・・・(2)

 

の形を持つはずだ。ここで、σ’ は何か、係数。

 

 次に、2次元平面(図1(b))。中心の力の源の強さ g は、四方へ伝わり、薄くなる。中心から半径 r のところを考えると、半径 r の円周上にまで伝わった力の効力をすべて寄せ集めて足し上げると、もとの力の源泉 g になっているはずだ。1 次元で考えたことと同じ。半径 r のところで、どれだけ弱くなっているかというと、半径 r の円周の長さは 2 π r [m] だから、

 

    g / ( 2 π r ) 

 

のように、効力は半径 r とともに弱まっているはずだ。なぜなら、すべての円周上での効力を足し合わせると

 

    (薄まった力の効力)×(円周すべて)=(g / (2 π r))×(2 π r )

                      = g

 

となって、確かに力の源泉に戻る。こうして、空間が 2 次元しかなかったら、その 2 次元世界での力の法則は

 

    F = ( k' / (2π)) × (g / r )  

 

のようになる。k' はある比例定数で、g は力の源の強さ、r は力の源からの距離。2次元世界では力は距離に反比例する。作用・反作用の法則まで考えると、力を受ける物体の力の源泉をg' として、k'=k×g' と書いておくと、上に記した2次元世界の力は

 

    F = (k / (2π))× (g g' / r )  ・・・(3)

 

のようになる。

 

 では、空間3次元の私たちの世界(図1(c))。中心の力の源の強さ g は、四方八方へ伝わり、薄くなる。中心から半径 r のところを考えると、半径 r の球面上にまで伝わった力の効力をすべて寄せ集めて足し上げると、もとの力の源泉 g になっているはずだ。2次元で考えたことと同じ。半径 r のところで、どれだけ弱くなっているかというと、半径 r の球面の面積は 4 π r2 [m2] だから、

 

    g / (4 π r2 ) 

 

のように、効力は半径 r とともに弱まっているはずだ。なぜなら、半径 r の球面上での効力をすべて足し合わせると

 

    (薄まった力の効力)×(球面すべて)=(g / 4 π r2 ))×(4 π r2

                      = g

 

となって、確かに力の源泉に戻る。こうして、空間 3 次元の私たちの世界では、力の法則は

 

    F = ( k' / (4π)) × (g / r2 )

 

のようになる。k' はある比例定数で、g は力の源の強さ、r は力の源からの距離。3次元世界では力は距離の 2 乗に反比例する。作用・反作用の法則まで考えると、力を受ける物体の力の源泉を g' として、k'=k×g' と書いておくと、力は

 

    F = (k / (4π))× (g g' / r2 )   ・・・(4)

 

のようになる。

 

 さて、万有引力。力は質量に働くので、「力の源泉 g、g' 」は「質量 M、m」と思えばよい。比例定数 k は k = 4 π Gとして

 

    F = G M m / r2

 

となる。これは(1)の万有引力の法則そのものだ。万有引力の法則が、「距離の 2 乗に反比例」するのは、私たちの空間が 3 次元だからだ。

 

 2 つの電荷をもった物体に働く力は、クーロン力と呼ばれる。たとえば、プラスQ [C] とプラス q [C] の電気量を持った2つの物体が距離 r [m] だけ離れて置かれたとき、それぞれの物体に働く力の大きさ F は

 

    F = 1 / (4πε)× Q q / r2    ・・・(5)

 

となる。これを「クーロンの法則」と呼ぶ。高校でこれを習った時、万有引力の法則に似ていると思った。距離の 2 乗に反比例する力だ。でも、何も説明はなかった。

 いまでも、大学に入学したての学生さんは同じ疑問を持ってきている。ということは、やはり高校時代、なんの説明もされてないのだろう。

 電気力の力の源泉は、電荷 Q や q だ。(4)式で g=Q、g'=q と思えばよい。比例定数 k は k = 1 / ε。そうすると、(4)は(5)になる。やっぱり、私たちの空間が 3 次元だから、力は距離の 2 乗に反比例するわけだ。それくらい、教えてくれたらいいのに。

 

 だんだんわかってきたことは、私たちの空間が 2 次元平面しかないのであれば、力は距離に反比例する、3 次元だったら距離の 2 乗に反比例する。ということは、私たちの空間がもし 4 つの方向に拡がっている 4 次元空間であれば、力は距離の 3 乗に反比例するはずだ。一般的に、空間が n 次元に拡がっていれば、力は距離の ( n - 1 )乗に反比例するということ。

 

       f:id:uchu_kenbutsu:20160308112153j:plain

 今度は無限に長い導線を考えて、ここに直線電流 I [A] を流す。図2 だ。そうすると、電流から距離 r [m] 離れたところに磁場 H が、導線を取り囲むように円形にできる。そのときの磁場の強さは

 

    H = I / (2 π r )

 

と高校で習う。空間 3 次元なのに、距離の 2 乗に反比例していない。でも、よく考えてみよう。無限に長い直線電流が流れているので、電流に垂直な面、たとえば面Aも面Bも、全く同等、何も相違はない。ということは、電流の方向に空間をずらしてみても、状況は何も変わっていないということ。実質、空間は電流に垂直な面方向にしか拡がっていないと考えても良い。2 次元世界が実現している。ということは、直線が力の源泉なので、そこから距離 r [m] 離れたところの力の強さは、(3)式の形を持つはずだ。直線状の力の源が、方や I [A]、もう一つが I' [A]であれば、比例定数を μ と書いて

  

    F = μ I I' / (2 π r )

 

と書ける。ただし、単位の長さ(1メートル)あたりの導線に働く力。

 

 クォーク間に働く力は、チューブ状、1 次元方向に絞られている。これは真空の効果なのだが、詳しいことは説明が長くなるので、ここでは省略。とにかく、1 次元的ということは、クォーク間に働く力は(2)式のように距離に依存しない。そこで、改めてσ’×g / 2を定数σと書き直すと

 

    F = σ ( = 定数)

 

である。さて、クォークと反クォークがくっついているとして、この力に抗してクォークを取り出そうとしよう。ぐいっと引っ張ってやれば宜しい。常に力 F に抗して引っ張って、距離 r [m] だけ伸ばしたとする。必要なエネルギーは、

 

    (力)×(移動距離)

 

分だけの「仕事」に等しい。クォークを取り出すには、無限に離してやらないといけないので、必要なエネルギーは

 

    エネルギー = F × ( r → ∞ )  = σ×∞

          = ∞

 

ということで、無限大(∞)のエネルギーが必要になる。こうして、クォークは単独で取り出せないと言われる。

36.錐体の体積

 小学6年生の息子が、なぜか中学生になってから習うはずの角錐の体積の問題に出くわして、習ってないと怒っていたらしい。

 

 角錐の体積は、

 

    (角錐の体積)=(底面積)×(高さ)÷3

 

そういえば、中学生の時、なぜ3で割ると答えが出るのかさっぱり解らなかった思い出がある。数学の先生のところに聞きに行ったが、当然、中学生に納得できる説明はなく、三角錐だったか四角錐だったか、3つ合わせると一つの角柱になる教育教材を触らせてもらって、確かに角柱の3分の1になるのを見た覚えだけがある。

 

 きちんとわかるには、高校で積分を学ばねばならなかった。

 

 でも、せっかくの機会だから、子供に説明しておこうと思い、半日考える。でもだめだ。積分の考えを使わないとうまく説明できない。でも説明しないよりましだから、一応説明して納得させる。

 

 まずは、1辺の長さ a の立方体を考える。立方体の中心を O として、そこから 8 つの各頂点に直線を引く(図1)。そうすると、底面が正方形、高さが a / 2 の6つの等しいピラミッド型ができる。図1 ではそのうちの 2 つのみ描いた。Oを頂点として、四角錐 OABCD と OADFE。

           f:id:uchu_kenbutsu:20160301134202j:plain

 同じ四角錐が 6 個で、一辺 a の立方体を占めるので、四角錐一つ当たりの体積は

 

    四角錐OABCDの体積 = a×a×a ÷ 6

              = ( a×a ) × ( a/2 ) ÷ 3

 

ということ。2 行目を見れば、四角錐の底面積 (a×a) に、四角錐の高さ (a / 2) を掛けて、確かに3で割ったものが、今考えている四角錐の体積だ。底面積 × 高さ ÷3。

 

 でも、これは特殊な四角錐。そこで、四角錐の体積を考えるのに、厚みが零ではないが薄い板を考えて、この板を少しずつ小さくして積み上げて、近似的に四角錐を作ったと考えよう。図2 の (a) だ。

    f:id:uchu_kenbutsu:20160301134211j:plain

 さて、1 枚 1 枚の板の面積を半分にして四角錐を再構成する。図2の (b) だ。四角錐の高さはそのまま。板の枚数もそのまま。ということは、板の厚みもそのまま。1 枚当たりの板の体積はそれぞれ半分になっているので、全体の体積も半分になる。要するに底面積を半分にすると四角錐の体積は半分。底面積を  2 倍にすると 2 倍。

 

 もとの四角錐に戻ってから、板を少しずつずらして積み上げる。こうすると、頂点は底面の正方形の中心の上にない、ちょっとずれた四角錐ができるが、高さが変わらない限り、体積は同じ。つまり

 

    (角錐の体積)=(底面積)×(高さ)÷3

 

のままだ。

 

 今、底面を正方形にとったが、三角でも五角でも、はたまた円でも、対応する板の面積が同じであれば、結果的に、得られる錐の体積は同じということもわかる(図2(c))。こうして、角柱であれ円柱であれ、体積は

 

    (錐の体積)=(底面積)×(高さ)÷3

 

となり、[ ÷3 ] がいつも現れることがわかる。はず。これでひとまず、任意の形の錐体の体積を求めたことになる。

 

 一応、息子は納得した。

 

 

 そういえば、三角形の面積は

 

    (三角形の面積)=(底辺(の長さ))× (高さ)÷ 2

 

だった。[ ÷2 ] だ。面積は、細い棒を並べて近似できると思えば図 3 のようになる。

           f:id:uchu_kenbutsu:20160301134217j:plain

1 次元の棒を積み上げていったと考える。長さ x のものを足し算していくと考えると、高校で習ういわゆる積分になる。積分の言葉では、

 

    ∫ x dx ~ x2 / 2

 

という形の計算が現れる。1次元の x を積分すると、2分の x の2乗。[ ÷ 2 ] が現れる。

 

 今度は体積。三角っぽい形の立体、すなわち錐体では、板を積み上げていった。板の面積は(縦)×(横)で、次元としては2 次元、x かける x で x2。これを積み上げていくと、足し算することだから積分で書いて

 

     ∫ x2 dx ~ x3 / 3

 

と [ ÷3]が現れる。

 

 三角形の面積を計算するときに、(底辺(の長さ))×(高さ)÷2となったところの2は、平面の次元、「2」が現れているというわけだ。三角形っぽい錐体の体積は、体積だから 3 次元的で、(底面積)×(高さ)÷3となって、3 次元の「3」で割っている。ということは、4 次元空間で三角っぽい立体を考えると、この立体の「超体積」は、(底体積)×(高さ)÷4と、4 次元の「4」で割ることになる。

 

 三角形の面積の公式も、なかなか奥が深い。

 

 

 

35.小学生の算数から考える

 小学6年生の算数の問題集を子供がしていたとき、面白い問題がちらっと見えた。ちょっと改竄して、大人向けに、こんな感じ。

 

 「三角形があって、各頂点から半径( aとしよう)が等しい扇型を描く。3つの扇型を合わせた面積はいくらか(図1(a))」

 

       f:id:uchu_kenbutsu:20160218123100j:plain

 三角形の内角の和は180 度。半径の等しい円弧を 3 つまとめると、図1(b) のように、円の半分になるはずだ。だって、それぞれの角を足すと180 度になるのだから。だから面積は

 

   (半径)×(半径)×3.14 ÷2 = π a/ 2

 

となる。小学生の問題だから、半径が具体的に 1 ㎝ とか書かれていて、かつ円周率は3.14。しかし、三角形の角度は書いてないので、三角形の内角の和が 180 度であることに気づかないと解けない。なかなか、うまい問題を作るなぁと思った。

 三角形と言えば、円を書いて、円の直径(ACとしよう)を 1 辺とし、円周上にA、C以外の点Bをとって三角形ABCを作ると、これは直角三角形になる(図2(a))。角ABCが直角。

   f:id:uchu_kenbutsu:20160218122914j:plain

 証明は簡単で、円の中心Oと、点Bを結ぶ補助線を引けばよい(図2(b))。長さOAとOBは、ともに円の半径だから等しい。ということで、三角形OABは二等辺三角形だ。だから、底角OABとOBAは等しい。

 

    角OAB =角OBA ・・・(1)

 

同様にして、長さOCとOBはともに円の半径だから等しい。よって三角形OBCも二等辺三角形。だから、底角OBCとOCBは等しい。

 

    角OCB = 角OBC ・・・(2)

 

(1)と(2)の辺々足すと

 

   角OAB + 角OCB = 角OBA + 角OBC

 

右辺は角ABCのことだ。だから

 

   角OAB + 角OCB = 角ABC ・・・(3)

 

また辺々足すと、右辺と左辺を入れ替えておくと

 

   2×角ABC = 2×(角OAB + 角OCB)

          = (角OAB + 角OCB) + 角ABC

 

となる。右辺の 1 行目から 2 行目へは、1つの(角OAB + 角OCB)を、(3)を使って角ABCとした。でも、右辺 2 行目は三角形ABCの内角の和を表しているから180 度、2直角だ。だから

 

    2×角ABC = 2直角

 

こうして、角ABCは直角、つまり三角形ABCは直角三角形であることがわかった。

 

 これは、「タレスの定理」というらしい。タレスと言えば、紀元前600年前後のギリシャの哲学者にして、記録に残る最初の哲学者。だいたい哲学の授業はタレスから始まる。

 

 始まると言えば、医学はおそらくヒポクラテスから始まるのだろう。ヒポクラテスは紀元前400年前後頃のギリシャの医学者で、迷信やら呪術やらから医術を独立させた。中でも有名なのは「ヒポクラテスの誓い」であろう。医術者の倫理を述べている。Wikipediaから引用させてもらう。

『 医の神アポロンアスクレーピオスヒギエイアパナケイア、及び全ての神々よ。私自身の能力と判断に従って、この誓約を守ることを誓う。

  • この医術を教えてくれた師を実の親のように敬い、自らの財産を分け与えて、必要ある時には助ける。
  • 師の子孫を自身の兄弟のように見て、彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える。
  • 著作講義その他あらゆる方法で、医術の知識を師や自らの息子、また、医の規則に則って誓約で結ばれている弟子達に分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
  • 自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
  • 依頼されても人を殺すを与えない。
  • 同様に婦人を流産させる道具を与えない。
  • 生涯を純粋神聖を貫き、医術を行う。
  • どんな家を訪れる時もそこの自由人奴隷の相違を問わず、不正を犯すことなく、医術を行う。
  • 医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守する。

この誓いを守り続ける限り、私は人生と医術とを享受し、全ての人から尊敬されるであろう! しかし、万が一、この誓いを破る時、私はその反対の運命を賜るだろう。』

 

 医術と言えば、息子がけがをしたとき、骨折だといけないので近所のスポーツ診療みたいな外科に行ったら、結構うんちくを垂れられたことがある。治療法など、あぁだこぅだとあったが、印象に残ったのは地域の診療所なので、地域の人たちのために在りたい、地域の人たちのために貢献したい、と熱っぽく語っていたことだ。結局骨折もしてなくて、固定もせずにシップみたいなもので治した。今度はサッカーをしていて地面を蹴ってまた、その診療所に行った。前より軽い症状であったが、また来るようにと言われ、前より軽いのになんでそんなに来ないといけないのかの説明がなく、うんちくもたれられず、結局、行かせなかった。だってすぐに治ったんだもの。今度は水泳をしていて、一つのレーンで対向の子とすれ違った時に接触して、足を痛めた。練習が終わってコーチから事情を聴いて、痛がっていたので病院に行くことにした。しかし、練習が終わったのは 7 時半ころで、もうどこの病院も閉まっている。かなり痛がっていたので今度こそ骨折かと思い、その時間に診てくれそうな近くの病院を思い浮かべた。くだんの診療所を思い出した。地域の人のために貢献したいと熱っぽく語っていた医師の言葉を思い出し、すがる気持ちで電話をした。きっとあの医師なら、診療所が閉まってからそんなに時間もたってないので、地域の子供のために診てくれる。

 

 はずだった。

 

 「何時だと思っているんですか。もう診察は終わった時間です!!」とすごい剣幕で言われて電話を切られた。

 

 なにが地域の人のために貢献したい、だ。

 

 医は算術とはよく言ったもので、耳触りの良い格好良い綺麗ごとはしゃぁしゃぁと言うけれど、時間内での金儲けを考えているとしか思えない。

 

 でもまぁ、医者がすべて悪い人というわけではなく、次に電話した病院は、「院長が学会関係の集まりで出かけているので、帰ってきたら診てもらえるように連絡しておくから、とにかく来るように」と言われ、至急赴いた。しばらくすると院長が確かに病院に帰ってきて、息子以外に当然患者は居ないので、すぐに診てもらえた。骨折かもしれないということで、すでにレントゲン技師は帰宅した後だったが、院長自らレントゲンをとって、幸い骨折ではないという診断を貰い、でも痛がっているので固定しておきましょうと言って、これも技師さんが帰っているので自ら固定してくれたことを、付しておこう。

 

 話があらぬ方向へそれた。幾何学の問題だった。前回、三平方の定理を見た。今回、直角三角形が出てきた。そこで、こんな問題が考えられる。先ほど作ったように、円の直径を一辺にもち、円周上に別の頂点を持つ直角三角形ABCを考え、直角を挟む2辺をそれぞれ直径とする半円を三角形の外側に描く(図3)。このとき、色を付した月形が 2 つできるが、その面積の和は、直角三角形ABCの面積に等しい。

 

          f:id:uchu_kenbutsu:20160218123543j:plain

 三平方の定理を習った中学生にピッタリの問題。辺ABの長さを a、BCの長さをb、ACの長さを c としておこう。色を付した2つの月形の面積は、辺ABを直径とする半円(半円ABとしよう)の面積と、BCを直径とする半円(半円BCとしよう)の面積と、直角三角形ABCの面積を足したものから、直径をACとする余分な半円(半円ABCとしよう)の面積を引いたものであることが、図を睨んでいるとわかる。

 

    (2つの月形の面積を足したもの)

    =(半円ABの面積)+(半円BCの面積)+(三角形ABCの面積)

      -(半円ABCの面積)

 

円の面積は(半径)×(半径)×(円周率π)、直角三角形の面積は(底辺)×(高さ)÷2だから、長さを睨んで

 

    (2つの月形の面積を足したもの)

    =[(a/2)×(a/2)×π/2]+[(b/2)×(b/2)×π/2]+[a×b / 2]

     -[(c/2)×(c/2)×π/2]

    =( a2 + b2 - c2 )×π / 8 + [a×b / 2]   ・・・(4)

 

となる。共通の因子 π/8 でくくった。ところが、タレスの定理で三角形ABCは直角三角形だから、三平方の定理から、

 

    a2 + b2 = c2

 

がなりたつ。(4)の右辺の第1項、( a2 + b2 - c2 ) × π / 8は、三平方の定理のおかげで零になる。こうして、

 

    (2つの月形の面積を足したもの)= [a×b / 2]

                    = (三角形ABCの面積)

 

が言えた。中学生にうってつけの問題だ。

 

 長い話だったが、最後の定理は「ヒポクラテスの定理」と呼ばれる。ヒポクラテスの誓いのヒポクラテス、ではない。