117.山口きらら
化学が苦手だ。
小学生の時、ヨウ素液をでんぷんに掛けると紫色になるとあり、ヨウ素液を掛けて紫になるかならないかで澱粉があるか無いかを見ていったが、そんなことより、デンプンがあるとなぜ紫色になるのかに興味があった。誰も教えてくれなかった。
中学だか高校だか、化学反応で、酸素は手が2本とか炭素は手が 4本 とかで、手を残さず手を取り合って化合物ができるように化学反応式を作ったが、手ぇって何や?
大学で物理を勉強してようやく解った。
大学では、1 回生の時に一応、物理化学だったか量子化学だったか、そんな名前の講義をとり、アトキンスだったか誰かの「物理化学」という教科書を上下巻買わされたが、結局シュレーディンガー方程式が出てくるのもいきなりすぎて良くわからず、あきらめてすぐに物理に走った。
そのとき、化学反応で「マルコニコフ則」というものを習った。しばらくすると「反マルコニコフ則」が出てきて、マルコニコフ則と化学反応で逆の生成物ができる。反マルコニコフ則、またの名を逆マルコニコフ則。マルコニコフ則があって逆マルコニコフ則がある。何でもありの世界なのか、あるいはどっちもあるのだからそういうのは法則とは呼べないと思い、その授業から離れた。ついでに、大学では化学から距離を置いて生活をさせてもらっていた。
しかし、物理を勉強していくにつれ、分野としての化学と繋がってきて、これは物理、これは化学と分けるのもなぁ、という感じになった。後年、大学で量子力学の講義を持った時には、原子中の電子配置から解る原子の手、共有結合とかを講義内容に含めて、量子化学っぽいことも話したりしていた。
本を読んでいたら、ひょんなところで化学反応式を目にした。
CaCO3 + CO2 + H2O → Ca(HCO3)2 ・・・(1)
炭酸カルシウム + 二酸化炭素 + 水 → 炭酸水素カルシウム
貝殻とかサンゴとか、生物の死骸から石灰岩ができる。石灰岩には炭酸カルシウムが豊富だ。海底だったところが隆起して陸地になったら石灰岩が採れるわけだ。石灰岩の多い土地に二酸化炭素を含んだ雨が降ると、雨水が石灰岩に浸み込んで、反応式(1)で、石灰岩中の炭酸カルシウムを炭酸水素カルシウムに変える。炭酸水素カルシウムは水に溶けるので、炭酸水素カルシウムを含んだ水が地中へ落ちていく。あちらこちらから浸み込んできた炭酸水素カルシウム入りの水が、石灰岩質でないところの地下に溜まり、地下水脈になる。地殻変動などで土地が隆起したりして、地下水脈の位置が変わると、さっきまであった水脈のところに水がなくなり空洞ができる。鍾乳洞の誕生だ。
その空洞に、さらに地表の雨が炭酸カルシウムを溶かして炭酸水素カルシウム入りの水となって滲み出してくる。地中では高かった圧力が、鍾乳洞の空洞内では圧力が下がり、圧力が低い方が水に溶け込める二酸化炭素の量が減るので、炭酸水素カルシウムを含んだ水から二酸化炭素が抜ける。こうして、(1)の逆反応、
Ca(HCO3)2 → CaCO3 + CO2 + H2O ・・・(2)
炭酸水素カルシウム → 炭酸カルシウム + 二酸化炭素 + 水
(2)の反応が起き、炭酸カルシウムが析出する。これが鍾乳石の一つになる。
鍾乳洞は空洞だからやがて崩落し、地表の土砂が流れこむ。そうすると、鍾乳洞のある山は、崩落したところが低くなるので、山並みがでこぼこになるはずだ。
息子が参加標準記録を切れたので、山口市で行われる「きららカップ」という水泳大会に参加できた。山口きらら浜のほとりに立派な水泳競技場がある。リオ五輪に出ていたオリンピアンも何人か来ていた。最近まで世界記録を持ってた人も。これ幸いと、親は応援という名の旅行に出かけ、オリンピアンの泳ぎもついでに見てきた。High Intelligence City からは車で行ったので、山口県に入ってしばらく進むと、山並みがでこぼこになっていった。それで、山口県には秋吉台に秋芳洞があるので、石灰岩質なんだろうと気付いた。結局、水泳会場とホテルの往復で観光が出来なかったので秋芳洞には行けなかったが、現地に行くと色々知らないこと、知っていても知識が繋がっていなかったことがピタリと嵌まってきて面白い。それで、思い出した話だ。
High Intelligenceな県にも、龍河洞という鍾乳洞がある。秋芳洞と共に、日本三大鍾乳洞と言われている。もう一つは岩手県の龍泉洞だそうだ。