最近、ある教科書を読んでいたら、おもしろいことが書かれていたので、少し専門的になるが、忘れないうちに備忘しておく(目からウロコの物理学1(牧島一夫著)東京大学出版会)。
ただ、完全に数式を追えなかった。が、数係数が正しく出なかったくらいなので、定性的な理解にとどめておいて良しとしよう。
軸対称な場合の電磁気学を考える。要するに、筒状、つまり円柱状に電離した水素ガスがあり、円柱の長い方、z 方向に磁場があるとしよう。
円柱座標 ( r, φ, z ) をとる。x、y、z とは、x = r cosφ、y = r sinφ の関係がある。磁場は z - 方向に一様に存在しているので、すなわち磁場は z 成分のみ存在する。その磁場は z 軸周りに軸対称である。また、電場は考えない。このとき、 z 軸周りの成分のアンペールの法則は、微分型で
( rot B )φ = μ0 jφ ・・・(1)
となる。ここで、j は電流密度で、z 軸周りの方向である φ 成分のみがあり、すなわち z 軸周りに流れている。また μ0 は真空の透磁率と呼ばれる定数。左辺の磁場の“回転”を円柱座標で書くと
( rot B )φ = ∂Br / ∂z - ∂Bz / ∂r ・・・(2)
と表されるが、磁場は z 成分のみ ( Br = 0 ) かつ、z 方向に一様で軸対称なので Bz は座標 z と φ には依存せず、r にのみ依存している。さらに、r ≦ a には電離した水素ガス、すなわち陽子と電子からなるプラズマがあるとしたので、r > a では何も無いとして、
-dBz(r) / dr = μ0 jφ = 0 ( r < a )
-dBz(r) / dr = μ0 jφ = -γB0 r / a2 ( r ≦ a ) ・・・(3)
とする。2 番目の等式が、ここでの電流密度を仮定としておいてみた形だ。ここで、γ ある定数で、B0 は(3)式を解いた際の積分定数、すなわち、r > a では z 方向にある磁場の大きさは一定で、r に依らず B0 とした。この時、r ≦ a では Bz の r での一階微分が r に比例しているので簡単に積分できる。r = a では r > a での磁場 B0 と接続するように境界条件を置くと、r ≦ a では
Bz(r) = B0 [ 1-γ/ 2 ×( 1- r2 / a2 ) ] ・・・・(4)
と解ける。
さて、磁場が生じたので、この磁場からプラズマを構成している陽子や電子は力、ローレンツ力を受ける。ローレンツ力 F は、ベクトルの外積を使って
F = q v × B ・・・(5)
となる。ここで、q は入射粒子の持つ電荷、v は入射粒子の速度、B は磁場である。z 方向に磁場 B があるとき、磁場に垂直に速さ v で入射してきた電荷 q の荷電粒子には、
F = q v B ・・・(6)
の大きさのローレンツ力が働く。向きも考えよう。
まずは陽子。質量を mp と書こう。電荷は正なので、q = e。ここで e は素電荷。z 方向の磁場の下、時計回りの円運動をする様な方向に、ローレンツ力が働く。図の左側の状況。速さ vp で入射してきて、結果的に半径 dp の円運動をしているとすると、円運動の遠心力 mp vp2 / dp と磁場によるローレンツ力が釣り合っているとして
mp vp2 / dp = e vp B ・・・(7)
となるので、円運動の半径 dp は
dp = mp vp / ( eB ) ・・・(8)
と得られる。
続いて、陽子数密度 np を
np (r) = np0 ( 1- r2 / a2 ) ( r ≦ a )
np (r) = 0 ( r > a ) 1 ・・・(9)
と置いてみよう。中心 z 軸上では密度 np0 だが、外へ行くにつれ減少し、r = a では無くなる。r > a ではプラズマは存在しないのでこれは妥当だろう。
下図左のように、磁場の中心から距離 r + dp の点を中心とした陽子の円運動と、r-dp を中心とした陽子の円運動に起因して、半径 r のところで流れる電流密度を考える。
r -dp を円運動の中心とした所の陽子の運動では半径 r のところでは時計回り方向の運動になっている。一方、r + dp を中心に円運動している陽子は、半径 r の所では反時計回り方向の運動となっている。しかし、r-dp を中心として円運動する陽子の密度の方が、r + dp のそれよりも式 (9) から大きいので、密度に電荷と速度を掛けて得られる電流密度は、r-dp を中心とした円運動する陽子の個数の方が多いので、結局、半径 r のところでは時計回り方向の電流密度が得られる。反時計回りの方向を正の方向に取るのが一般的なので、半径 r での電流密度 jp (r) は、r-dp と r + dp を中心として円運動する陽子の寄与から
jp(r) = np(r+dp) e vp -np(r-dp) e vp
= ( np(r+dp)-np(r-dp) ) / ( 2dp ) ×2 e vp dp
= ( dnp / dr )×2 e vp dp
= -( np0 r / a2 ) ×4 e vp dp ・・・(10)
が得られる。括弧が多くてややこしいが、 np(r+dp) は場所 r+dp での陽子数密度 np ということ。ここで2行目から3行目へは dp が小さいので微分に直して、3行目から4行目へは(9)を使って微分を計算した。最後の式で負号が付いたので、時計回りに電流密度があるということだ。これはさっきの考察に合っている。(8) を使ってdp を消去すれば
jp(r) = - ( 4np0 mp vp2 / B )×( r / a2 ) ・・・(11)
が得られる。最初、(3) で電流密度がプラズマ内では r に比例すると仮定して導入したが、(11) のように、結果的に電流密度は r に比例して得られたので、(3) と (9) の仮定は無矛盾だというわけだ。
得られた電流密度 (11)には陽子の速さ vp が現れている。プラズマ中の陽子の速さは全て同じではないが、これを平均の速さと考えておこう。そうすると、第 10 回でも記したように、粒子の運動エネルギーの平均が絶対温度 T に比例していたので
( 1 / 2 ) mp vp2 = ( 3 / 2 ) kB T ・・・(12)
である。ここで、kB =1 .38×10-23 J/K はボルツマン定数と呼ばれる定数だ。同じく第 10 回で記したように、理想気体では、圧力 P、体積 V、粒子数 N の間に
PV = N kB T ・・・(13)
の関係があった。今の場合は陽子ガスなので、添え字を p と付けて
Pp = ( Np / V ) kB T = np kB T ・・・(14)
となる。粒子数密度 np は単位体積当たりの粒子数なので、np = ( Np / V )。こうして、電流密度 (11) から vp を消去すると
jp(r) = -( 8np0 / B ) ( 1 / 2 ) m vp2 ( r / a2 )
= -( 12 / B ) np0 kB T ( r / a2 )
= -( 12 Pp0 / ( B a2 )) r
≒ -( 12 Pp0 / ( B0 a2 )) r ・・・(15)
となる。ここで、Pp0 はプラズマの中心 r = 0 のところでの圧力に相当している。また、最後の式では、磁場 B を、B0 で近似した。式 (4) で γ が小さければこの近似は妥当だ。
さて、プラズマは陽子の他に電子も存在している。電子の場合は電荷が負なので、磁場によるローレンツ力のもとで反時計回りの円軌道を描き運動する。さっきの図の右側の場合だ。こうすると、磁場の中心から距離 r + dp の点を中心とした電子の円運動と、r-dp を中心とした電子の円運動に起因して、半径 r のところで流れる電流密度を考えることができる。r-dp を円運動の中心とした所の電子の運動では半径 r のところでは反時計回り方向の運動になっている。一方、r + dp を中心に円運動している電子は、半径 r の所では時計回り方向の運動となっている。しかし、r-dp を中心として円運動する電子の密度の方が、r + dp のそれよりも式 (9) と同じく大きい。ところが、電子の電荷は陽子と違って負なので、電子の運動方向と電流密度の方向は反対になる。こうして、密度に電荷と速度を掛けて得られる電流密度は、r-dp を中心とした円運動する電子の個数の方が多いので、電子の流れは時計回り方向が大きいが、負の電荷をかけるので、結局、半径 r のところでは時計回り方向の電流密度が得られる。電子の寄与は(10)式で、陽子 p を電子 e に読み替えて、
je(r) = -ne(r+de) (-e) ve + ne(r-de) (-e) ve
= ( ne(r+de)-ne(r-de) ) / ( 2de ) ×2 e ve de
= ( dne / dr )×2 e ve de
= -( ne0 r / a2 ) ×4 e ve de ・・・(16)
となり、陽子の寄与 (10) と、添え字を除き同じになる。円運動の半径 de は(8)で陽子を電子に置き換えたもので
de = ( me ve / e B ) ・・・(17)
だ。こうなると、電流密度の方向は陽子と同じで、陽子のときの議論をそのままなぞり、(15)と同じく、電子の電流密度への寄与は
jp(r) ≒ -( 12 Pe0 / B0 a2 ) r ・・・(18)
が得られる。こうして、半径 r のところで時計回りに流れる電流密度 jφ(r) は、陽子と電子の寄与を足して、真空の透磁率 μ0 をかけて
μ0 jφ(r) = μ0 ( jp(r) + je(r) )
= -( 12 μ0 / ( B0 a2 ))×( Pp0 + Pe0 )r
= -( 12 μ0 / ( B0 a2 )) P0 r ・・・(19)
となる。ここで、プラズマの圧力 P0 は陽子と電子の寄与の和、P0 = Pp0 + Pe0 を導入した。また、磁場の応力
Pm0 = ( B02 / 2μ0 ) ・・・(20)
を導入しておこう。これは磁力線(磁力管)同士が反発する一種の圧力で、磁気圧と呼んでおこう。こうすると、(12)は簡潔に
μ0 jφ(r) = -( 6 P0 / Pm0 ) B0 ( r / a2 ) ・・・(21)
と書けてしまう。こうして、(3) と見比べて、γ= ( 6P0 / Pm0 ) とおけば、最初の仮定(3) に戻り、話が閉じた。無矛盾だ。ただし、詳しい計算ではここの右辺の因子 6 が 1になるようだ。(15)、(18)、(19)、(21) の各右辺、ともに 6 で割ったものが答えのようだ。定性的な理解なので、6 の因子のずれは忘れておこう。また、プラズマの圧力 P0 が、磁気圧 Pm0 より十分小さければ γ が小さく、B ( = Bz(r) ) を B0 とした近似が成り立つことになる。
ここまで準備しておいて、再び (9) と (14) に戻ろう。そうすると、Pp0 = Pp(r=0) = np0 kB T 等に注意して
Pp = np kB T = np0 ( 1-( r2 / a2 ) ) kB T
= Pp0 ( 1-( r2 / a2 ) )
Pe = Pe0 ( 1-( r2 / a2 ) ) ・・・(22)
となるので、両者を足すと、プラズマの圧力の r 依存性は
P = Pp + Pe = ( Pp0 + Pe0 ) ( 1-( r2 / a2 ) )
= P0 ( 1-( r2 / a2 ) ) ・・・(23)
となる。一方、磁気圧の方は、やっぱり γ を小さいとしてべきを展開して、(4) から
Pm = ( Bz(r)2 / 2μ0 )
= ( B02 / 2μ0 ) (1-( γ / 2 )( 1-( r2 / a2 ) )2
≒ Pm0 (1-γ( 1-( r2 / a2 ) ) ・・・(24)
となる。もう一度 γ= ( 6P0 / Pm0 ) を思い出してプラズマの圧力 P から P0 を消去すると
P = ( γ/ 6 ) Pm0 ( 1-( r2 / a2 ) ) ・・・(25)
となるので、(24) と (25) をうまく足すと
Pm + 6P = Pm0 (1-γ( 1-( r2 / a2 ) ) +γ Pm0 ( 1-( r2 / a2 ) )
= Pm0 = ( 一定 ) ( = B02 / ( 2μ0 ) )
と、一定になる (正しくは、Pm + 6P = ( 一定 ) のようだ )。
ようやくたどり着いた。プラズマ中に磁場があったとすると、磁場が強ければ磁気圧 Pm ( = Bz(r)2 / 2μ0 ) が大きくなるので、上の式からプラズマの圧力 P が小さくなることがわかる。そうすると、(22)、(23) から P = Pp + Pe = ( np + ne ) kB T なので、P が小さくなるということは、プラズマの温度 T が低くなるということだ。
太陽は陽子と電子のプラズマで、かつ磁場がある。太陽磁場は下図の左側のようであったとしても、太陽は極の方より赤道で自転速度が速いので、磁場は赤道付近では巻き付いていき、下中図のようになる。さらに巻き付いて、時々磁場が太陽表面に出る。下右図の状況で、磁力線が折れているのは太陽の外に出ていることを表現した積もり。磁場が太陽表面に浮き出たところが黒点になるので、黒点は必ず2つセットで現れる。図ではセットを2つ書いてしまった。やがて、異なる磁力線から太陽表面に飛び出したNと S と書いた磁力線が組み代わって、下図左の状況に戻る。
磁場が浮き出した太陽黒点では、周りより強い磁場が存在しており、黒点から磁力線が出ている。ということは、黒点では大きな磁気圧 Pm があるということで、そこではプラズマの圧力 P は周りより小さくなる ( Pm + 6P = 一定 ) ので、PV = N kB T の関係から黒点での温度 T は周りより低くなっているはずだ。周りより温度が低いので、暗く見える。それで黒く見えるというわけだ。
長い旅だった。