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38.力のモーメントと釣り合い

 小学6年生の理科の問題集に、どうやって解いたんだというものがあった。図 1 のように、重さ 30 g、長さ 60 ㎝ の均質な棒の左端を支点にし、支点から 40 ㎝ のところに重さ 60 g の重りをつるす。このとき、棒の右端にばねばかりをつけ、ばねばかりを持って棒と重りを支えると、ばねばかりは何グラムを指すか、という感じの問題。問題文は正確ではないが。小学校でどんなふうに教わっているのか知らないので、解答をみる。そこには、

 

    40 cm × 60 g ÷ 60 cm = 40 g

    30 g ÷ 2 = 15 g

    40 g + 15 g = 55 g           ・・・(0)

 

と、謎の数式が並んでおり、答えは「55 g」。

 

    f:id:uchu_kenbutsu:20160402181145j:plain

 

な、なんだ?

 

 

 以下では質量と重さを混同して使う。

 (0)の 2 番目の式は、重さ 30gの棒を左端の支点と右端のばねばかりで平等に支えているということで、30gを2で割っているのだろうと推測できる。では 1 番目の式はどういう理屈で出てきたのだろう。これがわからない。支点から錘までの距離 40 cm に錘の重さ 60 g を掛けている。そのあと、支点からばねばかりまでの長さ 60 cm で割っている。どうしてなのかの説明が欲しいが、問題集の解答集には解説がない。

 

 高校・大学では「力のモーメント」という概念が出てきて、それでこういった類の問題は解決する。詳しいことはやめて、簡単に見てみる。

 

 小学校なので、まずはシーソーは扱っているのだろう。

 

図 2 の感じ。シーソーの台というか棒というか、それは人に比べて軽いとして今は無視しておこう。シーソーに乗ってわかることは、シーソーで 2 人が釣り合おうとしたら、体重の重い人はなるべく前へ、軽い人は後ろに乗るということ。釣り合いの条件は  

  

  (支点から、体重のかかっている人(作用点)までの長さ)×(体重)

 

が、左右両者で等しい時だ(「体重」というのは、本来は下に向かう「力」のこと)。

 

     f:id:uchu_kenbutsu:20160402181338j:plain

 

図 2 の場合だと

 

    4 m × 30 kg(重)= 2 m × 60 kg (重)

 

で釣り合っている。(重)と書いたのは、質量ではなくて力ということを示すためだ。もし右の体重 60 ㎏ の人が支点から 3 m のところに座ると、3 m × 60 kg(重) = 180 kg(重) m となって、左の人の120 kg (重)m より大きくなって、シーソーは右の側が下がる。

 

 この知識をもとに、もう1度、図 1 を考えてみよう。重さ 30 g の棒は均質なので、棒の中央に 30 g 分の力が下向きに働いていると考えてよい。棒の中央が棒の重心だ。おもりは支点から 40 cm のところに下げたので、そこで下向きに 60 g 分の力を与える。この二つの力が、棒を右回りに回転させようとする。それを、右端のばねばかりが指す重さ分の力を上向きに与えて阻止する。図3 のように考えればよい。

 

    f:id:uchu_kenbutsu:20160402181505j:plain

右回りに回転させようとする「力のモーメント」、つまりシーソーの時の(支点から力の作用点までの長さ)×(重さ(力))は、

 

    ( 30 cm × 30 g (重)) + ( 40 cm × 60 g(重) ) ・・・(1)

 

となる。最初のカッコは棒自身の重さで、支点を中心に右回転させようとする寄与、2番目のカッコはおもりが棒を右回転させようとする寄与。一方、右端に力を与えて、それが x g 相当だとすると

 

    ( 60 cm × x g(重)) ・・・(2)

 

の「力のモーメント」で、支点を中心に棒を左回りさせようとする。(1)式と(2)式が等しければ釣り合って棒は回転しないので

 

   ( 30 cm × 30 g (重)) + ( 40 cm × 60 g(重) ) =  ( 60 cm × x g(重)) 

 

つまり、

 

    x = ( 30 × 30 + 40 × 60 ) ÷ 60

     = 55 [ g ]

 

と正解が出る。

 

 この式を解きほぐしてみる。1 行目から 2 行目に行く前に、÷ 60 をそれぞれに作用させて

 

    x = ( 30 cm × 30 g + 40 cm × 60 g) ÷ 60 cm

     = 30 g ÷ 2 + (40 cm × 60g ÷ 60 cm )

     = 15 g + 40 g

     = 55 [ g ]

 

とも書ける。まず、x = ・・・の棒の寄与だけ見ると

 

    30 cm × 30 g ÷ 60 cm = 30 g ÷ 2 = 15 g

 

と、3 行目の第 1 項だ。おぅ、問題集の解答の謎の(0)の 2 番目の式だ。今度は残りのおもりの寄与を見る。

 

    40 cm × 60 g ÷ 60 cm = 40 g

 

だ。おぅ、謎の(0)の第 2 式と同じ。

 

 こんな計算過程や物理的意味合い抜きに答えを出さないといけないとは。

 

 小学校、難し過ぎだ。

 

 というか、中学入試を受けるには、何も考えず、すらすら(0)式のような式を立てられないといけないのだろうなぁ。

 (0)の第2式の味するところは何となく分かったが、同じ論理では(0)の第1式は解釈できない。そんな非論理的な考え方で良いのか? 

 

 一応「物理屋」を名乗っていて、査読のある論文誌に100編以上英文で論文を書いている我が身であるが、小学校の理科、特に物理の内容の範疇の問題の解答の仕方が良くわからない。現在、大学設置審の審査にかかっている身なので、お前は小学校の問題も解説できない、大学で専門の物理を教えられるはずはないと、大学設置審の委員から不可がでそうなので、ここでの話は内緒である。きつく言っておくが、決して拡散してはいけない。誰が見るか気づくかわからない。

 

 幸い息子は最初から公立中学に進む予定なので、今後おいおい意味を理解して、考えてから解けるようになればよろしい。意味不明な「解き方」を覚える必要は無いぞ。私立中学を受験しないおかげで、受験の頃まっただ中にあった水泳の県大会で、2種目目となる全国標準の記録を突破し、3月末に東京で行われる水泳連盟の全国大会に初日から参加できた。旅費は親持ちだが、水泳で息子に東京に連れて行ってもらえるとは思ってもいなかったので純粋に嬉しかった。ついでに県大会で200 m バタフライの県の学童記録も貰った。慌てて受験テクニックだけ身に付けなくて良しとしよう。つまらんテクニックだけを身に着けて、意味も分からない「勉強のできる」人になる必要もない。基礎に立ち返って考えることができるようになればよいのだが。