125.快適な宇宙旅行

 Go to トラブル、ミスタイプだ、Go to トラベルを始めとした、Go to カンセーン、今日はタイプミスをよくするなぁ、もとい、Go to キャンペーンが政府の肝いりで行われている( 2020 年 9 月現在)。国内旅行などを推奨して、経済を動かそうという目論見。海外旅行はまだ難しそうなので、折角だから宇宙旅行に出かけよう。

 でも、無常量状態でぷわぷわ浮かんだまま旅行すると、絶対宇宙酔いしそうなので、なるべく快適な宇宙旅行をしたい。

 アインシュタインが、光速に近い物体の運動を記述するにはニュートン力学ではダメだということに気づき、特殊相対性理論を作った。さらに、加速度まで考えると、必然的にニュートンの重力理論を変えて作り直さないといけなくなり、一般相対性理論を作り上げた。その時、加速度系に居る人は、自分が加速度を持つ座標系に居るのか、はたまた、加速度座標系ではない慣性系なのだが単に重力場中にいるのか、区別ができないことに気づき、「等価原理」として一般相対性理論、重力の理論を構成する際の指導原理とした。エレベーターが上に向かって動き出したとき、下向きに押さえつけられるのと同じだ。エレベーターが上向きの加速度を持ち、エレベーターの中が加速度座標系になったので、加速度の向きと反対向きに押し付けられる。でも、ひょっとしたら、エレベーターは静止したままで、急に地球が私たちを引っ張る重力が強くなったのかもしれない。区別ができないはずだ。

 地表面付近にある物体は地球の重力場にいるので、地球が地表面付近の物体を引っ張る引力によって地表面付近の物体には加速度が生じる。物体に生じた加速度を g と書こう。地球の質量を M、地球の半径を R、地表面付近にある物体の質量を m、万有引力定数を G とすると、第 2 回でやったように、(質量)×(加速度)=(力)、つまり

 

    m g = G mM / R2

 

から、物体に依らず、地上の物体は

 

     g = G M / R2 = 9.8 m/s2

 

という共通の加速度を持つはずだと言える。この g を重力加速度と呼ぶ。

 というわけで、常に重力加速度でもって宇宙船が進んで行けば、「等価原理」から、宇宙船の中の人は、実際には宇宙船が加速度座標系なのだが、宇宙船は静止していて地球と同じ重力場中に居るのと区別がつかず、地上にいるのと同じ環境になるはずだ。地球から目的地に向かって一定の加速度 g で進んで行くと、宇宙船の中の人は出発した地球側を「下」として、押さえつけられ、地上にいる重力場と同じ環境になる。目的地まで、ちょうど半分の距離まで宇宙船が到達したら、今度は大きさ g の加速度でもって減速していけばよい。今度は地球側を「上」、目的地側を「下」にして、下側に押し付けられ、地上にいるのと同じ環境になる。ちょうど半分で加速度の向きを反転したので、目的地には速度 0 で軟着陸できるだろう。宇宙船の中では、真ん中の距離のところで加速度を反転させる時だけふわっとなるけど、それ以外は宇宙船の片面を床にして、自由に歩き回れて、地球に居るのと同じ快適な「重力圏」に居るのと同じになる。

 

 とりあえず目的地を隣の恒星、プロキシマケンタウリをまわる惑星、プロキシマケンタウリ b にしよう。地球から 4.2 光年離れている。この惑星は地球の 1.17 倍の質量を持つので、重力の大きさとかではまぁまぁ快適だろう。そのうえ、水が液体で存在できそうな惑星で、生命居住可能領域、いわゆるハビタブルゾーンにある。

 

 今、宇宙船は地球に対して速さ V [m/s] になっているとしよう。地球が静止系として、地球でで測った時間 ΔT [s] と、速度 V で動く宇宙船内での進む時間 Δt は、アインシュタイン特殊相対性理論から

 

   Δt = ΔT×√( 1-V2 / c2 )  ( = ΔT×( 1-V2 / c2 )1/2 ) ・・・(1)

 

の関係がある。ここで、c は光速度、c = 3.0×108 [m/c]。ここで、√( 1-V2 / c2 ) ≦ 1より、

 

    Δt < ΔT

 

となるので、動いている宇宙船内の時間は、地球で経過する時間に比べて遅れる。

 宇宙船の人にとっては、今、速さ V であり、Δt の時間で加速して速さが Δv 増加したとしよう。特殊相対性理論の速度の合成則から(ここでは認めてください)、地球から見た加速後の速さ V'は

 

    V' = ( V +Δv ) / ( 1 + V×Δv / c2 )   ・・・(2)

 

と得られる。宇宙船の加速により、地球に対して ΔV [m/s] だけ速くなっているとすると、もともと速さが V だったので、地球の人にとっては宇宙船は

 

    V' = V + ΔV    ・・・・(3)

 

の速さになったはずだ。こうして、(2)= (3)として、

  

   ΔV = Δv × (1-V2 / c2) / ( 1 + V×Δv / c2)

 

が得られる。地球から見た人が測定する宇宙船の加速度 A [m/s2] は、地球から見た宇宙船の速度の変化 ΔV を、かかった時間 ΔT で割れば得られる。ΔT の代わりに(1)から Δt で表すと

 

   A = ΔV / ΔT = (Δv / Δt )×( 1-V2 / c23/2 / ( 1 + V Δv / c2 )

 

となる。ここで、Δv→0、Δt→0 の極限をとると、Δv/Δt は宇宙船の人が感じる加速度なので、これを a [m/s2] と書いて

 

    A = ΔV / ΔT = a × ( 1-V2 / c2 )3/2   ・・・(4)

 

と、地球と宇宙船の中の人の加速度に関係が付く。

 ここからは、宇宙船に乗る人が感じる加速度 a は一定としよう。宇宙船内の人が感じる等価速度運動だ。

 (4)式から、ΔT→dT、ΔV→dVと書いて積分に直すと

 

    ∫dV / ( a×( 1-V2 / c2 )3/2 ) = ∫dT

 

となり、この積分は実行出来て

 

    T = V / ( a×( 1-V2 / c2 )1/2 )

 

と得られる。逆に V について解くと、さらに

 

    V = aT / ( 1 + a2T2 / c2 )1/2      ・・・(5)

 

が得られる。これは、地球の人が時刻Tの時に、地球の人から見た宇宙船の速さ V である。

 次に V = ΔX / ΔT で、ΔX は地球から見て時間 ΔT の間に宇宙船が進んだ距離としよう。地球時刻 Tで宇宙船が地球から進んだ距離 X が次のように計算出来る。ここで、Vに(5)を使って

 

    X = ∫( dX / dT ) dT = ∫V dT = a ∫ T / ( 1 + a2T2 / c2 )1/2 dT 

     = ( c2 / a ) × ( ( 1 + a2T2 / c2 )1/2 -1 )           ・・・(6)

 

となる。T=0 で X=0 を考慮した。逆に解いておくと

 

    T = ( c / a ) × [ ( 1 + a X /c2 )2 -1 ]1/2   ・・・(7)

 (1)式に戻って、やっぱり積分してみよう。V に(5)を用いて

 

    t = ∫dt = ∫0T ( 1-V2 / c2 )1/2 dT

     = ∫0T 1 / ( 1+ a2 T2 / c2 )1/2 dT

     = ( c / a ) × arcsinh (aT / c )      ・・・(8)

 

積分できてしまう。ここで、arcsinh は、ハイパボリックサイン、sinh逆関数で、ハイパボリックサイン自体は、sinh θ = ( eθ - e-θ ) / 2 が定義。こうして(8)から、さらに逆関数をとって

 

    T = ( c / a ) × sinh( at / c )

 

と得られる。ちなみに、(6)の X の右辺の T に、今得られた T を代入すると

 

    X = ( c2 / a )× ( ( 1 + sinh2 (at/c))1/2 - 1 )

 

が得られ、こうして、宇宙船の地球からの距離 X が、宇宙船の中の人の時間 t と、宇宙船の中の人が感じる加速度 a で表せた。c は光速だった。

 

 さて、4.2 光年先のプロキシマケンタウリ b に行くことを計画しているのだった。2.1光年先まで加速度 a=g で行って、あと半分は加速度 g で減速していく。プロキシマケンタウリ b まで要する飛行時間は、その距離の半分まで行くのにかかる時間の 2 倍になるだろうから、X=2.1 光年として、かかった時間を 2 倍して評価しよう。まず、

 

    X = 2.1光年 × 365.25日 × 24時間 × 60分 × 60秒  ×(3.0×108  m/s)

     = 2.0×1016 m

 

(7)から、宇宙船が 2.1 光年先まで到達したときの地球で測った時間 T は、上の X を代入して

 

    T = 9.19×107 [s] = 2.9年

 

(8)から、2.1 光年まで到達したときに宇宙船の中の人が感じる時間 t は、この T を用いて

 

    t = 5.56×107 [s] = 1.8 年

 

と計算できる。こうして、プロキシマケンタウリ b まで、宇宙船の中の人にとっては 2t = 3.6 年で着く。地球の人にとっては 5.8 年後だが。

 

 4.2 光年先まで、3.6 年と意外と早く着いたので、目的地を変えて、もう少し遠くまで旅行してみよう。地球から 39.4 光年先のトラピスト-1 の周りをまわる惑星、トラピスト-1eへの旅行を計画するのがよさそうだ。光の速さで 40 年弱もかかるのなら行くのも嫌だが、半径が地球半径の 0.92 倍、重さは地球質量の 0.77 倍、よって、地表面での重力加速度は 8.94 m/s2 なのでまぁまぁ良さそうな惑星だ。おまけに平均気温は大気の温室効果を考えなければ-22 度だそうで、地球も大気の温室効果を考えなければ-18 度なので、温室効果ガスがあれば地球並みで、暮らしやすいだろう。トラピスト-1e までの距離の半分まで飛行にかかる時間を計算して 2 倍しよう。今度は、

 

    X = ( 39.4 / 2 )光年 × 365.25日 × 24時間 × 60分 × 60秒 × (3.0×108  m/s)

     = 1.86 × 1017 m

 

となるので、(7)、(8)式から

 

    T = 6.51 × 108  [s] = 20.6 年

    t = 1.15 × 108 [s] = 3.63 年

 

ということは、宇宙船中では 2t = 7.3 年の時間で、40 光年先まで行けるというわけだ。

 

 意外といけるなぁ。オリオン座のペテルギウスが爆発しそうなので、見に行ってみようか。地球から 640 光年くらい離れているので、光の速さで 640 年かかる。でも、宇宙船内の時間は遅れてゆっくり進むので、可能性はありそうだ。計算してみよう。

 

    X = ( 640 / 2 ) 光年 × 365.25日 × 24時間 × 60分 × 60秒 × ( 3.0×108  m/s )

     = 3.02 × 1018 m

 

となるので、(7)、(8)式から

 

    T =1.01 × 1010  [s] = 321 年

    t = 1.98 × 108 [s] = 6.30 年

 

ということで、2t = 12.6 年で、ペテルギウスを見に行ける。地球では 640 年以上経っているのだが。

 ハビタブルな惑星が見つからなければ地球に帰ってくることになるが、宇宙旅行は 25 年強で終えて、地球に帰還できる。しかし、地球は出発後、1284 年も経ってしまっている。今 ( 2020 年)から 1284 年前と言えば 736 年。日本は奈良時代だ。藤原鎌足の子の不比等の子、藤原 4 兄弟、武智麻呂(むちまろ)、房前(ふささき)、宇合(うまかい)、麻呂(まろ)が聖武天皇の下で政治を執っていたころだ。今から 1284 年後はどんな時代なんだろうか。