31.西暦2016年、平成28年

 数学者のガウスが小学生の時、授業中に自分の時間を作ろうとした先生から計算に時間のかかりそうな「1から100まで足し算しなさい」という課題を与えられたところ、他の生徒は計算に時間がかかったが、ガウスだけはたちどころに5050という答えを出したという。その計算法は、

     1+2+3+・・・+99+100

の、両側同士を足していく。

    1+2+3+・・・+99+100 = (1+100)+(2+99)+(3+98)+・・・+(50+51)

こうすると、101が50個あることがすぐにわかるので、

    1+2+3+・・・+99+100 = (1+100)+(2+99)+(3+98)+・・・+(50+51)

               =101×50

               =5050

というわけだ。

 

 ひるがえって、同じく小学生の息子に、1から10の足し算にして教えておいた。しばらくして、もうすぐ中1という頃に、1から63までの足し算をさせようと思い、手始めに1から10まで足し算させると「1足す2は3、3足す3は6」とか唱えだしたので、「前にやり方教えたやろ」というと、あぁそうかということで、端と端を足すことを思い出した。

 

 いや違う。

 

 「10を作るんやろ。1と9、2と8、3と7、4と6、5だけ余るから・・・45!!」

 「最後の10わぃ?」

 「あぁ~あ、0+10 して55や。」

 

 まぁいい。それで1から63まで足し算させる。10が作れず困っている。

 「端っこどうしから順にたすんちゃうん?」

 「あぁ~あ、1と63で64、2と62で64、・・・・」

 「相棒はみんな居るか?」

 「・・・、32は残る」

 「64は何個ある?」

 「えぇーと、・・・33個。」

あてずっぽうである。

 「違うやろ。」

 「64個」

既に電池切れである。

 「1と63、2と62、3と、4と、って行くんやろ。どこまで行くん?」

 「32、あぁ~あ、31や。」

 「じゃぁ、1から63まで足したらなんぼ?」

ということで紙に書いて、計算した。

    1+2+3+・・・+62+63 = (1+63)+(2+62)+・・・(31+33)+32

              =64×31 + 32

              = 2016

 

 「ほら、今年はそんな年や(2016年1月記す)」

 

 すぐに風呂に入る。つらつら考えていたら、息子のやり方、0を足して置いて両端から足していくやり方も結構いいことに思い当たった。たまには良い発想をするものだ。1から63までの足し算の場合はその方が面白い。

    0+1+2+3+・・・+62+63 = (0+63)+(1+62)+・・・+(31+32)

と、63の塊が作れる。それが31個、いや、0を加えたので32個。

    0+1+2+3+・・・+62+63 = (0+63)+(1+62)+・・・+(31+32)

                =63×32

                =2016

こうしておいて、九九を思い出すと、63=7×9、32=4×8なので、2016は7でも4でも割り切れることがわかる。28で割れるということ。2016が平成28年の28で割り切れる。割ると、63の中の9と、32の中の8が余るので、答えは9×8=72だ。

    2016=28×72

おや、因数の28と72をたすと丁度100になる。こんな年も珍しいのかなと思いつつ風呂から上がる。

 

 風呂の中で、クォークが6種類あればうまくいくとか思いついたら、ノーベル賞を貰えるのだがなぁ。

 

 

30.ベクトルの外積(ベクトル積)と四元数

 物理の授業をすると、必ずベクトルの解説をしなければならない。高等学校までは2次元平面のベクトルは習うが、3次元空間内のベクトルは習わない。次元が一つだけ増えるだけなのではあるが、高等学校で習わない、「ベクトルの外積」が登場する。

 

 高等学校では2次元のベクトル

 

   a = ( ax , ay ) 、   b = ( bx , by )

 

に対して、「内積スカラー積)」

 

   ab = ax bx + ay by

 

が定義されて、習う。それぞれの成分同士を掛け合わせてから、足す。3次元への拡張は簡単で、ベクトルの成分が3つになるので、

 

   a = ( ax , ay , az ) 、   b = ( bx , by , bz) ・・・(1)

 

に対して、「内積スカラー積)」

 

   ab = ax bx + ay by + az bz  ・・・(2)

 

とすればよい。ところが、3次元空間では、2つのベクトルからまたベクトルを作る演算が定義できて、これを「ベクトル積」という。定義は次の通り。

 

   a×b = ( aybz-az by , azbx-ax bz , axby - ay bx ) ・・・(3)

 

x、y、zの3成分のベクトル2つからまた3成分のベクトルa×b を作る。3次元になって初めて出てくる演算だ。

 

 学生さんに話をすると必ず出てくる感想は、「初めて見た」「高校まででは習わなかった」。それはそうだ。高校では3次元のベクトルはやらないから。ときどき「高校でなぜ教わらないのか」という質問が来るが、3次元のベクトルはやらないから。「2次元で教えてほしい」と言われても、あからさまに定義できない。なんでだろう?

 

 ベクトル自身は成分を増やしていけば、4次元でも5次元でも考えられる。でも、ベクトルの外積は、3次元と7次元でないと導入できない。なんでだろう?

 

 数学では、普通の1変数の「数」、実数と虚数の2変数を組み合わせた「複素数」の他に、ハミルトンの四元数というものが定義できる。4元数で数として演算が閉じる。次に定義できるのは八元数。「四」元数が定義できるので、一つ少ない数の次元、3次元でベクトル積が導入できる。「八」元数が定義できるので、一つ少ない数の次元、7次元でベクトル積は定義できる。

 

 良くわからないから、大学の同僚の数学コースの F 先生に聞きに行く。こういうとき、大学勤めは便利である。なんせ、どの先生に質問して解説してもらっても、タダである。

 

 なぜ定義できるのか、説明してもらったが、なお、六(むつ)かしい(寺田寅彦風表記)。

 

 それはさておき、四元数を考えよう。複素数は、虚数単位 i = √(-1)を考える。2乗したらマイナス1になる数が i 。どこかで、ある数学者は i を沢山印刷した風呂敷を持っていたと読んだことがある。「 i (愛)はすべてを包む」という洒落らしい。そんなことはどうでもよい。複素数は、虚数単位を使って

 

    z = a + b i

 

とかける。2つの複素数 za = a0 + a1 i 、zb = b0 + b1 iの掛け算は

 

    za zb = ( a0 + a1 i )×( b0 + b1 i )

      = a0 b0 -a1 b1 + (a0 b1 + a1 b0 ) i

 

となる。ここで、a0 = b0 = 0 ととると、

 

    za zb = -a1 b1 

 

となり、2つの「1次元ベクトル」a =(a1 )、b =(b1 ) の積が出る。マイナス符号を除いて、内積と言ってもいいし、外積と言ってもいい。なんせ、ベクトルを定義するときに重要な、回転を被る「向き」がないから、何と言ってもよろしい。「1次元ベクトル」はあまりにも自明だ。でもまぁ、2変数から成る「複素数」が数として定義できるので、1次元ベクトルの外積は定義できると思っておこう。あまりにも自明だけれど。

 

 次は四元数。2乗したらマイナス1になる3つの数、i、j、k を用意する。

 

    i2 = j2 = k2 = -1 ・・・(4)

 

 

i、j、k には次のような掛け算の関係がある。

 

    i j = -j i = k 、   j k = -k j = i 、   k i = -i k = j   ・・・(5)

 

2つの四元数

 

    ha = a0 + ax i + ay j + az k 、   hb = b0 + bx i + by j + bz k

 

面倒なので、最初から、a0 = b0 =0 としておこう。こうして、2つの四元数の積を計算して見る。(4)と(5)の関係に注意すると

 

   ha × hb = ( ax i + ay j + az k )×( bx i + by j + bz k )

       = -( ax bx + aby + az bz )

        + ( ay bz - az by ) i + ( az bx - ax bz ) j + ( ax by - ay bx ) k

 

となる。なんと、第1項はマイナス符号を除いて2つの3次元ベクトル(1)の内積(2)が現れている。第2、3、4項は外積(3)の x 成分、y 成分、z 成分だ。

 

 こんなことを授業で話していたら、ハタと思い当った。自分が学生のころ、3次元空間座標で、x 方向の単位ベクトル(大きさ1のベクトル)を i 、y 方向の単位ベクトル)を j 、z 方向の単位ベクトルをと書く流儀があった。ひょっとすると、ハミルトンの四元数の名残なのかもしれないと急に思い当った。

 

 ベクトルの内積外積を初めて定義したのは、グラスマンで、1844年のことだそうだ。ハミルトンが四元数を導入したのは1843年。

 

 

 

29.情報量のエントロピー

 第27回では、熱の科学に出てくる「エントロピー」を紹介した。状態量を W とすると、ボルツマン定数を kB として、エントロピー S は

 

    S = kB log W

 

だった。kB × log W のこと。log は対数で、第28回で説明した。熱力学では、この量は、移動した熱量 Q と、絶対温度 T に関係していた。

 

 さて。

 

 唐突、あまりに唐突ではあるが、ある人が、16個の中に一つだけお気に入りの物があったとしよう。その人に質問して、どれがお気に入りか教えてもらうことにする。その人は「はい」か「いいえ」でしか答えてくれない。最低何回質問すれば、お気に入りを確定できるだろうか。16個の物に、0、1、2、・・・、15 と番号を付けておこう。「あなたは 0 番がお気に入りですか?」「はい」と答えてくれたら 1 回でわかるが、下手したら、「あなたは 0 番がお気に入りですか?」「いいえ」、「じゃぁ、あなたは 1 番がお気に入りですか?」「いいえ」、「じゃぁ、あなたは 2 番がお気に入りですか?」「いいえ」と続いて、15回目の質問「じゃぁ、あなたは 14 番がお気に入りですか?」「いいえ」「で、初めて 15 番がお気に入りとわかることもある。これだと確実にお気に入りを突き止めるのに 15 回の質問回数が要る。最低何回で突き止められるかだから、これは宜しくない。やりかたは、こうだ。まず、16 個の物を 2 つに分ける。今だと、0 番から 7 番までと、8 番から 15 番。そこで、「あなたのお気に入りは 0番から 7 番までにありますか」と聞いてみる。答えが「はい」だと 0 から 7 の 8 個に、「いいえ」だと 8 から 15 の 8 個に絞られる。どちらでも 16 個のうち 8 個に絞れた。質問回数は 1 回目。仮に答えが「はい」だったとしよう。次は、この 8 個を 2 つのグループに分ける。0 から 3 までの 4 個と、4 から 7 までの 4 個。さて質問。「あなたのお気に入りは 0 番から 3 番までにありますか。」答えが「はい」なら 0 から 3 までの 4 つの中にお気に入りがあると絞られる。「いいえ」なら 4 から 7 までの 4 つに絞れる。どちらも、8 個の可能性の中から 4 つに絞れた。質問回数は 2 回目。次も 2 つに分ける。仮に今の答えが「はい」なら 0 から 3 の 4 つの中にあるはずだから、0 番 1 番と、2 番 3 番に分ける。「あなたのお気に入りは、0 と 1 のどちらかですか?」と尋ねてみる。質問回数は 3 回目。「はい」なら 4 回目の質問、「0ですか」と聞いてみれば、「はい」なら 0 番がお気に入りだし、「いいえ」なら 1 番がお気に入りだ。「あなたのお気に入りは、0 と 1 のどちらかですか?」と尋ねたときに、「いいえ」なら 1 番か 2 番だから、やはりそのどちらか。結局、質問は 4 回で、お気に入りが確定した。そこで、この唐突な話題の答えは「最低 4 回」だった。

 

 今の例では、曖昧さ16個から一つを確定させて情報を得たことになる。その際、4 回の質問で情報は確定できた。そこで、曖昧さ X の時、

 

    log 2 X

 

を「情報量のエントロピー」と呼ぼう。熱力学のエントロピーの真似っこだ。ただし、対数の底は 2 にとり、物理量と違って次元がないので、次元を合わせるようなボルツマン定数なんかは入ってこない。今の場合

 

    log 2 16 = log 2 24 = 4

 

なので、情報量のエントロピーは 4。答えは「はい」か「いいえ」だった。2 通りだから X = 2として

 

     log 2 2 = 1

 

だけ情報の曖昧さを減らせる。だから、最低の質問回数は、情報量のエントロピー(あいまいさ)log 2 16 を、1回の質問ごとに曖昧さをlog2 2ずつ減らすので

 

    log 2 16 / log2 2 = 4

 

と、4 回で良いということが数式で示せる。曖昧さ 2 のときの情報量のエントロピー

log 2 2 = 1 で、情報量のエントロピーといつも言うのも面倒なので、単位っぽいものをつけて「1 ビット」という。

 

 今度も唐突ではあるが、27 枚の金貨があるのだが、1 枚だけ金の量が少なくて軽いとしよう。天秤が一つある。この天秤を最低何回使えば、軽い金貨1枚を特定できるだろうか。さっきの情報量のエントロピーの考え方を使ってみよう。X=27 なので、情報の曖昧さ、情報量のエントロピー

 

    log 2 27

 

だ。だから、これが天秤を使う回数?電卓をはじくと log 2 27 = 4.75488・・・。だから 4 回ではだめで 5 回? いやいや、天秤を  1回使うと、「はい」「いいえ」の 2 通りの回答ではなく、どちらかが「重い」「軽い」の2つの他に「等しい(つりあっている)」という情報も得られる。要するに、3 つの情報。天秤1回使うと、減らせる曖昧さは

 

    log 2 3

 

ということだ。だから、曖昧さlog 2 27 を、天秤1回あたりlog 2 3ずつ減らしていくので、天秤を使う回数は、

 

    log 2 27 / log 2 3

 

で良いはず。前回導いた対数の有用な公式

 

    log x c = log b c / log b x

 

を使うと、b=2、c=27、x=3 として、

 

    log 2 27 / log 2 3 = log 3 27 = log 3 33 = 3

 

(27 = 3×3×3 = 33 )。だから、3 回で良い。

 

 実際にやってみる。27 枚の金貨を 3 つのグループに分ける。グループ A に 9 枚、グループ B に 9 枚、グループ C に 9 枚。グループ A とグループ B を天秤にかける。どちらかが軽ければそのグループ 9 枚の中に軽い金貨があるはずだ。天秤が釣り合っていれば、残したグループ C の中の 9 枚中に軽い金貨があるはず。これで天秤を 1 回使って 9枚に絞れた。今度はその 9 枚を 3 枚づつの 3 つのグループに分ける。そのうちの 2 つのグループを天秤にかけると、さっきと同じようにして、軽い金貨が含まれるグループを一つ絞れる。これで天秤を 2 回使った。最後は、軽い金貨のある 3 枚の内から 2 枚を天秤にかけて、どちらかが軽ければその金貨、釣り合ったら残した金貨が軽いとわかる。これで 3 回目。終わり。

 

  では、天秤を 4 回使うなら、最大、何枚の金貨から 1 枚軽い金貨を選び出せるか?さっきの考え方を逆に使う。最大の枚数を X としておくと、

 

    log 2 X / log 2 3 = log 3 X = 4

 

となるXを探せばよい。答えは X = 81 (= 3×3×3 ×3 = 34 )。

 

28.対数

 前回、エントロピーのところで、対数関数が出てきたので、おさらい。

 

 まず、0 と自然数、1,2,3・・・を知っているとしよう。また、自然数を数えることはできているとしよう。自然数 a から出発して、1 を b 回数える。これは、

 

    a + b ・・・(1)

 

を実行したということ。「足し算」が導入された。

 

 「足し算」が導入されたので、次に、0 から出発して、a を一つ、さらに一つ、つまり a を2つ、a を3つ・・・と足していこう。a を b 回たすと

 

   a + a + a + ・・・ + a = a×b ・・・(2)

 

ということで、「掛け算」を導入する。

 

 「掛け算」が導入されたので、引き続いて、a を1回、a を2回・・・、a を b 回掛け算しよう。

 

   a×a×a×・・・×a = ab ・・・(3)

 

と、べき乗が導入される。

 

 今度は、(1)、(2)、(3)の逆を考えてみる。自然数 a と c を知っていたとき、

 

    a + b = c

 

となるような b を知りたい。そこで、

 

    b = c - a ・・・(4)

 

と定義しよう。「引き算」の導入だ。a が2、c が16だったら、足し算(1)を睨んで、b=14 とわかる。それを(4)式のようにして表す。

 

 次に、a×b = c を満たす b が知りたい。a が 2、c が 16 だったら、掛け算(2)を睨んで、b=8 とわかる。それを

 

    b = c / a ・・・(5)

のようにして表す。「割り算」の導入だ。

 

 今度は、ba = c を満たす b を知りたい。何を a 回かけたら c になるか。a が 2、c が16 だったら、べき乗(3)を睨んで、4 を a( = 2 )回かけたら 4×4 で 16(=c)になるので、b=4 とわかる。4 を 2回かけたら、4×4 で 16 だ。それを

 

    b = √16 だが、一般に b = c(1/a)  ・・・(6)

 

とかく。a 乗根だ。(フォントが無いのでうまく書けない・・・。)

 

 逆に、ab = c となる b を知りたい。a を何回かけたら c になるか。a が 2 で c が 16 だったら、a(=2 )を何回かけたら c(=16)になるか。2 を 4回かけたら 16 になるのでb=4。これを

 

    4 = log 2 16 、一般に b = log a c  ・・・(7)

 

とかく。log の下の a は、「a を何回かけたら」の a 、log の中の c は、「a を何回掛けたら c になるか」の c 。これが対数だ。このとき、数 a を対数の底という。

 

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 ここまで来たついでに、数を一般化しておこう。今、0と自然数で始めた。しかし、引き算(4)を考えると、c = 0 の時にはどうしたらよいだろう。

  0-1、0-2、0-3、・・・

が現れる。これをひっくるめて、次のような新しい数を定義してしまう。順に

  -1、-2、-3、・・・

「負の自然数」の導入だ。「0と自然数」に「負の自然数」-あわせて「整数」と呼ぼう-まで合わせることで、引き算はすべて行えるようになった。ついでに、掛け算の規則 a×(b + c ) = a×b + a×c を認めれば

    2×(-1)=2×(2 - 3 ) = 2×2 - 2 × 3 = 4-6 = -2

なので、(正の数)×(負の数)という掛け算もできる。ついでに(-2)×(-2)=-2×(1-3)=-2×1-(-2)×3 = -2 -(-6) = -2+6 =4 と掛け算できる。(負の数)×(負の数)だ。

 足し算の逆である引き算はできるようになったが、割り算(5)はどうだろう。c=1のときには、a が1より大きいと、整数では書けない。そこで、「有理数」を導入する。分数で書ける数だ。もちろん整数 a も a / 1 と無理やり分数で書けるので、整数も有理数に入れておこう。

ところが、だ。

べき乗の逆、(6)で、b2 = 2 となるbはどんな数だろう。規則では、b=2(1/2) だが、これは分数で書けない。1.41421356・・・と、循環しない数字の列がどこまでも続く。「無理数」だ。「有理数」と「無理数」で、数直線上の数はすべて尽きる。

 ところが。

 b2 = -1 となる b が無い。b が正の数なら(正の数)×(正の数)=(正の数)だし、b が負の数なら(負の数)×(負の数)=(正の数)だ。同じ数を 2回かけて-1のような負の数にはならない。そこで、2回かけて-1 になる数を新たに導入する。「虚数」だ。今までの数を「実数」と呼ぼう。

    b2 = -1 の解は、 b = i (=√-1)

と書くことにする。「実数」と「虚数」合わせたものを複素数と呼ぼう。

 じつは、「複素数を係数とする定数でない多項式は、複素数内に必ず根(解)を持つ」ことが言える。つまり、z を変数、a0、a1、・・・an 複素数とすると、方程式

    a0×zn + a1×zn-1 +・・・+an-1×z + an = 0

の解は、必ず複素数の範囲でみつかり、数を拡張する必要はない。これを「代数学の基本定理」と呼ぶ。

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  完全に話が脱線した。必要な対数の知識を得ることが目的だ。今、

    

    a = bv   , c = bw

 

としよう。この時、

 

    bu = a×b ,つまり、bu = bv × bw = bv+w , ここに u = v + w

 

である。このとき、‘‘逆’’、すなわち底が b の対数をとろう。

 

    log b bu = log b (a×b) ・・・(8)

 

左辺は底 b を何回かけたら bu になるかを意味していたのだから、答えは u だ。

 

    u = log b bu = log b (a×b) ・・・(8)’

 

同じようにlog b a ( = log b bv ) = v 、log b c ( = log b bw ) = w なのだが、u = v + w だったから

 

    u = v + w = log b a + log b c ・・・(8)’’ 

    

だ。(8)’ と(8)’’ の2式の右辺を見比べて、u、v、w をやめると

 

   log b (a×b) = log b a + log b c ・・・(9)

 

という有用な公式が得られる。

 

 次に、底が b の対数はすべて知っているとしよう。このとき、x についての方程式

 

   xa = c ・・・(10)

 

を考えてみる。今、

 

    x = bt  ・・・(11)

 

とおいてみる。もとの方程式(10)に代入すると

 

    b(t×a) = c

 

になる。底が b の対数は知っているとしたので、対数をとって、

 

    log b b(t×a) = log b c

 

一方、この式の左辺は log b b(t×a) = t×a だから、

 

    t×a = log b c ・・・(12)

 

だ。でも、(10)から、素直に底を x にして対数をとると

 

    log x xa = log x c ( = a ) ・・・(13)

 

だが、左辺は a だ。最右辺に ( = a ) と明記した。底 x を何回かけたら xa になるかというと、a 回だから。また、(11)式を底 b として対数をとると

 

   log b x = log b bt = t  ・・・(14)

 

になる。こうして、(12)の t と a を(13)と(14)を使うと

 

   log b x × log x c = log b c

 

つまり

 

   log x c = log b c / log b x

 

のように、底が x の対数は、底が b の対数で書けてしまうという、有用な公式が得られた。こうして、ある一つの底の対数がすべてわかっていれば、どんな底の対数でもすべてその底(今は b )の対数で表せる。そこで、b として、ネイピア数 e = 2.71828・・・にとる。これを自然対数と呼び

 

   log e x = ln x

 

と書く。対数は logarithm、だから、頭の3文字をとって、log。自然対数は natural logarithm、logの l と、自然(natural)の n をとって、ln と書く。

27.エントロピー

 

 熱力学のさわりを、本当にほんの少しのさわりを講義する。熱力学第2法則、エントロピー増大則の説明をする。エントロピーはわかりにくい。まずは言葉から。1865年、クラウジウスが導入した概念で、ギリシャ語で変化を意味するτ(たう)ρ(ロー)ο(オミクロン)π(パイ)η(エータ)、τροπη、トロペを基に作られた造語。英語でentropyなので、最初のenはギリシャ語ではε(イプシロン)ν(ニュー)、εν、~において、という前置詞(たぶん)。歴史の話をすると受けが良い。でき上がった陳列物をただ眺めるのではなくて、人が苦闘して考えてきたものだということがわかるからかなぁ。

 

 熱力学では、熱の変化をQ、その時の絶対温度をTとして、エントロピー変化ΔSは

 

    ΔS = Q / T    ・・・(1)

 

で導入される。なんのこっちゃ。ミクロに扱うと、系を構成する粒子が取り得る状態数をWとして、

 

    S = kB × ln W  ・・・(2)

 

となる。kB はボルツマン定数。これは第10回でも出てきた。ln は自然対数対数の底をネイピア数 e (=2.71・・・)にとったもの。

 

 これらが等しいことを講義で説明、または雰囲気だけでも伝えたい。そのためには、第11回で導いたMaxwell-Boltzman分布が必要なので、少ない講義ではそこまでできない。残念。断念。

 

 で、忘れないように、伝えたかった雰囲気を、ちょっと書いておこう。  

    f:id:uchu_kenbutsu:20151120100933j:plain

 

 図のように、初め、粒子はエネルギーε1 に n1 個、ε2 に n2 個・・・、εr に nr 個あったとする。そこに、熱が加わって、エネルギーε1 にあった粒子がエネルギーεr の状態に移ったとしよう。熱を加えた後は、ε1 に n1’ 個、ε2 にはそのまま n2 個・・・、εr は nr’ 個になったとする(話の単純化の為)。

 エネルギー変化を受けた粒子の個数Δnは

    

    Δn = n1 - n1’ = nr’- nr

 

だ。エネルギーは保存するから、加えた熱エネルギーQが、すべて粒子のエネルギーの増大につながっているはずだ。ということは、

 

    Q = Δn× (εr -ε1 ) ・・・(3)

 

が成り立っている。

 

 さて、粒子が取り得る‘‘状態数’’ W を数えよう。最初、熱を加える前には、同種の N

個の粒子を、エネルギー ε1 に n1 個、ε2 に n2 個・・・、εr に nr 個・・・に分ける場合の数が状態数だから、

 

    W最初 = N ! / (n1 ! n2 !・・・nr ! ・・・)

 

だ。ここで、 n ! = n×(n-1)×(n-2)×・・・×2×1 のこと。階乗だ。熱を加えた後の状態数は、

 

    W最後 = N ! / (n1' ! n2 !・・・nr ' ! ・・・)

 

となる。両者の比をとると、n1’<n1 、nr’>nr に注意して、

 

    W最初 / W最後 = n1' ! nr ' ! / ( n1 ! nr ! )

          = ( nr’×(nr’-1)×・・・×(nr +1)) / ( n1 ×(n1-1)×・・・×(n1'+1))

 

になる。ここで、分子では nr’-nr = Δn 個、分母では n1-n1’= Δn 個の数が掛け算されている。どっちもΔn個だ。粒子の個数はとても多いので、-1 とか、-2 (引く2)とかの1とか 2 は n1 とか nr に比べて圧倒的に小さいから、無視してあげると、分子では nr ( ≒ nr’)が Δn 個、分母では n1 が Δn 個掛け算されているとして良いので、

 

    W最初 / W最後 = nr (Δn) / n1 (Δn) = ( nr / n1 )Δn

 

と書ける。一方、粒子の分布の個数 ni は、第11回で導出したMaxwell-Boltzman 分布に従っているので、

 

    n1 = A exp( -ε1 / ( kB T ) ) ,   nr = A exp( -εr / ( kB T ) )

 

のはずだ。ここで、A は共通のある定数。T は絶対温度。またexp(a) = ea のことだった。こうして、

 

    W最初 / W最後 = ( exp( -εr / ( kB T ) ) / exp( -ε1 / ( kB T ) ) )Δn

          = exp (-Δn ×(εr -ε1 ) / (kB T ) )

          = exp(-Q / (kB T ) )

 

と変形できる。ここで、エネルギー保存の関係(3)式を使った。

 

 こうして、両辺の自然対数をとると、ln (a / b) = ln a -ln b の関係を使って、

 

    ln W最初 - ln W最後 = -Q / ( kB T )

 

が得られる。すなわち

 

   Q / T = kB × ln W最後- kB ×ln W最初

 

ということだ。左辺は、最初と最後のエントロピー‘‘変化’’だから、エントロピーS自身は

    

    S = kB ×ln W

 

と、(2)式が得られた。温度の一番低い状態、絶対零度では、すべての粒子はエネルギーの最低状況に置かれるはずだ。このような状況は一通りしかないので、状態数 W は 1。だから、絶対零度エントロピー S は S = kB ×ln 1 = 0 となる。ログ1は0だから。要するに、絶対零度ではエントロピーは 0。熱力学第3法則、またはネルンストの定理と呼ばれる。講義ではここまで話せないんだなぁ。

 

 赤いインクを数滴、多量の水の入ったバケツにでも垂らしてみる。赤いインクはバケツ全体に広がる。ここまではOK。しばらく見ていると、赤いインクはバケツの一角に再び集まってきて、そこだけ濃い赤で、その他は透明の水に戻った、なんてことはあり得ない。垂らした赤いインクの分子は、バケツ一杯に広がる方が、可能な取り得る状態数が大きくなる。だって、あっちに行っても良し、こっちに行っても良し、あっちに居る状態数はこれこれ、こっちにいる状態数はこれこれ。一カ所に留まるより状態数は増えている。自然は状態数、つまりエントロピーが増大する方向に進んでいく。状態数が減る方向、赤インクが1カ所に戻ってきて、狭い範囲でしか状態がないようなエントロピーの減る方向には進まない。これぞ、エントロピー増大の法則だ。

 エネルギー的に励起した原子は、ほっておくと安定な原子の状態に戻って、余分なエネルギーを電磁波(光)として放出する。‘‘エネルギー安定の法則’’があって、エネルギーの低い方に物理過程が進むのではない。光を出した分、原子・光の系は光が取り得る状態数だけ確実に系の状態数は増えるので、エントロピーが増している。だから、励起した原子は光を放出して安定な状態になる。

 

26.質量とエネルギーの等価性、再び

 前回、光の運動量が導けた。質量とエネルギーの等価性、E=mc^2 を、山本義隆氏に倣って再び導いてみよう。(c^2 は「cの2乗:c×c」のこと。以下同じ。)

 まず、質量 m [kg] の物体を用意し、両側から振動数 ν [1/s] の光を吸収させる。同じ振動数の光なので、波長 λ [m] も等しく、ゆえに運動量 p = h / λ も等しい。両側から同じ運動量の光がぶつかるので、質量  mの物体は動かず、じっと止まったままだ(図の左の状況)。でも、光を2つ吸収したので、エネルギーは 2hν だけ増えている。一つの光のエネルギーは  hνだった。前回を参照。増えたエネルギーを ΔE とすると

    ΔE = 2 h ν  ・・・(1式)

 今度は、同じ現象を、下向きに速さ v [m/s] で動いている人から見てみよう。この人にとっては、質量 m の物体は上向きに速さ v で動いているように見える(図の右の状況)。図から

    cos θ = v / c

となっている。光の運動量の水平成分は左右の光で打ち消しあうが、上方向の運動量成分

    p cos θ

は左右とも上向きで、質量 m の物体は光を吸収した時に2つ分の運動量

    Δp = 2 × p cos θ = 2pv / c  ・・・(2式)

を上向きにもらってしまう。ところが、質量 m の物体の上向きの速さは変わらないはずだ。f:id:uchu_kenbutsu:20151115220934j:plainだって、図の左の状況を、下向きの速さvの座標で見ているだけなんだから。だって、左の状況では物体 m はピクリとも動かなかったんだから。

 質量 m の物体の運動量は、(質量)×(速度)。今、速度が増えないことが分かったので、物体の質量が増加していなければならない。質量の増加分を Δm とすると、増えた運動量  Δpは

    Δm×v = Δp = 2pv / c

ということ。(2式)を使った。こうして v で割り算して

    Δm = 2p / c

となるが、光の運動量 p は

    p = h / λ= hν/ c = E / c

という前回得た関係があるので、代入すると

    Δm = 2 E / c2 = 2 h ν / c2 =ΔE / c2

となる。光のエネルギー E = hνと、(1式)を使った。こうして、物体は吸収したエネルギーΔE の分だけ質量がΔm 増加することがわかった。これが質量とエネルギーの等価性。増加分だけではなく一般的な関係なので、ΔE → E、Δm → m と書き直して、

    E = m c2

と書かれる。

25.光の運動量

 第3回では、質量とエネルギーの等価性を、大栗博さんの著書から拝借して導いた。今度は山本義隆さんの著書を読んでいたら、似てはいるが別の導き方があったので、忘れないように記しておこうと思う。

 

 漱石の野々宮さんは光の圧力の研究をしていた。まずは、光の圧力のもとになる、光の運動量を、山本義隆氏に倣って導いておこう。
 一辺 L [m] の立方体の箱の中に光を閉じ込めたとしよう。光が運動量 p [m/s] を持つとし、この光が箱の壁に当たって、向きを変えたとする。最初の運動量は p、跳ね返った後は向きが正反対になったので、-p だ。運動量の変化Δp は


   Δp= p - (-p) = 2 p


となる。一つの壁の面にだけ注目しておくと、この壁に光があたるためには、一回当たってから次に戻ってくるまでに1往復、つまり2 L [m] 進まないといけない。光は光の速さ c = 3.0 × 108 [m/s] で動くので、壁に一回当たってから次に当たるまでの時間Δt [s] は


    Δt = 2L / c [s]


となる。ニュートンの運動法則、「質量かける加速度は力」だが、加速度は速度の変化率、質量かける速度が運動量なので、質量×加速度は、「運動量の変化率」だ。こうしてニュートンの法則は「運動量の変化率が力」となるので、壁が受ける力f は


    f = Δp / Δt = p c / L


になる。
 さて、この力に逆らって箱の壁をΔL だけ押し込んだとしよう。(力)×(移動距離)=(仕事)なので、この時にした仕事Wは


   W = F×ΔL = (pc / L)×ΔL ・・・(1式)

になる。
 

 さてさて、光のエネルギーEは、光の振動数をν[1/s] と書いて


    E = h ν ・・・(2式)


となる。これは、金属に光を当てた時に飛び出してくる電子のエネルギーの測定と、アインシュタインが考えたことから得られる実験事実だ。金属に光を当てても、ある振動数ν0より小さい光をいくら強力にあてても金属から電子は飛び出してこない。ところが、ある振動数よりも大きな光をあてると、たとえその光が弱くても、金属から電子がたちどころに飛び出してくる。これを光電効果という。飛び出した電子のエネルギーは、あてた光の振動数に比例していた。ということは、ある振動数ν0 までの振動数の光では、光のエネルギーが小さくて、金属に束縛されている電子を、その束縛を断ち切って自由に飛び出させるにはエネルギーが足りないということだ。飛び出した電子の運動エネルギーTは

   

    T = h ν-B、ここで B = hν0

もちろんTが負の時には電子は飛び出してこない。こうして、当てた光のエネルギーは

    E = h ν

と考えられる。これでアインシュタインノーベル賞を貰う。今は実験事実として認めておこう。詳しく実験したのはミリカンだ。この式は第3回でも第8回でもすでに使っている。


 ここまで準備をしておいて、もう一度、辺Lの箱の壁を押し込んだ時の仕事に戻ろう。押し込む前は1辺Lの箱だったので、光は箱の中で定在波を作っているはずだ。つまり、箱の表面では光は波として上下動しない。光の波長をλ[m] とすると、箱の表面で波の上下動は0なので、


    2L / λ = n (=1,2,3・・・)


となる。光の波の速さcと振動数νと波長λには


    c = λ×ν


の関係があったので、光のエネルギーEは


    E = h ν= h c / λ = n h c / (2L)    ・・・(4式)


となることがわかる。上の2つの式を使った。このE は箱の一辺の長さLが決まれば決まっているのでE=E(L)と関数の形に書いておこう。今、箱の辺の長さをΔLだけ押し込んだので、押し込んだ後の辺の長さはL-ΔL になった。光のエネルギーの変化は


    E(L-ΔL) - E(L) = nhc / (2(L-ΔL)) - nhc / (2L)
             ≒ nhc / (2 L2 )×ΔL       ・・・(3式)


となる。2行目へはΔLがL に比べて十分小さいとして、1 / (L-ΔL) = (1/L)×(1/(1―ΔL / L) ≒ (1/L)×(1+ΔL / L)となることを使った。
 光のこれだけのエネルギーの増加は、箱をΔLだけ押し込んだ仕事によって得られているわけだから、両者、(1式)と(3式)を等しいとおいて


    W = E(L-ΔL) - E(L)


つまり、


    (pc / L)×ΔL = nhc / (2 L2 )×ΔL


が成り立っている。適当に与えたΔLは打ち消しあって、光の運動量p と光の速さcをかけた量はこの式から


    p c = nhc / (2L)


となる。でも、光のエネルギーEは(4式)からE=nhc / (2L) だったから、右辺そのものだ。だから


    p c = E


つまり、光の運動量pは


    p = E / c = h ν / c = h / λ


と得られた。最後にもう一度(2式)と c = λνを使った。
 
 これで光の運動量が得られた。エネルギーと質量の等価性は、これを使って次回。