12.プランク分布則

 いよいよ、前々回、前回から続く3題話の3題目。

 前回までの2回で、「プランク分布」を導く準備ができた。「こたつと日焼けとプランク定数」のプランク分布。

 

光の粒子とプランク分布

 プランク分布とは、振動数 ν (ギリシャ文字のニュー) [1/s] の光がどれくらい強く来ているかの分布式で

 

    U = (8πν2) / c3 ×hν / (e(hν/ k T) -1) ・・・・(5)

 

だった(「こたつと日焼けとプランク定数」参照)。ここで k と書いたのはボルツマン定数 kB のこと。

 ここでは、プランクのオリジナルな議論ではなく、アインシュタインの光量子説、すなわち、「光は波であるけれども粒子としての性格もあわせもち、振動数 ν の一つの光の粒子の持つエネルギー E は、E = hνである」という言明を用いることにしよう。ここで、h が、プランクが導入したプランク定数だ。

 前回まででわかったことは、エネルギー E を持つ粒子の分布 P(E) は、前回の(4)式

 

    P(E) = exp( - E / (kB T)) / Z  ・・・・(4)

 

で与えられるということだ。今、光の粒子の持つエネルギー E は E = hνなのだから、

 

    P(E) = exp( - h ν/  (kB T)) / Z

 

となるはずだ。以後、エネルギー E は光の振動数 ν で決まることから、E の代わりにν 書いて、P(E)=P(ν) と書こう。

 この“光の粒子”が n 個あったとすると、エネルギーは E = n×hν となるはずだから、振動数 ν の光の粒子が n 個ある確率分布 Pn(ν) は

 

    Pn(ν) = exp[-(n hν)/(kB T)] / Z

        = [exp(-(hν)/(kB T))]n / Z ・・・・(6)

 

となる。

 まだ Z がわからないので、Z を求めてしまおう。すべての光の粒子に関して確率 Pn(ν) を足すと、1 になるはずだから、Σ Pn(ν) = 1 が成り立っているはずだ。ここで、Σ は和を取る記号で、和は n について 0 から無限大までとる。こうして、

 

    1 = Σ Pn(ν) = Σ[ exp(-(hν)/(kB T))]n / Z

     = (1/Z)×[1/(1- exp(-(hν)/(kB T))]

 

と得られる。高校の時に習った「等比級数の和」なんてものが使えた。Σxn = 1/(1-x)だった。こうして、

 

    Z = 1 / [ 1 - exp( - (hν) / (kB T)) ]

 

と求めることができた。これで、振動数 ν を持つ光の存在確率(6)式が完成した。

 

 次に、振動数νを持つ光の粒子数の期待値 <n>ν を求めてみよう。確率が Pn(ν) なので、期待値は、Σ [すべての粒子数についての和](粒子数)×(その確率)で求められるので、

 

 

    <n>ν = Σ n×Pn(ν)

       = Σ n [ exp( - (hν) / (kB T)) ]n / Z

       = (1/Z) × exp( - (hν) / (kB T)) / [ 1 - exp( - (hν) / (kB T)) ]2

       = 1 / [exp(hν/(kB T)) - 1 ]

 

と得られる。またまた、高校のときに習った級数の和、Σnxn=x/(1-x)2 が使えた。こうして、振動数 ν を持つ一つの光が平均的に <n>ν 個あることがわかった。したがって、振動数 ν ごとの光のエネルギー分布 Uν は、光のエネルギー hνのものが <n>ν 個あるのだから

 

    Uν = hν × <n>ν = (hν) / [ exp(hν / (kB T)) - 1 ] 

 

となる。これが基本的な振動数分布の形だ。あとは、光は進行方向に垂直な2方向に振動している横波であることなどを考慮に入れると、(5)式の前の係数 8πν/ c3 が現れて、最終的に

 

    U(ν) = (8πν2 / c3 ) × Uν

       = (8πν2 / c3 ) × (hν) / [ exp(hν / (kB T)) - 1 ]   ・・・・(7)

 

という、プランク分布の式が得られる。ここで決定的だったのは、光に粒子性があり、振動数 ν の光の粒子のエネルギーが hν であるということだった。

 

 太陽から来る光のエネルギーの強さを、振動数 ν を横軸にプロットして見る。そうすると、おおよそ T=6000度と代入した(7)式と合う。ということは、太陽の表面温度は、おおよそ6000度とわかる。

 

 宇宙は至るところ、周囲から電磁波の放射を受けている。光と言っているのは私達が見える電磁波のことで、「可視光」なんて言う。これはある振動数領域の電磁波に過ぎない。色んな振動数の電磁波の振動数分布は、プランクの(7)式に従っている。宇宙の至るところ、いたる方面から一様に電磁波がやってくる。ペンジァスとウィルソンは、鳩の糞が測定器の抵抗値を変えているのかと思って糞掃除までしても、何か、電磁波の雑音があることに気づいた。実は、宇宙ができた時、ビッグバンの名残の電磁波が四方八方から等しくやってきていた。これを宇宙背景輻射と呼ぶ。プランク分布にあわせると、絶対温度で2.7 K(度)。

 ペンジァスとウィルソンはすぐにノーベル賞を貰う。あらかじめ理論的に指摘していた人々は貰い損ねたんだけれど。